平成21年第二審第7号
             裁    決
       遊漁船勇勝丸モーターボートパルV衝突事件[原審・門司]

 本件は,国土交通省設置法等の一部を改正する法律(平成20年法律第26号)附則第4条の規定に基づき,同法第3条の規定による改正前の海難審判法(以下「旧法」という。)の規定により行うものである。

  言 渡 年 月 日 平成23年3月29日
  審  判  所 海難審判所(供田仁男,山田豊三郎,藤江哲三,花原敏朗,加藤昌平)
  理  事  官 横須賀勇一
  受  審  人 A
     職  名 勇勝丸船長
     操縦免許 小型船舶操縦士
  補  佐  人 a,b,c,d
  受  審  人 B
     職  名 パルV船長
     操縦免許 小型船舶操縦士

             主    文
 本件衝突は,錨泊中のパルVが,法定灯火の表示確認が不十分で,白色全周灯を表示せず,航行中の勇勝丸に対してその存在を示さなかったことによって発生したものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

             理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成20年6月8日04時10分
 福岡県玄界島西方沖合
 (北緯33度41.4分 東経130度09.3分)

2 船舶の要目等
(1) 要 目 
 船 種 船 名  遊漁船勇勝丸     モーターボートパルV
 総 ト ン 数  10トン
 全     長  17.20メートル   7.20メートル
 機 関 の 種 類  ディーゼル機関    電気点火機関
 出     力  468キロワット   84キロワット

(2) 設備及び性能等
ア 勇勝丸
 勇勝丸は,平成14年に進水した,船体中央やや後部に船室及び操舵室を有するFRP製遊漁船で,操舵室前壁の窓の下方に設けた棚の右舷寄りに舵輪を設置し,舵輪前方の棚上に魚群探知機兼用のGPSプロッターと磁気コンパスを,その右舷側に自動操舵装置を,左舷側にレーダー及びGPSプロッターを,舵輪の後方に設けた操縦席の右舷側に主機操作用クラッチ及びスロットルレバーをそれぞれ備えていた。
 操縦性能は,全速力が約25ノットで,舵角一杯をとったときの旋回径が全長の2.5倍ほどであった。

イ パルV
 パルVは,平成3年に進水した,船体の中央部に船室とその後方に操舵室を有するFRP製モーターボートで,操舵室前部右舷寄りに舵輪を設置し,舵輪前方に磁気コンパス,魚群探知機兼用のGPSプロッターを,その右舷側に主機操作用クラッチ・スロットル兼用レバーをそれぞれ備え,前部左舷側に船室の出入口を設け,操舵室に後壁はなく,定係地に係留しているときには天井後端に設置したカーテンを下ろしていた。
 灯火設備は,船室前面中央に両色灯及び操舵室屋根の上方に白色全周灯を法定灯火として装備し,操舵室内にある各灯火及びモーターホーン等のスイッチ操作盤に,両灯のスイッチが横方向に狭い間隔で隣接して設けられていた。
 B受審人は,法定灯火のほか,いずれもC社製で夜間自動点滅装置付きの,「フラッシュ120」と称する,視認可能な距離が約550メートルの赤色光を発する乾電池式保安灯(以下「赤色点滅灯」という。)を操舵室屋根の左舷側に,「ソーラーキングミニ」と称する,視認可能な距離が約400メートルの赤色及び青緑色光を発する充電式保安灯(以下「赤色・緑色点滅灯」という。)を右舷側にそれぞれ取り付け,夜間,錨泊中に点灯するようにしていた。

