平成20年横審第29号
             裁    決
       護衛艦あたご漁船清徳丸衝突事件

 本件は,国土交通省設置法等の一部を改正する法律(平成20年法律第26号)附則第4条の規定に基づき,同法第3条の規定による改正前の海難審判法(以下「旧法」という。)の規定により行うものである。

  言 渡 年 月 日 平成21年1月22日
  審  判  所 横浜地方海難審判所(織戸孝治,安藤周二,小寺俊秋)
  理  事  官 稲木秀邦,榎木園正一,浅野真司
  指定海難関係人 A
     職  名 あたご艦長
  指定海難関係人 B
     職  名 あたご水雷長
  指定海難関係人 C
     職  名 あたご航海長
  指定海難関係人 D
     職  名 あたご船務長
  指定海難関係人 海上自衛隊第3護衛隊群第3護衛隊(旧第63護衛隊)
     代 表 者 第3護衛隊司令 E
  補  佐  人 a(指定海難関係人A,同B,同C,同D及び
            同海上自衛隊第3護衛隊群第3護衛隊(旧第63護衛隊)選任)

             主    文
 本件衝突は,あたごが,動静監視不十分で,前路を左方に横切る清徳丸の進路を避けなかったことによって発生したが,清徳丸が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 海上自衛隊第3護衛隊群第3護衛隊が,あたごの艦橋と戦闘情報センター間の連絡・報告体制並びに艦橋及び戦闘情報センターにおける見張り体制を十分に構築していなかったことは,本件発生の原因となる。
 指定海難関係人海上自衛隊第3護衛隊群第3護衛隊(旧第63護衛隊)に対して勧告する。

             理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成20年2月19日04時07分少し前
 千葉県野島埼南方沖合
 (北緯34度31.5分 東経139度48.6分)

2 船舶の要目等
(1) 要 目
 船 種 船 名 護衛艦あたご      漁船清徳丸
 総 ト ン 数             7.3トン
 排  水  量 7,750トン
   全   長 164.9メートル    16.24メートル
   機関の種類 ガスタービン機関    ディーゼル機関
   出   力 73,550キロワット  435キロワット
(2) 設備等
ア あたご
 あたごは,平成19年3月に就役し,海上自衛隊護衛艦隊第3護衛隊群第3護衛隊に所属する護衛艦で,艦首から55.5メートル後方に艦橋前端が位置し,艦橋下方の甲板に戦闘情報センター(以下「CIC」という。)など,また,後方の見張りのため,船体後部に見張り所がそれぞれ設けられていた。

(ア) 艦橋
 艦橋は,前面中央にジャイロコンパスレピーター(以下「レピーター」という。),その右舷側に電子海図表示装置,OPA−6Eと称するレーダー指示機(レーダーの表示装置),レピーターの左側下方に汽笛吹鳴スイッチ,中央部に手動・自動操舵の切替え可能な操舵装置と可変ピッチプロペラ推進装置操縦盤とが一体となった操船コンソール,その左側に日誌の記入等のための作業台,右側に通信機器等を操作するコンソール,後部に海図台などがそれぞれ設置されていた。
艦橋の両舷ウイングには,いずれも双眼鏡,レピーター及び信号探照灯が設置されていた。

(イ) CIC
 CICは,右舷側にOPA−6E及び海図台,中央部にOPA−3Fと称するレーダー指示機,作業台及び無線通信機器を組み込んだ通信台,艦尾側にモニターや操作パネルを有するコンソールがそれぞれ設置され,艦内のレーダーの使用パルスや海面反射制御(以下「STC」という。)等を一元的に調節する装置がOPA−6Eの上方に設置されていた。また,レーダーは,特性の異なる対水上レーダーと航海レーダーが装備され,その選択は,各レーダー指示機で個別に切り替えることができるようになっていた。

(ウ) OPA−6E
 OPA−6Eは,艦橋とCICに装備され,自動衝突予防援助機能(以下「ARPA」という。)を有する平面極座標表示(PPI)方式レーダー表示装置で,カラーモニターに表示した2次元レーダー映像の目標を手動又は自動により捕捉して追尾し,追尾目標の方位,距離,針路,速力やCPA(最接近距離)等を算出して表示する機能を合わせ持っていた。また,取扱説明書には,追尾目標の的針(レーダー目標の進路を計測すること。),的速(レーダー目標の速力を計測すること。),CPA等は目標の過去の運動を基に計算した予測値であり,目標の変針・変速に対しては追従遅れが発生することから,衝突の危険がある目標はレーダー映像により目標の運動を確認すること,追尾目標は自艦及び目標の運動,レーダー映像の状態等の各種条件により,ロスト(レーダー目標がレーダー画面から消失すること。)等があることから,重要な目標は定期的にその位置を確認することなどが,いずれも警告として記載されていた。
 あたごは,通常航海中,艦橋及びCICの各OPA−6Eには,水上物標の探知能力が優れている対水上レーダーの映像を表示させていたが,自動捕捉機能を無効としたまま,手動により目標を捕捉するようにしていた。

(エ) OPA−3F
 OPA−3Fは,自動追尾機能は付加されていないが,レーダー映像を録画できる機能があり,OPA−6Eよりレーダー画面の寸法が大きく,画面が水平に設置されているので,複数の者が同時に画面を監視することができるようになっていた。

