平成24年海審第10号
             裁    決
          貨物船第五大竜丸乗揚事件

  言 渡 年 月 日 平成25年11月25日
  審  判  所 海難審判所(清水正男,松浦数雄,福島千太郎)
  理  事  官 横井幸治
  受  審  人 A
     職  名 第五大竜丸船長
     海技免許 四級海技士(航海)
  補  佐  人 a

             主    文
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

             理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成24年3月1日20時30分
 三重県桃取水道

2 船舶の要目
 船 種 船 名 貨物船第五大竜丸
 総 ト ン 数 436トン
   全   長 64.62メートル
   機関の種類 ディーゼル機関
   出   力 735キロワット

3 事実の経過
(1) 構造及び設備
 第五大竜丸(以下「大竜丸」という。)は,平成3年に進水した船尾船橋型貨物船で,前部に長さ22.55メートルの船倉を設け,船倉の前の上甲板にクレーンを装備し,航海船橋甲板中央部に操舵室が配置され,その両舷に出入口のドアが設置されていた。
 操舵室には,前部中央部にコンソールが設けられ,同コンソールの中央に自動操舵装置及び舵輪,左舷側にレーダー2台,右舷側に機関操縦装置,船舶電話等をそれぞれ組み込み,同室前部左舷側にGPSプロッターが設置され,舵輪の後方に背もたれ及び肘掛けのない高さ60センチメートル(以下「センチ」という。)の木製椅子が置かれていた。

(2) 本件発生に至る経緯
 大竜丸は,A受審人ほか一等航海士,二等航海士兼クレーン運転士及び機関長の3人が乗り組み,空倉で,クレーン修理の目的で,船首1.70メートル船尾3.40メートルの喫水をもって,平成24年3月1日15時50分三重県鳥羽港に向け同県長島港を発し,B社から鳥羽港の岸壁が確保できず目的港を同県松阪港に変更する旨の連絡を受け,同港に向かった。
 これより先,A受審人は,1月18日2週間の休暇を終えて乗船した後,航海中の船橋当直と停泊中の荷役作業を繰り返していたところ,長島港着岸前日の2月29日は,11時55分愛知県三河港に着岸して13時00分から14時50分まで積荷役を行い,15時30分から出港操船に続いて23時15分長島港港内錨泊までの間,単独の船橋当直に就いた。
 また,翌3月1日A受審人は,00時から06時まで自室で睡眠をとったものの,同港が初めて寄港した港であったうえ,港内での錨泊が気になって時々目が覚めたことから,十分な睡眠をとることができないまま,起床して抜錨に続く着岸作業を行い,08時45分からの揚荷役では,クレーンを操作する二等航海士を除く2人と共に船倉の清掃を行い,13時05分揚荷役終了後,荷役中に不調となったクレーンのバケットの点検作業を行い,同作業が終了した後に出港操船に当たって発航したもので,疲労が蓄積したうえに,睡眠が不足した状態となっていた。
 ところで,A受審人は,船橋当直について,原則として航海予定の距離が80海里未満の場合は,自らと航海士による単独4時間の2直体制,同距離が80海里以上の場合は,自らと一等航海士及び二等航海士による単独4時間の3直体制としていたところ,長島港から松阪港の航海は,80海里ないし86海里の航程で航海予定時間が7時間40分であることから,自らと二等航海士による単独の2直体制として,17時から19時30分の間を二等航海士が,それ以外の時間帯を自らが行うことにした。
 A受審人は,長島港の出港操船に続いて1時間の船橋当直に就き,17時10分二等航海士と交替して降橋し,自室で待機することにして横になったものの眠ることができないまま,18時00分志摩半島南方沖合で昇橋し,二等航海士に対して伊良湖水道又は加布良古水道のいずれを通航してもよい旨を指示するなどして19時00分降橋した。
 A受審人は,食堂において1人で夕食をとり,健康法として毎朝食と夕食後に飲むことを習慣にしていた煎った黒大豆を漬けた赤ワインを,いつもどおり専用陶製杯10分の8となる約25ミリリットル飲み,酔いの状態を示すほどの量ではない純アルコール量約3グラムを摂取した。
 19時10分A受審人は,大王埼北東方沖合で昇橋し,19時25分安乗埼東方沖合で二等航海士と交替して単独の船橋当直に就き,舵輪の後方に置いた椅子に腰を掛け,手動操舵と見張りに当たり,石鏡島とハンス鼻間の水道を経由して加布良古水道を通過し,20時00分椅子から立ち上がって呼出音の鳴った船舶電話の受話器を取り,椅子に腰を掛けて通話を行い,B社の社長からクレーン修理用の部品を松阪港へ手配したこと及び明朝07時までに同港に入港すればよい旨の連絡を受けた。
 20時18分A受審人は,椅子から離れてGPSとレーダーで船位を確認し,島ケ埼灯台から129度(真方位,以下同じ。)1.5海里の地点で,針路を305度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけ,11.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,再び椅子に腰を掛けて進行した。
 定針したときA受審人は,加布良古水道を通過し終えたことによる気の緩みから眠気を催したが,狭い水道を航行中に居眠りすることはないものと思い,椅子から立ち上がり,手動操舵に切り換え,必要に応じて操舵室のドアを開けて外気を取り入れるなど,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,椅子に腰を掛けて見張りに当たっているうち,いつしか居眠りに陥った。
 大竜丸は,桃取水道の南東側から同水道に入ったものの,同水道に沿う針路に転じないまま続航中,20時30分島ケ埼灯台から302度1,570メートルの地点において,原針路,原速力のまま浮島と飛島の間の岩礁に乗り揚げ,これを乗り切った。
 当時,天候は晴れで風はなく,潮候は上げ潮の中央期で,付近海域には北向きの弱い潮流があった。
 乗揚の結果,船底中央部に破口と亀裂を生じ,船倉等が浸水し,21時00分桃取水道北部で錨泊して海上保安庁に救助を求め,翌2日01時30分浸水により沈没し,後に引き上げられたが,廃船となった。乗組員は,錨泊した後,傾斜した大竜丸から膨張式救命いかだで脱出し,来援した海上保安庁の巡視艇に救助された。

