平成21年海審第3号
             裁    決
           貨物船利根丸火災事件

  言 渡 年 月 日 平成23年2月16日
  審  判  所 海難審判所(花原敏朗,山田豊三郎,加藤昌平)
  理  事  官 千葉 廣
  受  審  人 A
     職  名 利根丸機関長
     海技免許 三級海技士(機関)

             主    文
 受審人Aの三級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。

             理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成21年2月22日09時30分
 大阪湾

2 船舶の要目
 船 種 船 名  貨物船利根丸
 総 ト ン 数  199トン
   登 録 長  51.56メートル
   機関の種類  過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
   出   力  478キロワット
   回 転 数  毎分335

3 事実の経過
 利根丸は,平成3年に進水した二層甲板船尾船橋型鋼製貨物船で,船体後部に機関室が配置されてその上方に3層の甲板室が設けられ,その最上層が操舵室となっていた。
 機関室は,下段と上段の二層構造となっており,下段中央部に主機が据え付けられ,その前部に動力取出軸からVベルトを介して駆動される発電機(以下「主機駆動発電機」という。)が備えられ,主機の右舷側には補機駆動発電機が装備されていた。
 機関室の消防設備は,上段船首側など3箇所に持運び式泡消火器各1本を備え,消火用水を雑用水ポンプで消火栓に送水するようになっており,火災警報装置については,設置が義務付けられていないことから,装備していなかった。
 主機は,B社が平成3年に製造した6M26AGTE型と呼称するもので,操舵室から遠隔操縦されるようになっており,各シリンダには船尾側を1番とする順番号が付けられ,架構船尾側上部に同社製造のNR20/R型と呼称する排気ガスタービン式の過給機が備えられていた。そして,過給機と各シリンダヘッドの右舷側に設けられた排気口とが排気集合管で連結され,同集合管は,防熱材で覆われていた。
 主機の各シリンダヘッドは,排気弁を船首側に,吸気弁を船尾側にそれぞれ組み込んだ2弁式で,燃料噴射弁(以下「燃料弁」という。)が吸気及び排気各弁との間の同ヘッドのほぼ中央位置に取り付けられていた。
 主機の燃料油系統は,機関室上段の船首側に設置された容量900リットルのA重油サービスタンクから流量計,1次こし器等を経て電動機駆動の燃料供給ポンプで約2キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に加圧された燃料油が,2次こし器を経て,各シリンダの燃料噴射ポンプ吸入側に接続された集合管(以下「吸入主管」という。)に導かれ,同ポンプで約250キロに加圧され,燃料油高圧管を経て燃料弁からシリンダ内に噴射され,また,燃料弁内における漏れ等で噴射されない一部の燃料油が,外径6ミリメートル(以下「ミリ」という。)内径4ミリ長さ約550ミリの高圧配管用炭素鋼管製の戻り油管(以下「戻り油管」という。)を経て吸入主管に戻るようになっていた。
 ところで,戻り油管は,一方が燃料弁との接続部に片口継手と称するドーナツ形継手がろう付けされ,同継手の上下に銅製ガスケットを挿入し,ホローボルトと称する首部に穴の開いた中空のボルトで締め付けて固定され,他方が吸入主管に接続されており,燃料供給ポンプ運転中には常時約2キロの圧力がかかるようになっていた。
 戻り油管は,燃料弁整備や,シリンダヘッド開放時に取外し及び取付け作業が必要で,同作業の繰返しによって片口継手根元付近に曲げ応力が働くとともに全体が曲がって変形し,疲労により屈曲部の強度が低下して振動の影響等により亀裂や破断を生じ,ろう付け等で修理しても,取外し及び取付け作業によってさらに強度の低下が進行することから,全体が変形してろう付け等の修理がたびたび行われた戻り油管については,亀裂や破断を生じるおそれがあるので,早期にメーカーの支給する予備品に新替えする必要があった。
 A受審人は,平成20年機関長として乗り組んで機関の保守管理にあたり,機関部が自身だけであったことから,休憩を取りながら単独の機関室当直に就くようにしていた。
 A受審人は,同年12月5日から翌21年1月8日まで,定期検査工事で造船所に入渠し,戻り油管を取り外して主機の開放整備中,全シリンダとも戻り油管が変形してたびたびろう付け修理されていることを認めた際,このまま使用すれば,曲げ応力や振動の影響等によって運転中にいずれかの戻り油管に亀裂や破断を生じるおそれがあったから,亀裂や破断により燃料油が噴出することのないよう,同管を予備品に新替えする必要があったが,各修理箇所に漏油が認められなかったので,このまま継続使用しても支障はないものと思い,変形してたびたびろう付け修理されている各シリンダの戻り油管をそれぞれ新替えすることなく,同整備を終えてすべての戻り油管をそのまま復旧した。
 利根丸は,1月11日A受審人が休暇のため下船し,交代の機関長が乗り組んで運航していたところ,越えて2月3日三重県四日市港から山口県宇部港に向けて航行中,2番シリンダ戻り油管に亀裂を生じたことから,1本保有していた予備品を使用して同戻り油管を新替えした。そして,宇部港に入港したのち,戻り油管の予備品を2本補充することにしたが,納品が翌3月になる旨の連絡を受け,在庫がないまま運航を続けた。
 A受審人は,休暇を終えて2月10日に再び乗船し,前任の機関長から引継ぎを受けて2番シリンダ戻り油管が新替えされて予備品の在庫がないことを知ったが,納品を急がせないまま,3月に予備品が納品されたら,順次戻り油管を交換することとして主機の運転を続けた。
 こうして,利根丸は,A受審人ほか3人が乗り組み,硅砂680トンを積載し,船首2.5メートル船尾3.6メートルの喫水をもって,2月21日12時00分名古屋港を発して関門港へ向かった。そして,翌22日04時同人が機関室当直に就き,主機を回転数毎分328にかけて大阪湾を航行中,08時50分同人が朝食をとるため食堂に赴いて間もなく,曲げ応力や振動の影響等により著しく変形してたびたびろう付け修理された3番シリンダ戻り油管の片口継手の根元近くに亀裂を生じて破断し,燃料油が,噴出して付近の排気集合管高温部に降りかかるとともに,同管を覆う防熱材の内部にしみ込み,加熱されて気化し始めた。
 A受審人は,09時20分食事を終えて機関室に向かっていたとき,燃料油の気化した異臭がすることに気付いて直ちに機関室内を点検したところ,3番シリンダヘッド周辺から燃料油が噴出して気化しているのを認め,当時周囲に漁船が多く,機関室で主機を停止するのは危険であると考え,操舵室に急行して船長に主機の使用を停止するよう要請し,機関室に戻って発電機を主機駆動発電機から補機駆動発電機に切り替えるとともに,クラッチが中立となっていることを確認したのち,機側の燃料ハンドル操作により主機を停止したものの,利根丸は,気化した燃料油が発火し,22日09時30分地ノ島灯台から真方位333度4.8海里の地点において火災が発生した。
 当時,天候は曇で風力1の北北東風が吹き,海上は穏やかであった。
 A受審人は,機関室上段船首側に備え付けられた持運び式泡消火器による初期消火を試みたものの,効なく,いったん同室を出て一等航海士及び甲板員に火災の発生を知らせ,再び同室に戻ったところ,3番シリンダ戻り油管から噴出して周辺に滞留していた燃料油にも引火し,すでに黒煙が充満して中に入ることができないことから消火を断念し,他の乗組員とともに操舵室に避難した。
 やがて,利根丸は,機関室天井を経て居住区に燃え広がったことから,船長が消火不能と判断して海上保安庁等に救援を要請し,付近を航行中の漁船に乗組員全員が救助され,巡視艇による消火活動が行われたものの,居住区及び操舵室等が全焼し,鎮火確認後阪神港に引き付けられ,のち廃船処理された。

