平成21年海審第4号
             裁    決
         遊漁船ユニコーン防波堤衝突事件

  言 渡 年 月 日 平成23年2月10日
  審  判  所 海難審判所(長浜義昭,清水正男,加藤昌平)
  理  事  官 今泉豊光
  受  審  人 A
     職  名 ユニコーン船長
     操縦免許 小型船舶操縦士

             主    文
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

             理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成21年2月22日04時10分
 千葉港千葉第4区

2 船舶の要目
 船 種 船 名  遊漁船ユニコーン
 総 ト ン 数  1.5トン
   全   長  7.03メートル
   機関の種類  電気点火機関
   出   力  73キロワット

3 事実の経過
(1) 設備等
 ユニコーンは,平成16年に進水し,船外機1機を備えたFRP製ランナバウト型の遊漁船兼プレジャーモーターボートで,船首から後方に順に,船首甲板,物入れ,船尾甲板となっていて,物入れの上部及び後部囲壁には操縦コンソールが,船尾甲板には,前部に操縦者用リーニングシートが,後部に釣り客用シートがそれぞれ配置されていた。
 操縦コンソールには,前方に風防が,風防頂部に下方用遮光板が取り付けられた白色全周灯が,前部にGPSアンテナ,磁気コンパス,速度計及び主機回転計が,後部右舷寄りに海岸線等データが組み込まれたGPSプロッター兼魚群探知機(以下「GPSプロッター」という。),主機操縦レバー,舵輪及び各種電源スイッチ等が配置されていたが,レーダー及び航行予定海域の海図は搭載されていなかった。

(2) 千葉港千葉第4区
 千葉港千葉第4区の南部は,西から順に千葉県袖ケ浦市南袖,同市中袖,同市北袖及び同県市原市姉崎海岸の各埋立地沖合にあたり,中袖の埋立地北西岸中央付近には,325度(真方位,以下同じ。)方向の沖合に向く長さ約580メートルのB社の1号LNGバースと,その西側550メートルに同様の構造の2号LNGバースが築造されていた。
 北袖の埋立地北西岸北端付近には,327度方向の沖合に向けて低潮時の海面上高さ約3.9メートル長さ約503メートルの北防波堤が,同堤基部から中央付近まで長さ約236メートルまで幅約3.9メートルで両側に幅各約6.0メートルの消波ブロックが置かれた陸側部(以下「北堤陸側部」という。)と,同部北端から同堤先端まで長さ約267メートル幅約5.3メートルで消波ブロックがない沖側部(以下「北堤沖側部」という。)とで築造されていた。北防波堤先端上には,光達距離約2.7海里の赤色1閃光を4秒ごとに発する高さ約3.4メートルの簡易標識灯が設置されていたが,同堤の西側海域から姉崎海岸の埋立地に向けて東行する際には,同灯の灯火が背後にある同埋立地の石油タンク等の明かりと重なって識別しにくい状況であった。
 姉崎海岸の埋立地北西岸南端には,C社の,LPG桟橋,LPG桟橋の約150メートル北方に重油バース,及びLPG桟橋の約500メートル東北東方の同埋立地内に夜間でも顕著な目標となる高さ205メートルの煙突3本(以下「発電所煙突」という。)が,それぞれ築造されていた。

