平成23年海審第6号
             裁    決
          漁船第一勝栄丸火災事件

  言 渡 年 月 日 平成26年2月5日
  審  判  所 海難審判所(西村敏和,平井透,門戸俊明)
  理  事  官 浅野真司
  受  審  人 A
     職  名 第一勝栄丸機関長
     海技免許 三級海技士(機関)

             主    文

 受審人Aの三級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。

             理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成23年4月17日11時30分
 アメリカ合衆国グアム島東方沖合
 (北緯12度31分 東経153度56分)

2 船舶の要目
 船 種 船 名 漁船第一勝栄丸
 総 ト ン 数 499トン
   全   長 65.07メートル
   機関の種類 ディーゼル機関
   出   力 1,471キロワット

3 事実の経過
 第一勝栄丸は,平成3年10月に進水し,かつお一本釣り漁業に従事する船尾船橋型鋼製漁船で,船長C及びA受審人ほか日本国籍8人,機関員Bを含むインドネシア共和国籍8人並びにキリバス共和国籍9人の計27人が乗り組み,操業の目的で,平成23年2月26日08時00分(日本時間,以下同じ。)静岡県焼津港を発し,南太平洋の漁場で操業を行い,かつお約210トンを獲て,4月10日南緯5度03分東経165度55分の地点付近の漁場を発進し,操業を続けながら焼津港に向けて北上した。
 ところで,第一勝栄丸は,機関室が上下2段に分かれており,下段の中央部に主機が据え付けられ,主機の両舷側には,それぞれ主発電機駆動用原動機(以下,右舷側を「1号補機」及び左舷側を「2号補機」という。)として,D社が製造したM200AL−EN型と呼称する,出力661キロワットの過給機付き4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関2機が配置され,両補機には長さ1,172ミリメートル(以下「ミリ」という。)外径194ミリのフィン付き多管式で冷却面積5.25平方メートルの潤滑油冷却器が取り付けられており,運転中の潤滑油圧力は約4.5キログラム毎平方センチメートルで,排気ガスの温度は摂氏約400度であった。
 潤滑油冷却器には,船首側の入口管及び船尾側の出口管の各フランジ付近の上面に,保護管,保護筒,温度計柱及び目盛板で構成される長さ約160ミリの温度計の取付け座がそれぞれ設けられ,保護管が出入口管に対して垂直方向に取付け座にねじ込まれており,さらに,保護筒が保護管の六角ナット内側にねじ込まれて取り付けられていた。
 保護管は,温度計柱が直接潤滑油に触れて潤滑油の流圧で同柱を折損させないためのものであり,対面距離が24ミリの六角ナット内側に保護筒下部の呼びM16のねじがねじ込めるように加工され,また,保護管下部の外径13ミリ内径8ミリの円筒部分には,内部に温度計柱の下部を収めており,保護管を取付け座にねじ込むためのねじが加工されていた。
 保護筒は,外部からの衝撃に対して温度計柱を保護するためのもので,幅24ミリ厚さ14ミリで内側に温度計柱及び同柱を固定したV字型金属製の目盛板(以下「温度計柱等」という。)が収められており,同筒下部に呼びM16のねじが加工されていた。
 温度計柱は,棒状のアルコール式で,目盛板の目盛により摂氏100度までの指度を読み取ることができるようになっており,温度計柱等を取り替える場合には,保護管の内側にねじ込まれた保護筒を緩めて取り外し,同筒内部に収められた温度計柱等だけを取り出すことができるようになっていた。
 A受審人は,焼津港に向けて北上中の4月14日,1号補機潤滑油冷却器入口管(以下「1号補機入口管」という。)の潤滑油の温度計に誤差が生じていることを認め,同入口管の温度計柱等だけを取り替える作業(以下「取替え作業」という。)を行うこととしたが,これまで機関部の乗組員に同作業を見せたことがあり,簡単な作業であるので,B機関員に対して取替え作業を指示したものの,同機関員が温度計の構造及び取替え作業手順(以下「取替え作業手順等」という。)を知っているものと思い,同作業手順等についての指導を十分に行わなかった。
