1 旅客輸送の動向


(1) 国内輸送

 ア 60年度の概況

      (国内旅客輸送量は全体としては増加)
      昭和60年度の国内旅客輸送量は,実質民間最終消費支出の堅調な伸び,国際科学技術博覧会(以下「筑波科学博」という。)の開催に伴い国内旅客流動が活発化したこと等により,総輸送人員538億7千万人,対前年度比(以下同じ。)1.7%増,総輸送人キロ8,582億人キロ,3.1%増と,輸送機関によりばらつきがみられるものの,輸送人員,輸送人キロともに前年度の伸び率(それぞれ0.8%増,1.2%増)を上回った 〔9−1−1表〕
      60年度の消費動向をみると 〔9−1−2図〕,実質民間最終消費支出は2.6%増となり,前年度と同じ伸び率を示した。しかし,全国全世帯(家計調査)の実質消費支出は0.2%増となり,前年度の伸びを下回った。

      60年度の旅客輸送の特徴としては,国鉄が運賃を改定したにもかかわらず60年3月のダイヤ改正の効果もあって3年連続の増加となったこと,航空が60年8月の日航機墜落事故の影響等により減少に転じたこと,自家用乗用車の伸び率が再び増大に転じたこと,自家用バスの大幅な伸びにより自家用乗用車以外の自動車が55年度以来5年ぶりに前年度実績を上回ったこと等があげられる 〔9−1−3図〕

 イ 輸送機関別輸送動向

      (国鉄旅客は3年連続して増加)
      国鉄は,輸送人員が0.8%増,輸送人キロが1.7%増となり,いずれも3年連続の増加となった(前年度はそれぞれ1.3%増,0.7%

     増)。このうち,定期旅客は輸送人員で0.3%増であったが,輸送人キロでは0.4%減となった。定期外旅客は,筑波科学博開催による影響や60年3月のダイヤ改正の効果等により,輸送人員で1.8%増,輸送人キロでは3.2%増と好調であった。
      列車種別にみると,新幹線は輸送人員で9.8%増,輸送人キロでは9.0%増であった。このうち,東海道・山陽新幹線は,ひかり号の新横浜駅停車や短編成による運転本数の増発等により,輸送人員で3.7%増,輸送人キロで4.0%増となり,東北・上越新幹線は,上野開業に伴い輸送力を増強したこともあり,輸送人員で31.9%増,輸送人キロで33.9%増と大幅な伸びを示した。なお,このような新幹線の伸びについては,日航機事故の影響もあったものと考えられる。
      在来線の特急・急行は,東北・上越新幹線上野開業に伴う輸送力減少の影響もあって,輸送人員で3.2%減,輸送人キロで2.8%減と減少率が若干増加し,50年度以降減少が続いている。
      東京・大阪の国電は,定期旅客は輸送人員で1.8%増であったが,輸送人キロでは0.4%減であった。一方,定期外旅客は輸送人員で2.6%増,輸送人キロで0.4%増となり,伸び率はいずれも前年度を上回った。
      在来線その他(在来線合計から国電及び特急・急行を除いたもの)は,定期旅客は輸送人員で2・7%減,輸送人キロでは0.5%減であり,定期外旅客はそれぞれ1.0%減,0.8%減であった。
      この結果,国鉄旅客輸送人キロの列車種別増加寄与度は 〔9−1−4図〕のようになり,新幹線の大幅な増加が60年度の国鉄の増加につながっている。

      (国鉄埼京線及び京葉線の開業)
      埼京線は,60年9月に大宮〜赤羽間の新線が開業し,同時に電化された川越線の川越や大宮などから池袋まで直通運転が行われ,61年3月には新宿への乗り入れ運転が開始された。その結果,埼京線は,乗り換え解消とそれに伴う時間短縮等により,並行線区の混雑緩和に大きな成果を上げ,輸送量(3線計)も順調に増加している 〔9−1−5図〕

      一方,京葉線は,6工年3月に西船橋〜千葉港間が開業したが,東京への直通運転が行われない暫定開業のため,ラッシュ時における国鉄の並行線区の混雑緩和にはまだ十分貢献しているとは言えないが,輸送量(2線計)は増加しており,東京乗り入れが行われる全線開業の際には,より一層の沿線開発が進み,輸送量が増加するとともに,並行線区の混雑緩和に効果が上がるものと思われる〔9-1-6図〕。