イ 清徳丸
 清徳丸は,平成5年11月に進水し,まぐろはえ縄漁などに従事するFRP製漁船で,船体中央部にある機関室の上方に甲板上高さ78センチメートル長さ2.5メートル幅1.6メートルの機関室囲壁が設けられ,その上部及び前端壁面にそれぞれ高さ2メートルの煙突及び甲板上高さ6メートルのマストが取り付けられ,マスト頂部に無線方位測定用ループアンテナ,甲板上高さ4メートルのところにマスト灯が備えられていた。そして,機関室囲壁後方に甲板上高さ2メートル船首尾長さ3メートル両舷幅1.6メートルの操舵室が設けられ,船尾付近の甲板上にある高さ5メートルのスパンカー用マストの,甲板上高さ1.25メートルのところに船尾灯が,操舵室屋根の後部左右両舷に舷灯一対がそれぞれ備えられていた。
 操舵室には,レーダー,GPSプロッター,自動操舵装置,魚群探知機,機関遠隔操縦装置,無線方向探知機及び電気ホーンのスイッチ等がそれぞれ装備されていた。

3 事実の経過
(1) 護衛艦「あたご」航行指針
 護衛艦「あたご」航行指針(以下「航行指針」という。)は,艦の運航にあたり,各操艦者に安全な操艦に関する基本的事項を熟知させるとともに,運航の安全に万全を期するため,航海準備及び航海当直における当直士官等の行船上の留意事項等を,艦長が,艦橋命令として定めたものであった。
 航行指針には,当直士官の留意事項として,当直交替に先立ってCICで所要の情報を収集整理して準備を整えること,当直交替時の申し継ぎ中は周囲の警戒を怠らないこと,見張り指揮を適切に行い自らも厳正な見張りを行うこと,艦橋の見張り員及びCIC等との連携及び情報交換を重視して見張り指揮にあたること,及び小型船に対する配慮等が具体的に定められていた。

(2) 艦橋当直体制
 あたごは,艦長,艦長を補佐する副長以下,船体,武器の整備・操作を主任務とする砲雷科,通信,電気機器関連の整備・運用を主任務とする船務科,航海,気象に関する業務を主任務とする航海科,主機,補機,応急関係機材の整備・運用を主任務とする機関科,経理,補給,給食に関する業務を主任務とする補給科,及び衛生科の乗組員から構成されていた。
 あたごは,戦闘部署,緊急部署及び作業部署以外の通常の体制で航海を行っており,艦橋当直を2時間又は2時間30分交替の5直輪番当直体制に定め,平成20年2月19日02時から04時まで艦橋第1直としてC指定海難関係人を同当直の責任者である当直士官とし,以下当直士官の補佐等を任務とする副直士官(水雷士,運航2級資格者),当直中の記録,艦内への号令伝達等を任務とする当直海曹(砲雷科員),当直海曹の補佐等を任務とする当番(砲雷科員),連絡等を任務とする伝令(砲雷科員),操舵等を任務とする操舵員(砲雷科員),見張り,艦位測得,敬礼などの礼式,手旗及び発光信号等を任務とする信号員3人(航海科員),艦橋ウイングに左右の各見張り員(砲雷科員)及び船体後部の見張り所に後方の見張り員(砲雷科員)を,同日04時から06時30分まで艦橋第2直としてB指定海難関係人を当直士官とし,以下副直士官(砲術士,運航2級資格者),当直海曹(砲雷科員),当番(砲雷科員),伝令(砲雷科員),操舵員(砲雷科員),信号員2人(航海科員),左右の各見張り員(砲雷科員)及び後方の見張り員(砲雷科員)をそれぞれ配置していた。
 操舵員は,手動操舵あるいは自動操舵にかかわらず,当直中は常時操舵席に配置され,当直士官の指示により操舵モードを直ちに切り替えることができる体制となっていた。

(3) CIC当直体制
 CIC当直者は,艦橋当直士官の指揮下にあり,艦橋のレーダー指示機を含む艦内のレーダーのSTC(海面反射制御)等を一元的に調節し,通常航海中には,船務科に所属する電測員がレーダー見張りにあたって艦橋当直を支援することとされており,種々のレーダー指示機のうち,主としてOPA−3Fにより,対水上レーダーの映像を25海里レンジで表示させ,中・遠距離の映像捕捉に主眼を置いてレーダー見張りを行い,適宜,捕捉した映像の方位,距離,針路,速力,CPA等を測的と称して測定し,艦橋に報告していた。
 CIC当直は,直長,レーダー員4人,海図員及び要務員各1人による,電測員7人の当直者で構成され,2時間又は3時間交替の5直輪番当直体制をとっていた。 
 CICには,平成20年2月19日02時から04時までCIC第1直,同日04時から06時までCIC第2直がそれぞれ当直に就くこととされていた。ところが,直長の上司である電測員長が,直内において交替で電測員を休息させてもレーダー見張りに支障はないものと考え,D指定海難関係人の許可を得ることなく,ハワイ出港後交替で休息をとってもよい旨を各直長に伝えたことから,CIC第1直の直長は,自らの判断により同第1直を2班に分け,02時から03時までを3人で,03時から04時までを4人でそれぞれ当直に就けていた。
 03時から04時までのCIC当直者の配置は,OPA−3Fの監視,艦橋との連絡,及び作業台に各1人が就き,他の1人は,03時15分から03時45分まで,CICに隣接した部屋で,ナイトトランジットと称する自衛隊規則に関する質疑応答や船舶の運動に関する机上訓練を,艦橋の副直士官から受けていた。
 CIC当直者は,当直中に使用するレーダーレンジ,当直員の配置,監視するレーダー指示機の選択,レーダーの調節,測的報告要領などについての各基準が明文化されていなかったので,CIC当直の実施要領が統一されていないまま当直業務にあたっていた。

