平成22年海審第5号
             裁    決
       瀬渡船フリースタイル翔乗揚事件

  言 渡 年 月 日 平成23年9月29日
  審  判  所 海難審判所(工藤民雄,米原健一,前久保勝己)
  理  事  官 今泉豊光
  受  審  人 A
     職  名 フリースタイル翔船長
     操縦免許 小型船舶操縦士

             主    文
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

             理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成22年6月4日22時45分
 鹿児島県鷹島

2 船舶の要目
 船 種 船 名   瀬渡船フリースタイル翔
 総 ト ン 数   16トン
   全   長   17.45メートル
   機関の種類   ディーゼル機関
   出   力   601キロワット

3 事実の経過
(1) 設備等
 フリースタイル翔(以下「翔」という。)は,平成5年4月に第1回定期検査を受検した,2機2軸を有するFRP製遊漁船兼交通船で,船体中央部甲板上に操舵室とその上にフライングブリッジが,同室の下に機関室が,前部甲板下に船倉及び客室が,後部甲板上に客室がそれぞれ配置され,遊漁船として使用する場合の最大とう載人員が旅客30人及び船員3人であった。
 操舵室は,船首尾方向の長さ4.60メートル幅3.15メートルで,同室内前部には,右舷側に舵輪,主機回転計,主機操作用クラッチ・スロットル兼用レバーなどを組み込んだ操縦卓が,その前面窓際に自動操舵装置及び魚群探知機兼用のGPSプロッターが並び,左舷側の台上にレーダーが取り付けられ,舵輪の後方に操縦席が設置されていた。
 また,フライングブリッジは,船首尾方向の長さ2.90メートル幅2.35メートルで,同ブリッジ前部に主機操作用クラッチ・スロットル兼用レバーと遠隔操舵装置が備え付けられ,同ブリッジでも操船ができるようになっていた。

(2) A受審人の経歴等
 A受審人は,釣り雑誌の記者など,陸上の仕事に従事し,平成8年頃から遊漁船に見習甲板員や甲板員として乗り組んで遊漁船業に関する業務知識を習得したのち,同21年12月に中古船を購入して船名を翔と変更し,翌22年1月鹿児島県知事に遊漁船業の届出を行い,船長を雇い入れて同県串木野港を基地として釣り客の瀬渡しを始めた。
 その後,A受審人は,平成22年3月に現有免許を取得し,同4月10日からは自ら船長として翔に単独で乗り組んで,宇治群島,甑(こしき)島列島及び鷹島などへの釣り客の送迎に当たるようになり,約30回の単独での航行経験を有していた。

(3) 鷹島
 鷹島は,串木野港南西方沖合の,甑島列島の下甑島南端南方約10.5海里にある,最高頂68メートルの岩のほか,大小4つの岩からなる無人の岩の一群で,これらの岩が東西約300メートル南北約200メートルの範囲に近接して存在し,それぞれ1番岩から5番岩と通称されて絶好の磯釣り場となっており,年間を通じて多くの釣り客が串木野港などから瀬渡船により同島に上陸して釣りを楽しむところであった。

(4) 本件発生に至る経緯
 翔は,A受審人が単独で乗り組み,釣り客13人を乗せ,瀬渡しをする目的で,船首0.65メートル船尾1.05メートルの喫水をもって,平成22年6月4日21時00分串木野港の定係地を発し,鷹島に向かった。
 ところで,A受審人は,鷹島に釣り客を度々瀬渡しし,同島に目標となるような標識灯などが設置されていないことを知っていたので,夜間,同島に釣り客を瀬渡しする際には,操舵室で操船に当たってGPSプロッターやレーダーにより鷹島を目標に直行し,レーダーなどや島影の視認により,同島の手前500メートル付近で機関を中立運転として前進惰力で進み,その後,一旦行きあしを止め,釣り客に上陸準備をさせたのち,同島まで約200メートルとなった頃,フライングブリッジに移動して操船に当たり,同ブリッジに設置された投光器で上陸地点を照らしながら目的の岩場に近づき,船首を接岸して釣り客を降ろすようにしていた。
 発航後,A受審人は,釣り客を前部及び後部の各客室で休息させ,自らは操縦席に腰を掛けた姿勢で操船に当たって甑海峡南部を西行したところ,右舷方に南下する貨物船を認め,21時51分頃から右転して同船の進路を避け,その後元の針路に戻すよう左転し,22時00分半釣掛埼灯台から100.5度(真方位,以下同じ。)15.2海里の地点で,GPSプロッターの画面を見て,針路を鷹島に向く239度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけ,20.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で進行した。
 22時36分A受審人は,釣掛埼灯台から151度10.1海里の地点に達したとき,3海里レンジとしたレーダーで鷹島までの距離を測定して3.0海里であることを知り,同島までまだかなり距離があると思って,その後レーダーから目を離し,操縦席に腰を掛けたまま前方を見ながら続航した。
 A受審人は,月明かりのない暗夜で島影を視認できない状況下,22時42分釣掛埼灯台から162度10.4海里の地点に達して,鷹島に1.0海里まで接近したが,同島までまだ距離があるものと思い,レーダーのレンジを適切に変えて鷹島までの距離を確かめるなど,船位の確認を十分に行うことなく,進行した。
 22時44分少し過ぎA受審人は,鷹島との距離が約500メートルとなり,減速予定地点に至ったものの,島影を視認できなかったこともあって,このことに気付かず,減速することも行きあしを止めることもしないまま鷹島に向け続航中,GPSプロッターの画面を見たとき,突然衝撃を受け,22時45分釣掛埼灯台から167.5度10.7海里の地点において,翔は,原針路,原速力のまま,鷹島北東側の4番岩と称する岩の北端に乗り揚げた。
 当時,天候は曇りで風力1の東風が吹き,潮候は上げ潮の末期に当たり,月齢及び月没時刻はそれぞれ21.4及び11時34分で,視界は良好であった。
 乗揚の結果,船尾船底の左舷側外板に破口を生じ,自力で離礁したものの破口から浸水して転覆し,漂流したのち翌5日02時32分鷹島西方6海里付近で沈没し,釣り客のうち11人が乗り揚げた直後4番岩に脱出したほか,A受審人と釣り客2人が近くにいた瀬渡船に救助された。

(原因及び受審人の行為)
 本件乗揚は,夜間,串木野港南西方沖合において,瀬渡しのため釣り客を乗せて同港から鷹島に向け航行中,船位の確認が不十分で,減速予定地点を通過し,減速,行きあしを止めないまま同島に向け進行したことによって発生したものである。
 A受審人は,夜間,瀬渡しのため釣り客を乗せて串木野港から鷹島に向け,同港南西方沖合を航行する場合,月明かりのない暗夜で島影を視認できない状況であったから,同島への接近状況を把握できるよう,レーダーのレンジを適切に変えて同島との距離を確かめるなど,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,鷹島までまだ距離があるものと思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,減速予定地点で減速することも,行きあしを止めることもしないまま鷹島に向け進行して同島への乗揚を招き,船尾船底の左舷側外板に破口を生じて浸水させ,転覆して漂流中に沈没させるに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。



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