平成24年海審第7号
             裁    決

         旅客船ドラゴン ナイト遭難事件

  言 渡 年 月 日 平成25年6月7日
  審  判  所 海難審判所(松浦数雄,清水正男,藤岡善計)
  理  事  官 平井透
  受  審  人 A
     職  名 ドラゴン ナイト船長
     操縦免許 小型船舶操縦士

             主    文

 受審人Aを戒告する。

             理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成23年2月24日15時05分
 沖縄県久米島東方沖合

2 船舶の要目
  船 種 船 名 旅客船ドラゴン ナイト
  登  録  長 10.65メートル
  機 関 の 種 類 ディーゼル機関
   出    力 235キロワット

3 事実の経過
(1) 構造及び設備等
 ドラゴン ナイト(以下「ド号」という。)は,平成2年7月に進水し,同22年10月A受審人が中古で購入した,2機2軸を有する,専らダイビング客の輸送及びダイビング支援業務に従事する,最大搭載人員が旅客18人船員2人のFRP製旅客船で,船首からキャビン,操縦室,その後方に以前の所有者によって増設された船尾甲板が配置され,操縦室の上方にはフライングブリッジ,下方には機関室がそれぞれ設けられていた。
 キャビンは,長さ約4メートル後部の幅約3メートル高さ約1.8メートルの三角柱型で,床が操縦室の床面より約70センチメートル(以下「センチ」という。)低くなって出入口に階段が設置され,簡易シンク,ソファー,キッチン,トイレ等が設けられ,右舷側の壁にはビルジ排出装置のスイッチを取り付けた配電盤が設置されており,キャビン後部の下方の区画にはビルジポンプ2台が備えられ,同区画に1個及び機関室に2個の吸入口が設置されていた。
 操縦室は,長さ約3メートル幅約3メートル高さ約1.9メートルで,前面上部に風防付き窓,前面中央にキャビンへの出入口,中央部の床に長さ約1.5メートル幅約1メートルの機関室への昇降口がそれぞれ設置され,前部左舷側に操縦席が設けられていたものの使用されていなかった。
 フライングブリッジは,中央に上部操縦席が設けられ,同席の前方に舵輪があってその左右に左舷機及び右舷機のクラッチとスロットルレバーがそれぞれ備えられ,同ブリッジの出入りは,操縦室後部左右の支柱に取り付けられた足掛けを昇り降りするようになっていた。
 機関室は,長さ約3メートル幅約3メートル高さ約1.3メートルで,スウェーデン王国のB社製のTAMD41型と呼称する長さ約1.39メートル幅約66センチ高さ約76センチ,クランク軸の軸心高さ約27センチの左右舷機2機が並んで備えられていた。
 船尾甲板は,長さ約3メートル幅約3メートルで,操縦室の床面より約40センチ低くなっており,海面からの高さ約50センチ,周囲のブルワークの高さ約50センチで,操縦室との境界となる同甲板前縁には,機関を点検及び整備するために取り外しできる,水密構造となっていないL字柱型の長さ約20センチ幅約80センチ高さ約30センチの点検口(以下「機関点検口」という。)2個が間隔約80センチで舷側から約30センチのところにそれぞれ設置されていた。
 船尾甲板下には,機関点検口から約15センチ後方,船尾端から約15センチ前方,舷側から約10センチ中央寄りとなる範囲に,長さ約2.5メートル幅約1メートル深さ約60センチの大型物入れ1個が中央に,その左右に中央の同物入れと長さと深さが同じで幅約80センチの大型物入れ2個が間隔約10センチで,それぞれ排水口を取り付けないまま設けられ,各大型物入れと長さと幅が同じで厚さ3ミリメートル(以下「ミリ」という。)のFRP板に厚さ3ミリの滑り止めを張り付けた蓋が備え付けられ,それぞれの蓋には船首及び船尾側に開閉用の指を入れる切れ込みが付けられていた。
 船尾甲板船尾端の左右両舷には,直径約15センチの排水口が設置されていたものの,船尾甲板に上がった海水は水密となっていなかった大型物入れ3個に浸入した後,その残りの海水が同排水口から排水されていた。
 A受審人は,平成元年頃からダイビングの仕事を始め,釣り用に使用されていたド号を購入して沖縄県沖縄島の造船所において改造及び整備を行い,ダイビングの折の昇降に使用するため船尾端中央部のブルワークに幅約50センチ高さ約50センチの開口部(以下「開口部」という。)を設けて幅約50センチ高さ約1.2メートルの金属製のはしごを取り付けていた。
(2) ダイビングを行う際の錨泊方法等
 A受審人は,平成23年1月からド号の運航を始め,ダイビングを行うため錨泊する際,船首部に錨の収納設備がないこと,操縦室の前方がキャビンの屋根となっていて錨を収納することができないこと及びダイビング客が錨索につかまることによって海中での昇降が容易となることから,平素船尾から錨を投入し,錨索を船尾のビットに係止して錨泊する方法をとっていた。
 A受審人は,冬季で北風が吹く日が多かったことから,専ら久米島の南側にあるダイビングポイントで錨索を船尾に係止してダイビングを行っていたところ,波浪が生じると海水が開口部から船尾甲板に上がって同甲板下の大型物入れ3個にたまることから,2日ないし3日に1度各大型物入れの蓋を開けて内部の状況を確かめ,要すればコップを使用して排水していた。
(3) 本件発生に至る経緯
 ド号は,A受審人が単独で乗り組み,ダイビング客1人を乗せてダイビング支援の経験がない妻を手伝いとして便乗させ,ダイビングを行う目的で,船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成23年2月24日14時00分久米島東岸にある仲里漁港を発し,その頃北風が弱かったことから,久米島東岸の楚南埼東方約1.5海里に位置する,シチューガマと称するダイビングポイント(以下「シチューガマ」という。)に向かった。
 ところで,シチューガマ付近の海域は,さんご礁の浅礁域が拡延しており,北風ないし東寄りの風が吹くときには磯波が発生しやすい状況であった。
 14時20分A受審人は,シチューガマに着いて機関を停止し,仲里港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から094度(真方位,以下同じ。)1.4海里の地点において,手伝いに依頼して直径24ミリ長さ50メートルの化学繊維製の錨索を連結した重さ約10キログラムの四爪錨を船尾から水深約6メートルの海中に投入させ,錨索を30メートル延出して左舷船尾のビットに係止し,船尾を北西に向けた態勢で錨泊し,ダイビングの準備を始めた。
 錨泊して間もなく,A受審人は,風力2の北風が吹いて波高約1メートルの波浪を受け,海水が開口部から船尾甲板に上がるのを認め,高起した磯波が発生すると,開口部から同甲板に打ち込み大量の海水が大型物入れにたまって船尾が沈下し,海水が機関点検口から機関室に浸入するおそれがあったが,波浪が船尾甲板に上がっても海水が機関室に浸入することはないものと思い,錨索を船首に係止して波浪を前方から受けるようにするなど,機関室の浸水防止措置を十分にとることなく,何か異常があったら開口部のはしごを金属棒でたたいて知らせるよう手伝いに依頼し,ダイビングの準備を終えた。
 こうして,A受審人は,14時25分ダイビング客と開口部からエントリーして北方にある深水域の洞窟に向けダイビングを始め,やがて高起した磯波が開口部から船尾甲板に打ち込み,その一部は排水口から排水されたものの,大量の海水が同甲板下の大型物入れにたまって船尾が沈下し,その後海水が機関室に徐々に浸入する状況となり,14時45分手伝いがキャビンから船尾甲板に出たところ,海水が同甲板上に滞留している状況を見て,開口部のはしごを金属棒でたたきながら,バケツを使用して海水の排水作業を行った。
 A受審人は,14時50分錨泊地点付近に戻って異常の発生を知らせる音を聞いたものの,近くにいた他のダイビング船の乗組員(以下「他船乗組員」という。)が発した音と勘違いしてダイビングを続け,15時00分ダイビングを終えて船尾甲板がほぼ海面下に沈んだ状態の船上に戻り,ビルジ排出装置を直ちに作動させるとともに両舷主機を起動し,他船乗組員に錨の回収を依頼し,錨索を放って捨錨した後,錨地を発進して帰途に就いた。
 15時01分半A受審人は,左回頭を行って北防波堤灯台から091度1.4海里の地点で,針路を仲里漁港に向く270度に定め,機関を回転数毎分2,500に上げようとしたものの1,500までとなったまま5.5ノットの対地速力で,手動操舵により進行した。
 ド号は,機関室に浸入した海水が両舷主機の半分の高さにまで達して同主機の内部に浸入し,15時05分北防波堤灯台から091度1.1海里の地点において,右舷機が停止し,次いで左舷機も停止して再起動できないまま,航行不能となった。
 当時,天候は晴れで風力2の北風が吹き,潮候は下げ潮の中央期に当たり,付近には波高約1メートルの波浪があった。
 A受審人は,予備の錨を所持していなかったことから錨泊できないまま,船舶を所有する知人に救助を依頼したものの,風下側に存在する浅礁域に向けて漂流し,15時30分北防波堤灯台から099度1.2海里の地点で,浅礁に乗り揚げた。
 その結果,ド号は,船底に破口などを生じて廃船となり,A受審人,ダイビング客及び手伝いは,来援した船舶に救助された。

