平成23年海審第3号
             裁    決

    貨物船エムオーエル ディスカバリー防波堤衝突事件

  言 渡 年 月 日 平成25年6月7日
  審  判  所 海難審判所(清水正男,小寺俊秋,藤岡善計)
  理  事  官 米原健一
  受  審  人 A
     職  名 エムオーエル ディスカバリー水先人
     水先免許 大阪湾水先区一級水先人

             主    文

 受審人Aの大阪湾水先区一級水先人の業務を1箇月停止する。

             理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成21年12月30日18時49分
 阪神港大阪第1区

2 船舶の要目
  船 種 船 名 貨物船エムオーエル ディスカバリー
  総 ト ン 数 42,812トン
  全     長 253.27メートル
  機 関 の 種 類 ディーゼル機関
   出    力 27,868キロワット

3 事実の経過
(1) 設備及び性能等
 エムオーエル ディスカバリー(以下「エ号」という。)は,1991年に建造された船尾船橋型コンテナ船で,船首端から約190メートル後方に船橋楼前面があって,船橋楼の前方に船首側から順に1番から6番まで,船橋楼の後方に7番の各貨物倉が設けられ,甲板上4段積みとした場合,20フィートコンテナ換算で2,912個のコンテナを搭載できるようになっていた。
 船橋楼には,キール上面からの高さ約38メートルのところに航海船橋甲板が設けられ,同甲板中央部に船首尾方向の長さ約11メートル及び幅約12メートルの操舵室が配置されており,同室の両舷には,ウイングが船幅の範囲で設けられていた。
 操縦性能表によれば,バラストコンディションにおける速力は,航海速力が24.6ノット,港内速力の極微速力,微速力,半速力及び全速力前進の各速力が,6.0ノット,8.0ノット,10.0ノット及び12.0ノットであった。また,舵角35度とした場合の旋回性能は,左及び右旋回時とも港内全速力前進における最大縦距が782メートル,最大横距が495メートル,半速力前進における最大縦距が793メートル,最大横距が471メートルであった。
(2) 大阪第1区及び内港航路
 大阪第1区(以下,港区の名称については,「大阪」の冠称を省略する。)は,その西側の夢洲,北側の舞洲,東側の大阪市此花区北港及び梅町のふ頭並びに南側の南港北ふ頭に囲まれた水域で,夢洲の南端となる大阪北港南防波堤の先端に設置された大阪北港南防波堤灯台(以下「北港防波堤灯台」という。)と,南港北ふ頭の北西端となる大阪南防波堤(以下「南防波堤」という。)の先端に設置された大阪南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)とを結ぶ線が第1区と第6区の港区界線となっており,この間約550メートルの水域が大関門と称されていた。
 また,南防波堤は,南防波堤灯台から134度(真方位,以下同じ。)約90メートルの地点を基点として北西方向へ築造されており,その先端の長さ約13メートル,幅約11メートル及び高さ約15メートルのケーソンに南防波堤灯台が設置されていた。
 内港航路は,その西端が大関門の西方約0.5海里に位置し,大関門を経て港奥の安治川航路に接続する航路で,長さ約1.5海里,幅170メートルないし500メートル,水深13メートルないし14メートルであった。
(3) A受審人の経歴及び水先業務経験
 A受審人は,平成21年3月大阪湾水先区一級水先人免許を取得し,同年4月から1週間他の水先人が水先業務を行う船舶に同乗して経験を積んだ後,同月から単独での水先業務を開始した。そして,その後,水先業務開始から本件発生前までの約9箇月間で,入港船83隻,出港船61隻の水先業務を行い,そのうちコンテナ船については入港船42隻,出港船43隻で,さらに,総トン数4万トン以上のコンテナ船については,入港船1隻,出港船2隻の実績があった。
(4) B水先人会のエ号の水先引受け状況等
ア B水先人会の規定等
 B水先人会(以下「水先人会」という。)の水先約款(以下「水先約款」という。)には,水先の制限として,天侯,本船の状態,積荷の種類又は水路等の状況に照らし,運航に危険のおそれがあるときは水先をしないことがある旨の規定があり,また,水先を求めようとする者は申込み時に総トン数,全長,喫水等を水先人会に通知することなどを定めていた。
