平成23年海審第8号
             裁    決
       貨物船りゅうなんU遊漁船光洋丸衝突事件

  言 渡 年 月 日 平成26年5月27日
  審  判  所 海難審判所(加藤昌平,松浦数雄,福島千太郎)
  理  事  官 横井幸治
  受  審  人 A
     職  名 りゅうなんU一等航海士
     海技免許 四級海技士(航海)
  補  佐  人 a,b,c,d,e

             主    文

 受審人Aを戒告する。

             理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成23年4月9日05時58分僅か前
 長崎県野母埼南西方沖合

2 船舶の要目
 船 種 船 名 貨物船りゅうなんU  遊漁船光洋丸
 総 ト ン 数 498トン      4.2トン
   全   長 76.22メートル
   登 録 長            10.92メートル
   機関の種類 ディーゼル機関    ディーゼル機関
   出   力 1,471キロワット 117キロワット

3 事実の経過
 りゅうなんUは,Z社が裸用船し,専ら九州及び沖縄県の各港間のコンテナ輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で,バウスラスター及びシリングラダーを備え,船首端から約63メートルのところを前端として設けた4層の甲板室の最上層に船橋を配し,上甲板下にコンテナを船横方向に4個ずつ2段積みできる貨物倉を設け,上甲板のハッチカバー上に同じくコンテナを4個ずつ2段積みできるように設備されており,ハッチカバー上にコンテナを2段積んだときの上面高さは,船橋が配置された航海船橋甲板とほぼ同じ高さであった。
 船橋には,前面に5分割された窓を配し,同窓下方に接して,船体中心線となる位置に自動操舵装置,左舷側に1号及び2号レーダー,右舷側に船内電話,GPSプロッター,主機遠隔操縦装置等を装備したコンソールを備え,左舷後部に海図台,右舷後部にファックス装置を備えた作業用机を設けていた。
 操縦性能は,船体部海上試運転成績表によると,機関を回転数毎分300にかけて13.94ノットの速力で航走中,舵角35度をとったときの最大旋回径が,右旋回では285メートル,左旋回では264メートルで,90度回頭するのに,右旋回では49秒,左旋回では44秒を要し,全速力後進を発令して船体が停止するまでの所要時間が1分41秒で,最短停止距離が403メートルであった。
 りゅうなんUは,船長B及びA受審人ほか3人が乗り組み,コンテナ100個を,貨物倉内全面に2段,並びにハッチカバー上全面に1段目を積み,更に2段目として,船橋前方の3列目まで4個及び同4列目中央に2個積載し,船首3.3メートル船尾4.5メートルの喫水をもって,平成23年4月8日21時10分福岡県博多港を発し,沖縄県那覇港に向かった。
 ところで,B船長は,船橋当直を,自らが08時から12時まで及び20時から00時まで,A受審人が04時から08時まで及び16時から20時まで,並びに甲板長が00時から04時まで及び12時から16時までの当直に就く単独の4時間3直制とし,出入港時,狭水道通航時,視界制限時などには,自ら昇橋して操船の指揮を執っていた。
 A受審人は,翌9日03時20分長崎県松島西方沖合で,交替予定時刻より早く昇橋して前任の甲板長と船橋当直を交替した後,航行中の動力船の灯火を表示して長崎半島西方を南下し,05時11分樺島灯台から260度(真方位,以下同じ。)13.1海里の地点で,針路を179度に定め,機関を全速力前進にかけ13.2ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,1号レーダーを12海里レンジとして時折レンジを切り替えながら,自動操舵により進行した。
 05時30分A受審人は,樺島灯台から242度14.2海里の地点に達したとき,左舷正横後14度1.1海里のところに光洋丸の白,緑2灯を初認し,日出前の薄明の中で同船が南寄りの針路で,船首に白波を立てているのを認めたことから,自船より速い漁船と判断して続航し,05時44分樺島灯台から232度15.8海里の地点で,同船が左舷正横900メートルのところを,小角度で交差する針路で追い抜いていくのを認めた。
 05時54分僅か前A受審人は,樺島灯台から226.5度17.1海里の地点に至ったとき,左舷船首26度400メートルのところで,りゅうなんUの船首方を無難に航過する態勢であった光洋丸が減速し,新たな衝突の危険を生じさせたが,同船の船尾に見える推進器による白波が小さくなったのを見て,同船が自船に気付いており,進路を譲るつもりで減速したものと思い,06時と定められた運航者への船舶動静報告の時刻が近づいたことから,船舶動静報告書(以下「動静報告書」という。)を作成することとして作業用机のところに移動し,後方を向いて机の上で同報告書の作成を始め,光洋丸に対する動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かず,同船に対して警告信号を行わず,更に接近しても,大きく右転するなど,衝突を避けるための措置をとらなかった。
 A受審人は,後方を向いた態勢で動静報告書の作成を続けて同じ針路及び速力で進行中,05時58分少し前ふと前方を向いたとき,左舷方から2段積みとしたコンテナの陰に入り込む光洋丸を認めて衝突の危険を感じ,直ちに手動操舵に切り替えて左舵一杯としたものの,05時58分僅か前樺島灯台から225度17.7海里の地点において,りゅうなんUは,原針路及び原速力のまま,その左舷船首部に,光洋丸の右舷中央部が後方から9度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴れで風力3の北北西風が吹き,付近には波高1.5メートルの波浪があり,日出時刻は,06時01分であった。