(4) 艦橋及びCICにおける見張り体制
 艦橋の伝令,左右見張り員及び後方見張り員並びにCICのOPA−3F担当者は,それぞれヘッドセットと称する専用通信器を装着して連絡をとることとなっており,当直士官の指示,見張り員やCIC当直者からの報告が伝令を介して当該の者に伝達されるので,ヘッドセット装着者は常時,各報告等を聴取できるようになっていた。そして,就役後の各種訓練時には,艦橋とCIC間の連携に特段の支障もなく業務が遂行されていたが,第3護衛隊が,あたごの艦橋及びCICにおける見張り体制を十分に構築していなかったので,いつしか,艦橋当直者が視認した船舶等に対する測的報告がCICから上がってこなくなったものの,艦橋においては,CIC当直者が中・遠距離の船舶等の探知に主眼を置いてレーダー見張りを行っていることを知らないまま,CICでは艦橋で視認した船舶を探知していないか,若しくは危険性がないから報告がなされないものと憶測し,このことを放置する状況となっていた。

(5) 第3護衛隊のあたご艦内の連絡・報告体制の構築
 第3護衛隊は,あたごが就役後,基礎的な事項等に関する慣熟訓練を行うほか,海上訓練指導隊の指導官が乗艦し,当直士官等による見張り指揮や見張り員の行動・報告が適切に行われているかなどについて評価・指導を行う就役訓練を行い,その後,あたごのCICが,艦橋当直を支援する際,当直士官の行船意図や付近海域の状況,使用レンジ,重点探索方向・距離等がCIC当直者に明確に伝わらず,航行海域の状況や他船舶の輻輳状況に応じたレーダー見張りが実施できない状況になったが,就役訓練時の艦橋とCIC間の連携要領に関しての査閲では優秀との評価をしていたので,この状況を把握しておらず,艦橋とCIC間に緊密な連絡・報告体制を十分に構築していなかった。