      (民鉄は堅調持続)
      民鉄は,輸送人員が1.5%増,輸送人キロが2.1%増で,伸び率はいずれも前年度(それぞれ1.1%増)を上回った。このうち,定期旅客は輸送人員で1.3%増,輸送人キロでは1.9%増と,前年度の伸び率とそれほど変わらないが,定期外旅客は,それぞれ1.9%増,2.3%増と前年度の伸び率(それぞれ0.3%増,0.6%増)を上回った。
      これらを業態別にみると,大手民鉄は輸送人員で1・3%増,輸送人キロで1.8%増と伸び率が増加した。地下鉄については,輸送人員は2.2%増と伸び率が増加したが,輸送人キロにおいては3.2%増と伸びが縮小している。一方,地方中小民鉄は,国鉄特定地方交通線から転換した5会社が増加したが,輸送人員で0.3%減,輸送人キロは1.3%減となっており,5会社分を除くとそれぞれ0.9%減,2.0%減と依然低落傾向にある。
      (自動車は自家用バスと自家用乗用車で高い伸び)  自動車(軽自動車を除く。)は,自家用バスと自家用乗用車の伸びが大きく寄与し,輸送人員は1.9%増,輸送人キロは4.4%増と,いずれも前年度の伸び率(それぞれ0.7%増,1.0%増)を上回った。
      自動車の内訳をみると,バスは輸送人員で減少率が縮小し,輸送人キロで前年度実績を上回った。このうち,乗合バスは輸送人員2.5%減,輸送人キロ3.8%減と依然として長期低落傾向を続けているが,貸切バスは増加傾向(輸送人員7.1%増,輸送人キロ4.1%増)を持続し,自家用バスは55年度以来5年ぶりに輸送人員(3.0%増)・輸送人キロ(5.3%増)ともに前年度実績を上回った。
      貸切バス及び自家用バスの60年度の輸送人員の動向をみると, 〔9−1−7図〕のとおり,8月ないし9月まで大幅な伸びを示している。これは,筑波科学博が開催され,かつ,開催前の60年1月に常磐自動車道が新規供用区間(三郷〜柏)を加えて,道路事情が良くなり,会場周辺も特段の混乱がなかったこと等により輸送量が増加したものと考えられる。この結果,年度全体でも貸切バス及び自家用バスともに前年度を上回り,なかでも自家用バスの輸送人キロの伸びは大幅となっている。なお,自家用乗用車以外の自動車の輸送人キロが1.7%増と55年度以来5年ぶりに前年度実績を上回ったのも,自家用バスの伸びが寄与している。
      一方,乗用車は堅調に推移し,輸送人員で3.1%増,輸送人キロ

     で5.1%増であった。このうち,自家用乗用車は輸送人員で3.7%増,輸送人キロで5.3%増となり,伸び率はいずれも前年度を上回っている。また,営業用乗用車は輸送人員で0.8%減,輸送人キロで0.8%増であった。
      (減少に転じた航空輸送)
      航空は,60年8月12日の日航機墜落事故の影響等により,輸送人員は2.1%減,輸送人キロは1.1%減といずれも57年度以来3年ぶりに減少に転じた。幹線・ローカル線別にみると,輸送人員はそれぞれ1.2%減,2.6%減,輸送人キロはそれぞれ0.5%減,1.7%減となり,ローカル線の落込みが大きい。
      航空輸送は,59年度においては景気の上昇とともに幹線・ローカル線とも輸送需要が急増して9%台の増加となり,60年度に入っても,筑波科学博開催もあってその傾向が持続し好調であったが,日航機事故後は旅客の輸送需要が大幅に減少している。また,座席利用率も60年度は前年度の62.1%から59.3%と減少し,42年度以来18年ぶりに50%台となった。
      路線別にみると,全体的に事故の影響がみられ,幹線の中では特に東京・大阪線(9.8%減),大阪・福岡線(8.2%減)の新幹線並行路線において減少率が高い。また,ローカル線では,東京・山形線(14.8%減),東京・秋田線(13.8%減),東京・金沢線(8.0%減)等,東北・上越新幹線の上野開業で影響を受けていた路線の落込みが激しい。
      (事故の影響が続く航空)
      航空は,60年8月の事故の影響が61年度に入っても続き,回復の兆しは見えつつもいまだ低迷しており,61年7月の実績でも対前年同月比で2.3%減(幹線1.2%減,ローカル線3.1%減)となっている 〔9−1−8図〕。低迷の理由としては,筑波科学博による需要増の反動減,円高による景気の不況感等による要素も考えられるが,国鉄,民鉄等他の輸送機関の輸送実績が61年度に入っても前年を下回ることなく推移していることを考え合わせると,やはり事故の影響のウェイトが高いことがうかがえる。

      日航機事故の影響でどのくらい航空旅客の逸走があったのかを試算してみると, 〔9−1−9図〕のとおりであり,事故後から61年6月までの間で,逸走量(事故が発生しなかったと仮定した場合の予測輸送人員と輸送実績との差)が約440万人,逸走率で工0.7%となり,事故の影響の大きさをうかがい知ることができる。

