4 航空運賃問題への対応


(1) 国内航空運賃問題

 (利用しやすい国内航空運賃をめざして)
  我が国航空企業の収支は,60年の日航機事故以来低迷を続けてきたが,62年度に入り需要の回復や原油安に支えられて好調に転じ,同年度の航空3社の経常利益は539億円であったものの,この経常利益の水準は,民間企業である航空企業がかろうじて8分配当を行いうる水準にすぎないこと(電力・ガスともに1割配当),売上高利益率は3.4%にすぎないこと(電力は,9.4%,ガス10.9%-62年度)等からみて他業種と比較して必ずしも高い水準にあるとは言えないものである。
  国内航空運賃は,57年以降6年余りにわたり据え置かれている上,今後,3大空港プロジェクトの進捗等により必要となる巨額の設備投資に伴うコスト増等が考えられるが,今後とも安全かつ良質なサービスの確保に配慮しつつ可能な限り低廉な運賃設定をめざし,企業経営の効率化を図るとともに,輸送力の活用と利用者のニーズに対応した割引制度の拡充・多様化を促進していく必要がある。
  なお,現在国会で審議されている消費税(税率3%)が導入される場合には,同時に現在航空運賃に課されている通行税(純運賃の10%。ただし,離島路線にあっては5%)が廃止されることとされており,これに対応して,国内航空輸送に係る利用者の負担はかなり軽減されることになる。
  また,各路線ごとに見た場合には,例えば,北海道方面について,1キロメートル当たりの賃率が他の路線に比して相対的に割高になっている路線(特に東京-釧路,帯広,旭川,女満別)がある。
  これらの路線は,需要量が比較的少ないこと,季節波動が大きいこと等により,路線ごとの費用を勘案すれば本来的に割高となることはやむを得ない面もあると考えている(ただし,前記道東4路線については,飛行経路の変更を行ったこともあり,これに伴うコスト減分(1,000円)の値下げを62年12月に行ったところである。)。
  今後とも,遠距離逓減を基本としつつ路線距離,使用機材,需要の動向等を勘案し,同じような態様の路線については,同じようなレベルの運賃が設定されるような整合性のある運賃体系の形成を図っていくことが適当である。

(2) 国際航空運賃問題

 (方向別格差の是正の積極的推進)
  国際航空運賃は,固定相場制当時においては,基軸通貨であるドル又はポンド建てで設定されていた(各国発運賃は,ドル又はポンド建て運賃に固定レートを乗じた額)。しかしながら,48年の変動相場制への移行に伴い,同一路線における自国発運賃と相手国発運賃とを調整する基準がなくなり,それぞれ発地国通貨建て(例えば日本発は円建て,米国発はドル建て)で設定されることが国際的に採用されるに至った。これに伴い,同一路線におけるそれぞれの国発の運賃は,その後の各国の物価水準の変動等に応じて,それぞれ独立して改定され,現在に至っている。このような発地国通貨建て主義の下では,為替変動や運賃改定に伴い,自国発運賃の額と相手国運賃を実勢レートで自国通貨に換算した額との間に相対的に差異を生じること(いわゆる「方向別格差」)が不可避となり,特に大幅かつ急激な為替変動がある場合には,利用者間の不公平感が出るという問題が生ずるに至った。

 (ア) 方向別格差発生のしくみ

      変動相場制に移行した48年以降においては,日本発運賃の上昇を抑制した場合においても,相手国発通貨の下落によって日本発運賃の方が相手国発の運賃に比して相対的に高くなることがある。例えば,日米間においては,48年当時に比べ日本発運賃は約29%の上昇にとどまっているが,米国発運賃は約2.4倍の水準に上昇している。この間,60年9月のG5合意以前は米国の高金利政策の影響を受けて円安・ドル高となり,約4年間にわたり日本発運賃の方が安い時期が続いたが,G5合意以降,円高ドル安が急激かつ大幅に進行した結果(2年余りで約2倍の円高),数次にわたる日本発運賃の値下げや米国発運賃の値上げが行われたにもかかわらず,日本発運賃の方が相対的に高くなるという事態を招いている。また,香港ドル,オーストラリアドル等の通貨は円に対して相対的に下落した米ドルに対しても急激に下落してきており,円との為替レートの格差はますます拡大してきている。このため,これらの諸国発運賃については,日本発運賃の値上げをはるかに上回る値上げが行われたにもかかわらず,大きな方向別格差を生ずるに至っている。