(6) 衝突に至るまでの経過
 あたごは,A,B,C及びD各指定海難関係人ほか264人が乗り組み,業務支援関係者13人を乗せ,アメリカ合衆国ハワイ州での武器体系に係る装備認定試験を終了し,艦首6.18メートル艦尾6.86メートルの喫水をもって,平成20年2月6日10時02分(現地時間)ハワイ州オアフ島のパールハーバーを発し,各科訓練等を行いながら,神奈川県横須賀港に向かった。
 A指定海難関係人は,あたごの就役後,航行指針を策定し,適切な見張りの実施を始めとする航海当直要領や当直士官の留意事項等を艦橋命令として周知していたが,これを艦内に徹底させていなかった。
越えて19日00時(日本時間,以下同じ。)ごろ,在橋中のA指定海難関係人は,05時15分ごろに東京都伊豆大島竜王埼北東方の変針点で昇橋することにし,自室に退いて仮眠した。
 02時00分ごろC指定海難関係人は,野島埼灯台の南南東方44海里付近で当直員とともに艦橋当直に就き,法定灯火を表示して,太平洋を北上するにしたがって気温が下がり,艦内で風邪にかか罹る者が出てきたことや周囲に危険な目標がないと判断したことから,艦橋の両舷ウイングに配置していた左右の見張り員を艦橋内に入れるよう,02時10分ごろ伝令に指示して続航した。
 03時30分C指定海難関係人は,野島埼灯台から180度(真方位,以下同じ。)28.0海里の地点で,針路を328度に定め,自動操舵により,10.6ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で進行した。
 03時40分C指定海難関係人は,野島埼灯台から182度26.5海里の地点で,伝令を介した右見張り員からの報告を受け,艦首右舷33度ないし43度9海里ないし12海里のところにH丸(総トン数4.8トン,FRP製漁船),I丸(総トン数7.3トン,FRP製漁船),J丸(総トン数7.3トン,FRP製漁船)及び清徳丸から成る漁船群の掲げる白灯のうち3個を初めて認め,その灯火の水面上高さなどからこれらを小型船のものと判断し,また,16海里レンジとしたOPA−6Eで測的を行ったところ,これらが十数ノットの速力で南西方に航走していたにもかかわらず,遠距離で対象物が小さくその映像が安定していなかったこと,レーダーの調節が適切でなかったこと,あるいは十分な時間をかけて継続的に測的を行わなかったことなどから,測的の結果が速力約1ノットと表示されたので,同白灯を操業中の漁船群のものと憶断し,次直へ引き継ぐ必要がないと思い,漁船群の測的を中止して千葉県洲崎沖や東京都伊豆大島付近の航行船舶の状況をOPA−6Eで確認したのち,03時45分ごろ艦橋中央部に戻り,目視による見張りを行いながら続航した。
 このとき,艦橋第1直副直士官は,CIC当直者のうちの1人に対するナイトトランジットのため,03時15分から03時45分までの間降橋しており,03時48分同訓練終了後の昇橋時に前示の漁船群の紅色舷灯を目視したものの,レピーター等で方位を確認することなく,漁船群は右に落ちている(方位が艦尾方に変化すること。)と思い,さらにC指定海難関係人が漁船群を既に認識していると思い,改めて同指定海難関係人に漁船群のことを報告せず,艦橋当直に復帰し,その後漁船群に対する動静監視を行わなかった。
 C指定海難関係人は,その後も,時折,漁船群の灯火を双眼鏡で見ていたが,方位が右方に替わっているように感じたことから自艦の航行に支障がないと思い,自らレピーター等を使用して漁船群に対する動静監視を行わず,右見張り員に漁船群に対する動静監視を行うよう指示することも,CICに漁船群の情報を提供してその測的を指示することもなく進行した。
 このころ,CICでは,CIC第1直の第2班4人のうちの3人が当直に就いていたが,付近海域に漁船が存在していることを知らず,中・遠距離のレーダー映像捕捉に主眼を置いて25海里レンジとしたOPA−3Fを常時監視したまま,8海里レンジとしたOPA−6Eを監視していなかったので,前示の漁船群を捕捉していなかった。また,CICは,03時40分ごろ艦橋の右見張り員からC指定海難関係人への漁船群の発見報告を聴取しておらず,03時から04時の間,艦橋へ新たな測的情報の報告を行わなかった。
 D指定海難関係人は,CIC当直に入直しないで,自室や士官室で訓練調整や各種資料の作成を行っており,その間,CICを適宜見回っていたが,CICにおける当直基準が明文化されていなかったこともあって,各当直者が,適宜,当直体制を変更するなどしている状況のまま,当直体制を適切に維持するよう監督していなかった。
 B指定海難関係人は,03時15分起床して身支度を整え,しばらく待機したのち,03時49分艦橋当直に就くために昇橋し,海図台上の海図で03時30分の艦位を確認し,03時50分艦首右舷前方6海里ばかりのところに清徳丸が接近する状況下,艦橋前面中央のレピーターの後方に立ってC指定海難関係人との引継ぎを始め,同人から針路及び速力等についてはこのままで問題なし,また,艦首左舷前方に漂泊船と艦首右舷前方に漁船群がいるが,いずれも方位が落ちるので危険なしとの引継ぎを受け,16海里レンジとなっていたOPA−6Eで,漂泊船が停止した状態で表示されていること,及び漁船群が目標として捕捉されていないことをそれぞれ確認した。
 03時55分C指定海難関係人は,艦橋当直の引継ぎを終えて降橋し,B指定海難関係人が,他の当直員とともに艦橋当直に就いた。
 B指定海難関係人は,昇橋したとき,艦首右舷前方に肉眼で漁船群の紅色舷灯を認め,また,漁船群は危険がない旨の引継ぎを受けたものの,念のために測的を行うこととし,03時57分野島埼灯台から187度24.2海里の地点で,16海里レンジのままのOPA−6Eで艦首右舷31度3.5海里のところにI丸,同38度4.8海里のところにH丸,同40.5度3.3海里のところに清徳丸,及び同49度6.0海里のところにJ丸の映像を捕捉したが,この漁船群は依然,十数ノットの速力で南西方に航走していたものの,対象物が小さくその映像が安定していなかったこと,レーダーの調節やレーダーレンジが適切でなかったこと,あるいは十分な時間をかけて継続的に測的を行わなかったことなどから,清徳丸とJ丸の映像の測的結果がおおむね停止と表示されたので,両船に対する動静監視を十分に行わず,H丸とI丸の測的結果が針路は南西方と表示されたので,主として艦首方に近いI丸に注意を払いながら,OPA−6Eを8海里レンジに切り替えて続航した。
 このとき,B指定海難関係人は,漁船群の存在に危険を感じなかったことから,漁船群に対する動静監視を,前直から引き続き艦橋内右舷側に入れていた右見張り員や信号員に指示することも,この状況をCICに連絡して漁船群の測的を指示することもしなかった。
 右見張り員は,前直の見張り員から漁船群については当直士官に報告済みである旨の引継ぎを受けていたので,改めてそのことをB指定海難関係人に報告せず,艦首方の見張りにあたり,その後艦首右舷前方の漁船群の監視は行わず,また,艦橋左舷側前部で見張りにあたっていた信号員は,漁船群の存在を認識していたが,艦首に一番接近していたI丸に注意を払って見張りを行い,他の3隻に対する動静監視を十分に行っていなかった。
 このころ,艦橋第2直副直士官は,艦橋第1直副直士官から漁船群は方位が落ちているとの引継ぎを受け,03時59分に引継ぎを終え,その後艦橋後部の海図台に赴き,艦位記録表の記入作業を行い,漁船群に対する動静監視を行っていなかった。
 04時00分B指定海難関係人は,野島埼灯台から187.5度23.8海里の地点に達したとき,清徳丸が艦首右舷40.5度2.2海里のところに存在し,同船のマスト灯及び紅色舷灯を視認でき,その後同船に明確な方位変化がなく,同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが,依然,I丸やH丸の動向に気を奪われ,清徳丸に対する動静監視を十分に行わなかったので,この状況に気付かず,右転するなどして同船の進路を避けることなく進行した。
 艦橋左舷側前部にいた信号員は,艦首右舷前方に4個の紅色舷灯を認めていたが,レピーター等で方位を確認することなく,I丸以外の漁船は右方に替わると思い,I丸の動静を目視により監視した結果,04時03分B指定海難関係人に「漁船増速,方位上がる(方位が艦首方に変化すること。)。」と報告し,04時03分半ごろ艦首右舷前方にH丸,J丸及び清徳丸の紅色舷灯を認めていた。
 また,同報告を受けたB指定海難関係人は,艦首方のI丸の動静をレピーターとOPA−6Eにより把握し,同船との衝突のおそれがないことを確認した。
 このころ,CICでは,CIC第2直の7人が当直に就いていたが,依然,付近海域に漁船が存在していることを知らず,25海里レンジとしたOPA−3F及び8海里レンジとしたOPA−6E等でレーダー見張りを行っていたところ,OPA−6Eに就いた当直員は,艦首右舷前方に数個のレーダー映像が映っていたのでこれらの測的を開始し,04時03分ごろI丸らしき映像の測的を行って,艦橋へ同船が艦首を左に替わる旨を報告したが,OPA−3Fに就いた当直員のいずれもが清徳丸の映像に注意を払わなかった。
 04時04分B指定海難関係人は,艦首右舷前方1.1海里付近に清徳丸の紅色舷灯を認めたので,04時05分ごろレピーターにより同舷灯の方位を確認し,04時05分半ごろOPA−6Eにより同船を確認しようとしたものの,既に清徳丸は0.5海里ばかりに接近し,OPA−6Eの画面の中心から約1海里の範囲に現れていた海面反射内に入っていたために同船のレーダー映像を識別できず,なおもOPA−6Eによる同映像の確認作業を行っていたところ,04時06分艦橋左舷側前部にいた信号員から「漁船増速,面舵とった。」との報告があり,この報告を艦首方の漁船のことと思い,レピーターのところに戻った。
 B指定海難関係人は,04時06分わずか過ぎ信号員が「漁船近いなぁ,近い,近い,近い。」と声を発し,右舷ウイングに向かったので,視線を右方に移したとき,清徳丸の紅色舷灯を右舷側近距離に視認し,04時06分少し過ぎ「機関停止,自動操舵やめ。」と令し,続いて月明かりにより同船の船影が見えたので,汽笛吹鳴スイッチを押して短音等を6回吹鳴し,ほぼ同時に後進一杯を令したが及ばず,04時07分少し前野島埼灯台から190度22.9海里の地点において,あたごは,ほぼ原速力のまま,326度を向いたその艦首が清徳丸の左舷ほぼ中央部に後方から47度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の北東風が吹き,波浪階級2,視程は良好で,月没時刻は05時07分,月齢は11.5,日出時刻は06時23分であった。
 A指定海難関係人は,自室で汽笛の吹鳴を聞き,続いて「漁船と衝突した。」旨の艦内放送を聴いて衝突したことを知り,事後の措置にあたった。

