1 物流事業活性化のための方策


(1) 物流情報システムの整備

  (企業間ネットワーク化の進展)
  荷主業界からのニーズに対して高度な物流サービスを提供するとともに,自らの業務の効率化を図るため物流の各分野で情報システムの構築が積極的に進められているが,このような情報化への取組みは物流事業活性化のための有力な手段ともなっている。
  トラック運送事業者では多数の小口貨物の追跡管理を行うため,大手路線事業者を中心に,連絡運輸会社や一部荷主をも含めた情報ネットワークの整備が進んでいる。そして,これを活用して荷主とその取引先との間の受発注データの交換を代行し,業務の拡大を図るとともに,荷主との取引関係を強化しようという動きが活発化している。また,このような事業者では,輸送需要を新たに開拓するため産地直送品等の無店舗販売に進出しているケースも多く見受けられるが,こうした事業展開を図るうえで,物流情報ネットワークが有力な武器となっている。トラック事業者等の物流企業のVAN事業への進出は,このような積極的な事業展開を象徴するものであり,貨物追跡,受発注,運賃・料金決済,在庫管理等に係るデータ交換サービスを行うことにより,物流事業活動そのものの活性化に資するものと期待される。
  (港湾貨物情報ネットワークシステムの本格稼動)
  一方,港湾においては,海貨業者,船社,検量業者及び検数業者をオンラインで結び船積輸出手続に係る諸情報の交換を行う港湾貨物情報ネットワークシステム(SHIPNETS)が6工年4月より本格稼動している。SHIPNETSは,国際海上貨物運送業務の機能の向上を図り,国際複合一貫輸送の進展と小口混載貨物の増大を背景とした国際物流に対する高度な要請に応えるとともに,中小を含めた関係事業者の情報システム化の促進などにより関係業界の活性化をもたらすものとして,今後一層の質的量的な拡充が望まれる。
  (国際貨物追跡システムの構築)
  また,海運の分野では,事務処理効率作業効率やサービスの向上の面から書類,船,コンテナの動きに応じたシステム化が進められているが,とりわけ,コンテナについてはその効率運用が経営の重要なポイントであること,その動静を把握することにより貨物追跡管理が可能であること等から,世界各地に分散しているコンテナの在庫管理や動静把握を行うための国際オンラインネットワークシステムの構築が積極的に進められている。こうした貨物追跡のためのネットワーク化の動きは国際航空貨物の分野でも活発化しているなど,国際物流においても情報化によるサ―ビスの差別化が急速に進展してきている。

(2) 物流技術の開発,導入

  (物流事業者における技術導入)
  近年,輸送の小口高頻度化,荷主ニーズの多様化は,物流事業者にとってコスト高の要因となっており,物流コストを削減するとともに質の高いサービスを提供するという新たな課題に対応することが迫られている。このため,保管,荷役等の労働集約的な作業部門を中心として機械化・自動化による合理化を進めていく必要がある。しかしながら,物流事業者の大半は中小企業であり,先進的な物流設備・機器の導入状況は必ずしも満足できるものではない。これらの事業者は,新しい物流設備・機器の導入に関し,人材の不足,技術情報の入手困難,設備資金の確保難等の内部的要因を抱えており,自助努力にも限界がある。したがって,中小事業者の技術導入を促進するための体制を整備していく必要がある。
  (ピギーバック輸送の開始)

  自動車・鉄道協同一貫輸送の一形態であるピギーバック輸送は,鉄道貨車に貨物を積載したトラックを直接搭載・輸送するもので,運転手の労務問題,沿道の公害問題等の解決に有効である。日本国有鉄道においては,61年11月のダイヤ改正を契機として,東京と名古屋・大阪・広島間においてピギーバック輸送の営業を開始した。今回の輸送形態は,鉄道貨車1両にっき4トントラック2台を搭載し,コンテナ列車に連結して運行することとしているが,今後は11トントラック等の大型トラックを搭載できる専用低床貨車の実用化を図ることが要請されている。