 (イ) 方向別格差是正の基本的な考え方

      二国間の航空運賃は,その時々の実勢レートで換算すれば,為替変動により常に自国発運賃と相手国運賃との間で相対的に格差を生ずることとなるが,このような方向別格差が長期にわたって相当程度継続する場合には,利用者の不公平感をできる限り解消するため,その是正を図る必要がある。
      このような見地から,60年以降の急激かつ大幅な円高に対応して日本発円建て運賃の値下げを強力に指導してきたところであり,また,IATA(国際航空輸送協会)の場においても,64年7月以降はSDRで各国通貨をモニターし,±3%を超える変動が20日間以上続いた場合には,方向別格差の是正を勧告するとの決議が採択されるに至っている。
      方向別格差の是正方法としては,我が国が主体的に方向別格差是正を行うという観点から,まず日本発運賃の値下げを主眼において是正指導を行っていくこととしている。
      なお,日本発運賃の値下げを行う場合には,通常相手国発運賃の値上げが行われる場合が多いが,これが行われれば方向別格差は一層是正される結果となる。
      運輸省としては,このような考え方に基づき,今後,次のような基本的な方針に従って強力に方向別格差の是正を進めることとし,9月13日付けで関係航空会社に対する指導を行ったところである。

 (a) 目標

     a 太平洋線,欧州線及びオセアニア線については,普通往復運賃に係る方向別格差を原則として解消することを目標とする。
     b 東南アジア線等a以外の主要路線については,普通往復運賃に係る方向別格差指数(日本発運賃を100とした場合における相手国発運賃の割合)が当面70〜90程度の水準となるよう格差を縮小することを目標とし,その他の路線についても大幅な是正を図ることとする。

 (b) 是正の方法

     a 日本発運賃の値下げにより,少なくとも目標とする方向別格差指数との中間点までの格差是正を達成する。
     b 相手国発運賃の値上げが行われない場合には,関係航空会社の経営状況を勘案しつつ,aに加えさらなる日本発運賃の値下げを検討する。

 (c) 目標達成の時期

      遅くとも64年度中に達成することを目途とする。

 (d) その他

      以上のほか,日本発運賃に関し,それぞれの路線の実情に応じて,普通片道運賃の値下げ及び各種割引運賃の拡充を図ることとする。

(3) 割引運賃の拡充について

 (各種割引運賃の積極的導入)
  割引運賃については,利用者の不当な差別取扱い等の問題を生じない限り,各路線の特性に応じて各航空企業の創意工夫を活かしつつ,弾力的に設定されることが適当であると考えており,既に行政運営においても弾力的かつ迅速な対応を行っているところである。
  このような考え方に沿って,これまでも団体包括旅行割引,女性グループ割引,単身赴任者割引等の各種の割引運賃が導入されてきたが,今後は,特に個人向けの割引運賃の拡充を図ることが適当であると考えており,需要の季節波動に合わせた割引運賃等の導入が検討課題として考えられる。
  また,国際航空運賃に係る割引運賃については,我が国の海外旅行者の場合には従来団体客が中心であったことから日本発の割引運賃は団体割引運賃が主体であったが,ビジネス客をはじめとする個人旅行者の増加等に対応するうえでは,日本発運賃についても個人割引運賃の拡充を図っていくことが適当であると考えている。特に,このような個人割引運賃拡充は実質的に方向別格差の是正にも寄与し得るものであると考えている。
  なお,割引運賃については,その適用についての混乱を招かないよう一般の利用者にとってわかり易く,利用し易いものとすべきであり,このことが運賃に関する利用者の信頼感を維持するために不可欠の前提であると考えている。
  また,航空企業から利用者への情報提供も十分に行うべきであり,さらに,その適用条件・割引率等については基本運賃との違いや各種割引運賃の間の関係について誤解が生じないよう適正な配慮が払われる必要があると考えている。さらに,既存の割引運賃についても,このような観点から適宜見直しを行うことにより,基本運賃と割引運賃との関係を適切に調整していくことが必要と考えている。


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