平成24年海審第2号
            裁    決
          貨物船瀬戸丸火災事件

  言 渡 年 月 日 平成26年10月23日
  審  判  所 海難審判所(西村敏和,平井透,門戸俊明)
  理  事  官 吉川弘一
  受  審  人 X
     職  名 瀬戸丸船長
     海技免許 五級海技士(航海)
  受  審  人 Y
     職  名 瀬戸丸機関長
     海技免許 四級海技士(機関)(機関限定)

            主    文

 受審人Xの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Yを戒告する。

            理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成22年8月27日16時30分
 阪神港尼崎西宮芦屋第1区

2 船舶の要目
  船 種 船 名  貨物船瀬戸丸
  総 ト ン 数  299トン
    全   長  51.90メートル
    機関の種類  ディーゼル機関
    出   力  661キロワット

3 事実の経過
(1) 設備及び性能
ア 船体構造等
 瀬戸丸は,昭和61年6月に進水した牛脂,パーム油など食用油の輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で,船首側を1番として3番までの貨物油倉があり,その後方の船尾楼甲板上に上層が操舵室となっている2層の甲板室を設け,同甲板下には,船首側から貨物油ポンプ室,機関室及び操舵機室の順に配置されていた。
 機関室は,長さ8.3メートル,最大幅8.6メートル及び高さ6.0メートルの区画で,同室下段の中央に主機,その右舷側に,船首側から交流発電機,潤滑油2次こし器(以下「2次こし器」という。),同1次こし器(以下「1次こし器」という。),予備潤滑油ポンプなどが,左舷側には,船首側から消防兼ビルジポンプ,燃料油移送ポンプ,同供給ポンプなどがそれぞれ設置されていた。また,貨物油ポンプ室には,主機駆動の貨物油ポンプ2台が設置されていた。

イ 主機
 主機は,Z社が昭和61年5月に製造した,A24FD型と呼称する過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関で,各シリンダには船首側を1番として6番までの順番号が付されており,発停が機側で行われ,年間の運転時間が約2,000時間であった。

ウ 主機の潤滑油系統
 主機の潤滑油系統は,潤滑油ドレンタンクの潤滑油が,主機駆動の潤滑油ポンプ又は同ポンプと並列に電動機で駆動される予備潤滑油ポンプにより,網目が32メッシュの金網式で複式の1次こし器を経て吸引・加圧され,潤滑油冷却器,網目が120メッシュの金網式で複式の2次こし器を順に経て,主機の潤滑油主管(以下「潤滑油主管」という。)に供給され,枝管に分岐して各軸受,ピストンなどの潤滑及び冷却を行った後,潤滑油ドレンタンクに戻って循環するようになっていた。
 また,潤滑油系統には,潤滑油主管入口に潤滑油圧力低下警報装置の圧力検出端が,主機の船尾側にある計器盤に潤滑油圧力計がそれぞれ取り付けられ,潤滑油主管入口圧力(以下「潤滑油圧力」という。)が2.2キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)ないし2.8キロの範囲で使用されており,同系統の安全保護装置の機能として,同圧力が1.7キロに低下すると,操舵室及び機関室で同圧力の低下警報(以下「油圧低下警報」という。)が発せられ,2.2キロに上昇すると,同警報が解除されるようになっていた。また,潤滑油圧力が2.0キロに低下すると,予備潤滑油ポンプが自動的に始動し,更に1.4キロに低下すると,主機の危急停止装置が作動するようになっていた。
 瀬戸丸では,毎年,定期整備時に主機の潤滑油が交換されており,前回は平成21年8月に交換されていた。

(2) 関係人の経歴等
 (省略)