 B機関員は,翌15日,取替え作業を指示された温度計柱等が1号補機又は2号補機のどちらのものであったかが分からず,自身では取替え作業を行ったことがなかったので,温度計の構造についての知識が十分でなく,また,取替え作業手順を知らなかったものの,A受審人に確認すれば叱責されるのではないかと思い,取替え作業手順等を確認することなく,以前から修理のために停止していた2号補機潤滑油冷却器入口管(以下「2号補機入口管」という。)の温度計に誤差が生じていたので,2号補機入口管の温度計を保護管ごと取付け座から取り外し,予備品と取り替えた。
 A受審人は,機関当直を日本人2人及び外国人4人の6人による3時間輪番制の単独当直とし,16日18時から21時までを一等機関士,21時から24時までを機関員,17日00時から03時までをA受審人,03時から06時までを甲板員,06時から09時までを機関員,及び09時から12時までをB機関員が入直する体制としていた。
 A受審人は,1号補機入口管の温度計柱等の取替え作業を指示していたが,2号補機入口管の温度計柱等が取り替えられていることに気付き,17日06時00分頃,B機関員に対し,09時からの当直中に2号補機入口管の温度計柱等を取り外して1号補機入口管に取り付けるよう指示したものの,保護管ごと取り替えられていたことに気付かなかったので,このときも同機関員に対して取替え作業手順等を指導しなかった。
 B機関員は,A受審人の指示を受け,09時からの当直中に取替え作業を行うこととし,停止中の2号補機入口管の温度計を保護管ごと取付け座から取り外して元の温度計を取り付けたとき,取付け座からの潤滑油の漏えいが少量であったことから,運転中の1号補機入口管の温度計を保護管ごと取付け座から取り外しても,潤滑油の漏えいが少量であると思い,24ミリの片口スパナで同温度計の保護管を緩めた後,更に手で緩めていたとき,同管が取付け座から抜けて潤滑油が上方に噴出した。
 第一勝栄丸は,潤滑油が1号補機過給機などに降りかかり,排気ガス入口管のラギングが施されていない高温部のフランジ付近に接触して発火し,11時30分北緯12度31分東経153度56分の地点において,機関室で火災が発生した。
 当時,天候は晴れで風力2の東風が吹き,海上は穏やかであった。
 B機関員は,噴出する潤滑油を手で押さえて止めようとしたものの,止めることができず,機関室から脱出した。
 A受審人は,自室で匂いに気付いて火災の発生を知り,機関室の密閉消火を試みたものの,火勢が衰えなかったことから消火を断念し,船長が,乗組員全員を船首甲板に避難させた後,救命いかだで退船させ,のち来援した貨物船に救助された。
 火災の結果,機関室,操舵室,居住区などに焼損を生じ,引船により宮城県仙台塩釜港にえい航され,のち廃船となった。

 (原因及び受審人の行為)
 本件火災は,運転中の1号補機入口管の温度計柱等の取替え作業を行う際,取替え作業が不適切で,温度計の保護管が取付け座から取り外され,同取付け座から噴出した潤滑油が同補機過給機などに降りかかり,高温部に接触して発火したことによって発生したものである。
 取替え作業が適切でなかったのは,機関長が作業に当たる機関員に対して,取替え作業手順等についての指導を十分に行わなかったことと,同機関員が取替え作業手順等の確認を十分に行わなかったこととによるものである。
 A受審人は,運転中の1号補機入口管の温度計柱等の取替え作業を行う場合,同補機入口管の温度計の保護管を取り外すと,潤滑油が噴出するおそれがあったから,同保護管を取り外すことのないよう,作業に当たる機関員に対して取替え作業手順等についての指導を十分に行うべき注意義務があった。しかし,同受審人は,これまで機関部の乗組員に同作業を見せたことがあり,簡単な作業であるので,同機関員が同作業手順等を知っているものと思い,同作業手順等についての指導を十分に行わなかった職務上の過失により,運転中の1号補機入口管の温度計の保護管が取り外され,噴出した潤滑油が同補機過給機などに降りかかって発火する事態を招き,機関室などを焼損させるに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。



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