平成24年海審第3号
             裁    決

         瀬渡船かもめ丸釣客死亡事件

  言 渡 年 月 日 平成25年10月31日
  審  判  所 海難審判所(西村敏和,門戸俊明,福島千太郎)
  理  事  官 阿部直之
  受  審  人 A
     職  名 かもめ丸船長
     操縦免許 小型船舶操縦士
  補  佐  人 a

             主    文

 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

             理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成23年8月18日14時32分
 鹿児島県加計呂麻島東方沖

2 船舶の要目
 船 種 船 名 瀬渡船かもめ丸
 登  録  長 11.20メートル
 機 関 の 種 類 ディーゼル機関
  出    力 209キロワット

3 事実の経過
 かもめ丸は,最大搭載人員が船員1人及び旅客10人のFRP製瀬渡船で,A受審人が1人で乗り組み,釣り客Bを収容する目的で,船首0.5メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,平成23年8月18日14時10分鹿児島県古仁屋港の加計呂麻島生間地区を発し,同島東部のカネンテ埼南東方沖にある三角岩と称する水上岩(以下「三角岩」という。)に向かった。
 これより先,A受審人は,かもめ丸に1人で乗り組み,06時30分生間地区を発し,07時00分古仁屋港の奄美大島古仁屋地区で,今回が2回目の乗船となるB釣り客を乗せて三角岩に向かい,同釣り客を同岩の北側に降ろした後,生間地区に戻って自宅で待機中,当初16時00分に同釣り客を迎えに行く予定であったところ,13時30分頃,同釣り客から15時00分に迎えに来てほしい旨の,さらに,14時00分頃,14時30分に迎えに来てほしい旨の電話連絡を受けたので,予定よりも早く出航した。
 ところで,かもめ丸は,船体のほぼ中央部に操舵室を配し,同室の前部中央に舵輪及び右舷側に機関遠隔操縦レバーが設置され,船首部に旅客を乗下船させる際の通路となる前方に突き出た部分(以下「船首張出部」という。)があって,両側に1.13メートルの間隔で手すりが設置され,同張出部先端上面の高さが海面上1.54メートルで,同張出部の下側には,自動車のタイヤが防舷材として取り付けられていた。A受審人は,旅客不定期航路事業の届出を行って海上タクシーとして運航する傍ら,平成12年からかもめ丸を使用して磯等渡しなどの遊漁船業を営んでいたが,遊漁船業の適正化に関する法律の規定に基づく鹿児島県知事の登録を受けていなかった。
 また,カネンテ埼の南東方沖には,三角岩を含む複数の水上岩が点在しており,三角岩は,同埼南東岸寄りにある南北方向の長さが約15メートルの岩で,同岩中央付近の最も高いところが海面上約3メートルの高さであった。
 A受審人は,かもめ丸を三角岩に着けて釣り客を乗下船させるときには,船首張出部を岩に押し付けて動かないようにすると安全であるので,いつもは同岩北側の高い所に着けることにしており,同岩に同張出部が約1メートルまで接近したところで約1秒間後進をかけて一旦行きあしを止め,その後,微速力前進にかけて同張出部を岩に押し付け,動かないようにした後に釣り客を乗下船させていた。
 A受審人は,加計呂麻島の北岸沿いに東行してカネンテ埼南東方沖に至り,B釣り客を三角岩で下船させたときに同岩の北側に着けたので,乗船させるときも同岩の北側に着けることにし,14時31分同岩の北側から約10メートル北方沖にあたる,待網埼灯台から137.5度(真方位,以下同じ。)1,710メートルの地点に達したとき,シャツ,ズボン及び磯足袋を着用し,救命胴衣を着用していない同釣り客が,同岩南側の高さが海面上約0.5メートルの所に立ち,同岩南側に着けるように手招きしたのを認めた。
 A受審人は,B釣り客が立っていた三角岩の南側は船首張出部の先端よりも低く,同張出部を岩に押し付けて動かないようにすることができないので,これまでも三角岩の南側に着けたことがなく,また,同岩の南側に東方から接近する際,うねりを船尾方向から受けることになり,船首張出部をB釣り客の付近に近づけると,接近中にうねりを受けて船首が上下動した場合,同張出部が同釣り客に接触するおそれがあったが,同釣り客が,両手にクーラーボックスを持っていたので,同岩北側の高い所に移動するのが難しく,早く帰りたがっているものと思い,同釣り客に対し,同岩の北側に移動するよう要請して乗船させるなど,同釣り客の安全確保を十分に行うことなく,同岩の南側で船首張出部を同釣り客の付近に近づけて乗船させることにし,同岩南側の東方沖に移動した。
 A受審人は,操舵室の中央で腰を掛けて操船に当たり,14時31分半,待網埼灯台から137.5度1,760メートルの地点で針路を270度とし,機関回転数毎分500の微速力前進として2.4ノットの対地速力で,同室前面中央の窓越しにB釣り客を正船首方に見て,東方からのうねりを船尾方から受けながら同釣り客に向けて接近を始めた。
 こうして,A受審人は,船首張出部が三角岩の南側に接近したところで機関を後進にかけて一旦行きあしを止めた後,14時32分僅か前,微速力前進にかけてB釣り客に向けて接近を始め,14時32分待網埼灯台から138度1,740メートルの地点において,船首が270度を向き,僅かな前進行きあしとなったとき,船尾方から波高約1メートルのうねりを受け,船首が上下動して船首張出部が前方に立っていた同釣り客の胸のあたりに接触し,同釣り客が後方に転倒して三角岩の西側から海中に転落した。
 当時,天候は晴れで風力2の西北西風が吹き,潮候は下げ潮の末期に当たり,東方から波高約1メートルのうねりがあった。
 A受審人は,三角岩の北側に着けて同岩に渡り,転落したB釣り客を探したが,クーラーボックス1個が同岩西側の海面に浮いていたものの,同釣り客を発見することができず,携帯電話で海上保安庁に118番通報して救助を要請した後,同岩西方の水深が浅くてかもめ丸による捜索ができなかったので,付近を通りかかった小型漁船に同釣り客の捜索を依頼した。
 その結果,B釣り客は,15時00分頃,小型漁船の乗組員によって三角岩北西方の海底で発見され,引き揚げられて病院に搬送されたが,死亡が確認され,溺死と鑑定された。