(3) 本件発生に至る経緯
 瀬戸丸は,X及びY両受審人ほか2人が乗り組み,大阪府阪南港第3区阪南タンクターミナルで牛脂500トンを積み,平成22年8月26日19時00分同港を発し,21時00分阪神港尼崎西宮芦屋第1区扇町桟橋沖で錨泊して着桟時間の調整を行った後,翌27日07時30分抜錨して同区W社桟橋(以下「W桟橋」という。)に向かい,08時20分同桟橋に着桟し,08時30分揚荷作業を開始した。
 これより先,Y受審人は,平成22年6月下旬,2次こし器のコック引上げハンドルをねじ込むとき,コック軸とコック栓とが共に回転するところ,コック軸に偏芯が生じて同軸とコック栓との回転にずれが生じるようになり,また,コック切換えハンドルの嵌合部に一部欠損が生じたため,X受審人に2次こし器の新替えを要求したものの,同人から修理して使用するよう指示され,潤滑油圧力が定常範囲内にあったので,同こし器をそのままの状態で使用していた。
 その後,Y受審人は,8月25日03時00分頃,千葉港から阪南港に向けて航行中,潤滑油圧力が低下して予備潤滑油ポンプが自動的に始動し,油圧低下警報が発せられたことから,1次及び2次両こし器のフィルタエレメント(以下「エレメント」という。)の掃除を行ったものの,同圧力が低下したままの状態であったので,揚荷作業終了後,阪神港神戸区にある造船所で同圧力の低下原因の調査などを行うことにし,27日抜錨するに当たり,予め主配電盤の安全保護装置用の電源を断として,主機を運転しても油圧低下警報が発せられないようにした上で,主機及び予備潤滑油ポンプを運転していた。
 Y受審人は,主機回転数毎分(以下,回転数については毎分のものをいう。)280として貨物油ポンプを駆動し,揚荷作業を行っていたところ,10時00分頃,主機の潤滑油入口温度(以下「潤滑油温度」という。)が約70度(摂氏,以下同じ。)及び冷却清水出口温度(以下「冷却清水温度」という。)が約100度にそれぞれ上昇したことから,2次こし器のエレメントの掃除を行うため,主機を停止して揚荷作業を中断した。
 Y受審人は,2次こし器のコック引上げハンドルを時計回りにねじ込み,こし器本体に密着していたコック栓を少し引上げて隙間を作り,コック切換えハンドルをコック栓上蓋のストッパーに当たるまで回してこし器を切り換えた後,コック引上げハンドルを反時計回りに回してこし器本体とコック栓とを密着させ,それまで使用していたこし器の上蓋を開けてエレメントを取り出し,目詰まりなどの異状がないことを確認した後,2次こし器の付近で,角缶(容量18リットル)を半分に切った洗い油缶(以下「灯油缶」という。)に入れた洗浄用の灯油に同エレメントを漬けてブラシ洗浄などを行った。また,Y受審人は,1次こし器の開放点検を行ったところ,エレメントの目詰まりなどの異状を認めなかった。
 Y受審人は,エレメントの掃除を行っていた間も予備潤滑油ポンプの運転を続けていたが,2次こし器のコック栓が所定の位置になく,潤滑油流路の一部が塞がれた状態となっていたことから,同ポンプ出口圧力は上昇したものの,潤滑油圧力は十分に上昇しないことを認めた。
 Y受審人は,エレメントの掃除を終えた後,X受審人から揚荷作業を続行するよう指示されたので,主機を始動して同作業を続行中,12時00分頃,潤滑油温度及び冷却清水温度がいずれも上昇して主機の上部から白煙が出始めたことから,再度主機を停止して同作業を中断した後,同人に対して主機に潤滑油が十分に通油されていない旨の報告を行ったところ,同人から潤滑油を補給するよう指示されたので,潤滑油ドレンタンクに潤滑油600リットルを補給するとともに,造船所に担当者の派遣を要請した。
 Y受審人は,約2時間主機を停止して冷機を行った後,来船した造船所の担当者と共に主機潤滑油の通油状況などを調査することにし,主機の1番ないし5番シリンダ右舷側の,それぞれ7本のボルトで閉鎖されていたアルミ鋳物製で中央部の厚さが約5ミリメートル(以下「ミリ」という。)及び周囲のボルト部分の厚さが約10ミリの各クランク室側蓋を開放した後,予備潤滑油ポンプを始動したところ,潤滑油の流れ落ちる量が少なく,主機に潤滑油が十分に通油されていないことが判明したので,X受審人に対し,再度その旨を報告した。
 報告を受けたX受審人は,当日中に造船所に入渠することにし,牛脂の残量が20トンないし30トンあるので,Y受審人に対して揚荷作業を再開するよう指示した。
 Y受審人は,各シリンダのクランク室側蓋の閉鎖作業に取り掛かり,4番及び5番シリンダの両クランク室側蓋は,それぞれ7本のボルトで閉鎖したものの,造船所に回航する予定であったことから,1番ないし3番シリンダの各クランク室側蓋は,それぞれ2本のボルトで仮止めをして閉鎖した後,14時40分頃,主機を再度始動して貨物油ポンプを駆動し,揚荷作業を再開したところ,1番及び2番シリンダの両クランク室側蓋の隙間から潤滑油が漏洩したので,両側蓋のボルトをそれぞれ1本追加して3本で仮止めをし,その後,主機の潤滑油温度などが次第に高くなったものの,そのまま運転を続け,15時40分同作業を終了して主機を停止した。
 X受審人は,Y受審人から主機に潤滑油が十分に通油されていない旨の報告を受けており,そのような状態で主機の運転を行うと,潤滑不良により主機が損傷するおそれがあったが,造船所に回航するに当たり,W桟橋から尼崎第2閘門(以下「第2閘門」という。)南口付近までの航程が約1,500メートルであり,低速力で航行しても約20分で到着できるので,短時間であれば主機の運転を行っても損傷することはないものと思い,W桟橋から造船所まで引船にえい航されて回航するなど,主機の運転を中止することなく,同閘門南口付近まで航行した後,引船にえい航されて造船所に回航することにし,Y受審人に対して主機の運転を行うよう指示した。
 一方,Y受審人は,主機に潤滑油が十分に通油されていない状態で運転を行うと,潤滑不良により主機が損傷するおそれがあったが,X受審人に対して主機に潤滑油が十分に通油されていない旨の報告を行っていたのに,造船所に回航するに当たり,同人に主機の運転を行うよう指示されたので,これ以上具体的に説明して運転を中止するよう進言しても聞き入れてもらえないものと思い,同人に対し,潤滑不良により主機が損傷するおそれがあることを具体的に説明した上で,主機の運転を中止するよう進言を十分に行うことなく,15時45分主機を始動した。
 こうして,瀬戸丸は,造船所に回航する目的で,船首0.7メートル船尾2.4メートルの喫水をもって,15時50分W桟橋を発し,X受審人が操船に当たり,Y受審人が機関室及び他の乗組員2人が船首甲板でそれぞれ配置に就き,主機回転数265として低速力で第2閘門南口付近に向かい,16時10分同閘門を通過したところで引船と会合し,えい航準備作業に取り掛かった。
 X受審人は,尼崎第9号灯浮標付近に差し掛かった頃,えい航状態となったので,Y受審人に対して主機を停止するよう指示し,同人が主機の左舷船尾側にある燃料加減ハンドルで停止操作を行っていたところ,16時30分尼崎西防波堤灯台から065度(真方位,以下同じ。)1,200メートルの地点において,瀬戸丸は,主機各部の潤滑不良により燃焼ガスが燃焼室からクランク室に吹き抜けるとともに金属接触で軸受が高温となり,オイルミストが発火してクランク室内で爆発が生じ,3番シリンダ右舷側のクランク室側蓋が破損して火炎が噴出し,また,高温となった同側蓋の破片が飛散して同側蓋付近に置いていた灯油缶に入り,灯油に引火して機関室が火災となった。
 当時,天候は晴れで風力2の西風が吹き,海上は穏やかであった。
 Y受審人は,初期消火を試みたものの,機関室に煙が充満して呼吸が困難となったので,消火作業を断念して同室から退避し,X受審人は,えい航を中止して尼崎西防波堤灯台から065度300メートルの地点に投錨した。
 瀬戸丸は,巡視艇などによる消火作業が行われたが鎮火に至らず,翌28日11時30分引船にえい航されて扇町桟橋に横付けし,消火作業が続けられ,14時10分鎮火した。
 火災の結果,機関室などが焼損し,のち廃船とされ,乗組員4人は巡視艇に救助された。

