平成21年海審第1号
             裁    決
     漁船第二十二事代丸水産練習船わかしまね衝突事件

  言 渡 年 月 日 平成23年3月2日
  審  判  所 海難審判所(藤江哲三,供田仁男,加藤昌平)
  理  事  官 横須賀勇一
  受  審  人 A
     職  名 第二十二事代丸船長
     海技免許 四級海技士(航海)(旧就業範囲)
  受  審  人 B
     職  名 わかしまね船長
     海技免許 三級海技士(航海)
  補  佐  人 a

             主    文

 受審人Bの三級海技士(航海)の業務を2箇月停止する。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

             理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成20年10月8日18時57分半
 境港

2 船舶の要目
  船 種 船 名  漁船第二十二事代丸    水産練習船わかしまね
  総 ト ン 数  222トン        196トン
    全   長  47.32メートル     41.00メートル
    機関の種類  ディーゼル機関      ディーゼル機関
    出   力  860キロワット     956キロワット

3 事実の経過
(1) 第二十二事代丸
 第二十二事代丸(以下「事代丸」という。)は,まき網漁業船団付属の船首尾楼付き一層甲板型鋼製運搬船で,船尾楼甲板に二層の船橋構造物が設けられてその上層が,船首端から約33メートルのところに前端が位置する操舵室となっていた。
 操舵室には,窓枠によって5分割された前面窓を設けて両舷端からそれぞれ2枚目の窓に旋回窓が取り付けられ,室内前部中央にジャイロコンパスを備えた操舵スタンドがあってその右舷側に順にバウスラスター操作盤,魚群探知機が,左舷側に順に機関操縦盤,油圧ポンプ操作盤が,操舵位置の後方にある椅子の右舷側にエコートレイル機能の付いたレーダーがそれぞれ配置され,前面窓の上方にはGPS受信機が備え付けられていた。
 海上試運転成績表によれば,全速力前進時の速力が12.84ノット,舵中央から舵角35度をとるための所要時間が9秒,舵角35度をとったときの左右旋回径がいずれも60メートルで,機関を全速力後進に発令してから船体が停止するまでの所要時間が25秒となっていた。

(2) わかしまね
 わかしまねは,可変ピッチプロペラ(以下「CPP」という。)を備えた船首楼,船橋楼付き全通一層甲板型鋼製水産練習船で,水産高等学校の漁業及び航海各実習に従事していた。
 わかしまねは,船橋楼甲板の上方にある航海船橋甲板に,船首端から約16メートルのところに前端が位置する船橋が設けられてその前部が操舵室,後部が無線室となっており,操舵室には,窓枠によって7分割された前面窓があって両舷端からそれぞれ2枚目の窓に旋回窓が取り付けられ,前壁から1.5メートル後方の室内中央にジャイロコンパスを備えた操舵スタンド,その右舷側に順にCPP変節制御盤,主機回転数制御盤,バウスラスター操作盤が,左舷側に順に1号レーダー,GPSプロッター及び2号レーダーが備えられていた。
 海上公試運転成績表(船体)によれば,主機回転数毎分850(以下,主機回転数については毎分のものを示す。)CPP翼角19.8度の全速力前進時の速力が13.58ノット,舵中央から舵角35度をとるための所要時間が8秒,舵角35度をとったときの左右定常旋回直径が80メートル及び95メートルで,機関を全速力後進に発令してから船体が停止するまでの所要時間及び距離がそれぞれ53.2秒及び363.2メートルとなっていた。

(3) 境港
 境港は,山陰地方のほぼ中央部にある美保湾の北西部にあって,境水道を挟んで鳥取,島根両県にまたがる港則法上の特定港で,境水道東口までの美保湾に面した港域が第2区,同水道の東口から西口までの港域が第1区となっており,第1区の南側中央部に鳥取県境漁港が位置し,同水道東口の東方約0.5海里のところから同漁港付近まで長さ約1.7海里幅約160メートルの航路が設けられていた。
 境水道東口は,南側に境港防波堤が航路とほぼ平行に設けられてその東端に境港防波堤灯台(以下,航路標識の名称については「境港」を省略する。)が設置され,同防波堤により北側陸岸までの可航幅が約300メートルに狭められて港の防波堤の入口となっており,海上保安庁刊行の本州北西岸水路誌によれば,付近は可航水域が狭く,出入港する船舶が集中するので,衝突事故に対して特に注意を要する旨が記載されていた。