 (原因の考察)
 本件釣客死亡は,加計呂麻島カネンテ埼南東方沖の三角岩において,船尾方からうねりを受ける状況下,B釣り客を三角岩からかもめ丸に乗船させるために同岩に接近する際,船首張出部が同釣り客に接触し,同釣り客が海中に転落したことによって発生したものである。
 A受審人は,B釣り客を三角岩からかもめ丸に乗船させる場合,同釣り客が立っていた三角岩の南側は,海面から約0.5メートルの高さであり,船首張出部を岩に押し付けて動かないようにすることができないため,同張出部を同釣り客の付近に向けて接近すると,うねりを受けて船首が上下動した際に同張出部が同釣り客に接触するおそれがあった。
 したがって,A受審人は,B釣り客をかもめ丸に乗船させるために三角岩に接近する際,同釣り客に対し,船首張出部を押し付けて動かないようにすることができる同岩の北側に移動するよう要請して乗船させるなど,同釣り客の安全確保を十分に行わなければならなかったが,これを行わず,三角岩の南側に立っている同釣り客に向けて接近中,うねりを受けて船首が上下動したときに同張出部が同釣り客に接触し,同釣り客を海中に転落させたことは,本件発生の原因となる。
 A受審人は,磯等渡しなどの遊漁船業を営む場合には,遊漁船業の適正化に関する法律の規定に基づき,鹿児島県知事の登録を受けるとともに,利用者の安全の確保策等を盛り込んだ遊漁船業の実施に関する規程(業務規程)を定めて届出を行い,利用者に磯等の上においては救命胴衣を着用することを指示するとともに,乗下船時などにおける注意事項を周知徹底するなどして,利用者の安全確保に努めなければならない。

 (原因及び受審人の行為)
 本件釣客死亡は,加計呂麻島カネンテ埼南東方沖の三角岩において,東方からのうねりがある状況下,釣り客をかもめ丸に乗船させるために同岩に接近する際,釣り客の安全確保が不十分で,船尾方向からうねりを受けながら釣り客に向けて接近し,船首張出部を釣り客に接触させ,釣り客が海中に転落したことによって発生したものである。
 A受審人は,加計呂麻島カネンテ埼南東方沖の三角岩において,東方からのうねりがある状況下,釣り客をかもめ丸に乗船させるために同岩に接近する場合,同岩の南側は高さが低いために船首張出部を押し付けて動かないようにすることができず,うねりを受けて船首が上下動したときに同張出部が釣り客に接触するおそれがあったから,釣り客に対し,船首張出部を押し付けることができる同岩の北側に移動するよう要請して乗船させるなど,釣り客の安全確保を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同受審人は,釣り客が両手にクーラーボックスを持っていたので三角岩の北側に移動するのが難しく,早く帰りたがっているものと思い,釣り客の安全確保を十分に行わなかった職務上の過失により,同岩の南側に立っている釣り客の付近に船首張出部を近づけようとして同人に向けて接近したところ,うねりを受けて船首が上下動し,船首張出部が釣り客に接触して海中に転落させる事態を招き,釣り客を死亡させるに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して,同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。



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