平成23年海審第4号
             裁    決
            漁船祇園丸火災事件
   言 渡 年 月 日 平成24年3月27日
   審  判  所 海難審判所(米原健一,小寺俊秋,前久保勝己)
   理  事  官 相田尚武
   受  審  人 A
      職  名 祇園丸機関長
      海技免許 五級海技士(機関)(機関限定・履歴限定)

             主    文

 受審人Aを懲戒しない。

             理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成22年1月8日09時00分
 兵庫県津居山港北方沖合
2 船舶の要目
  船 種 船 名  漁船祇園丸
  総 ト ン 数  80トン
  登  録  長  27.08メートル
  機 関 の 種 類  過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
    出    力  661キロワット
    回 転 数  毎分420

3 事実の経過
(1) 設備及び性能等
ア 船体及び機関室の配置
 祇園丸は,平成元年4月に進水した鋼製漁船で,同18年6月現在の船舶所有者に購入され,駆け回し式沖合底びき網漁業などに従事していた。
 船体は,船橋甲板,船首楼甲板,上甲板で構成され,操舵室が船首楼甲板の中央部に,食堂を兼ねた休憩室が操舵室下の上甲板前部の右舷側にそれぞれ配置され,操舵室床の開口部から休憩室をのぞくことができた。また,機関室が上甲板下の船体中央から少し後方にあって,煙突が上甲板の右舷側に設置されていた。
 機関室は,中央部に機関が据え付けられ,その前方に甲板油圧機械用の主油圧ポンプ(以下「主油圧ポンプ」という。),増速機,同ポンプ用のエアクラッチ(以下「主エアクラッチ」という。)などが,機関の右舷前方に甲板油圧機械用の補助油圧ポンプ(以下「補助油圧ポンプ」という。),同ポンプ用のエアクラッチ(以下「補助エアクラッチ」という。),軸発電機などがそれぞれ設置され,主油圧ポンプ,増速機,主エアクラッチ,補助油圧ポンプ,補助エアクラッチなどの上には鋼製の床板が敷かれていた。
 また,機関室は,同室前壁近くの,主油圧ポンプ上にあたる床板の上に電動式空気圧縮機が,同空気圧縮機前方の機関室前壁に沿って空気源パネル,制御ユニット,エアクラッチ用の空気配管,主油圧ポンプ及び補助油圧ポンプの圧力計などが設置されていたものの,火災探知装置が備え付けられていなかった。
 機関は,前部動力取出軸から主エアクラッチ及び増速機を介して主油圧ポンプを駆動するほか,同取出軸から駆動ベルトを介して軸発電機を,さらに別の駆動ベルト,補助エアクラッチを介して補助油圧ポンプをそれぞれ駆動できるようになっていた。
 主油圧ポンプは,操舵室及び同室後部に備えられた甲板機械操縦室の各押しボタンスイッチで主エアクラッチの嵌脱操作ができるようになっていたものの,圧力計が機関室だけに設置されていた。
イ 主エアクラッチ
 主エアクラッチは,鋼製の内外輪の間にドーナツ状のゴム製可撓(かとう)継手を装着した機関側の駆動回転体(以下「ドラム」という。)と,その外側に同心円状に組み込まれた主油圧ポンプ側の被駆動回転体(以下「ライニング」という。)とで構成され,ライニングの内側には表面にクラッチシューが付いたゴム製エアチューブが接着され,同ポンプを使用するときは空気を同チューブに注入して膨張させ,同チューブがドラムに圧着して機関の動力を同ポンプに伝え,使用を止めるときは同チューブ内の空気を放出するようになっていた。
 また,主エアクラッチは,摩擦熱によるゴム製部品の損傷を防ぐため,嵌脱時などエアチューブの空気圧が不足した状態でのスリップ時間を5秒以内にするように取扱説明書に記載されており,エアチューブの空気圧が不足して半クラッチの状態のまま回転が継続すると,エアチューブがドラムとの摺動による摩擦熱で過熱され,発火するおそれがあったものの,操作空気系統には圧力低下の警報装置も,半クラッチになった際に空気を放出するための安全弁も設けられていなかった。
 主エアクラッチへの操作空気系統は,機関室前部の電動式空気圧縮機によって空気槽に充填された圧縮空気が空気源パネルに導かれ,空気フィルタ,調圧弁及び切換弁を経て7キログラム毎平方センチメートルに調整され,制御ユニットの空気フィルタ,注油器を経由して二方に分岐し,一方が7キログラム毎平方センチメートルのまま電磁切換弁を通って主エアクラッチに供給されるようになっていた。
