平成24年海審第1号
             裁    決

           油送船昇興丸火災事件

  言 渡 年 月 日 平成25年2月8日
  審  判  所 海難審判所(松浦数雄、小寺俊秋、内山欽郎)
  理  事  官 平井透
  受  審  人 X
     職  名 昇興丸機関長
     海技免許 四級海技士(機関)(機関限定)
  補  佐  人 x

             主    文

 受審人Aを戒告する。

             理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成22年3月15日15時25分
 千葉県野島埼東方沖合
2 船舶の要目
  船 種 船 名 油送船昇興丸
  総 ト ン 数 922トン
  全     長 77.00メートル
  機 関 の 種 類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
   出    力 1,618キロワット
   回  転  数 毎分280
3 事実の経過
(1) 設備及び性能等
 ア 船体及び機器の配置等
  昇興丸は,平成6年1月に進水した,5個の貨物油倉を備え,主機の燃料油として主にC重油を使用し,東京湾諸港と東北地方諸港間のA重油又はC重油の輸送に従事する船尾船橋型鋼製油送船で,C重油の燃料油タンクを加熱するための排ガス式熱媒油ヒータ(以下「排ガスヒータ」という。)及びC重油積載時の貨物油倉を加熱するとともにC重油の燃料油タンクを加熱できる熱媒油ボイラを装備し,船尾楼の上に3層の船橋楼が設けられていた。
  船橋楼は,上部から順にコンパス甲板,船橋甲板及び端艇甲板となっており,コンパス甲板には容量1,500リットルの熱媒油膨張タンク(以下「膨張タンク」という。)が備え付けられて船橋甲板に操舵室があり,端艇甲板の煙突内に排ガスヒータが,その直下に排ガスヒータ用排ガスダンパ(以下「排ガスダンパ」という。)がそれぞれ備えられ,船尾楼甲板の下方が上段及び下段に分かれた機関室となっていた。
  機関室は,長さ11.6メートル最大幅11.6メートル高さ6.3メートルで,上段には,前部左舷側に監視室が設けられ,後部中央に熱出力150万キロカロリー毎時の熱媒油ボイラが,後部左舷側に排ガスヒータ用熱媒油循環ポンプ(以下「循環ポンプ」という。)が,下段には,中央部に備え付けられた主機の左舷側に熱媒油充填排出ポンプ(以下「充填排出ポンプ」という。)がそれぞれ配置されていた。そして,二重底の前部中央に容量約2,860リットルの熱媒油ためタンク(以下「油ためタンク」という。)が設置されていた。
 イ 排ガスヒータ
  排ガスヒータは,D社(以下「メーカー」という。)が製造したKTH−S17型と呼称する,主機の排ガスを利用して加熱した熱媒油を媒体としてC重油の燃料油タンクを加熱する装置で,8列の鋼製加熱管群を有し,主機負荷85パーセント時に熱出力11万キロカロリー毎時,加熱管内の熱媒油保有量90リットル,同油最高使用温度220度(摂氏,以下同じ。),同油常時使用温度180度の仕様となっていた。
  排ガスヒータ本体は,据え付け台からの高さ(以下「高さ」という。)が1,927ミリメートル(以下「ミリ」という。)船首尾方向の長さが1,200ミリ船体横方向の長さが816ミリで,右舷側外面には,ほぼ中央に差圧スイッチユニットが,船尾側外面右側には,高さ985ミリのところに熱媒油入口弁(以下「入口弁」という。)が,高さ1,235ミリのところに熱媒油出口弁(以下「出口弁」という。)が,高さ320ミリのところに熱媒油充填排出弁(以下「充填排出弁」という。)がそれぞれ取り付けられ,船首側に点検ドアが設けられていた。
  排ガスヒータの構造は,高温の主機排ガスが,煙道から排ガスダンパを通って同ヒータに入り,加熱管群の間を上昇しながら加熱管内の熱媒油と熱交換を行った後,上部出口から煙突を経て大気に排出される一方,引火点208度発火点350度の熱媒油が,入口弁を通って入口管寄(かんよせ)から加熱管群に入り,加熱されて出口管寄から出口弁を通り,循環ポンプによりC重油の燃料油タンクへと送られて熱を放出した後,再び排ガスヒータへ循環するようになっていた。そして,排ガスヒータを休止状態とするときには,排ガスダンパの仕切板及びダンパ羽根により主機の排ガスを排ガスヒータから煙道にバイパスするようになっていた。
(2) 本件発生に至る経緯
 昇興丸は,船長Y及びX受審人ほか6人が乗り組み,A重油2,050.057キロリットルを積載し,船首4.0メートル船尾5.7メートルの喫水をもって,平成22年3月14日13時15分千葉港千葉区を発し,青森港に向かった。
 ところで,X受審人は,昭和53年頃から漁船に甲板員又は機関員として乗り組み,同56年2月に現有免許を取得して同62年頃機関長となり,平成4年から同12年まで遊覧船の機関長を経験した後,同13年からE社(以下「会社」という。)の所有船に一等機関士として,同17年から機関長として乗り組んでおり,同社所有各船には排ガスヒータ及び熱媒油ボイラが搭載されていたので,それらの運転については約10年間の経験があった。
 X受審人は,20時15分頃排ガスヒータを運転状態として千葉県布良鼻沖合を東行中,当直航海士からの連絡を受けて,煙突から多量の白煙が出ていることを認め,Y船長に機関各部の点検を要する旨を報告した。そして,22時15分同県館山港外に錨泊した後,各部を点検したところ,熱媒油が端艇甲板床面に付着しているのを認めた。
 X受審人は,排ガスヒータを休止状態として点検ドアを開放しようとしたところ,同ヒータ内部に炎を認め,加熱管に破口が生じて漏えいした熱媒油が発火していると判断し,一旦同ドアの開放を取り止めてY船長を経由し会社の担当者にその旨を報告した。
 翌15日朝X受審人は,温度が低下して炎が消えた排ガスヒータの点検ドアを開放して内部を点検したところ,差圧スイッチユニットの圧力計(以下「圧力計」という。)より少し高い位置にある加熱管群の一部が熱媒油で湿っていることを認めたものの,漏えいした加熱管を特定することができないまま,点検ドアを復旧した。
 11時00分頃X受審人は,メーカーの担当者から,加熱管に破口が生じた排ガスヒータを休止状態とするには,入口弁を閉じて膨張タンクの仕切弁,出口弁及び充填排出弁を開け,充填排出ポンプを使用して膨張タンク及び加熱管内の熱媒油を油ためタンクへ排出すること,主機排ガスが排ガスヒータに流入した際に備えて膨張ラインから充填排出ラインへ圧縮空気を送り加熱管内の残留油を完全に排出すること及び残留油の気化膨張に備えて圧力を逃がすため圧力計を取り外すことなどの,各作業項目と各弁の操作手順がそれぞれ記載され,図面が付された文書(以下「作業手順文書」という。)をファクシミリで受信した。
 X受審人は,作業手順文書受信後に,メーカーの担当者と同文書に記載された作業手順について電話で打ち合わせたものの,熱媒油排出のための弁操作手順を理解できなかったうえ,過去に充填排出ポンプを使用した熱媒油充填作業がうまくできなかったこともあって,充填排出ポンプを使用しなくても,排ガスヒータ最下部にある充填排出弁を開ければ熱媒油が加熱管から排出されるものと思い,再度メーカーの担当者と連絡をとって疑問点を問い合わせた上で,作業手順文書に記載された方法で熱媒油の排出を行うなど,加熱管から熱媒油を排出する措置を適切にとることなく,充填排出ポンプ回りの各弁を閉じたまま充填排出弁を開けるとともに,径6ミリの圧力計の導管を取り外し,そのとき加熱管から漏れ出した熱媒油約0.2リットルを排出しただけで,Y船長に排ガスヒータを休止状態とするための作業を終えたと報告した。
 こうして,昇興丸は,13時15分抜錨して青森港に向け発進し,多量の熱媒油が加熱管内に残留したまま排ガスヒータを休止状態とし,主機を全速力前進の回転数毎分252にかけ,プロペラ翼角14度として10.5ノットの対地速力で千葉県南岸沖合を航行中,排ガスヒータ加熱管内に残留していた熱媒油が,排ガスダンパから漏えいした360度ないし380度の排ガスにより徐々に加熱されて膨張し,取り外していた圧力計の導管から漏出した熱媒油が,直下にある排ガスダンパの高温部に降りかかって着火し,周囲に塗装されていたペイント等に燃え移って延焼していたところ,15時25分野島埼灯台から真方位096度4.6海里の地点において,巡視中の一等機関士が排ガスヒータ下部右舷側付近で炎と黒煙が出ているのに気付き,火災を発見した。
 当時,天候は曇りで風力3の南南西風が吹き,海上は穏やかであった。
 X受審人は,一等機関士から排ガスヒータに火災が発生しているとの報告を受けたので,操舵室に急行して主機を停止し,乗組員全員で持運び式消火器による初期消火を行った後,雑用海水ポンプを使用して消火ホースにより海水を放水し,16時00分鎮火を確認した。
 昇興丸は,その後来援した引船によって神奈川県横須賀港に引き付けられた。
 火災の結果,排ガスヒータの空気制御ユニット及び差圧スイッチユニット等に焼損を,熱媒油ボイラの電気配線等に濡損を生じ,後修理された。

