1 JRの事業運営


(1) 各社の昭和62年度の事業運営の状況

  62年4月1日,国民生活充実のための重要な手段である鉄道の役割を,21世紀にわたり十分果たし得るようにするために,鉄道事業の再生を図ることを目的として国鉄改革が実施された。国鉄改革の実施により発足した北海道旅客鉄道株式会社,東日本旅客鉄道株式会社,東海旅客鉄道株式会社,西日本旅客鉄道株式会社,四国旅客鉄道株式会社,九州旅客鉄道株式会社(以下「旅客会社」という。)及び日本貨物鉄道株式会社(以下「貨物会社」という。)は,62年度において国鉄改革の趣旨に沿って輸送ニーズに適合した効率的な輸送を提供し,安定した経営を継続し得るような体制の定着をめざして鉄道事業,自動車運送事業等の事業運営を行った。

 ア 輸送の動向

      62年度の旅客会社及び貨物会社の鉄道輸送の状況は,発足に際して策定された計画と比較しておおむね順調に推移した。その概要は 〔3−1−1表〕のとおりである。

      旅客会社の中では,輸送人キロでみた場合,東海道新幹線が好調であった東海会社,四国会社及び九州会社が計画を特に大きく上回った。
      貨物会社では,コンテナ貨物輸送の堅調と車扱貨物輸送の平均輸送キロの伸びが輸送トンキロの伸びにつながった。

 イ 決算状況

      JR各社は,63年6月下旬,62年度の貸借対照表,損益計算書及び営業報告書を運輸大臣に提出したが,このうち,各社の収支の状況及び資産,債務の状況は 〔3−1−2表〕及び 〔3−1−3表〕のとおりである。
      62年度においては,鉄道事業等の営業損益及び経営安定基金の運用収入や承継長期債務の支払利息等の営業外損益を合わせた各社の経常損益は,各社ごとには多少の相違はあるものの,7社合計では,1,515億円の利益を計上しており,経常損益に特別損益を加味し,法人税等を差し引いた当期損益は,各社とも利益を計上しており,その額は7社合計で500億円となっている。
      各社の決算状況については,発足初年度としてはおおむね順調に推移したと思われる。
      その理由としては,まず,各社とも鉄道輸送に対する高度化・多様化する利用者のニーズを幅広く的確に把握した上で,地域に密着し真に地域住民に愛され利用される鉄道をめざして,きめ細かなダイヤ設定,魅力ある企画商品の開発や駅,車両の改良,美化等全社員が一丸となった営業努力を行ったことが挙げられる。
      また,経費面においても業務運営を効率的に行い,契約単価の見直し,動力費の軽減などの経費節減努力を行っているほか,社員数が採用目標を下回ったことによる人件費負担の軽減等の要因も相まって全体として経費が軽減されている。
      さらに,62年度については,我が国全体として急速に景気が回復したことにも支えられて各社の輸送量が伸びたことも理由の一つに挙げられる。

(2) JR各社の事業の展開

 (ア) 鉄道事業の展開

 (a) 顧客確保のための経営努力

     (営業活動の充実)
      JR各社は,販売力の強化による営業活動の積極的な展開を図っている。旅客会社については,みどりの窓口のオープンカウンター化等による旅行センターの充実,旅行エージェントとの協調による販売力の強化等により営業活動の充実・強化に努めている。
      貨物会社においては,主要荷主,通運事業者及びトラック事業者とより緊密な連携をとり,通運事業者との共同販売を行うこと等により需要の増大に努めている。