イ A受審人のエ号水先業務に対する準備等
 A受審人は,平成21年12月30日朝の水先業務を終了して自宅で待機していたところ,16時頃水先人会からエ号の水先業務を担当するように連絡を受け,同会の事務所に赴き,エ号の総トン数,全長,幅等の要目,着岸舷等の情報及び気象資料を入手したものの,予想出港喫水の連絡がなく,A受審人がエ号において確認することになっていた。また,エ号乗船後に同船船長に説明する資料として,エ号を離岸させた後に左回頭して内港航路に向かい,同航路を西行して大関門を通過し,下船予定地点に至る離岸出港計画書を作成した。
ウ 気象情報の入手状況等
 水先人会は,一般財団法人日本気象協会からインターネットによる港湾天気予報の提供を受け,情報が更新される度に印刷した港湾天気予報を水先業務に就く水先人に配布していた。
 A受審人は,港湾天気予報により,阪神港大阪区では30日夕方から風が強まり,18時の風は風向西,最大瞬間風速毎秒14メートル(以下,風速については毎秒のものを示す。)となることや,その他の気象予報から夜は風が更に強まる旨の情報を得たものの,水先約款には抵触しないものと判断した。
 なお,同日12時19分大阪管区気象台から大阪市に強風波浪注意報が発表されていた。
(5) 本件発生に至る経緯
 エ号は,12月30日14時00分第1区にある夢洲南東岸のコンテナふ頭第11岸壁(以下「第11岸壁」という。)に船首を港奥に向けて左舷着けし,コンテナ貨物の揚げ荷役を開始した。
 A受審人は,エ号の出港水先業務を行うため,自身から引き継いで大阪湾における水先業務を行う予定の水先人(以下「ベイパイロット」という。)と共に陸路で第11岸壁に向かい,折から強風波浪注意報が発表されて風力5の北西ないし西北西の風が吹く状況下,日没後の薄明となった17時25分頃同岸壁に到着し,揚げ荷役終了間近のエ号の船体を見て,喫水が浅い上,船尾トリムが大きい状態であることを初めて知った。
 A受審人は,エ号に乗船して船長Dと打合せを行い,空倉のまま解撤する港へ向かう航海であること及び燃料,海水バラスト等の搭載量も少ない旨の説明を受けたが,水先約款に定める運航に危険のおそれがある状況ではないと判断し,荷役が終了した後,パイロットカードを受け取り,船首3.20メートル船尾7.20メートルとなった喫水が浅く過大な船尾トリムの状態で,予定どおり出航することとした。
 A受審人は,乗組員が出港配置に就き,船橋にD船長,テレグラフ操作の一等航海士及び操舵の甲板手が配置された状況で離岸準備作業を開始し,右舷船首に引船河内丸,右舷船尾に引船とらいとんの各えい航索を取って離岸の準備を整えた。
 ところで,A受審人は,離岸準備の作業中,水先船ろっこう船長からトランシーバーで,ベイパイロットに引き継いだ後の下船地点について,大関門の外側は風が強く波が高いことから下船が困難であり,大関門に至る前に下船してもらいたい旨の申出があったが,下船時刻を早めることは,水先人用はしごの準備に要する時間が足りないことから無理と判断し,予定どおり大関門を通過した後にベイパイロットに水先業務を引き継いで下船することとした。
 エ号は,クロアチア共和国籍のD船長ほかモンテネグロ国籍,ルーマニア国籍及びフィリピン共和国籍の21人が乗り組み,A受審人がきょう導し,解撤地に回航する目的で,空倉のまま,18時30分第11岸壁を発し,中華人民共和国黄埔港に向かった。
 係留索を放したとき,A受審人は,乗船後徐々に強まった西北西風が風速10メートルを超え,最大瞬間風速が15メートルとなったことを知り,その風を左舷側から受けたエ号の離岸状況を見て,喫水が浅く過大な船尾トリムの状態であったことから,風圧の影響が大きいことを認めたものの,操船に支障を感じないまま出港作業を続けた。
 A受審人は,エ号を第11岸壁に平行に離した後,岸壁の前面で引船を用いて左回頭を始め,18時40分北港防波堤灯台から060度1,300メートルの地点で,第11岸壁から約500メートル離れ,船首方向が大関門の中央わずか北側に向く233度となり,速力が0.4ノット(対地速力,以下同じ。)となったとき,回頭を終えて2隻の引船の各えい航索を放した。
 回頭を終えたとき,A受審人は,西北西風が風力6に強まって,最大瞬間風速18メートルとなった状況下,離岸出港計画のとおり内港航路を西行して大関門に向かう予定で針路を215度に令し,機関を微速力前進にかけ,内港航路に向けて航行を開始した。