      このような航空旅客の逸走は,他輸送機関への転移又は旅行取止めにより生じたものであるが,転移先の輸送機関としては,航空の営業路線距離が原則として300km以上であることから,航空との競合路線を持つ国鉄が主として考えられる。
      事故前後における国鉄と航空の輸送状況を比較すると 〔9−1−10図〕及び〔9-1-11図〕のとおりであり,事故後(60年9〜11月期)において,国鉄は各区間とも伸びが大きくなり,年々減少していたシェアも増加に転じている。最新(61年4〜6月期)においては,国鉄の伸びが落ちてきているが,航空が依然として低迷を続けているため,輸送量シェアでは,事故直後と比較すると減少しているものの,事故前と比較すると依然としてシェアを増加している区間が多い。また,東海道・山陽新幹線の各々の利用状況についてみると,事故後において伸びが増加し,特にグリーンの利用客が急増しており,航空利用旅客が国鉄に転移したことがうかがえる 〔9−1−12図〕〔9-1-13図〕。

      (旅客船は減少)
      旅客船(一般旅客定期航路,特定旅客定期航路及び旅客不定期航路)は,輸送人員,輸送人キロともに0.8%減となり,再び減少に転じた。このうち,長距離フェリー(片道の航路距離が300km以上であって陸上のバイパス的なフェリー)は,輸送人員で0.9%増,輸送人キロで0.5%増といずれも前年度実績を若干上回ったものの,伸び率では前年度(それぞれ6.7%増,5.9%増)を大きく下回った。
      (分担率では自家用バスと自家用乗用車が増加)
      60年度の輸送機関別国内旅客輸送人キロ分担率は,前年度に比べ自家用バスと自家用乗用車が増加し,旅客船が横ばいでその他は減少している 〔9−1−14図〕。なお,国鉄及び営業用バスは50年度以降シェアの減少を続けており,自家用乗用車は53年度以降シェアの増大を続けている。

(2) 国際輸送

  (国際旅行者は3年連続して増加)
  1985年の世界における国際旅行者数は,世界観光機関(WTO)の
 推計によれば,到着数で3億2,500万人,4.2%増となり3年連続の増加となった。これを地域別にみると,東アジア・太平洋地域及び中東地域の伸びが比較的大きい。
  (出国日本人数及び入国外客数とも史上最高を記録)
  昭和60年の我が国をめぐる国際旅行の動向をみると,出国日本人数は,59年の好調な伸びが60年9月まで継続し,10月以降は日航機事故の影響による旅行取止め等もあって低迷したものの,年間では6.2%増の495万人となり,4年連続して史上最高を記録した 〔9−1−15図〕。また,61年に入ってからは,3月までは日航機事故の影響等により伸び悩んだが,4月以降は,円高の影響もあって増加傾向になっている 〔9−1−16図〕

  60年の出国日本人を渡航目的別にみると,観光が全体の81.3%を占めているが,その割合は年々縮小し,逆に業務関係の割合は15.4%と増加傾向にある。
  渡航先別では,第1位は米国で全体の30.3%(うちハワイ57.1%,グアム20.1%),以下,韓国(13.0%),香港(12.8%),台湾(124%)となっている。
  男女別の割合は,ほぼ2対1であるが,女性の伸び率(7.7%増)は男性(5.4%増)を上回り,また,過去10年間をとってみても女性の伸び(2.7倍)は男性の伸び(1.8倍)を大きく上回っており,女性の比率が徐々に高まってきている。
  年齢別では,男性は30歳代が男性全体の28%と最も多く,次いで40歳代(同24%)の順となっている。これに対し女性は,20歳代が女性全体の43%と圧倒的に多く,次いで30歳代(同14%)の順となっている。
  一方,入国外客数は233万人(10.3%増)と大幅に増加している。

 これは,筑波科学博がアジア諸国からの観光客を多数集めたほか,業務目的の来訪客が20.5%増と大幅に増加し,10月以降筑波科学博への来訪ラッシュの反動や円高の影響等により減少に転じたものの,10年連続して史上最高を記録した。しかし,61年に入ると,60年10月以降の傾向がより一層強まり,大幅な減少傾向が続いている。
  60年の入国外客を地域別にみると,アジアが115万人(10.4%増)と全体の50%を占め,次いで北アメリカ64万人(9.6%増),ヨーロッパ42万人(11.9%増)となっている。このうち,米国が56万人(9.2%増)と最も多く,以下,台湾40万人(2.9%増),韓国20万人(5.8%増),英国(香港在住者等を含む)18万人(9.4%増),中国9万人(90.2%増)の順となり,特に中国は業務渡航等が急激に増加していることもあって大幅に伸びている。
  (世界の国際航空旅客輸送は堅調持続)
  1985年の国際航空旅客の動きをみると,国際民間航空機関(ICAO)の統計に基づく定期国際輸送量は,輸送人員で5.4%増の1億9,400万人,輸送人キロは6.5%増の5,900億人キロと堅調であった。
  (我が国航空企業による積取比率は横ばい)
  昭和60年度の航空機利用出入国者数は,5.3%増の1,758万人(うち乗換通過客345万人)であった。このうち我が国航空企業(3社)利用出入旅客数は,5.1%増の646万人であり,我が国航空企業による横取比率は前年度に比べ0.1ポイント減の36.7%となった 〔9−1−17表〕


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