 操作空気系統の電磁切換弁は,スプール型のもので,シリンダ内のスプールを電磁力によって左右に移動させ,空気流路の切換えや開閉を行っていたが,スプールを移動したときスプールにごみが入るなどして引っ掛かりを生じると,エアチューブの空気圧が不足して半クラッチの状態を招くおそれがあった。
(2) 本件発生に至る経緯
 祇園丸は,船長B及びA受審人ほかインドネシア共和国国籍の甲板員3人を含む5人が乗り組み,かに漁の目的で,平成22年1月8日08時00分兵庫県津居山港を発し,同港北方沖合15海里の漁場に向かった。
 ところで,A受審人は,昭和54年頃から甲板員や機関員として漁船に乗り組むようになり,平成18年7月に現有免許を取得し,同月から祇園丸に機関長として乗り組み,平素,出航に当たっては出航前に機関を起動したあと機関室を巡回して機器の運転状況を確認し,長時間の航海のときには航海中にも機関室を巡回するほか,機関員などに機関の注油などを行わせることがあったものの,短時間の航海では出航直後に機関室を巡回したあと漁場に着くまで自ら機関室に入って機器の運転状況を確認することも,機関員などに指示して機器の運転状況を確認させることもなかった。
 また,A受審人は,甲板油圧機械を使用する際,機関の回転数毎分280ないし300で主油圧ポンプを運転し,航海中には同回転数が370となるので同ポンプを使うことができないことから補助油圧ポンプを運転しており,船長が操舵室にいるときには,主エアクラッチの嵌脱(かんだつ)操作を船長に依頼していた。
 出航に先立ち,A受審人は,07時20分頃祇園丸に赴き,07時30分機関を起動して機関,補機等各機器の運転状況が良好であることを確認した後,上甲板に移動して他の乗組員に加わり,主油圧ポンプを運転し甲板油圧機械を使用して漁網を移動するなどの作業に当たり,同作業を終了した後,07時50分操舵室にいたB船長に同ポンプの停止を依頼した。
 A受審人は,B船長が主油圧ポンプの停止用押しボタンスイッチを押したものの電磁切換弁が作動不良になり,操作用空気が主エアクラッチのエアチューブから十分に排出されないで半クラッチのまま,エアチューブとドラムとがスリップ状態で,主エアクラッチが回転を続ける状況下,08時00分過ぎ離岸作業を終えたあと機関室に戻って巡回を始めた。
 A受審人は,主エアクラッチのエアチューブとドラムとがスリップ状態のまま主エアクラッチの回転が続いていたものの,異音や異臭を感じなかったことから機関室内に異常はないものと判断し,機関室を巡回した後,操舵室下の休憩室に向かった。
 祇園丸は,B船長が単独の船橋当直に就き,機関を全速力前進の回転数毎分370にかけ,10.0ノットの対地速力で,漁場に向けて北上中,主エアクラッチのエアチューブがドラムとの摺動による摩擦熱で過熱されたことによっていつしか発火し,やがて機関室に煙が充満した。
 A受審人は,休憩室にいたところ,B船長が煙突から出ている黒煙を見るなどして機関室の異常に気付き,操舵室後部床の開口部から休憩室をのぞき込んでそのことを伝えたので,急いで機関室に赴いた。
 祇園丸は,09時00分猫埼灯台から真方位002.5度8.5海里の地点において,A受審人によって機関の船首側に炎が立ち上っているのが発見された。
 当時,天候は曇りで風力5の北北西風が吹き,波高は約2メートルであった。
 A受審人は,B船長に火災の発生を知らせるとともに他の乗組員と持運び式消火器で消火活動を行ったものの,煙が激しくて消火できず,操舵室から機関を停止し,通風を止めるなどして機関室を閉鎖した。
 祇園丸は,海上保安庁及び僚船に救助を要請し,来援した僚船によって12時頃津居山港に引き付けられ,待機していた消防署員によって鎮火が確認された。
 その結果,主エアクラッチのエアチューブ,ドラムなどのエレメント部品,電動式空気圧縮機,補助エアクラッチ,軸発電機駆動用ベルトなどが焼損し,のち修理された。

(原因及び受審人の行為)
 本件火災は,兵庫県津居山港において,甲板油圧機械用の主油圧ポンプを停止した際,主エアクラッチの操作空気系統に設置された電磁切換弁が作動不良となって主エアクラッチが半クラッチ状態となり,同港を出航して北方沖合の漁場に向かって航行中,主エアクラッチのエアチューブがドラムとの摺動による摩擦熱により発火したことによって発生したものである。
 電磁切換弁が作動不良となった原因については,明らかにすることができない。
 A受審人を懲戒しない。

 よって主文のとおり裁決する。



参考図(PDF)へ 東京の裁決一覧 トップページへ