平成21年海審第2号
             裁    決
          交通船うつみ防波堤衝突事件
  言 渡 年 月 日 平成23年3月29日
  審  判  所 海難審判所(花原敏朗,山田豊三郎,供田仁男)
  理  事  官 千葉廣
  受  審  人 A
     職  名 うつみ船長
     操縦免許 小型船舶操縦士

             主    文
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を2箇月停止する。

             理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成20年11月16日23時47分
 岡山県宇野港

2 船舶の要目
 船 種 船 名  交通船うつみ
 総 ト ン 数  7.3トン
   全   長  11.50メートル
   機関の種類  ディーゼル機関
   出   力  198キロワット

3 事実の経過
(1) 構造及び運航形態
 うつみは,平成20年に進水し,船体前部及び中央部の甲板上に船室を設け,同後部の甲板下に機関室を配置して2機2軸を有する,コンパスを装備しないFRP製交通船兼作業船で,船室の左舷側前部を操縦区画,同区画以外を客席区画とし,同区画には,船横方向の2人掛け用座席が左舷側に2列,右舷側に4列それぞれ設置されており,同座席にはシートベルトが装備されていなかった。
 うつみは,交通船の場合の最大搭載人員を旅客12人及び船員1人の合計13人とし,香川県に所在のB社と運航等に関する委託契約を締結したC社に所属する船長が乗り組み,同社運航の高速旅客船3隻と共に交替で,専ら直島北部の風戸港あるいは同島西部の宮浦港とその北方約2.3海里に位置する宇野港宇野地区の県営7号桟橋間におけるB社の役員・従業員(以下「社員」という。)及び関係者の送迎等に従事していた。

(2) 宇野港宇野地区
 宇野港宇野地区は,同港のほぼ中央部を占め,L字形の第1突堤を挟んで西隣にフェリー桟橋等を擁する埠頭に接続した第3突堤,東隣に第2突堤があり,その南東端から同突堤とほぼ同高さで長さ約100メートル幅約6メートルの防波堤が南方に向かって直線状に延び,これに続いて更に南方にJ字形に約170メートル延びる延伸部(以下,延伸部を含めて「第2突堤防波堤」という。)が築造中で,ほぼ完成していた。
 県営7号桟橋は,第1突堤の北部東岸につながれた浮き桟橋で,発着する船舶が同突堤南部の東端と第2突堤防波堤の西端とで形成された可航幅約90メートルの入口(以下「港口」という。)を通航するようになっていた。
 そして,第1突堤の南端部には,東西方向に並んだ高さ約12メートルの6本の支柱が立ち,その西端の1本に照射灯1基が,他の5本にいずれも出力360ワットのオレンジ色照明灯が設置され,第2突堤防波堤の西端部には,約40メートルの間隔を置いた高さ約2メートルの2本の支柱が立ち,各支柱に4秒に1回0.5秒の閃光を発する光達距離3海里の黄色簡易標識灯が設置されていた。

