平成24年海審第6号
             裁    決
           貨物船長春丸乗揚事件

  言 渡 年 月 日 平成26年3月27日
  審  判  所 海難審判所(清水正男,加藤昌平,福島千太郎)
  理  事  官 米原健一
  受  審  人 A
     職  名 長春丸三等航海士
     海技免許 五級海技士(航海)(履歴限定)

             主    文

 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

             理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成24年1月22日13時31分
 福岡県玄界島西方沖合

2 船舶の要目
 船 種 船 名 貨物船長春丸
 総 ト ン 数 699トン
   全   長 70.00メートル
   機関の種類 ディーゼル機関
   出   力 1,176キロワット

3 事実の経過
(1) 構造及び設備等
 長春丸は,平成6年に進水した,船首楼及び船尾楼を備え,船尾楼上に配した3層の甲板室の最上層に船橋を設けた一層甲板型鋼製スラグ微粉運搬船で,船首楼と船尾楼との間の甲板下に貨物倉4倉を備え,瀬戸内海及び九州の諸港間でスラグ,セメントなどのばら積み輸送に従事していた。
 船橋内には,中央前部に自動操舵装置を組み込んだ操舵スタンドを備え,右舷側に主機遠隔操縦装置,左舷側に1号及び2号レーダー,GPSプロッター等,そして左舷後部に海図台がそれぞれ設置されていた。

(2) A受審人の経歴
 (省略)

(3) 本件発生に至る経緯
 長春丸は,船長B及びA受審人ほか4人が乗り組み,セメント1,449トンを積み,船首3.54メートル船尾5.06メートルの喫水をもって,平成24年1月22日07時30分山口県宇部港を発し,佐賀県唐津港に向かった。
 ところで,B船長は,船橋当直を07時から11時まで及び19時から23時までを自らが,11時から15時まで及び23時から03時までをA受審人が,03時から07時まで及び15時から19時までを一等航海士がそれぞれ単独で入直する3直体制とし,福岡県大島の北方沖合から唐津港にかけての海域に存在する浅所を避けるため,栗ノ上礁灯標を1.2海里,長間礁灯標を1.9海里及び灯台瀬灯標を0.8海里それぞれ離し,その南方を航行する予定として,海図W1228に大島北方沖合から玄界島北方沖合までは214度(真方位,以下同じ。),同島北方沖合から唐津湾までは230度の予定針路線をそれぞれ記入していた。
 また,A受審人は,平素,入直時及び次直への引継ぎ時には海図上で船位を確認するものの,当直中には,おおよその針路を保つだけで,レーダーやGPSプロッターを活用し,定期的に海図に船位を記入して予定針路線からの偏位を把握するなどの船位の確認を行っていなかった。
 B船長は,11時05分頃大島の東方6海里付近で,交替のために昇橋してきたA受審人に対し,海図台上に置いた海図に記入された予定針路線に沿って航行するよう指示した上で,同針路線の北方に存在する長間礁及び同礁南方約0.7海里に存在する水深1メートルの中之瀬を囲む20メートル等深線を赤色で表示したところを示し,同浅所に気を付けるよう注意を与えて降橋した。
 船橋当直を引き継いだA受審人は,長春丸乗船後3航海目で,玄界灘において単独の船橋当直に就くのが初めてであったものの,3海里レンジとした1号レーダー及びGPSプロッターを作動させただけで,平素のように,海図に船位を記入して予定針路線からの偏位を確認することなく,大島北方沖合から九州北岸に沿って航行し,博多港に向かう貨物船を避航したのち,12時52分少し過ぎ長間礁灯標から052度6.5海里の地点で針路を227度に定めて自動操舵としたとき,予定針路線から0.7海里北方に偏位して中之瀬に向首する態勢となり,機関を全速力前進にかけて10.3ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,操舵スタンドの後方に立ち,目視による見張りを行いながら進行した。
 13時19分少し前A受審人は,長間礁灯標から065.5度2.0海里の地点に達したとき,右舷船首19度2.0海里のところに同灯標を初認し,中之瀬が正船首方2.1海里となり,同瀬に乗り揚げるおそれのある状況であったが,同灯標をある程度離せば無難に航行できるものと思い,レーダーやGPSプロッターを活用し,海図に船位を記入して船位の確認を十分に行わなかったので,予定針路線の北方に偏位して中之瀬に向首進行していることに気付かずに続航した。
 A受審人は,右舷方の長間礁灯標を目視しながら進行中,突然船底に衝撃を感じ,長春丸は,13時31分長間礁灯標から155度1,300メートルの地点において,原針路,原速力のまま中之瀬に乗り揚げ,これを乗り切った。
 当時,天候は雨で風力3の北西風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
 B船長は,自室で休息中,異常な衝撃に気付き,直ちに昇橋して乗り揚げたことを知り,自ら操船して陸岸に向かったところ,船体が左舷側に傾斜し始めたことから,西浦岬灯台の南西方2.5海里付近に投錨した。
 乗揚の結果,船底外板左舷側に破口を生じて浸水し,翌々24日前示投錨地点で沈没し,後日引き揚げられたものの全損となり,乗組員は,投錨直後に来援した水産庁漁業取締船により救助された。

 (原因及び受審人の行為)
 本件乗揚は,玄界島西方沖合を航行中,船位の確認が不十分で,中之瀬に向首進行したことによって発生したものである。
 A受審人は,玄界島西方沖合を航行する場合,海図に記入された予定針路線に沿って航行することを船長から指示されていたのであるから,予定針路線に沿って航行することができるよう,レーダーやGPSプロッターを活用し,海図に船位を記入して船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,長間礁灯標をある程度離せば無難に航行できるものと思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,予定針路線の北方に偏位して中之瀬に向首進行し,同瀬に乗り揚げる事態を招き,船底外板に破口を生じて沈没させるに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。



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