(3) 共同輸送

  (共同輸送の意義と現状)
  共同輸送とは,複数の荷主の輸送需要に対し,トラック事業者がそれぞれの荷主の個別輸送を行う方式から,荷主,トラック事業者の共同による積合わせ輸送方式に切り換え,輸送コストの低減,車両積載効率の向上を図るシステムをいう。共同輸送は,物流の効率化のほかに,交通量削減効果,環境改善効果,省エネルギー効果等もあり,その社会的意義については一般に認識されてはいるが,その進展は遅々としている。
  これは,現状においては,@荷主企業は共同輸送のもたらす物流コスト低減等のメリットよりも販売戦略上サービスの差別化を重視する傾向があること,Aトラック運送事業者も共同輸送による車両・要員の効率的活用のメリットより当面の収入減を恐れる傾向があること,等によるものと考えられる。
  (共同輸送による新たな事業展開)
  しかしながら,荷主ニーズの多様化,高度化が進むなかで,サービスの高質化を図っていくためには,共同輸送を核とした取組みを行う必要がある。
  具体的には,主に百貨店等の大規模小売店舗から家庭への貨物の配達を共同して行う「共同宅配」,同一の大規模小売店舗へ納品する複数の納入業者の貨物をまとめて運送及び納品業務を行う「納品代行」をはじめ,さらには,VAN等を利用して荷主企業等とオンラインで結ぶことにより,高度なサービスを提供していくことである。このような一例として,61年度中に,東京都調布市において,ボランタリーチェーンストア等の流通業者と,倉庫業,トラック事業等の物流事業者とが共同してオンラインシステム等を取り入れた共同輸送を行い,一括発注から末端店舗までの効率的な物流システムを構築することになっており,今後とも,このような動きを積極的に支援していく必要がある。

(4) 複合一貫輸送の推進

  (国際複合一貫輸送の進展)
  国際物流の分野においては,近年,一人の運送人が船舶,鉄道,航空,トラックといった輸送機関を組み合わせて一貫した責任と運賃で貨物を輸送する国際複合一貫輸送が船社及びフレイト・フォワーダーの手により進められている。
  これは,コンテナリゼーションの進展により輸送機器の共通性が高まったことや,荷主側において運賃,輸送時間の両面でニーズが高度化,多様化していることによるものである。さらに,外航海運をめぐる競争の激化や,円高・対外貿易摩擦を背景にした現地生産化が,国際複合一貫輸送の進展に拍車をかけている。
  船社は,自社航路の延長として内陸輸送を併せて提供しており,北米向けのミニ・ランドブリッジ(西岸経由東岸ガルフ地域向け),インテリア・ポイント・インターモーダル(西岸経由内陸向け)が代表例である。日本/米国西岸の海運同盟の輸送量のうち40%近くがこうした複合一貫輸送によって運ばれている。
  一方,フレイト・フォワーダーは,我が国においては,@NVOCC(Non-Vessel-Operating Common Carrier=自ら実運送手段を持たない元請運送人)として,国際複合一貫輸送等の利用運送,A船社等の実運送人への運送の取次ぎ,Bコンテナ詰め,船腹スペースの手配,船積書類の作成等の運送に伴うサービスの提供,を行う事業者のことであり,港湾運送業者,倉庫業者が国際物流に進出した例が多い。具体的には,欧州向けコンテナ貨物の1割〜2割程度を占めると推定されているシベリア・ランドブリッジ(シベリア鉄道経由欧州・中近東向け)を始めとして,シー・アンド・エア(主に欧州向けに海上運送と航空運送を組み合わせたもの)や米国,欧州,韓国,中国,アフリカといった地域の内陸までの一貫輸送を行っている。
  フレイト・フォワーダーの国際複合一貫輸送の特徴としては,新たな輸送ルートの開拓等により低運賃による運送サービスを提供している例が多いことが挙げられる。例えば,欧州内陸向け輸送についてシベリア・ランドブリッジを利用すると,欧州コンテナ航路を経由する場合に比較して日数は3割近く余計にかかるが,運賃は4割程度安くなっている。そのほか,多様なルートの形成が可能なこと,運送に伴う付帯業務を生かしたきめ細かなサービスの提供が可能なことなどもその特徴として挙げられる。しかし,運送人としての活動の歴史が浅いため,責任制度が統一化されていない等の問題がある。
  (国際複合一貫輸送の基盤整備)
  国際複合一貫輸送の進展は,国際物流における荷主ニーズの高度化・多様化に応えるものであるばかりでなく,船社やフレイト・フォワーダーとして活躍する港運業者,倉庫業者等の物流企業を活性化するものとしても重要であり,これを積極的に推進していく必要がある。特にフレイト・フォワーダーは,運送人としての活動の歴史が浅いため,その活動基盤を整備するための施策が必要となっている。
  こうした施策を推進するため,60年9月には,(社)日本インターナショナルフレイトフォワーダーズ協会(JIFFA)の設立を許可したほか,今後は,国際的知識やノウハウを有する人材の育成,標準運送約款の制定,情報システムの整備等の方策を進めていくことが考えられる。
  (複合一貫輸送の規制のあり方の検討等)
 60年7月に出された臨時行政改革推進審議会の答申において,中期的に措置すべき事項として,高度化・多様化する輸送ニーズに対応するため複合一貫輸送を促進する方向で規制の見直しを行うとの指摘がなされている。運輸省としては,この指摘を受けて,国際複合一貫輸送の基盤整備と併せて,国内における複合一貫輸送に関する規制のあり方について検討を行っている。