 (原因及び受審人の行為)
 本件火災は,阪神港尼崎西宮芦屋第1区において,着桟中の桟橋から造船所に回航する際,主機の運転が不適切で,潤滑油の通油量が不足したまま運転が続けられ,潤滑不良により燃焼ガスが燃焼室からクランク室に吹き抜けるとともに金属接触で軸受が高温となり,オイルミストが発火してクランク室内で爆発が生じ,可燃物に引火したことによって発生したものである。
 主機の運転が適切でなかったのは,船長が主機の運転を中止しなかったことと,機関長が船長に対し,主機の運転を中止するよう進言を十分に行わなかったこととによるものである。
 X受審人は,阪神港尼崎西宮芦屋第1区において,着桟中の桟橋から造船所に回航する場合,Y受審人から主機に潤滑油が十分に通油されていない旨の報告を受けており,そのような状態で主機の運転を行うと,潤滑不良により主機が損傷するおそれがあったから,主機が損傷することのないよう,同桟橋から引船にえい航されて回航するなど,主機の運転を中止すべき注意義務があった。しかるに,X受審人は,短時間であれば主機の運転を行っても損傷することはないものと思い,主機の運転を中止しなかった職務上の過失により,主機を運転して回航中,潤滑不良により燃焼ガスが燃焼室からクランク室に吹き抜けるとともに金属接触で軸受が高温となり,オイルミストが発火してクランク室内で爆発が生じ,可燃物に引火して機関室で火災を発生させる事態を招き,同室などを焼損させ,廃船とさせるに至った。
 以上のX受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 Y受審人は,阪神港尼崎西宮芦屋第1区において,着桟中の桟橋から造船所に回航するに当たり,X受審人から主機の運転を行うよう指示された場合,主機に潤滑油が十分に通油されていない状態で運転を行うと,潤滑不良により主機が損傷するおそれがあったから,主機が損傷することのないよう,同人に対し,潤滑不良により主機が損傷するおそれがあることを具体的に説明した上で,主機の運転を中止するよう進言を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,Y受審人は,X受審人に対して主機に潤滑油が十分に通油されていない旨の報告を行っていたのに,主機の運転を行うよう指示されたので,これ以上具体的に説明して運転を中止するよう進言しても聞き入れてもらえないものと思い,同人に対し,進言を十分に行わなかった職務上の過失により,主機を運転して回航中,主機が損傷して機関室で火災を発生させる事態を招き,前示焼損などを生じさせるに至った。
 以上のY受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。




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