1 国鉄改革関連法の成立と新経営形態へのスタート


  昭和61年11月,第107回国会において,かねて政府から提案されていた国鉄改革関連8法が成立した。これにより,明治以来100年を超える日本国有鉄道の歴史は,62年4月1日を期してその幕を閉じ,新たに設立される6つの旅客鉄道株式会社及び1つの日本貨物鉄道株式会社並びに新幹線鉄道保有機構等の新事業体に,その事業と役割を引き継ぐこととなった。
  以下において,新体制への移行に向けての法体系の整備と主な準備作業について述べる。

(1) 国鉄改革関連8法成立までの経緯

  国鉄改革関連8法案は,前述の再建監理委員会の「意見」に沿い,政府として,分割・民営化を基本とした国鉄改革を実施すべく策定した法案であり,「意見」提出後,政府部内における広範な検討と数次にわたる諸問題に対する対処方針の決定を経て,取りまとめられたものである。

 ア 改革推進体制の整備

      まず政府は,「意見」提出直後の60年7月30日の閣議において,同「意見」を最大限に尊重して改革に取り組む旨決定するとともに,国鉄改革を推進するに当たり,重要な施策等について協議調整を行うため,「国鉄改革に関する関係閣僚会議」を発足させた。
      次いで8月7日,国鉄職員に対する総合的かつ円滑な雇用対策の実施を図るため,内閣総理大臣を本部長とする雇用対策本部の設置を閣議決定し,同日付けで発足させた。同本部の設置により,政府全体として再就職の場の確保等を必要とする国鉄職員の適切な処遇に総力を挙げて取り組んでいく体制が整備された。
      一方,運輸省においては,「意見」についての政府の対処方針の決定を受け,翌7月31日,直ちに省内に運輸大臣を本部長とする国鉄改革推進本部を設置し,全省的な国鉄改革推進体制を整備して,国鉄との緊密な連携を図りつつ具体的検討を進めてきた。
      また,当事者である国鉄においても,「意見」提出後,既に7月4日に発足していた「再建実施推進本部」の機能を拡充する等所要の体制を整備した。

 イ 各種基本方針の決定

      上記のような推進体制の下で,政府・運輸省は国鉄改革の具体的方策について精力的に検討を進め,その結果として各種の閣議決定等を行った。

 @ 「国鉄改革の基本的方針について」

      まず,60年10月11日,政府は「国鉄改革のための基本的方針について」を閣議決定した。この中では,'効率的な経営形態の確立,要員合理化及び雇用対策,長期債務等の処理など各般にわたる分割・民営化施策についてその推進のための指針が定められるとともに,新経営形態への移行時期を62年4月1日とし,所要の法律案を第104回通常国会に提出することが決定された。この基本方針の決定は,国鉄改革についての政府の取組みの具体的方針を明らかにしたものであり,国鉄事業の「分割・民営化」を政府の施策として確立したという意味で画期的なものである。

 A 「新しい貨物鉄道会社のあり方について」

     次いで,11月,運輸省は,「意見」において「今後政府は,昭和60年11月までに実行可能な具体案を作成するものとする」とされていた新しい貨物鉄道会社のあり方に関する具体策を取りまとめた。その概要は,国鉄の貨物部門を旅客部門から分離独立した全国一社の会社とし,徹底した輸送の効率化,コストの思い切った低減,往復列車販売の導入等による収入の安定的な確保等を図ることにより,貨物鉄道事業について将来にわたって健全な経営を行ってゆく体制を確保しうるとするものである。

 B 「国鉄余剰人員雇用対策の基本方針について」

     国鉄改革を実施する上で最大の重要課題の一つである雇用問題に関しては,12月13日,「国鉄余剰人員雇用対策の基本方針について」が閣議決定された。
      この中で,国,地方公共団体,一般産業界,関連企業等の分野ごとの国鉄等職員の雇用の場の確保の方針,受入れ分野別の採用等に関する計画の策定,新経営形態移行前の退職促進対策,新経営形態移行後の再就職促進対策など,国鉄等職員の雇用対策全般についてその推進のための基本方針が定められた。
      このうち,国鉄改革に伴って生ずると見込まれる約6.1万人の国鉄等職員の雇用の場の確保については,この基本方針に基づき,61年9月12日に,各分野別に確保すべき再就職先の目標数を定めた「国鉄等職員再就職計画」を閣議決定し,これにより国13,000人,特殊法人等5,500人,地方公共団体11,500人,一般産業界10,000人,関連企業21,000人の採用目標数が定められ,できる限り早期に採用のための手続を進めるよう努めることとなった。61年11月11日現在,公的部門,関連企業,一般産業界を合わせて約68万人について採用の申し出があるが,今後とも,国鉄等職員再就職計画に基づき,雇用の場の確保について積極的に取り組んでいく必要がある。