(5) トータル物流サービス

  (トータル物流への志向)
  近年,産業構造の高度化,多様化に伴う荷主企業の物流サービスに対するニーズの高度化に対し,物流事業者は単なる輸送や保管にとどまらず,仕入,在庫管理流通加工(品揃え,裁断,加工組立等),情報処理等をも併せて提供する「トータル物流サービス」の志向性が強くなってきている。
  荷主企業の物流業者に対する「トータル物流」提供の期待は比較的高く,特に,包装梱包,仕分け,品揃え,裁断,取付加工,輸出入代行等の業務については,自社から外部の専門業者に委託させる意向が強く,物流事業者にとっては,流通加工等の付加的サービスを「商品化」し,一つのセールスポイントにすることにより新規需要を拡大するチャンスともいえる。
  また,「トータル物流サービス」の提供は,荷主にとって利便性の向上及びトータルコストの節約になるだけでなく,物流の量的停滞をカバーし物流事業者を活性化するものとして重要である。したがって,近代化された流通施設の確保,情報システム化の促進,さらに,ノウハウ蓄積のための基盤整備等の面で,このような動きを推進していくことが必要である。この観点から,総合的な物流機能を備えた物流近代化ターミナルを整備するパイロット事業として,日本自動車ターミナル(株)の葛西ターミナルを物流近代化ターミナルとして整備することとし,61年度において日本開発銀行から出資が行われることとされた。

(6) 物流拠点の再開発による高度利用

  (民間活力を活用した物流拠点の高度利用)
 大都市地域におけるトラックターミナル,港頭地区の倉庫・上屋,鉄道の貨物駅等の物流拠点については,経済・社会環境の急速な変貌に伴い施設の老朽化・陳腐化が進み機能が低下することが予想されているため,高度化する物流ニーズに対応すべく,施設の近代化,物流機能の高度化を図っていく必要がある。
  また,大都市地域における物流拠点については,希少な土地資源の有効活用と事業の多面的展開という観点から,現在の平面的利用から脱却し,トラックターミナルのプラットホームの多階化,倉庫の高層化等空間の高度利用を図ることも重要である。その際,物流拠点を単に物流拠点としてのみならず,業務,商業,居住空間をも含めて整備し,空間の複合利用を図っていくことが望ましい。
  このような物流拠点の再開発による高度利用については,多額の資本投下を要するうえ,そのリスクも大きい等制約要因もあるため,都市再開発に関するノウハウと豊富な資金力を有するデベロッパー等民間活力を活用しつつ行っていく必要があるので,現在その実現方策の検討を行っている。


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