 また,清徳丸は,船長F,甲板員Gの親子2人が乗り組み,まぐろはえ縄漁の目的で,船首約0.5メートル船尾約1.4メートルの喫水をもって,平成19年2月19日00時55分法定灯火を表示して千葉県勝浦東部漁港川津地区を発し,東京都三宅島北方の海域に向かった。
 03時00分清徳丸は,野島埼灯台から147度10.8海里の地点において,右舷後方に僚船のH丸,J丸,右舷前方にI丸がそれぞれ同航する態勢で,針路を215度に定め,15.1ノットの速力で進行した。
 03時40分清徳丸は野島埼灯台から180度17.3海里,H丸は同灯台から180度15.5海里,I丸は同灯台から183度17.3海里,及びJ丸は同灯台から175度14.9海里のところにそれぞれ達し,03時57分には清徳丸は同灯台から187度20.9海里,H丸は同灯台から187度19.3海里,I丸は同灯台から188度20.7海里,及びJ丸は同灯台から183.5度18.3海里の各地点からそれぞれ南西に向かって進行した。
 04時00分清徳丸は,野島埼灯台から187.5度21.5海里の地点において,船首左舷27.5度2.2海里のところに,あたごのマスト灯及び緑色舷灯が視認でき,その後同艦に明確な方位変化がなく,同艦が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが,警告信号を行うことも,行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航中,04時06分前あたごの右舷側近距離のところで,大きく右転して279度に向首したのち,前示のとおり衝突した。