 C 「国鉄長期債務等の処理方策等について」

      雇用対策と並ぶ重要課題である長期債務等の処理に関しては,61年1月28日「国鉄長期債務等の処理方策等について」が閣議決定された。
      国鉄の経営する事業を再建するためには,国鉄の抱えている膨大な長期債務,年金負担等について適切な処理を行うとともに,国鉄が負担することを前提として日本鉄道建設公団及び本州四国連絡橋公団が建設した鉄道施設に係る資本費の処理も併せ行うことが必要である。政府として,その処理のための方針,手順を明らかにしたのが,この閣議決定であり,その中で次の基本方針を定めた。
     (i) 国鉄の膨大な長期債務等の処理については,新事業体の健全な経営に支障が生じない範囲で旅客会社等に承継させ,残るものについては,当面,清算事業団に帰属させて償還等を図るものとし,用地売却等の自主財源を充ててもなお残るものについては最終的には国において処理する。
     (ii) そのために必要な「新たな財源・措置」については,雇用対策,用地売却等の見通しのおおよそつくと考えられる段階で歳入・歳出の全般的見通しとあわせて検討・決定する。

 ウ 国鉄改革のために必要な法律の整備と国会審議

      以上のような国鉄改革に関する種々の基本方策に沿って,政府・運輸省において,第104回通常国会へ提出するべく,国鉄改革関連8法案の策定作業が進められた。また,国鉄の事業の運営の改善のために61年度において緊急に講ずべき措置について定める61年度特別措置法案についても,併せて法案策定作業が進められた。
      これらの法案は,61年2月から3月にかけて順次閣議決定され,第104回通常国会に提出されたが,同会期中には,61年度特別措置法が5月に成立し,公布施行された外は,いずれも継続審査の扱いとなり,第105回臨時国会において衆議院が解散されたことに伴い審議未了となった。そのため第107回臨時国会に再提出され,衆参両院に設置された「日本国荷鉄道の改革に関する特別委員会」における集中的な審議を経て,前述のとおり,61年11月に成立を見たものである。

(2) 61年度特別措置法及び国鉄改革関連8法の概要

  61年度特別措置法及び国鉄改革関連8法の概要は次のとおりである 〔2−2−1図〕

 ア 61年度特別措置法

      61年度特別措置法は,昭和61年度において緊急に講ずべき措置として,国鉄の長期債務に係る負担の軽減及び職員の退職の促進を図るための特別措置を定めるものであり,その内容は,次のとおりである。
     @ 政府は,資金運用部が国鉄に貸し付けている資金に係る国鉄の債務のうち,既に棚上げ措置を講じている特定債務5兆日余を国鉄から一般会計に承継させることとし,一般会計は同額の資金を国鉄に無利子で貸し付けたものとする。

      また,一般会計が国鉄に貸し付けている一定の無利子貸付金に係る債務等の償還期限等の延長について必要な措置を講ずる。
     A 国鉄の行う退職希望職員の募集に応じて退職を申し出,認定を受けた職員が61年度中に退職したときは,その者に対し俸給,扶養手当及び調整手当の合計額の10か月分の額に相当する特別給付金を支給する等所要の措置を講ずる。

 イ 国鉄改革関連8法

 (ア) 日本国有鉄道改革法

      本法律は,国鉄改革に関する基本法ともいうべきものである。国鉄改革の実施に関する基本的な事項として,国鉄改革の必要性・意義を明らかにし,@(i)国鉄事業の分割・民営化のあり方,(ii)三島基金の設定及び新幹線鉄道保有機構の設立による旅客鉄道会社の安定経営の確保及び経営基盤の均衡化,(iii)国鉄及び鉄建公団の資産・債務の引継ぎ方法,(iv)国鉄の清算事業団(長期債務の処理等を行うための主体)への移行,(v)清算事業団の債務の処理に関する国の責務,(vi)職員の再就職の促進に関する特別の措置等の改革の基本方針とともに,A事業等の引継ぎの手続,承継法人の職鼻採用手続など改革の実施のために必要な事項について規定している。

 (イ) 旅客鉄道株式会社及び日本貨物

      鉄道株式会社に関する法律本法律は,国鉄改革に伴って設立される6つの旅客鉄道会社及び日本貨物鉄道会社に関し必要な事項を定めるものであり,@会社の事業範囲,監督方法,設立手続等,A三島の旅客会社の経営安定基金の管理,B多額の長期債務の償還等のために必要な社債発行限度の特例,C債務の政府保証(5年間)等について規定している。

 (ウ) 新幹線鉄道保有機構法

      本法律は,旅客鉄道会社の経営基盤の均衡化及びこれらの施設に係る利用者の負担の適正化を図るため,新幹線鉄道に係る鉄道施設を一括して保有し,これを旅客鉄道会社に有償で貸し付ける主体として新幹線鉄道保有機構(以下「機構」という。)を設立すること及びその業務の実施に関して必要な事項を定めるものである。貸付料の年額及び貸付期間については,この法律及び運輸省令で定める基準によって定められ,貸付料収入は機構が承継した長期債務及び清算事業団に対する債務の償還に充てられることとなる。また,機構は,大規模災害復旧工事を除いて工事を行わないものであるが,東北新幹線の建設中の区間(東京〜上野間)については,機構がその建設を行い,これを完成させた上で貸し付けることとしている。