(3) 本件発生に至る経緯
 うつみは,A受審人が1人で乗り組み,社員6人を乗せ,船首0.6メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成20年11月16日23時40分宮浦港を発し,法定灯火を表示しないまま,県営7号桟橋に向かった。
 これより先,A受審人は,当日朝からCが管理する船舶の見回り業務や高速旅客船の運航に従事した後,休憩を挟み,22時20分からうつみの運航に就き,22時40分宮浦港に入港し,24時00分発の最終便に備えることとしたが,同便の利用者が14人いて,2便を運航することとなり,利用者が揃ったところで第1便を運航することとしてうつみの座席に横になって仮眠していたところ,23時30分社員が乗船してきた物音で目覚め,慌てて発航したものであった。
 A受審人は,直島と葛島との間の直島水道の南口900メートル手前で機関を全速力前進にかけて,25.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)とし,同南口に差し掛かった頃,前方に宇野港宇野地区のフェリー桟橋に向かう総トン数798トンの定期旅客船(以下「フェリー」という。)が同水道を北上していたことから,23時43分半葛島灯台から108度(真方位,以下同じ。)500メートルの地点で,針路をフェリーの右舷側に向けていつもより東寄りとなる359度に定め,手動で操舵に当たり,フェリーに後続して進行した。
 23時45分半わずか前A受審人は,直島水道の北口に設置された直島北西方灯浮標を左舷側に150メートル隔てて並航するとともに,0.75海里レンジとしたヘッドアップのレーダー画面を見て,左舷船首30度0.7海里に位置する港口を識別し,左転して港口に向ける時機であったところ,フェリーが転針方向の近距離のところを北西方に航行していたので,フェリーを追い越す機会を待って左転時機を少し遅らせることとし,レーダー画面を0.5海里レンジに切り替えて続航した。
 23時45分半A受審人は,宇野港田井第1号灯標(以下「田井第1号灯標」という。)から184度1,250メートルの地点に至り,左転することとしたとき,目視では港口を未だに識別することができなかったが,少し前にレーダーで識別したばかりだから目測でその方向に向ければよいと思い,レーダーで自船と港口との相対方向を把握するなど,船位の確認を十分に行うことなく,港口の背後に広がる町並みの明かりを目安にして針路を338度としたところ,第2突堤防波堤に向首することとなったものの,折しも船首少し左方の同明かりの中に水平方向に連なるオレンジ色の灯火を視認して,起きがけであったこともあってか,これを第1突堤の照明灯と誤認し,同防波堤に向首していることに気付かずに進行した。
 間もなく,A受審人は,フェリーの右舷側を至近距離で追い越し,23時46分宇野港の港域内に入った後,香川県下烏島を右舷側に航過し,目測で同島との距離が近いことから,東寄りに偏位していることを認めたものの,依然として誤認したままの灯火を目安にしていて,レーダーによる船位の確認を十分に行わないまま,23時46分半田井第1号灯標から218度630メートルの地点に達して,針路を326度に転じ,同灯火にもう少し近づいたなら減速するつもりで,なおも第2突堤防波堤に向首していることに気付かずに続航中,23時47分田井第1号灯標から253度630メートルの地点において,うつみは,原針路,原速力のまま,その左舷船首部が同防波堤の湾曲部に衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の西風が吹き,視界は良好で,潮候は上げ潮の末期に当たり,月出時刻は19時45分,月齢は18.7であった。
 その結果,うつみは,衝突の反動ではじき飛ばされ,左舷主機のみが自停したことから,衝突地点の93メートル北方に当たる,第2突堤防波堤の直線部に再度衝突して,船首部及び左舷前部を圧壊し,船首甲板に曲損と前部甲板に亀裂を生じたほか,左舷主機が据付け台上を移動するなどの損傷を生じたが,後に修理され,第2突堤防波堤のコンクリート壁に軽微な剥離を生じた。また,A受審人が治療1週間を要する左肩打撲及び顔面打撲を負うとともに,乗船していた社員6人については,1人が入院2週間を含む全治4週間の多発肋骨骨折等を,1人が入院12日間を含む全治3週間の左肋骨骨折等を,1人が全治1週間の胸部打撲等を,1人が全治1週間の前額部裂傷等を,1人が全治5日間の顔面打撲等を,1人が全治3日間の前額部打撲等をそれぞれ負った。

 (原因及び受審人の行為)
 本件防波堤衝突は,夜間,宇野港沖合において,同港宇野地区に入港するために北上中,転針して港口に向かう際,船位の確認が不十分で,第2突堤防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
 A受審人は,夜間,宇野港沖合において,同港宇野地区に入港するために北上中,転針して港口に向かう場合,目視では港口を識別することができなかったから,レーダーで自船と港口との相対方向を把握するなど,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,少し前にレーダーで識別したばかりだから目測でその方向に向ければよいと思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,港口の背後に広がる町並みの明かりを目安に転針し,第2突堤防波堤に向首していることに気付かないまま進行して同防波堤への衝突を招き,船体及び防波堤にそれぞれ損傷を生じさせるとともに,乗船者を負傷させ,自身も負傷するに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を2箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。

参考図(PDF)へ 東京の裁決一覧 トップページへ