1 日本国有鉄道経営再建促進特別措置法に基づく再建対策


 (現在の再建対策)
  国鉄の経営状況の悪化に対処するため,国及び国鉄は,44年度以降3次にわたり再建対策を講じてきたが,必ずしも所期の目的を達することができず,国鉄の経営状況は好転しなかった。
  政府は,このような国鉄経営の危機的状況に対処すべく,54年12月29日「日本国有鉄道の再建について」の閣議了解を行い,これを具体的に実施するため,「日本国有鉄道経営再建促進特別措置法」(以下「再建法」という。)が55年12月に公布,施行された。再建法は,国鉄の経営再建の目標を,「60年度までにその経営の健全性を確保するための基盤を確立し,引き続き速やかにその事業の収支の均衡を図る」ことに置いており,再建法に基づき国鉄は経営改善計画を作成,実施するとともに,政府は地方交通線の転換対策や累積赤字の一部に相当する5兆599億円の債務について棚上げ措置を講ずるなどの再建対策が講じられることとなった。56年5月に運輸大臣が承認した「経営改善計画」は,経営の重点化,減量化と能率の向上(60年度35万人体制),収入の確保等の経営改善措置の実施を内容としており,これにより行財政上の措置とあいまって,60年度までに一般営業損益においてできるだけ多くの益金を出し,60年度には幹線の損益において収支均衡を達成することなど健全経営の基盤を確立するとともに,61年度以降については可及的速やかに収支均衡の実現を図ることとしている。
 (経営改善計画の変更)
  この改善計画に基づき要員合理化等の経営改善措置が逐次実施されてきたが,計画の策定以来,貨物輸送量の大幅減,旅客輸送量の停滞により収入が伸び悩む等経営環境は一層厳しさの度を加えてきた。また,57年7月には臨時行政調査会の第3次答申において国鉄の分割・民営化の方針が示され,これを受けて,58年6月には日本国有鉄道再建監理委員会(以下「国鉄再建監理委員会」という。)が設置される等国鉄をめぐる情勢は大きく変化してきた。このため,国鉄は,このような情勢の変化に対応して,58年8月の国鉄再建監理委員会の第一次緊急提言の具体化を図ること等により経営の効率化・重点化と収支悪化の防止に最大限の努力を尽くすこととして,経営改善計画を変更し,59年5月17日運輸大臣の承認を受けた。現在,この経営改善計画の目標を達成すべく,緊急対策の推進等経営改善のための施策が講じられている。
  計画変更の概要は次のとおりである 〔5−2−1表〕

ア 輸送の近代化

  旅客輸送については,59年度末の東北・上越新幹線の上野開業を機に,東海道・山陽新幹線の「ひかり」の増発,在来線のスピードアップ等を行う一方,一層の省力化を実施する。貨物輸送については,59年2月に拠点間直行輸送体制への全面転換に踏み切ったが,今後更に施策を徹底する。荷物輸送については,荷物取扱駅の大幅削減,取扱線区の廃止等を行ったが引き続き直行利用運送を目指す。

イ 業務運営の能率化

  業務運営・作業方式,勤務制度の見直し等私鉄並みの生産性を目指して能率化を進め,60年度においても新規採用の原則停止を継続し,職員を32万人とする。なお,所要員と現在員との不均衡については対策を早急に検討する。

ウ 収入の確保

  増収活動については,企画商品の発売,増収キャンペーン等あらゆる努力を傾注する。運賃改定については,他運輸機関との競合関係,収支状況,物価の動向等を考慮しつつ適切に対応する。運賃制度については,旅客について全国一律運賃制を是正し地域別グループ運賃を導入したが,貨物についても直行貨物輸送体制への転換に伴い制度を整備する。資産充当については,当初目標を1,000億円程度上回る6,000億円とし,用地の効用を高め,新規事業の開発又は売却の促進のために有効な方策を早急に検討する。

エ 経営管理の適正化

  組織の簡素化については,管理局の部課の統廃合を引き続き進めるとともに,中間管理機構の見直し,工事局・工場・自動車・資材部門等の統廃合等を行う。本社についても類似機能を有する組織の統廃合を検討する。職場規律については,総点検を5回実施したが,引き続き改善を徹底する。職員の教育を充実するほか,幹部職員の人事運用制度を地域性を重視したものとし,昇給・昇格についても信賞必罰,能力主義の観点を強め厳正に行う。経費節減については,月次決算制度の活用等予算管理を充実し,合わせて外注管理,資材管理を強化する。

オ 設備投資の抑制

  老朽設備の取替え,安全対策及び環境保全のための投資で特に緊急度の高いものを優先して効果的に行う。なお,東北・上越新幹線の上野開業を実現するとともに,大都市圏の輸送施設の整備については,通勤別線等特に必要なものについて段階的に進める。また設備投資の具体的決定に当たっては設備規模の適正化,設備基準の見直し等極力工事費の節減に努める。

カ 地方交通線対策

  第1次選定線区については,協議会の結論に向けて努力を行っており,第2次選定線区については,早期承認を得て60年度中に完了すべく努力する。これら以外の地方交通線については,さらに徹底したコストダウンを行うとともに特別運賃等により収入の確保に努める。なお,一部線区の民営化に向け,営業モデルの作成,譲渡及び貸付条件などを検討する。

キ 今後の展望

  以上のような施策を着実に実施することにより60年度において,一般営業損益で益金を計上しうる状況となり,また幹線の収支均衡が図れる状態になるものと見込まれる。
  61年度以降においては
 @ 特性分野への重点化指向をより強めること。
 A 私鉄並みの生産性を目指して効率化を徹底すること。
 B 地域性を重視した体制とすること。
 C 事業の自由化を図ること。
 D 財政の健全性を確立すること。
 を目指し,行財政上の措置とあいまって,従来を上回る企業努力を尽くすことによりさらに一層,経営の改善を推進することとする。


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