 (原因の考察)
 A受審人は,入直前の夕食時,健康法として毎朝食と夕食後に飲むことを習慣にしていた煎った黒大豆を漬けた赤ワインを,専用陶製杯10分の8となる約25ミリリットル飲み,純アルコール量約3グラムを摂取したが,摂取したアルコールは酔いの状態を示すほどの量ではなく,入直時に酒気を帯びていたとは認められないが,居眠りに陥った要因となる可能性を否定できない以上,アルコールの摂取は控えなければならない。

 (原因及び受審人の行為)
 本件乗揚は,夜間,鳥羽港北方の狭い水道を北上中,居眠り運航の防止措置が不十分で,桃取水道の浮島と飛島の間の岩礁に向けて向首進行したことによって発生したものである。
 A受審人は,夜間,鳥羽港北方の狭い水道において,単独の船橋当直に就き,桃取水道に向けて北上中,椅子に腰を掛けた姿勢で自動操舵として見張りに当たり,加布良古水道を通過し終えたことによる気の緩みから眠気を催した場合,椅子に腰を掛けたままの姿勢でいると,疲労が蓄積していたうえ,睡眠不足によって居眠りに陥るおそれがあったから,居眠り運航とならないよう,椅子から立ち上がり,手動操舵に切り換え,必要に応じて操舵室のドアを開けて外気を取り入れるなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかし,同人は,狭い水道を航行中に居眠りすることはないものと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,椅子に腰を掛けたまま居眠りに陥り,浮島と飛島の間の岩礁への乗揚を招き,船底中央部に破口と亀裂を生じさせ,後に沈没する事態を招くに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。



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