(7) 捜索救助及び損傷状況
 衝突後,あたごでは,04時07分海難対処部署を発動し,人命救助のため,搭載艇を降下したのち,艦上から探照灯等を使用して清徳丸周辺の海域を捜索し,救助活動にあたるとともに,04時23分国際VHF無線電話により海上保安庁第三管区海上保安本部警備救難部救難課運用司令センターに,その後部内通信系により護衛艦隊司令部当直幕僚及び横須賀地方総監部に事故通報をそれぞれ行った。05時ごろには海上保安庁の遭難通信を傍受した付近航行中の自衛艦2隻が到着して捜索救助活動に加わり,05時40分ごろ海上保安庁のヘリコプターが到着して特殊救難隊員が降下し,清徳丸船内の捜索を行い,その後他の艦艇,船艇や航空機も到着して捜索救助活動にあたった。
 あたごは,13時11分自衛艦隊司令部からの指示により捜索救助活動を取りやめ,現場を離脱して横須賀港に向かった。
 2月19日から3月2日までの間,海上保安庁の延べ52隻の巡視船艇,41機の航空機及び特殊救難隊員36人,2月19日から3月19日までの間,海上自衛隊の延べ90隻の艦艇,190機の航空機,2月19日,同20日,同22日の3日間,清徳丸僚船の延べ216隻,その他水産庁や千葉県の漁業取締船等がそれぞれ捜索にあたり,また,独立行政法人海洋研究開発機構が保有する海洋調査船による海底探査が実施された。
 衝突の結果,あたごは,艦首部に擦過傷を生じ,清徳丸は,操舵室を喪失して船体が二つに分断され,陸揚げされたが,F船長,G甲板員は行方不明となり,のちいずれも死亡と認定された。

(8) 本件後の再発防止措置
 本件後,あたごは,適切にレーダーを使用し,航行中のレーダー探知目標情報等を艦橋とCIC間で共有すること,また,CICの航行補佐機能の活用などを図るため,「艦橋及びCICのレーダー指示機OPA−6Eの運用要領について」,「レーダー指示機OPA−6EのARPAの使用標準について」,及び「CICの航行補佐標準について」と題する艦橋命令を策定し,海事法規に関する教育,海上交通の安全確保に関する法令の遵守・徹底,航行指針に基づく見張りや当直体制の再教育,安全航行に関する運航態勢の再確認と教育等の事故再発防止対策を導入した。
 防衛省は,平成20年2月19日海上幕僚副長を委員長とする艦船事故調査委員会を設置して海上自衛隊における本件の事故調査を開始し,同年8月に至るまでに,運航安全総点検,艦橋内(CIC)チームワーク態勢の審査要領等の見直し,及び艦全体として見張りが適切に行われていなかったことに対する対策等の護衛艦「あたご」艦船事故に関する当面の再発防止策に加え,ブリッジ・リソース・マネジメント(BRM)講習,艦橋内(CIC)チームワーク審査,及び艦長に対する指揮統率上の留意事項の徹底等の護衛艦「あたご」衝突事故再発防止策を取り纏(まと)めた。

 (航法の適用)
 本件は,夜間,千葉県野島埼南方沖合の海域において,北上中のあたごと,西行中の清徳丸とが衝突したもので,当該海域には特別法の規定がないから,一般法である海上衝突予防法が適用されることとなる。
 1972年の海上における衝突の予防のための国際規則(国際海上衝突予防規則)に準拠した海上衝突予防法は日本国籍船舶であれば,公海,領海を問わずいかなる海域にあっても適用され,また,あたごは,海上自衛隊に所属する護衛艦であるが,同法第2条の適用船舶,同法第3条第1項の船舶の定義から明らかなように,護衛艦であってもその適用があり,あたご及び清徳丸の両船には,同法に規定する動力船としての航法が適用される。
 本件は,両船が互いに他の船舶の視野の内にあり,衝突の約7分前船間距離が2.2海里となって以降,両船のコンパス方位に明確な変化が認められず,互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近していたから,海上衝突予防法第15条の規定を適用するのが相当である。
 なお,あたご,清徳丸の両船のほかに清徳丸の僚船3隻が同航していたが,あたご,清徳丸の両船が海上衝突予防法第15条の規定に則り,互いに衝突を回避するために必要な措置をとっても,他の3隻と新たに衝突のおそれがある見合い関係を生じさせることはなく,他に同法同条の適用を排除する理由がないから,両船は,同二船間の航法を遵守して衝突を回避しなければならなかった。

 (本件発生に至る事由)
1 あたご
(1) A指定海難関係人が,航行指針を策定し,適切な見張りの実施を始めとする航海当直要領や当直士官の留意事項等を艦橋命令として周知していたが,これを艦内に徹底させていなかったこと
(2) D指定海難関係人が,CICにおける当直体制を適切に維持するよう監督していなかったこと
(3) C,B両指定海難関係人が,艦橋の両舷ウイングに配置していた左右の見張り員を艦橋内に入れていたこと
(4) C,B両指定海難関係人が,自動操舵により航行していたこと
(5) C指定海難関係人が,漁船群に対する動静監視を行わなかったこと
(6) 艦橋第1直副直士官が,漁船群に対する動静監視を行わなかったこと
(7) C指定海難関係人が,艦橋当直引継ぎ時,B指定海難関係人に対し,漁船群は危険がない旨の引継ぎを行ったこと
(8) B指定海難関係人が,清徳丸に対する動静監視を十分に行わなかったこと
(9) 右見張り員が,前直者から漁船群については報告済みである旨の引継ぎを受けていたので,改めて報告せず,艦首方の見張りにあたり,艦首右舷前方の漁船群の監視を行わなかったこと
(10) 艦橋第2直副直士官が,漁船群に対する動静監視を行わなかったこと
(11) B指定海難関係人が,右転するなどして清徳丸の進路を避けなかったこと