(4) 本件発生に至る経緯
 事代丸は,平成20年10月5日A受審人,機関長及び甲板員3人が乗り組み,船舶職員及び小型船舶操縦者法第18条の乗組み基準に定められた船舶職員(以下「法定職員」という。)である,いずれも六級海技士以上の資格を有する一等航海士及び一等機関士を乗り組ませないまま,操業の目的で,18時20分船団と共に島根県西郷港を発して同県地蔵埼北方沖合約25海里の漁場に向かい,翌朝境港に入港して境漁港に着岸し,漁獲物の水揚げを行った。そして,その後,船団の操業予定時間帯に合わせて境港を18時ころ出港して操業海域に向かい,翌朝漁獲物を積んで入港,水揚げする形態の運航を繰り返した。
 事代丸では,同年5月飲酒の影響と思われる乗揚事故が発生したことから,A受審人は,6月と8月に船舶所有者から飲酒の制限に関する指示を受けたにもかかわらず,その後も,出港前の15時ころに昼食を兼ねた夕食を乗組員と共に摂る際,350ミリリットル入りの缶ビール1缶と25度の焼酎175ミリリットルを水割りにして1杯程度飲酒し,出港時刻まで休息するようにしていたものの,体内のアルコールが分解されないまま,酒気帯びの状態で出港を繰り返していた。
 10月8日A受審人は,操業を終え漁獲物を積載して06時35分漁場を発進し,08時30分境漁港に着岸して水揚げ作業を行っていたとき,機関長から,夕食時に焼き肉をして日頃の疲れをとろうとの提案があり,これを受け入れて焼き肉をすることにした。
 A受審人は,12時ころ水揚げを終え,境港内にある製氷所の岸壁に移動して砕氷約80トンを積載し,再び境漁港に着岸して漁具の補修作業を行い,船団の操業予定時間帯に合わせて18時に出港する旨を乗組員に告げたのち,15時ころから入浴を済ませた乗組員に順次,乗組員食堂で焼き肉を始めさせた。
 15時30分ころA受審人は,入浴を済ませて乗組員と共に夕食を摂ることにし,焼き肉をしながら平素のように飲酒すると,出港予定時刻を遅らせることができないことから,体内のアルコールが分解されないまま出港することとなり,アルコールの影響で注意力,判断力が低下することは分かっていたが,平素,酒気帯びの状態で出港していたことから,その状態で操船することの危険性を十分に認識しないで,飲酒を控えないまま,焼き肉をしながら飲酒を始めた。
 やがて,A受審人は,先週からの大漁続きで気持ちが高揚していたこともあって,乗組員と会話を交わしながら350ミリリットル入りの缶ビール1缶と25度の焼酎175ミリリットルをお茶割りで2杯程度飲酒し,18時30分ころになって,ようやく出港予定時刻を過ぎたことに気付き,急ぎ離岸準備を始めた。
 18時40分A受審人は,呼気1リットル中のアルコール濃度(以下「呼気アルコール濃度」という。)が約0.5ミリグラムで,アルコールの影響により注意力,判断力が低下した酒気帯びの状態で,甲板員2人を船首配置に,機関長と甲板員1人を船尾配置にそれぞれ就けてレーダーを作動させ,法定灯火を表示して境港を発し,その後,単独で操舵操船に当たって沖合の漁場に向かった。
 A受審人は,離岸して間もなく,航路に沿うよう右転を始めたとき,境水道東口付近を一見したところ,他船が見当たらなかったので,前路には他船はいないと思って,徐々に増速しながら境水道第4号灯浮標をほぼ正船首方に見る態勢とし,離岸作業を終えた乗組員を休息させて航路を東行した。
 18時54分わずか過ぎA受審人は,防波堤灯台から268度(真方位,以下同じ。)1,270メートルの地点に達したとき,境水道第2号灯浮標に向首するよう,針路を076度に定め,12.0ノット(対地速力,以下同じ。)の速力で,操舵スタンドの後方に立って手動操舵により航路のほぼ中央部を進行した。
 18時55分少し前A受審人は,防波堤灯台から270.5度1,025メートルの地点に達したとき,航路のほぼ中央部に当たる右舷船首8度1,920メートルのところに,航路を入航するわかしまねのマスト灯と左舷灯を視認することができ,防波堤の入口付近で同船と出会うおそれのあることが分かる状況であったが,前路には航行の支障となる他船はいないものと思い,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,船首目標である境水道第2号灯浮標の灯火と陸上の明かりに照らされた右舷側の建物や防波堤灯台の灯火を交互に見ながら続航した。
 A受審人は,18時56分少し前防波堤灯台から277.5度700メートルの地点に達したとき,わかしまねが,防波堤の外で自船の進路を避けないで右舷船首9度1,250メートルのところに接近したが,警告信号を行わず,針路を航路の右側に向首する083度に転じ,次の転針目標である右舷前方の防波堤灯台の灯火を見たまま,その後,同船が間近に接近しても,機関を後進にかけて行きあしを止めるなど,衝突を避けるための協力動作をとることもせずに進行中,18時57分半わずか前,左舷船首方至近のところにわかしまねの船体を初めて視認して驚き,とっさに機関を中立としたが,効なく,18時57分半防波堤灯台から351度175メートルの地点において,事代丸は,原針路及び原速力のまま,その船首部がわかしまねの右舷中央部に前方から29度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の北北西風が吹き,潮候は上げ潮の初期で,日没は17時42分であった。

