3 魅力ある地方都市づくりと運輸


(1) 交流の活性化と地方定住を促す運輸

  (高速交通体系の整備)
  高速交通サービス利用の利便性を全国的に普及させることは,地域経済社会の活性化を図るための基礎的な条件である。大都市への時間距離が短縮されることによって,地域間格差が解消されることとなる一方,地方圏における交流の自由度が拡大し,多様な活動の可能性を高めることになる。事実,50年代以降の高速道路網整備の地方での進展に伴い大都市-地方都市間の高速バス運行が飛躍的に増大したことや,従来から高速交通体系の重要な柱だった新幹線の東北や上越への展開は,飯田,盛岡,新潟等多くの地方都市にとって大都市が日帰り圏内に入ることとなり,地域住民の行動頻度の増大を促すとともに,地方に新しい都市的要素が持ち込まれ,消費生活や文化の向上に資することとなった。さらに,63年春には青函トンネル及び本四連絡橋鉄道児島-坂出ルートにおいて在来線の運行開始が予定されていることから,今後国土の一体化がますます進展していくこととなろう。
  しかしながら,こうした幹線高速交通網の整備・充実による地方から大都市へのモビリティの高まりは,地方の大都市依存と大都市への機能集中を招来するとの一面も有しているため,国土の多様で均衡ある発展を図っていくには,地方中核都市相互間等地域間の連絡を強化していくことが重要である。この意味において,最近の高速バスにおける名古屋-金沢間等の中距離地方都市間路線の発達や,山陽新幹線小倉-博多間のこだま6両編成による都市間フリークエンシー・サービスの進展は注目される。また,地域に密着した輸送として期待されているいわゆるコミューター航空は,地方都市間を機動的に連絡する手段としても有効である。例えば,62年4月に開設された大分-広島-松山間は,我が国最初の都市間コミューター路線であり,輸送需要の確保等の問題点を有しているものの,他の輸送機関では相当の時間を要するような地域間の交流を促す契機となった。
  一方,空港,新幹線,高速道路等の幹線高速交通体系の整備に伴い,交通拠点である空港,新幹線駅等への地方都市からのアクセス手段を整備することも重要な課題である。例えば,高速バスは主要なアクセス交通機関としての機能も有しており,現在,全国各地の空港において空港連絡バスが高頻度で運行されているほか,盛岡-弘前間等の東北新幹線リレー高速バス等,新幹線のフィーダー輸送としてもその効果を発揮し,地域住民のモビリティの一層の向上に役立っている。
  また,地方都市の魅力を生み出す上で,地域において直接,人,物,情報の国際交流を進めていくことも重要である。このため,国際海上交通については,外貿定期船の就航する港湾の地方展開や,港湾再開発によるウォーターフロントの活用等,地方圏における国際交流のための港湾整備を促進する必要がある。また,国際航空交通についての新しい動向としては,地方空港のジェット化に伴う国際チャーター便の地方都市への乗入れが注目される 〔1−1−3図〕。これは,62年7月にジェット化された青森空港から香港へチャーター便が運航されたのをはじめとして,近年,拡大傾向にある。今後ともこのような地方圏における国際交通利用の利便性等の向上を図ることにより,地方の国際化を推進していくこととしている。

  (都市環境整備と運輸)
  地域社会の発展を担う人材の確保を図るためには,地方都市の定住条件を飛躍的に改善する必要がある。その意味において,交通も,単に地域住民に生活の足を確保するだけにとどまらず,それ自体が,様々な都市機能の一つとして,大都市圏では得られない快適でゆとりとうるおいのある生活空間を積極的に創出していく役割を期待されている。このような観点から,地方都市における交通体系の整備にあたっては,地域の実状に応じ,各交通機関の有する特性が十分生かされるようなシステムづくりが重要である。このため,62年7月仙台で地下鉄が開業したことにみられるように,地方中枢都市における地下鉄等新しい交通施設の整備を推進する一方で,既存の交通機関についてもその活性化を促す観点から,都市新バスシステムの導入,公共交通機関の路線網の充実,ダイヤの改善,車両の冷房化等を推進しているところである。また,地域に密着した輸送サービスを提供する観点からは,分割民営化後の旅客会社及び貨物会社が地方の生活圏内路線について列車増発等を進めており,地域住民の行動頻度や利便性がますます高まっている。このように,魅力ある地方都市づくりを進めていくに当たっては,交通網の整備が都市環境の改善に果たす役割の重要性を十分勘案していく必要がある。