2 第3護衛隊
 第3護衛隊が,あたごの艦橋とCIC間に緊密な連絡・報告体制並びに艦橋及びCICにおける見張り体制を十分に構築していなかったこと

3 清徳丸
(1) 警告信号を行わなかったこと
(2) 衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

 (原因の考察)
 本件は,あたごが,野島埼南方沖合を北上中,漁船群の灯火を認めた際,その動静監視を十分に行っていれば,清徳丸が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近することが分かり,同船の進路を避けることにより,発生を回避できたものと認められる。
 C指定海難関係人は,03時40分艦首右舷前方9海里ないし12海里付近のところに清徳丸を含む漁船群の白灯を認め,漁船群が南西方に向けて航走中であったにもかかわらず,漁船群を操業中の漁船と憶断し,その後漁船群に対する動静監視を行わず,03時50分艦橋当直の引継ぎを始め,B指定海難関係人に対し,同漁船群は衝突の危険がない旨の引継ぎを行い,03時55分同当直を交替したものである。
 ところで,B指定海難関係人は,艦橋当直引継ぎ時,C指定海難関係人から前示のとおり漁船群についての予断を与えられたとしても,昇橋時,艦首右舷前方に漁船群の紅色舷灯を視認するとともに,03時57分距離3.3海里ないし6.0海里のところにレーダーで漁船群の映像を確認したのであるから,当直士官としては,この映像情報の重要性を理解したうえ,自艦の周辺で何が起こっており,次に何が起こるか予測するのが基本で,清徳丸を含む漁船群に対して十分な注意を払うことが要求される状況にあったものと認められる。
 そして,この状況認識に基づいてB指定海難関係人が,清徳丸に対する動静監視を十分に行っていれば,明確な方位変化がなく,前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する同船に気付くことができ,通常要求される避航動作をとる時間的,距離的余裕があったものと認められる。
 したがって,B指定海難関係人が,清徳丸に対する動静監視を十分に行わず,右転するなどして同船の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人が,漁船群に対する動静監視を行わなかったこと,艦橋当直引継ぎ時,B指定海難関係人に対し,漁船群は危険がない旨の引継ぎを行ったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,艦橋当直を引き継いだB指定海難関係人が,漁船群に対する動静監視を十分に行っていれば,清徳丸が衝突のおそれのある態勢で接近することに気付くことができたと認められることから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
 しかしながら,衝突に至るまでの経過で述べたとおり,03時50分清徳丸は,あたごの艦首右舷前方6海里ばかりのところまでマスト灯及び紅色舷灯を見せて接近していたと認められることから,C指定海難関係人が,艦橋当直引継ぎに際し,漁船群の動向を再度確認すれば,その接近に気付くことができ,漁船群の動静について正確な引継ぎを行うことにより,B指定海難関係人のその後の操艦に,余裕を持たせることができたと認められるので,C指定海難関係人は,今後,より厳格な艦橋当直の引継ぎを励行しなければならない。
 また,あたごでは,通常航海中,CIC当直者である電測員がレーダー見張りを行って艦橋当直を支援することとされていたが,当直士官の行船意図や付近海域の状況,使用レンジ,重点探索方向・距離等がCIC当直者に明確に伝わっていない状況にあった。当時,艦橋で艦首右舷前方に漁船群を認めた際,CICに漁船群の状況を連絡していれば,CICでは付近海面に注意を払ってレーダー監視を行い,漁船群の正確な動向を把握して艦橋に報告し,B指定海難関係人が動静監視不十分となることを防ぎ,もって本件発生を防止できたものと認められる。
 03時40分ごろ艦橋第1直副直士官が,机上訓練のため在橋せず,漁船群に対する動静監視を行わなかったこと,艦橋第2直副直士官が,当直を引き継いだとき漁船群の方位変化を確認せず,引継ぎ直後から海図台で艦位記録表の記入作業を行い,漁船群に対する動静監視を行わなかったことは,両人が当直士官を補佐する副直士官として艦橋に配置されているにもかかわらず,重大な局面で当直士官の補佐ができない結果を招くこととなった。これらは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,当直士官が避航船としての措置を十分余裕ある時機にとることによって衝突の発生を回避できたことから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
 しかしながら,艦橋当直中,当直士官が責任者として的確な判断をしなければならないのは当然であるものの,人がミスやエラーに陥ることは避けられない事実で,そのような場合であっても,副直士官が当直士官に準じる操艦の責任者としての意識を持って行動し,事実や判断に対するダブルチェックが行われる体制になっていれば,たとえ当直士官が事実を誤認するなどの事態に陥ったとしても,この事態を副直士官がカバーして危険な状況となるのを回避できることから,副直士官のあり方を見直さなければならない。
 右見張り員が,前直者から漁船群については報告済みである旨の引継ぎを受けていたので,改めて報告せず,艦首方の見張りにあたり,艦首右舷前方の漁船群の監視を行わなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,あたごでは見張り員に他船等の存在の有無の報告のみを求めており,当直士官が,漁船群に対する動静監視を右見張り員に指示していなかったことから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
 しかしながら,見張り員に対しては,担当範囲の見張りを厳格にし,報告済みの見張り対象船舶等の動向に変化があった際には,改めて報告するよう教育・指導を徹底させなければならない。
 A指定海難関係人が,航行指針を策定し,適切な見張りの実施を始めとする航海当直要領や当直士官の留意事項等を艦橋命令として周知していたものの,これを艦内に徹底させていなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,当直士官が避航船としての措置を十分余裕ある時機にとることによって衝突の発生を回避できたことから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
 しかしながら,A指定海難関係人は,今後,艦橋命令の航海当直要領や当直士官の留意事項等を艦内に徹底させ,海難の発生を防止しなければならない。
 D指定海難関係人が,CICにおける当直体制を適切に維持するよう監督していなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,艦橋当直者が避航船としての措置を十分余裕ある時機にとることによって衝突の発生を回避できたことから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
 しかしながら,D指定海難関係人は,今後,CIC当直体制を適切に維持するよう十分に監督しなければならない。
 以上のことは,第3護衛隊が,あたごの乗組員の教育訓練にあたり,艦橋とCIC間に緊密な連絡・報告体制並びに艦橋及びCICにおける見張り体制を十分に構築していなかったことを示すものであり,本件発生の原因となる。
 C,B両指定海難関係人が,自動操舵により航行していたこと,及び艦橋の両舷ウイングに配置していた左右の見張り員を艦橋内に入れていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,当直士官が,必要を認めた時点で手動操舵に直ちに切り替えることができる体制にあったこと,及び同見張り員を艦橋内に入れていても見張り業務に支障がなかったことから,いずれも本件発生の原因とはならない。
 こうしてみると,本件は,艦橋当直の基本が励行されておらず,見張りにかかわる各部署間の連絡・報告体制が十分に構築されていなかったことが,漁船群に対する動静監視が不十分となったことの背景として認められる。各人・各科は,当直士官等の運航の安全に関する留意事項を定めた航行指針を遵守し,また,たとえ一人がミスやエラーを犯したとしても,これらが拡大することなく局限されるよう,自らの役割を認識して最大限に果たし,相互にチェック・カバーしあう意識を持って業務にあたらなければならない。
 以上のように,あたごの艦橋とCIC間に緊密な連絡・報告体制並びに艦橋及びCICにおける見張り体制に複合的な背景要因があって本件が発生したものであり,これを総合的に改善する施策を整備して実効ある取り組みを行わなければ事故再発防止は図れない。したがって,個人の指定海難関係人には勧告しないが,第3護衛隊組織全体に対して勧告するのが相当である。
 一方,清徳丸が,警告信号を行わなかったこと,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。

