平成22年海審第2号
             裁    決
          遊漁船太海丸岩場衝突事件
  言 渡 年 月 日 平成23年3月28日
  審  判  所 海難審判所(清水正男,供田仁男,加藤昌平)
  理  事  官 今泉豊光
  受  審  人 A
     職  名 太海丸船長
     操縦免許 小型船舶操縦士
  補  佐  人 a

             主    文
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を2箇月停止する。

             理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成21年10月25日12時43分
 熊本県大矢野島北岸

2 船舶の要目
 船 種 船 名 遊漁船太海丸
 総 ト ン 数 4.0トン
   登 録 長 10.40メートル
   機関の種類 ディーゼル機関
   出   力 209キロワット

3 事実の経過
(1) 構造及び設備
 太海丸は,昭和62年に進水したFRP製小型兼用船で,船体中央やや後方に操舵室が設けられ,同室前部右舷側に舵輪,その後方に操縦席,同室前面窓の下に魚群探知機及びGPSプロッターが設置され,操縦席の天井には縦横長さ各50センチメートル(以下「センチ」という。)の天窓があり,天窓はその前部を下から押し上げて開放でき,操舵室の屋根には天窓の前方と左右を囲む形で風防,その上方にオーニングが設置され,遊漁船として使用する場合の最大搭載人員は8人であった。
 操縦席は,縦横の長さ各約40センチの座板に背もたれが付いた椅子で,操舵室床から座板までの高さが67センチ,その上面から天井までの高さが96センチであった。
 操舵室の船首側に,船首尾方向の長さ1.91メートル,船体横方向の長さ1.43メートル,高さ1.01メートルの船室があり,操舵室前部左舷側に入り口が設けられていた。

(2) 本件発生に至る経緯
 太海丸は,A受審人が1人で乗り組み,釣り客2人を乗せ,たい釣りの目的で,船首0.4メートル船尾0.9メートルの喫水をもって,平成21年10月25日05時30分熊本県三角港岩谷地区を発し,同地区西方約16海里の早崎瀬戸付近の釣り場に向かった。
 これより先,A受審人は,10月17日から1週間のり養殖の種付け作業を手伝うために自動車で熊本県河内港に行って23日に帰宅し,24日は06時00分から遊漁船業に従事して13時00分係留地である同県串漁港に戻り,漁具の整理,買い物,夕食,テレビ観賞などで過ごした後,翌朝の出港予定が早い時刻であったため,同漁港内に係留していた太海丸に乗船して船室に入り,平素と同じく22時頃就寝し,25日05時00分起床して釣り客の待つ三角港岩谷地区に回航してから発航したもので,十分な睡眠及び休息を取っていた。
 A受審人は,時化た島原湾を西行して,07時00分早崎瀬戸西口付近の釣り場に至って漂泊し,釣り客に釣りを行わせ,機関を時々使用して潮上りをする合間には自らも釣りを行い,10時30分移動を開始し,10時50分同瀬戸東口付近の釣り場に到着後,しばらく釣りを行わせたが釣果が全くなく,釣りをやめて帰港することとし,11時30分湯島灯台の南西方5.0海里の地点を発進し,船体が波を受ける状況であったことから,釣り客を船室に入れて休息させ,三角港岩谷地区へ向けて帰途に就いた。
 A受審人は,時化の中,発進時には操縦席の上に立って天窓を開け,天窓から顔を出して見張りと操舵を行い,その後天窓を閉めて操縦席に腰掛けたり,天窓を開けて操縦席の上に立ったりすることを繰り返し,大矢野島北西方沖合の羽干島を航過したところで操縦席に腰掛け,12時34分少し過ぎ三角灯台から254度(真方位,以下同じ。)1.85海里の地点で,針路を070度に定め,全速力の11.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
 12時36分少し前A受審人は,三角灯台から254.5度1.6海里の地点に達した頃,当日朝から時化の中を航行したことによる肉体的な疲れと,釣果が全くなかったことによる精神的な疲れがあり,大矢野島付近に至って風も海面も穏やかになったことと,入港が近づいた安堵(ど)感とから眠気を催し,操縦席に腰掛けた姿勢で操縦を続けると居眠りに陥るおそれがあったが,もう少しで三角ノ瀬戸に入る予定なので,居眠りすることはないと思い,操縦席の上に立って天窓を開け,天窓から顔を出して外気に当たるなど,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,操縦席に腰掛けて右手で手動操舵に当たっているうち,いつしかうとうとと居眠りに陥った。
 A受審人は,おぼろげながらも針路を保ったものの,大矢野島北端に位置する柴尾山の北西側にある採石場跡を右舷方に見て航過した頃,眠りが深くなり,太海丸は,同人が右手で舵輪の握りの一つを持っていたことから小角度の右舵がとられたかして,右転しながら同島北岸に向首して進行中,12時43分三角灯台から267度400メートルの地点において,その船首がほぼ150度を向いたとき,原速力のまま,同島北岸の岩場に直角に衝突した。
 当時,天候は雨で風力3の北東風が吹き,視界は良好で,潮候は高潮時にあたり,海上は穏やかであった。
 衝突の結果,太海丸は,船首船底部に破口を生じ,船首部の空所に浸水し,A受審人が,携帯電話で救急車の手配を依頼した後,自力航行して串漁港に入港し,後に修理され,船室で頭部を船首側として向き合う形で横になって休息していた釣り客のうち,左舷側にいたBが,頚椎脱臼骨折,脊髄損症を負い,意識のないまま病院に搬送されたが,6日後に蘇生後脳症で死亡し,右舷側にいた1人が,約2箇月間の安静,加療を要する第7,8胸椎圧迫骨折,頚椎捻挫,頭部挫創,背部挫傷及び右前額部擦過傷を負い,A受審人が,衝撃で操縦席から操舵室床に転落して約3週間の加療を要する胸骨骨挫傷,外傷性頚部症候群及び右5指打撲を負った。

 (原因及び受審人の行為)
 本件岩場衝突は,大矢野島北岸沖合において,早崎瀬戸付近の釣り場から帰航中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同島北岸に向首進行したことによって発生したものである。
 A受審人は,大矢野島北岸沖合において,操縦席に腰掛けた姿勢で操縦に当たり,早崎瀬戸付近の釣り場から帰航中,同島付近に至って風も海面も穏やかになったことと,入港が近づいた安堵感とから眠気を催した場合,同じ姿勢で操縦を続けると居眠りに陥るおそれがあったから,操縦席の上に立って,天窓から顔を出して外気に当たるなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかし,同人は,もう少しで三角ノ瀬戸に入る予定なので,居眠りすることはないと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,操縦席に腰掛けた姿勢のまま操縦を続けて居眠りに陥り,小角度の右舵がとられたかして,大矢野島北岸に向首進行して同岸岩場への衝突を招き,船首船底部に損傷を生じさせ,釣り客の1人を死亡させたほか,他の釣り客1人を負傷させ,自らも負傷するに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を2箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。



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