 (エ) 日本国有鉄道清算事業団法

      本法律は,国鉄を日本国有鉄道清算事業団に移行させ,その資産,債務等を処理するための業務等を行わせるとともに,臨時に,その職員の再就職の促進を行わせることとするものであり,@国鉄から承継した資産の処分の公正及び適正を確保するため清算事業団に資産処分審議会を設置すること,A清算事業団は,処分する土地の付加価値を高めるために宅地造成等を行うことができること,B政府が責任をもって清算事業団の債務の償還等の確実かつ円滑な実施を図ること,C「日本国有鉄道退職希望職員及び日本国有鉄道清算事業団職員の再就職の促進に関する特別措置法」の定めるところにより,臨時に再就職を必要とする職員の再就職の促進のために必要な業務を行うこと等を規定している。

 (オ) 日本国有鉄道退職希望職員及び日本国有鉄道清算事業団職員の再就職の促進に関する特別措置法

      本法律は,国鉄改革の実施に伴い一時に多数の再就職を必要とする職員が生ずることから,その再就職の促進を図るためにとるべき措置として,@国,特殊法人及び地方公共団体による職員の採用,A3年以内にすべての職員の再就職を計画的に行うこと,B清算事業団による教育訓練,職業紹介等の実施,C雇用促進事業団による援護業務の実施等を規定している。

 (カ) 鉄道事業法

      本法律は,国鉄改革に伴い現在国鉄の行りている鉄道事業が民営鉄道事業となることから,国鉄改革関連法の一環として,地方鉄道沫を廃止し新たに鉄道事業に関する一元的な法制度を整備することにより,鉄道等の利用者の利益を保護するとともに鉄道事業等の健全な発達を図ろうとするものである。
      具体的には,@国鉄改革後の新体制に対応するとともに,鉄道に対する投資を円滑にし,鉄道事業の今後の発展を期するため,鉄道の経営と所有の分離を認め,免許の種別を自ら鉄道線路を保着し鉄道運送を行う第一種鉄道事業,他人の鉄道線路を使用して鉄道運送を行う第二種鉄道事業及び第種鉄道事業者に譲渡し又は第二種鉄道事業者に使用させる自的で鉄道線路の敷設を行う第三種鉄道事業に区分して定めること,A安全面に十分配慮しつつ現行地方鉄道法と比較して大幅に規制の緩和,手続の簡素化を図った上で,工事の施行の認可,列車の運行計画の届出等の規制をすること,B運賃及び料金について認可を受けること,C一定の範囲の割引については届出をもって足りるものとすること,D運輸大臣が行う鉄道施設又は索道施設の検査の全部又は一部を,指定検査機関にも行わせることができることとすること,等を規定している。

 (キ) 日本国有鉄道改革法等施行法

      本法律は,改革法等6件の法律の施行に関し必要な事項を定めるとともに,これらの法律の施行に伴う関係法律の整備等を行い,国鉄改革の円滑な実施と改革後の新たな法体系の整備を図ることとするものである。

 (ク) 地方税法及び国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律の一部を改正する法律

      本法律は,国鉄の経営形態の改革及び鉄道事業法の制定に伴う地方税制上の措置として,国鉄に係る固定資産税等の非課税措置及び日本国有鉄道有資産所在市町村納付金等に係る制度を廃止するとともに,旅客鉄道株式会社等が国鉄から承継した固定資産に係る固定資産税の課税標準の特例措置等を講じ,及び日本国有鉄道清算事業団の本来の事業の用に供する不動産に係る不動産取得税の非課税措置等を講ずることとするほか,所要の規定の整備を行うものである。

(3) 改革関連法の成立と新体制への移行準備

 以上の諸法律の成立により,政府・国鉄は62年4月1日の新体制への移行に向けて,直ちに必要な諸準備に若手し,円滑な移行が図れるよう鋭意作業を進めているところである。
  改革実施のための主な準備作業としては,
 @ 承継法人が国鉄から承継する財産の価格を決定するための評価審査会の設置
 A 売却可能な国鉄用地の生み出し等に関する意見を聴くための第三者機関の設置
 B 旅客会社等の設立委員の任命
 C 基幹通信会社,研究所等の承継法人の指定
 D 国鉄事業の承継に関する基本計画の策定
 E 承継法人の事業等の引継ぎ並びに権利義務の承継に関する実施計画についての国鉄に対する作成指示,国鉄による計画策定,及びその認可
 F 設立委員等による職員の採用手続等
 が挙げられるが,いずれも今後の新会社の経営を左右する重要な問題であるだけに,鉄道事業の再生という改革の趣旨に沿った適切な処理を図っていく必要がある。


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