 エ号は,回頭を終えた頃から,強まった西北西風を右舷側に受けて急速に風下に圧流され始め,18時42分少し過ぎ船首が215度を向き速力が3.0ノットとなったとき,26度左方に圧流される状況になった。
 A受審人は,その後,船首を大関門に向けるつもりで針路を230度に令し,南防波堤灯台との位置関係及びジャイロコンパスによる船首方位の変化を見ていたものの,夜間であったことから急速に風下に圧流されていることに気付かないまま操船に当たり,18時44分北港防波堤灯台から073度1,090メートルの地点で,船首が222度を向き速力が4.4ノットまで増速した状況で,内港航路の北側境界線を航過した。
 内港航路の北側境界線を航過したとき,A受審人は,ようやく船首が南防波堤に向く態勢で風下に圧流されていることを知り,喫水が浅く過大な船尾トリムの状態であったことから,大きく圧流されて風下の南防波堤に著しく接近するおそれがあったが,引船の支援があれば何とか大関門を通過できるものと思い,速やかに港内全速力前進を令して舵効を確保し,風圧差を考慮して風上に向かう針路とするなど,風圧流に対する措置を適切にとることなく,エ号の右舷後方で待機していたとらいとんに左舷船首を押させて大関門に向かうことにした。
 A受審人は,右舵20度を令した後,18時44分半船首が223度を向き速力が4.6ノットとなったとき,一旦機関を停止し,とらいとん船長に対してエ号の左舷船首を押すようトランシーバーで連絡を取り,その後,再び機関と舵とを使用して進路の保持に努め,間もなく左舷船首部に到着したとらいとんが,内港航路の中央付近を斜航する態勢のエ号を押し始めたものの,エ号は,依然として26度左方に圧流されて風下の南港北ふ頭の北側岸壁(以下「北側岸壁」という。)に接近した。
 こうして,A受審人は,とらいとんがエ号と北側岸壁との間に挟まれる状況となったことから,18時46分とらいとんに対し作業を中止してエ号から離れるよう指示し,とらいとんが離れた後,引き続き機関と舵を種々に使用して北側岸壁との距離を広げようとしたものの,18時49分北港防波堤灯台から123度550メートルの地点において,エ号は,船首が268度を向き,速力が5.7ノットとなったとき,その左舷前部が北側岸壁北西端の南防波堤先端部に衝突した。
 当時,天候は曇りで風力6の西北西の風が吹き,波高は約1メートルで,潮候は下げ潮の初期に当たり,大阪管区気象台から強風波浪注意報が発表されていた。
 A受審人は,機関を全速力前進にかけて大関門を通過した後,19時30分阪神港堺泉北区に錨泊したが,荒天で下船することができず,平成22年1月1日午前ベイパイロットと共に下船した。
 衝突の結果,エ号は,左舷前部水面付近の外板に破口を生じ,南防波堤は,その先端3基のケーソンが移動するなど損傷を生じ,南防波堤灯台が傾斜したが,のち,いずれも修理された。

 (原因及び受審人の行為)
 本件防波堤衝突は,夜間,第1区において,強風波浪注意報が発表された状況下,大関門に向けて出航中,風圧流に対する措置が不適切で,南防波堤に向けて圧流されたことによって発生したものである。
 A受審人は,夜間,第1区において,強風波浪注意報が発表された状況下,水先業務に当たって大関門に向け出航中,船首が南防波堤に向く態勢で風下に圧流されていることを知った場合,喫水が浅く過大な船尾トリムの状態であったため,大きく圧流されて風下の南防波堤に著しく接近するおそれがあったから,同防波堤と十分な距離を隔てて大関門を安全に航過できるよう,すみやかに港内全速力前進を令して舵効を確保し,風圧差を考慮して風上に向かう針路とするなど,風圧流に対する措置を適切にとるべき注意義務があった。しかし,同人は,引船の支援があれば何とか大関門を通過できるものと思い,風圧流に対する措置を適切にとらなかった職務上の過失により,南防波堤に向けて圧流されて同防波堤への衝突を招き,左舷前部水面付近の外板に破口を,南防波堤に損傷をそれぞれ生じさせ,南防波堤灯台を傾斜させるに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の大阪湾水先区一級水先人の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。



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