平成29年函審第4号
             裁    決
      漁船第八幸栄丸漁船第五十三萬漁丸衝突事件

  言 渡 年 月 日 平成29年7月4日
  審  判  所 函館地方海難審判所(榎木園正一)
  理  事  官 浅野活人
  受  審  人 A
     職  名 第八幸栄丸船長
     操縦免許 小型船舶操縦士
  受  審  人 B
     職  名 第五十三萬漁丸船長
     操縦免許 小型船舶操縦士

            主    文

 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

            理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成28年7月11日03時30分
 北海道久遠漁港南西方沖合

2 船舶の要目
  船 種 船 名  漁船第八幸栄丸     漁船第五十三萬漁丸
  総 ト ン 数  7.9トン       4.7トン
    登 録 長  13.51メートル   11.88メートル
    機関の種類  ディーゼル機関     ディーゼル機関 
    出   力  433キロワット    250キロワット

3 事実の経過
 第八幸栄丸(以下「幸栄丸」という。)は,船体ほぼ中央に操舵室,同室後方に機関室を挟んで船員室をそれぞれ設け,操舵室前部中央に舵輪,左舷側にレーダー,右舷側に魚群探知機及びソナー,左舷側壁にGPSプロッターをそれぞれ備えたいか釣り漁業に従事するFRP製漁船で,A受審人ほか1人が乗り組み,操業の目的で,船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成28年7月10日12時00分久遠漁港を発し,北海道奥尻島南方沖合の漁場で操業した後,翌11日02時00分同漁場を発進し,帰途に就いた。
 A受審人は,航行中の動力船の灯火を表示したほか前後部の各甲板を照らす作業灯を点灯し,02時21分半少し過ぎポンモシリ岬灯台から240.5度(真方位,以下同じ。)16.1海里の地点で,針路を久遠漁港西方の小歌岬に向く034度に定め,10.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,自動操舵により進行した。
 A受審人は,レーダーを3海里レンジで作動させ,乗組員を船員室で休息させて操船に当たり,03時00分ポンモシリ岬灯台から255.5度10.7海里の地点に至ったとき,空腹を覚え,周囲を見渡すとともにレーダーを見て船舶を認めなかったことから,船員室で食事をとることとし,操舵室を離れることにしたが,短時間なら航行の支障となる他船はいないものと思い,休息中の乗組員を同室に呼んで見張りを行わせることなく,操舵室を離れて無人の状態とし,船員室に向かった。
 A受審人は,食事をとった後も船員室で乗組員と雑談しながら続航し,03時25分ポンモシリ岬灯台から275.5度8.1海里の地点に達したとき,正船首1,540メートルのところに第五十三萬漁丸(以下「萬漁丸」という。)の紅,白,紅3灯のほか集魚灯の明かりを視認することができ,その後同船が移動しないことから,漂泊中であることが分かり,萬漁丸に向首して衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況であったものの,操舵室を無人の状態としてこのことに気付かず,同船を避けずに進行中,03時30分ポンモシリ岬灯台から281度7.7海里の地点において,幸栄丸は,原針路及び原速力で,その船首が萬漁丸の左舷船尾部に後方から79度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴れで風力3の北西風が吹き,視界は良好で,潮候は上げ潮の初期であった。
 
 また,萬漁丸は,船体中央やや後方に操舵室を設け,同室前部中央にマグネットコンパス及び舵輪,右舷側にGPSプロッター及びレーダー,同室右舷後部に機関遠隔操縦装置,左舷後部に魚群探知機をそれぞれ備えたいか釣り漁業に従事するFRP製漁船で,B受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.6メートル船尾1.7メートルの喫水をもって,同月10日15時00分久遠漁港を発し,同漁港南西方沖合の漁場に向かった。
 B受審人は,15時30分前示漁場に着いて操業を始め,翌11日02時30分前示衝突地点付近に移動し,機関を中立運転として船首から直径長さともに約10メートルのパラシュート型シーアンカー(以下「シーアンカー」という。)を投入し,直径約12ミリメートル長さ約100メートルの合成繊維製引き索を約80メートル繰り出して船首のたつにつなぎ止め,船首を北西に向けて漂泊を開始した。
 B受審人は,主機駆動の軸発電機で発電して両舷灯及び船尾灯を表示したほか垂直に連掲した紅,白の各全周灯及び集魚灯を点灯し,シーアンカーを投入して移動することが困難な状況下,操業を行い,03時25分衝突地点で,船首が315度に向き,操舵室前方の甲板で船首方を向いて前かがみになり,漁獲したいかの箱詰めを行っていたとき,左舷船尾79度1,540メートルのところに幸栄丸の白,紅,緑3灯のほか作業灯の明かりを視認することができ,その後同船が自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況であったが,集魚灯を点灯して漂泊している自船を航行中の他船が避けるものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,避航の気配がないまま接近する幸栄丸に対して警告信号を行うことなく漂泊を続け,萬漁丸は,船首が315度に向いたまま,前示のとおり衝突した。
 
 衝突の結果,幸栄丸は,球状船首及び船首外板に修理を要しない擦過傷を生じ,萬漁丸は,左舷船尾部外板及び同甲板等に破口,亀裂等を生じたものの,後に修理され,B受審人が約2週間の入院治療を要する全身打撲及び頸椎捻挫等を負った。

 (航法の適用)
 本件衝突は,夜間,久遠漁港南西方沖合において,航行中の幸栄丸とシーアンカーを投入していか釣り漁業を行いながら漂泊中の萬漁丸とが衝突したものであり,本件発生海域は,港則法及び海上交通安全法の非適用海域であるから,海上衝突予防法(以下「予防法」という。)が適用される。
 萬漁丸は,いか釣り漁業を行っていたものの,船舶の操縦性能を制限する網,縄,その他の漁具を用いて漁ろうに従事していたものとは認められないから,予防法第18条の適用はない。
 予防法には,航行中の船舶と漂泊中の船舶との関係についての規定がないから,同法第38条及び第39条の規定を適用して船員の常務により律することになる。
  
 (原因及び受審人の行為)
 本件衝突は,夜間,久遠漁港南西方沖合において,航行中の幸栄丸が,操舵室を無人の状態とし,前路で漂泊中の萬漁丸を避けなかったことによって発生したが,萬漁丸が,周囲の見張りが不十分で,警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 A受審人は,夜間,久遠漁港南西方沖合において,同漁港に向けて航行中,空腹を覚え,周囲を見渡すとともにレーダーを見て船舶を認めなかったことから,船員室で食事をとることとし,操舵室を離れる場合,同室を無人の状態とすることのないよう,休息中の乗組員を操舵室に呼んで見張りを行わせるべき注意義務があった。ところが,同人は,短時間なら航行の支障となる他船はいないものと思い,休息中の乗組員を操舵室に呼んで見張りを行わせなかった職務上の過失により,同室を無人の状態とし,前路で漂泊中の萬漁丸に衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず,同船を避けずに進行して衝突を招き,幸栄丸及び萬漁丸両船に損傷を生じさせ,B受審人を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 B受審人は,夜間,久遠漁港南西方沖合において,操業のため漂泊する場合,接近する他船を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,集魚灯を点灯して漂泊している自船を航行中の他船が避けるものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,避航の気配がないまま衝突のおそれがある態勢で接近する幸栄丸に気付かず,同船に対して警告信号を行うことなく漂泊を続けて衝突を招き,前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 
 よって主文のとおり裁決する。

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