(3) 本件発生に至る経緯
 ユニコーンは,A受審人が1人で乗り組み,平成21年2月21日18時ころから遊漁を行って23時ころ帰港し,釣り客を降ろして1時間ほど休息のために停泊したのち,新たな釣り客2人を乗せ,出港から納竿まで4時間遊漁を行う予定で,船首0.3メートル船尾0.7メートルの喫水をもって翌22日00時00分マリーナを発し,東京湾内の釣り場3箇所を順次移動し,03時30分ころ1号LNGバース西側に至って遊漁を行った。
 ところで,A受審人は,平成20年5月転職し,中古で購入したユニコーンでマリーナを基地として遊漁船業を始め,12月までは昼間に,翌21年1月からは夜間に,専ら擬餌針の投げ釣りですずきを狙う遊漁を東京湾内で行っていた。
 A受審人は,遊漁船業を始めたときにマリーナで海図W1061を見て北防波堤の存在を知ってはいたものの,昼間に1号LNGバースや2号LNGバースの釣り場(以下「LNGバース釣り場」という。)からLPG桟橋北西端付近の釣り場(以下「LPG桟橋釣り場」という。)に直航した際,1号LNGバース北端の北方沖合に出てから煙突に向け東行していて同堤が障害にならなかったし,日ごろ画面の縦を4海里として使用していたGPSプロッターでは,北堤陸側部が他の陸地と同様に黄線で縁取られた緑色の矩形(くけい)で表示されていたのに対し,北堤沖側部が10メートル等深線と同様に黄色の直線だけで表示されていて,緑色の矩形で表示されるまで拡大したことがなかったことから,北防波堤を北堤陸側部だけであるものと思っていた。
 また,A受審人は,1月から始めた夜間の遊漁において,LNGバース釣り場から1号LNGバース北端の北方沖合,及び千葉港椎津航路第6号灯標(以下,航路標識の名称については「千葉港」の冠称を省略する。)の北方沖合を経由して,重油バース北西端と,その北東方約500メートルの釣り場に移動したことが1回ずつあったが,LNGバース釣り場からLPG桟橋釣り場に移動したことはなかった。
 こうして,04時00分A受審人は,1号LNGバース北端から約150メートル埋立地寄りの同バース東側で遊漁を終えたものの,釣果が思わしくなかったので納竿を約30分延長し,LPG桟橋釣り場に移動するために発進することとした。
 その際,A受審人は,夜間にLNGバース釣り場からLPG桟橋釣り場に移動することが初めてであったものの,北防波堤が北堤陸側部だけで障害となるほど沖合に突出していないものと思い,埋立地から沖合に向けて築造された同堤の突出状況を把握できるよう,GPSプロッターの表示を拡大して同堤の築造状況を詳細に確認するなど,水路調査を十分に行うことなく,1号LNGバースの中ほどから発電所煙突を船首目標として東行すれば北堤沖側部に向首することを知らなかった。
 04時02分少し前A受審人は,椎津航路第6号灯標から248.5度3,110メートルの,遊漁を終えた1号LNGバース中ほど東側の地点を発進して機関を半速力前進にかけ,12.0ノット(対地速力,以下同じ。)の速力とし,目視した発電所煙突に向けて針路を073度に定めたところ,北堤沖側部に向首する状況となったが,このことを知らないまま,リーニングシートの前に立って眼高約2.0メートルの状態で,舵輪を握って進行した。
 04時04分半A受審人は,椎津航路第6号灯標から246.5度2,140メートルの地点で,GPSプロッターで緑色の矩形として表示された北堤陸側部が右舷側にかわることを確認したものの,北堤沖側部に向首していることを知らないまま,目視した煙突を船首目標として076度に針路を調整し,その後も,04時06分半074度に,04時07分少し過ぎ075度に,針路を発電所煙突に向けて調整しながら続航した。
 A受審人は,専ら船首目標とした煙突上部に目線を向け,水面上の高さが約2.0メートルとなった北堤沖側部に向首したまま,原針路,原速力で進行中,04時10分椎津航路第6号灯標から175度330メートルの地点において,ユニコーンは,その船首が北堤沖側部の西側に72度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の北西風が吹き,潮候はほぼ高潮時で,月明はなく,視界は良好であった。
 衝突の結果,船首部を圧壊し,釣り客2人が骨盤骨折等を,A受審人が右手指骨折等をそれぞれ負った。

 (原因及び受審人の行為)
 本件防波堤衝突は,夜間,千葉港千葉第4区南部の埋立地沖合において,釣り場を移動するために発進する際,水路調査が不十分で,埋立地から沖合に向けて築造された北防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
 A受審人は,夜間,千葉港千葉第4区南東部の埋立地沖合において,釣り場を移動するために発進する場合,夜間にLNGバース釣り場からLPG桟橋釣り場に移動することが初めてであったから,埋立地から沖合に向けて築造された北防波堤の突出状況を把握できるよう,GPSプロッターの表示を拡大して同堤の築造状況を詳細に確認するなど,水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,同堤が北堤陸側部だけで障害となるほど沖合に突出していないものと思い,水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により,1号LNGバースの中ほどから発電所煙突を船首目標として東行すれば北堤沖側部に向首することを知らないまま,北防波堤に向首進行して衝突を招き,船体を損傷させ,釣り客を負傷させたうえ自らも負傷するに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。



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