 (原因及び受審人の行為)
 本件火災は,定期検査のため入渠して主機の開放整備中,全シリンダとも戻り油管が変形してたびたびろう付け修理されていることを認めた際,各シリンダの戻り油管を新替えせず,航行中,曲げ応力や振動の影響等により著しく変形してたびたびろう付け修理された3番シリンダ戻り油管に亀裂を生じて破断し,噴出した燃料油が主機排気集合管高温部に降りかかって発火したことによって発生したものである。
 A受審人は,定期検査のため入渠して主機の開放整備中,全シリンダとも戻り油管が変形してたびたびろう付け修理されていることを認めた場合,このまま使用すれば,曲げ応力や振動の影響等によって運転中にいずれかの戻り油管に亀裂や破断を生じるおそれがあったから,亀裂や破断により燃料油が噴出することのないよう,変形してたびたびろう付け修理されている各シリンダの戻り油管をそれぞれ新替えすべき注意義務があった。しかるに,同人は,各戻り油管の修理箇所に漏油が認められなかったので,このまま継続使用しても支障はないものと思い,同管を新替えしなかった職務上の過失により,航行中,曲げ応力や振動の影響等によって著しく変形してたびたびろう付け修理されていた3番シリンダ戻り油管に亀裂を生じて破断し,噴出した燃料油が主機排気集合管高温部に降りかかり,気化した同油が発火して火災を招き,船体を焼損して廃船とさせるに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。



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