(原因及び受審人の行為)
 本件火災は,加熱管に破口が生じた排ガスヒータを休止状態とするに当たり,加熱管から熱媒油を排出する措置が不適切で,多量の熱媒油が加熱管内に残留したまま排ガスヒータを休止状態とし,主機を全速力前進にかけて千葉県南岸沖合を航行中,加熱管内に残留していた熱媒油が排ガスダンパから漏えいした排ガスにより加熱されて膨張し,取り外していた圧力計の導管から漏出した熱媒油が,排ガスダンパの高温部に降りかかって着火したことによって発生したものである。
 X受審人は,加熱管に破口が生じた排ガスヒータを休止状態とする場合,メーカーから受信した作業手順文書記載の,同ヒータから熱媒油を排出するための弁操作手順を理解できなかったのだから,メーカーの担当者と連絡をとって疑問点を問い合わせた上で,作業手順文書に記載された方法で熱媒油の排出を行うなど,加熱管から熱媒油を排出する措置を適切にとるべき注意義務があった。ところが,同人は,過去に充填排出ポンプを使用した熱媒油充填作業がうまくできなかったこともあって,排ガスヒータ最下部にある充填排出弁を開ければ熱媒油が加熱管から排出されるものと思い,加熱管から熱媒油を排出する措置を適切にとらなかった職務上の過失により,多量の熱媒油が加熱管内に残留したまま排ガスヒータを休止状態とし,主機を全速力前進にかけて千葉県南岸沖合を航行中,加熱管内に残留していた熱媒油が排ガスダンパから漏えいした排ガスにより加熱されて膨張し,取り外していた圧力計の導管から漏出した熱媒油が,直下にある排ガスダンパの高温部に降りかかって着火し,排ガスヒータ右舷側付近が火災となる事態を招き,同ヒータの空気制御ユニット等に焼損などを生じさせるに至った。
 以上のX受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。



参考図(PDF)へ 東京の裁決一覧 トップページへ