 (原因及び受審人の行為)
 本件遭難は,久米島東方沖合において,磯波が発生しやすいポイントで,ダイビングを行うため錨索を船尾に係止して錨泊中,機関室の浸水防止措置が不十分で,高起した磯波が開口部から船尾甲板に打ち込み大量の海水が同甲板下の大型物入れにたまり,船尾が沈下して海水が水密構造となっていなかった機関点検口から機関室に浸入し,捨錨して発進した後,両舷主機が停止して航行不能となったことによって発生したものである。
 A受審人は,久米島東方沖合において,磯波が発生しやすいポイントで,ダイビングを行うため錨索を船尾に係止して錨泊中,波浪が開口部から船尾甲板に上がるのを認めた場合,高起した磯波が発生すると,開口部から同甲板に打ち込み大量の海水が大型物入れにたまり,船尾が沈下して海水が水密構造となっていなかった機関点検口から機関室に浸入するおそれがあったから,錨索を船首に係止して波浪を前方から受けるようにするなど,機関室の浸水防止措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが,同人は,波浪が船尾甲板に上がっても海水が機関室に浸入することはないものと思い,機関室の浸水防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,同室に浸入した海水が両舷主機の内部に浸入し,捨錨して発進した後,同主機が停止して航行不能となる事態を招き,風下側に存在する浅礁域に向け漂流して浅礁に乗り揚げ,船体に損傷を生じて廃船とさせるに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。



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