 また,わかしまねは,B受審人ほか10人が乗り組み,教官2人及び実習生として水産高等学校の生徒13人を乗せ,いか釣り実習を行う目的で,同年9月29日14時25分西郷港にある水産高等学校の専用岸壁(以下「専用岸壁」という。)を出港し,翌朝,日本海の大和堆付近に至って操業を始めた。そして,10月3日朝操業を終えて翌4日境港に着岸し,水揚げを終えて停泊していたところ,飲酒して帰船した二等航海士が船内で他の乗組員といさかいを起こしたことから,水産高等学校長(以下「校長」という。)の指示により,翌5日専用岸壁に着岸して法定職員以外の職員である二等航海士を下船させた。
 B受審人は,越えて7日09時ころ二等航海士を下船させたまま専用岸壁を発し,17時45分島根県竹島付近の漁場に至って操業を始め,翌8日06時00分いか約750キログラムを獲て操業を打ち切り,06時30分漁場を発し,水揚げのため境港に向かった。
 B受審人は,境港に入港する時刻が18時半ころになることから,一等航海士が正午まで,その後自身が着岸まで,それぞれ4時間交替の当直補助の乗組員(以下「当直補助者」という。)1人と共に船橋当直に当たることにした。そして,平素,境港の入港が夜間になる場合には,検疫錨地などに錨泊して夜明けを待って着岸するようにしていたものの,18時半であればまだ明るいうちに着岸できると思って,翌日実習を終える実習生をできるだけ早く下船させるためにこのまま着岸し,翌日早朝水揚げを終えて専用岸壁に向かうことにし,船橋当直を一等航海士と当直補助者に委ね,実習生1人を2時間交替で当直実習に当たらせるようにし,操舵室を離れて休息した。
 12時ころB受審人は,昇橋したところ,予想していた速力が得られていないことから入港時刻が予定より遅くなることを知ったのち,一等航海士と交替し,このまま着岸するかどうかを考えながら当直補助者と共に船橋当直に当たった。
 15時ころB受審人は,県の担当者から,二等航海士が下船した経緯について事情を聴くために翌朝訪船したい旨の電話があったので,翌朝水揚げが終わり次第出港できるよう,夜間になるがこのまま着岸して事情聴取を済ませることに決め,その旨を同担当者に告げたものの,平素,出入港時には,船首に一等航海士と乗組員2人を,船尾に甲板長と乗組員3人をそれぞれ配置し,自らは二等航海士を手動操舵に就けて操船指揮に当たっており,境港に夜間,着岸した経験が少なかったうえ,単独で操舵と操船に当たって着岸した経験がなかったものの,昼間に単独で操舵操船して着岸した経験があったことから,夜間であっても単独で操舵操船して着岸することにした。そして,16時00分西郷岬灯台の南西方約9海里の地点に達したとき,次直の当直補助者が昇橋して来なかったが,同補助者を呼ぶよう指示しないまま,前直の当直補助者を休息させ,その後,自動操舵として単独で当直に当たって隠岐海峡を南下した。