 また,光洋丸は,船体中央やや後方に船室及び操舵室を配し,その前方の甲板下にいけすを設けた小型兼用船で,船長Cが1人で乗り組み,釣り客3人を乗せ,遊漁の目的で,船首0.5メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,同日03時30分長崎県江ノ浦漁港を発し,同県野母埼南西方約20海里沖合にある鯵曽根に向かった。
 操舵室には,舵輪,自動操舵装置,主機遠隔操縦装置,GPSプロッター,魚群探知機等を備え,自動操舵装置には,手動,遠隔,自動A,自動B及び航法の操舵モードがあり,設定つまみで各モードを切り替えることができ,自動Bでは,針路設定ダイヤルを操作して設定した針路を保持するようになっていた。そして,舵輪後方に操縦席を設け,操縦席に腰掛けた姿勢で,操舵室前面及び側面の窓から周囲を見ることができた。
 C船長は,長崎半島東岸に沿って南下し,野母埼に並航する頃,折からの北西風による波浪の影響で船体の動揺が大きくなったことから,04時35分樺島灯台から207度1.1海里の地点で停止していけすに海水を注水した後,04時40分同地点を発進し,釣り客全員を船室内で待機させ,波浪による動揺を軽減するためか針路を245度に定め,14.5ノットの速力で,航行中の動力船の灯火を表示して自動操舵により進行した。
 05時29分C船長は,樺島灯台から243度13.1海里の地点に至り,鯵曽根のほぼ北方となったので,針路を同曽根に向く188度に転じて同じ速力で続航し,05時44分樺島灯台から231.5度15.5海里の地点で,りゅうなんUの左舷正横900メートルのところを航過し,同船を追い抜く態勢で進行した。
 05時54分僅か前C船長は,樺島灯台から226度17.1海里の地点に達し,りゅうなんUの左舷船首26度400メートルとなったとき,そのままの針路及び速力で進行すれば,同船の正船首方を約380メートルの距離をもって無難に航過する態勢であったが,鯵曽根に接近したので魚群探知機により魚群の探索を始めようとしたものか,速力を10.9ノットに減じ,同船に対して新たな衝突の危険を生じさせて続航した。
 C船長は,同じ針路及び速力で進行し,05時58分僅か前右舷側目前にりゅうなんUの船体を視認した釣り客の声で同船に気付き,右舵をとり全速力後進とした直後,原針路及び原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,りゅうなんUは左舷船首部付近に擦過傷を生じ,光洋丸は船体全体にわたって亀裂を生じ,船室及び操舵室を大破し,のち廃船処理された。また,いずれも救命胴衣を着用せず,海中に投げ出されたC船長(小型船舶操縦免許受有)が搬送先の病院で溺死と検案され,釣り客Dが行方不明となり,平成23年11月30日死亡が認定された。

 (航法の適用)
 本件は,いずれも航行中のりゅうなんU及び光洋丸が,日出前の薄明時,野母埼南西方沖合において衝突したものであり,同水域には海上交通安全法等の特別法の適用がないので,一般法である海上衝突予防法(以下「予防法」という。)を適用することになる。
 本件時,両船は互いに他の船舶の視野の内にあり,光洋丸がりゅうなんUの後方から同船を追い抜いた後,衝突の4分前,両船間の距離400メートルのところで減速して衝突に至ったものであるが,光洋丸がりゅうなんUを追い抜く態勢となったのは,同船の左舷正横後14度1.1海里のところで左転した以後であり,予防法第13条第2項に規定された,船舶の正横後22度30分を越える後方から追い越す船舶に当たらないので,同条の追越し船の航法の適用はない。
 また,光洋丸がりゅうなんUを追い抜く態勢となったとき,両船の針路は9度交差し,りゅうなんUからは光洋丸を左舷正横後14度,光洋丸からはりゅうなんUを右舷船首66度に見る状況であり,その後いずれも同じ針路,速力で進行中,りゅうなんUを追い抜いた光洋丸が,衝突の4分前に減速しなければ,同船はりゅうなんUの正船首方約380メートルのところを無難に航過する態勢であったことから,予防法第15条の横切り船の航法の適用もない。
 以上のとおり,本件は,光洋丸が減速したことによって衝突に至ったものであり,定型的航法の適用はなく,予防法第38条及び第39条の船員の常務によって律するのが相当である。

 (原因及び受審人の行為)
 本件衝突は,野母埼南西方沖合において,りゅうなんUを追い抜いた光洋丸が,無難に航過する態勢のりゅうなんUに対し,減速して新たな衝突の危険を生じさせたことによって発生したが,りゅうなんUが,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 A受審人は,野母埼南西方沖合において,小角度で交差する針路で航行して自船を追い抜いた光洋丸が,左舷船首方で減速するのを認めた場合,衝突のおそれを生じるかどうか判断できるよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,光洋丸が自船に気付いており,進路を譲るつもりで減速したものと思い,同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船が新たな衝突の危険を生じさせたことに気付かず,警告信号を行わず,更に接近しても,大きく右転するなど,衝突を避けるための措置をとらずに進行して衝突を招き,両船に損傷を生じさせ,光洋丸船長及び同船釣り客1人を死亡させるに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。



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