     (輸送ニーズへの対応)
      旅客会社は,引き続き各種企画商品の発売を行い,新規需要の開拓に努力している。具体的には,国鉄時代から設定している「フルムーンパス」,「ナイスミディパス」等に加えて,土・日曜日を含む3日間乗り放題の「E・Eきっぷ」(東日本会社)や家族連れに対して割引を行う「ファミリーきっぷ」(西日本会社),「かるがもきっぷ」(東日本会社),グリーン車乗り放題の「豪遊券」(九州会社)等を各社がそれぞれ工夫を凝らして設定している。また,63年3月に行ったダイヤ改正の際には,特急料金が他の区間より割安である区間の追加設定,上野一札幌間の特急「北斗星」においてデラックスA個室寝台「ロイヤル」の設定等を行い,旅客のニーズへの一層の対応を図った。
      貨物会社においても,高度化・多様化する荷主ニーズに応えるため,貨車の改良によるスピードアップ,汎用タイプの低床式コンテナ貨車,定温コンテナ注1)の導入等を行っている。また,自動車との協同一貫輸送システムとして,ピギーバック輸送注2)の改良やスライド・ヴァンボデイ・システム注3)の開発等を行っている。このような施策の結果,鉄道貨物輸送の特長である定時性が再評価されたこともあり,徐々に新規荷主も増え,輸送量も増加している。

 (b) 利用者の利便の向上

      JR各社は,愛される鉄道をめざし,サービスの向上等に努めており,利用者の評価も定着しつつある。
      特に63年3月には,分割・民営化後初の全国的なダイヤ改正が実施され,新駅設置,列車頻度の向上,スピードアップ,輸送力の増強,接続の改善等を行うことにより一層の利用者の利便の向上を図った。
      具体的には,新富士駅等新幹線新駅の開業,東北線及び高崎線からの池袋駅への列車乗り入れ,上越新幹線「あさひ」のスピードアップ,ラッシュ時の常磐線快速の車両増結,新幹線接続の九州内の特急「有明」,「にちりん」の増発等きめ細かな改善を図っている。
      また,接客従業員のフロントサービスの向上,案内情報サービスの充実を図るとともに,意見や苦情を集約し,迅速かつ的確に処理するための体制整備を図っている。

 (c) 安全の確保

      安全の確保は,輸送機関としての基本的な使命であり,民営企業となった今日,むしろ今まで以上に積極的に取り組まなければならない課題である。JR各社は安全推進委員会等を設置して安全運行体制の強化,老朽施設の計画的更新等による輸送施設の安全性の維持等に努めている。
      なお,62年度における運転事故件数は7社計で927件であり,前年度の国鉄時代における運転事故件数1,035件と比較すると10%の減少を示している。

 (イ) 関連事業の展開

      関連事業については,JR各社は経営基盤整備の一環として鉄道事業と並ぶ重要な柱と位置づけ,各社の創意工夫の下にそれぞれの保有するノウハウ,技術力,資産,人材等の経営資源を最大限に有効活用し,展開を行っている。
      具体的には,出資会社等関連会社と一体となって,駅ビル,ホテル,高架下,広告媒体等の整備・開発といった既存の事業分野の充実を図るとともに旅行業の本格的な展開を進めているほか,トランクルーム等新規の事業分野への進出を行っている。
      なお,運輸省としては,各社が,その地域において当該会社が営む事業と同種の事業を営む中小企業者の事業活動を不当に妨げたりすることのないよう特に配慮した上で,新しい事業の展開を進めるよう指導しているところである。

 (ウ) 63年度事業計画及び事業運営の状況

 (a) 63年度事業計画の概要

      63年3月31日運輸大臣により認可されたJR各社の63年度事業計画については,各社とも62年度に引き続き健全な経営基盤の確立に向けて鉄道事業,関連事業等を積極的に展開する内容となっている。
      具体的には,事業運営の基本方針については,各社とも62年度に引き続き経営基盤の整備に向けて輸送需要の確保・増大,営業活動の充実・強化,業務運営の効率化を図ることとするとともに,輸送の安全の確保に万全を期すほか,輸送サービスの向上等利用者の利便の確保に努めることとしている。
      このような基本方針に基づき事業運営を行っていく上での各社の収支見通しは, 〔3−1−4表〕のとおりであり,63年度の税引前当期利益は,7社計で1,299億円と見込まれている。

 (b) 63年度事業運営の状況