 18時半ころB受審人は,船首尾で着岸準備作業中の乗組員とマイクテストを行ったのち,このまま単独で操舵と操船に当たって境港に入航すると,操舵操船することに気を奪われて出航する他船を見落とすおそれのある状況であったが,夜間に単独で操舵操船しても見張りがおろそかになることはないものと思い,他船を見落とすことのないよう,乗組員1人を操舵室に呼んで操舵に当たらせ,船首配置の乗組員を見張りに当たらせるなど,乗組員を適切に配置せず,実習生1人が左舷側で実習に就いた状況のもと,操舵スタンドの後方に立って手動操舵に当たった。そして,島根県地蔵埼東方沖に達したのち,右舷側の陸岸沿いを航行し,同県美保関港沖を航過して間もなく,1号レーダーを作動させてヘッドアップとし,境水道第2号灯浮標をほぼ正船首方に見る態勢で,境水道東口に向けて西行した。
 18時54分半B受審人は,第2号灯浮標の南側約100メートルのところで航路に入り,18時55分少し前航路のほぼ中央部に当たる防波堤灯台から077度900メートルの地点に達したとき,境水道第4号灯浮標を船首目標として針路を269度に定め,11.2ノットの速力で進行した。
 定針したとき,B受審人は,航路のほぼ中央部に当たる左舷船首5度1,920メートルのところに,出航する事代丸のマスト灯と右舷灯を視認でき,防波堤の入口付近で同船と出会うおそれのあることが分かる状況であったが,乗組員を適切に配置して周囲の見張りを十分に行っていなかったので,ほぼ正船首方の境水道第4号灯浮標と右舷船首方の境水道第2号灯浮標の各灯火を見ながら操舵操船することに気を奪われ,着岸準備作業を終えた船首配置の乗組員も前部甲板に降りて待機していて,このことに気付かず,操舵室の実習生が左舷方を見ている状況下,着岸操船の手順などを考えながら,大幅に減速するなど,防波堤の外で事代丸の進路を避けずに続航した。
 18時56分少し前B受審人は,防波堤灯台から070度590メートルの地点に達したとき,事代丸が左舷船首4度1,250メートルのところで航路の右側に向け針路を転じ,その後,同船がマスト灯と右舷灯を見せた態勢のまま互いに接近したが,依然としてこのことに気付かないで進行した。
 B受審人は,18時57分少し前防波堤灯台から038.5度245メートルの地点に達して事代丸のマスト灯と両舷灯を見ることができる態勢となったとき,速力を9.0ノットに減じ,境水道第2号灯浮標を右舷側に航過したのち,18時57分少し過ぎ屈曲した航路に沿うよう早めに転針するつもりで左転を始めたところ,ほぼ正船首方至近のところに事代丸のマスト灯と左舷灯を初めて視認して驚き,とっさに左舵一杯として左転中,わかしまねは,船首が234度を向いたとき,約9ノットの速力で前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,事代丸は,球状船首に破口を伴う凹損,右舷船首部外板に擦過傷を伴う凹損及び右舷船首部ブルワークに曲損を生じ,わかしまねは,右舷中央部外板に破口を生じ,船内に浸水して沈没し,わかしまねの実習生及び乗組員等は,全員,事代丸に救助され,そのうち実習生1人と乗組員1人がそれぞれ軽傷を負った。