 (主張に対する判断)
 補佐人は,A指定海難関係人が作成した「漁船『清徳丸』の航跡に関する検討」と題する文書中における清徳丸の航跡図を基に,清徳丸の右転がなければ,同船があたごの艦尾方約820メートルのところを通過していた旨を主張するので,以下検討する。
 同航跡図は,I丸及びH丸両船乗組員に対する質問調書中のレーダー映像図及びGPS位置情報解析結果報告書を基に,清徳丸のI丸からの正横距離を推定し,04時00分の清徳丸の船位をI丸の同時刻における船位の左舷正横1.0海里の地点とし,同地点から清徳丸が215度の針路,15.0ノットの速力で航走したことを現しているが,同文書中,「方位については,方位マーカーが表示されていないことから,船首及び正横を除き,やや精度は劣るものと考えられる。」との記載があり,また,A指定海難関係人は当廷での同航跡図作成の説明の際,「方位マーカーは表示されていないが,映像の船首船尾正横方向の精度については比較的良好と考える。」旨を供述しているにもかかわらず,同調書中の04時00分のI丸のレーダー映像図には左舷正横1.0海里付近に清徳丸とされる他船の映像が記載されていないことから合理性に欠ける。
 以上のことから,補佐人の主張を認めることはできない。
 したがって,清徳丸の右転は,近距離に接近してしまったあたごに対する咄嗟(とっさ)の衝突回避動作と解するのが相当である。

 (海難の原因)
 本件衝突は,夜間,千葉県野島埼南方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中,北上するあたごが,動静監視不十分で,前路を左方に横切る清徳丸の進路を避けなかったことによって発生したが,西行する清徳丸が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 第3護衛隊が,あたごの艦橋とCIC間の連絡・報告体制並びに艦橋及びCICにおける見張り体制を十分に構築していなかったことは,本件発生の原因となる。

 (指定海難関係人の所為)
 B指定海難関係人が,夜間,艦橋当直に就いて千葉県野島埼南方沖合を北上する際,前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する清徳丸に対し,動静監視を十分に行わず,同船の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対して勧告しないが,艦橋当直に就いた際,他船に対し,自ら又は見張り員やCICを活用してその動静を十分に監視しなければならない。
 指定海難関係人第3護衛隊が,あたごの乗組員の教育訓練にあたり,艦橋とCIC間の連絡・報告体制並びに艦橋及びCICにおける見張り体制を十分に構築していなかったことは,本件発生の原因となる。
 第3護衛隊に対しては,旧法第4条第3項の規定により勧告する。
 A指定海難関係人の所為は,本件発生の原因とならない。
 C指定海難関係人の所為は,本件発生の原因とならない。
 D指定海難関係人の所為は,本件発生の原因とならない。
 
 よって主文のとおり裁決する。



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