(2) 地域振興と運輸

  (交通体系の整備による地域開発)
  地方圏においては,近年,産業構造転換に伴う雇用吸収力の低下や人口増加率の衰えといった新しい停滞傾向が現出しており,地域活性化が喫緊の課題となっている。このため,地方都市を中心として,地域特性に応じた地域開発,企業立地の誘導等の動きが高まっている。その際,観光開発も地域振興の重要な手段であるが,観光開発にマッチした交通体系の整備は,観光客の足の確保や潜在需要の掘りおこし等,地域開発の基盤として大きな役割を担う。
  61年10月の会津鬼怒川線の開通は,会津地方と首都圏を直結することで観光客の増大と沿線地域の活性化を促し,従来開発が遅れていた地域のポテンシャルを引き出すこととなった。また,ヘリコプターを利用した観光客の輸送についても,リゾート開発ブームを背景とし,最近活発になっている。これは,高速交通拠点,地域開発拠点,観光地等を短時間で連絡することを可能にし,観光客の利便性を著しく高めている。地域開発は交通体系の整備如何によって大きく左右されると言え,旅客ニーズと高速交通手段の便利さを結びつけ,観光地等の魅力を向上させていくことは,今後ますます重要になってくると考えられる。
  (地域活性化とイベント事業)
  様々な地域振興の取組みの中でも,特に地域経済社会への波及効果が大きいとされ注目を集めているのが,イベントの推進である。イベントは,地域特性を生かした独自の活動の場を提供することにより,地域の産業,文化や住民意識を向上させ,大都市に依存しない個性的で活力のある都市を形成する契機となる。その意味において,例えば港湾はイベント空間としての格好の条件を備えている。観光船や帆船等の寄港に際した催し物や全国各地において毎年開かれている港まつり等,港に関するイベントが数多く存在しているのも,その海と陸,人と物との結節点である交流拠点としての港湾が地域振興の基盤として有効であることを示していよう。それ以外にもイベントの開催において交通が生かされている例は多く 〔1−1−4表〕,62年岡崎市で開催された市制70周年を記念する葵博においても,常電導方式によるリニアモーターカーの展示走行を行っており,未来の高速交通に対する市民の啓蒙と地域意識の向上に一役買っている。 また,イベント開催は一時的に大量の人流の集中をもたらすため,これを円滑にさばくための輸送面での増強対策が不可欠であり,イベントの準備に際しては,念入りな交通対策がなされるのが常である。例えば,62年7月18日から9月28日までの73日間,仙台市で開催された「未来の東北博覧会」を例にとると,期間中の総観客動員数が当初予測を大幅に上回る297万人であったにもかかわらず,そのうちの約3分の1を占める95万人について,鉄道,バス,旅客船等の公共交通機関によって効率的に輸送することに成功した。特に,東北博の場合,会場が仙台市の中心部から十数キロ離れた仙台港の後背地に位置していたため,都心部の主要交通拠点から会場までのアクセスとして,仙台駅及び最寄り鉄道駅である多賀城駅から会場までの直行バスのピストン輸送を高頻度で行ったほか,通常は貨物専用線である仙台臨海鉄道線を旅客輸送に転用し,臨時に設置した会場駅までSL列車を含む雲行列車を運行した。さらに,仙台港との近接性を生かして,松島とを結ぶ宝観光船航路の臨時開設を図った。

  一方,イベント開催による局地的な人流の発生が周辺観光地等に及ぼす影響も少なくない。東北博についても,博覧会の会期が東北四大祭りの開催時期に重なったことや,周辺に有名な観光名所が存在していたことから,イベント客と観光に伴う人流との結合に成功し,松島,秋保,鳴子等仙台市に比較的近い観光地の宿泊客が軒並み例年の2〜3割増となったほか,イベント客の集中により押し出された観光目的の客が,周辺の蔵王,南三陸等の観光地に大量に流れるといった玉突き現象も見られた。
  (個性的なまちづくりと運輸)
  地域活性化を図るために,地域の創意と工夫を生かした魅力あるまちづくりの試みも各地でなされている。不況業種の集積した企業城下町である釜石市や清水市等において,マリーナ整備等を核として海洋を利用した個性ある都市づくりが現在推進されつつあるのはその一例である。
  また,国際的な会議,展示会などを開催するコンベンション・シティを地方圏に育成していくことは,近年の本格的な国際化の進展のなかで,地域の国際交流機能の分担とその活性化に極めて効果的である。現に,近年の顕著な動向として,国際コンベンション開催の地方分散が進展している 〔1−1−5図〕。これは,国際コンベンション振興のもつ多大な意義にかんがみ,近年各地方都市が都市全体でコンベンションの誘致等に積極的に取り組み始めたことによるものである。

  このようにして,地方都市がそれぞれの地域実状に応じた独創的なまちづくりを推進していくことが地域の活力を生み,ひいては国土の多様で個性的な発展につながっていくものと考えられる。


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