 (航法の適用)
 本件は,港則法上の特定港である境港の航路内で,出航する事代丸と入航するわかしまねが衝突した事件であり,港則法の規定が適用されることとなる。
 衝突地点付近の水域は,境水道東口の東方約0.5海里のところから西方に延びる航路が設けられているものの,境港防波堤により北側陸岸までの可航幅が約300メートルに狭められてその東側が美保湾に開き,出入航する船舶が集中することから,港の防波堤の入口付近に該当すると認められる。
 したがって,本件は,港則法第15条の規定により律することとなる。

 (原因の考察)
 本件は,夜間,境港の境港防波堤入口付近の航路内において,出航する事代丸と入航するわかしまねが,いずれも,直前まで相手船の存在に気付かないまま,衝突した事件である。
 このことから,本件は,事代丸の船長が,沖合の漁場に向けて境港の航路を出航中,周囲の見張りを十分に行っていれば,入航するわかしまねの存在に気付いて防波堤の入口付近で同船と出会うおそれのあることが分かり,防波堤の外で自船の進路を避けないまま入航するわかしまねに対し,警告信号を行い,同船が間近に接近した際,衝突を避けるための協力動作をとることによって発生を回避できたと認められる。
 したがって,A受審人が,前路には航行の支障となる他船はいないものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
 一方,本件は,わかしまねが,境港の航路に入航する際,出入港時に平素操舵に当たる乗組員が下船中で,船長が,境港に夜間,着岸した経験が少なかったうえ,単独で操舵と操船に当たって着岸した経験がない状況下,乗組員1人を操舵室に呼んで操舵に当たらせ,船首配置の乗組員を見張りに当たらせるなど,乗組員を適切に配置して周囲の見張りを十分に行っていれば,出航する事代丸の存在や,防波堤の入口付近で同船と出会うおそれのあることが分かり,防波堤の外で事代丸の進路を避けることによって発生を回避できたと認められる。
 したがって,B受審人が,夜間に単独で操舵操船しても見張りがおろそかになることはないものと思い,乗組員1人を操舵室に呼んで操舵に当たらせ,船首配置の乗組員を見張りに当たらせるなど,乗組員を適切に配置して周囲の見張りを十分に行っていなかったことは本件発生の原因となる。
 ところで,事代丸は,法定職員である一等航海士及び一等機関士を乗り組ませていなかった。
 このことは,船舶職員及び小型船舶操縦者法の規定に違反しており,今後,同法の規定を遵守して,法定職員を乗り組ませなければならない。
 また,A受審人は,事代丸が船団の操業予定時間帯に合わせた時刻に出港しなければならない状況で,出港前に飲酒するとアルコールの影響で注意力,判断力が低下することが分かっていたにもかかわらず,平素から,船員法施行規則第3条の5に基づいて定められた航海当直基準を遵守せず,出港前に飲酒して呼気アルコール濃度が約0.5ミリグラムの酒気帯びの状態で操船に当たっていた。
 A受審人は,酒気帯びの状態で船舶を操船することの危険性を十分に認識し,法令の定めを遵守して,操船・入直時に体内にアルコールが残るような飲酒は厳に控えなければならない。

 (主張に対する判断)
 わかしまね側補佐人は,本件については港則法第14条が適用される旨を主張するので,このことについて検討する。
 本件は,境水道に設けられた航路内で発生したものの,付近の水域は境港防波堤により北側陸岸までの可航幅が狭められてその東側が美保湾に開き,出入航する船舶が集中することから,港の防波堤の入口付近に該当する。
 港則法第14条第3項に定められた航路内右側航行義務は,「航路内において,他の船舶と行き会うとき」に限定されるが,本件発生当時の両船の態勢は,「港の防波堤の入口又は入口附近で他の汽船と出会う虞のあるとき」に該当するから,航路内の特別な場所である防波堤の入口付近での行会いを禁じた港則法第15条の適用を受けることとなる。
 したがって,補佐人の主張を採用することはできない。

 (原因及び受審人の行為)
 本件衝突は,夜間,境港において,両船が防波堤の入口付近で出会うおそれのあった際,入航するわかしまねが,見張り不十分で,防波堤の外で出航する事代丸の進路を避けなかったことによって発生したが,事代丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 B受審人は,出入港時に平素操舵に当たる乗組員が下船した状況下,夜間,境港に入航する場合,同港に夜間,着岸した経験が少なかったうえ,単独で操舵と操船に当たって着岸した経験がなかったのだから,操舵操船することに気を奪われて出航する他船を見落とすことのないよう,乗組員1人を操舵室に呼んで操舵に当たらせ,船首配置の乗組員を見張りに当たらせるなど,乗組員を適切に配置して周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,夜間に単独で操舵操船しても見張りがおろそかになることはないものと思い,乗組員を適切に配置して周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,ほぼ正船首方の境水道第4号灯浮標と右舷船首方の境水道第2号灯浮標の各灯火を見ながら操舵操船することに気を奪われ,着岸準備作業を終えた船首配置の乗組員も前部甲板に降りて待機していて,出航する事代丸が存在することも,防波堤の入口付近で同船と出会うおそれのあることにも気付かず,大幅に減速するなど,防波堤の外で出航する事代丸の進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き,事代丸に損傷を生じさせ,わかしまねを沈没させて同船の実習生等2人を負傷させるに至った。
 以上のB受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を2箇月停止する。
 A受審人は,夜間,単独で操舵と操船に当たって境港を出航する場合,入航する他船を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,前路には航行の支障となる他船はいないものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,入航するわかしまねが存在することも,防波堤の入口付近で同船と出会うおそれのあることにも気付かず,防波堤の外で自船の進路を避けないまま入航するわかしまねに対し,警告信号を行わず,同船との衝突を避けるための協力動作もとらずに進行して衝突を招き,事代丸に損傷を生じさせ,わかしまねを沈没させて同船の実習生等2人を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。



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