3 事実の経過
 勇勝丸は,A受審人ほか1人が乗り組み,釣り客7人を乗せ,遊漁の目的で,船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成20年6月8日03時40分福岡県博多港姪の浜にある定係地を発し,長崎県壱岐島北方沖合の釣り場に向かった。
 A受審人は,単独で操船に当たり,航行中の動力船の法定灯火を表示して福岡湾を西行し,04時00分半西浦岬灯台から038度(真方位,以下同じ。)700メートルの地点で,針路を長間礁とその南方にある中之瀬の間に向く295度に定め,機関回転数を全速力前進より少し減じて21.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)とし,レーダーを0.5海里レンジで表示させ,操縦席に腰掛けて手動操舵によって進行した。
 04時06分A受審人は,長間礁灯標から124度1.8海里の地点に達して中之瀬まで1.3海里ほどとなったとき,正船首少し左舷側に2個の明るい白灯を視認し,その後,各白灯のすぐそばに白色全周灯も視認するようになり,それまで中之瀬付近で流し釣りを行っている小型船を見掛けたことが度々あったので,流し釣り中の2隻の小型船(以下「2隻の小型船」という。)と判断し,もう少し接近してから針路を南西方に転じて両船を避け,その後両船の南側を通過するように針路を戻すこととし,両船の灯火がはっきり視認できていたことから,レーダー画面を見ないで専ら目視による見張りを行いながら,同じ針路,速力のまま続航した。
 04時09分少し過ぎA受審人は,長間礁灯標から139度1,400メートルの地点に達し,2隻の小型船まで400メートルほどとなって左転を始めたとき,南西方約500メートルのところに赤色点滅灯1個を初めて視認し,これが錨泊中のパルVのものであったが,同船が錨泊中の法定灯火である白色全周灯を表示せず,同点滅灯がはえ縄などの漁具の標識灯にしか見えなかったので,同船の存在を認識できず,赤色点滅灯の少し手前で針路を戻すつもりで左転を続け,04時09分半少し前長間礁灯標から141度1,350メートルの地点に至り,同点滅灯が右舷船首2度となって左転を終え,230度の針路で進行した。
 間もなく,A受審人は,赤色点滅灯のすぐそばに赤色・緑色点滅灯も視認して,これもはえ縄などの漁具の標識灯としか見えなかったことから,04時10分僅か前これらの点滅灯が右舷船首約60メートルとなった頃,元の針路に戻そうとして右舵をとり,緩やかに回頭中,04時10分長間礁灯標から160度1,400メートルの地点において,勇勝丸は,285度に向首して20.0ノットの速力となったとき,その船首がパルVの船尾に後方から60度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,視界は良好で,潮候は下げ潮の中央期であった。

 また,パルVは,B受審人が1人で乗り組み,釣りの目的で,船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,同月7日18時30分福岡市多々良川河口の定係地を発し,友人の2隻の小型船とともに中之瀬周辺の釣り場に向かった。
 B受審人は,ほぼ日没時となる19時30分中之瀬に至って投錨し,いつものように白色全周灯を表示したほか,赤色点滅灯と赤色・緑色点滅灯を点灯し,単1乾電池6本入で持ち運び式のランタン型白色蛍光灯(以下「白色ランタン」という。)を点灯して後部甲板の台の上に置き,しばらく釣りを行った後,各灯火に加えて両色灯を表示して釣り場を移動し,翌8日00時05分前示衝突地点付近に至り,白色全周灯を表示したほか白色ランタンを点灯した2隻の小型船を,北方250メートルとその北方100メートルのところにそれぞれ見る態勢で機関を停止し,水深約10メートルの海中に錨を投入し,30メートルほど延出した錨索を船首に係止して錨泊した。
 投錨後,B受審人は,錨泊中の法定灯火である白色全周灯の表示に切り替えるため,操舵室に入って両色灯だけを消そうとして同灯のスイッチを切ったところ,隣接した白色全周灯のスイッチに指が触れたかして,同スイッチも切れたが,白色全周灯を消すつもりがなかったことから,同灯が消えていることはないものと思い,すぐに後部甲板に戻った後,法定灯火の表示確認を十分に行わなかったので,白色全周灯を表示していないことに気付かず,釣りを再開した。
 02時00分頃B受審人は,眠気を催したことから,仮眠をとることとし,依然として法定灯火の表示確認不十分で,白色全周灯が消えていることに気付かないまま,白色ランタンを消灯して船室に入り,はえ縄などの漁具の標識灯にしか見えない赤色点滅灯と赤色・緑色点滅灯の2灯のみを点灯していただけで,自船の存在を示さずに錨泊中,パルVは,船首が225度を向いていたとき,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,勇勝丸は,船首外板に凹損及び左舷船首部外板に擦過傷を生じたが,後,修理され,パルVは,船外機の脱落及び船尾部外板に亀裂などを生じ,修理費用の都合から廃船処理され,B受審人が腰椎及び右肩関節捻挫を負った。

 (航法の適用)  
 本件は,夜間,視界が良好な状況下,玄界島西方沖合において,釣り場に向けて航行中の勇勝丸と錨泊中のパルVが衝突したもので,本件発生地点には海上交通安全法及び港則法の適用がないので,海上衝突予防法(以下「予防法」という。)が適用される。
 夜間,予防法の航法規定適用の前提となるのは,船舶が表示する法定灯火により,その存在を認識でき,船舶の種類,状態及びその大きさを識別して,どのような態勢の見合い関係にあるかの判断が可能なことである。
 パルVは,赤色点滅灯と赤色・緑色点滅灯の2灯のみを点灯していただけで法定灯火を表示せず,勇勝丸からは,同点滅灯が漁具の標識灯としか見えず,パルVの船舶の種類,状態及びその大きさを識別できないだけでなく,船舶としての存在を認識できない状況にあった。
 したがって,本件は,予防法第38条及び第39条の規定を適用して船員の常務をもって律することとなる。

 (原因の考察)
 A受審人は,専ら目視による見張りを行い,作動させていたレーダーを見ることがなく,パルVが点滅灯2灯のみを点灯していただけで,錨泊中の法定灯火を表示していなかったことから,同船を船舶として認識できなかったのであるが,海上衝突予防法第5条の「船舶は,周囲の状況及び他の船舶との衝突のおそれについて十分に判断することができるように,視覚,聴覚及びその時の状況に適した他のすべての手段により,常時適切な見張りをしなければならない。」との規定は,夜間であれば,灯火を適切に表示してその存在を示している船舶に対して衝突のおそれを判断することを求めるものであって,船舶として表示すべき灯火を掲げていないものまでも対象としているものではなく,また,常時しなければならない適切な見張りとは,視覚,聴覚及びその時の状況に適した手段をとっていれば視認できる船舶を見落とさないように行う見張りのことである。
 本件において,A受審人は,パルVの近くで,法定灯火を表示したほか白色ランタンを点灯して錨泊していた他の2隻の小型船を約1.3海里の距離で視認して両船を避けており,さらに,両船を避けるために左転する際,パルVが点灯した視認可能な距離が約550メートルの赤色点滅灯を約500メートルの距離で視認し,その後,赤色・緑色点滅灯も視認しており,操船者が通常求められる見張りを行っていたと認めることができ,パルVは,航法の適用で述べたとおり,法定灯火を表示せず,他船から見て,船舶の種類,状態及び大きさを識別できないだけでなく,船舶としての存在を認識できない状況にあったものであり,A受審人の所為は,本件発生の原因とはならない。しかしながら,海難防止の観点から,装備されたレーダーを活用することが望まれる。
 一方,パルVが,錨泊中の法定灯火である白色全周灯を表示していれば前述のとおり,勇勝丸がパルVの存在に気付いて同船を避け,本件は発生しなかったと認められる。
 また,パルVが漁具の標識灯にしか見えない灯火のみを点灯していたことにより,A受審人が,同灯火から近距離のところで転針することとなったものである。
 したがって,B受審人が,法定灯火の表示確認を十分に行うことなく,同灯火である白色全周灯を表示していないことに気付かず,漁具の標識灯にしか見えない灯火のみを点灯していただけで,勇勝丸に対して自船の存在を示さずに錨泊したことは,錨泊中の船舶としての法的保護を認容されるものではなく,本件発生の原因となる。
 B受審人が,白色全周灯を表示していれば,前述のとおり,A受審人がパルVの存在に気付いて,他の2隻の小型船を避けたのと同じようにパルVを避けていたものと認められるから,同人が仮眠していたことは本件発生の原因とならない。

 (海難の原因)
 本件衝突は,夜間,玄界島西方沖合において,パルVが,投錨して錨泊中の法定灯火の表示に切り替えた際,同灯火の表示確認が不十分で,漁具の標識灯にしか見えない灯火のみを点灯していただけで白色全周灯を表示せず,航行中の勇勝丸に対してその存在を示さなかったことによって発生したものである。
 
 (受審人の所為)
 B受審人は,夜間,玄界島西方沖合において,投錨して錨泊中の法定灯火の表示に切り替えた場合,両色灯のスイッチが白色全周灯のスイッチと横方向に狭い間隔で隣接して設けられていたから,誤って白色全周灯のスイッチが切られて同灯を表示しないまま錨泊することのないよう,法定灯火の表示確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,白色全周灯を消すつもりがなかったことから,同灯が消えていることはないものと思い,法定灯火の表示確認を十分に行わなかった職務上の過失により,両色灯を消したとき,白色全周灯のスイッチに指が触れたかして同灯が消えたことに気付かず,漁具の標識灯にしか見えない灯火のみを点灯していただけで白色全周灯を表示しないまま,他船に対して自船の存在を示さずに錨泊を続けて勇勝丸と衝突する事態を招き,勇勝丸の船首外板及び左舷船首部外板に凹損などを,パルVに船外機の脱落及び船尾部外板の亀裂などを生じさせ,自らが腰椎及び右肩関節捻挫を負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,旧法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。



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