平成24年海審第8号
             裁    決
           漁船第5大黒丸沈没事件

  言 渡 年 月 日 平成26年3月27日
  審  判  所 海難審判所(門戸俊明,西村敏和,加藤昌平)
  理  事  官 横井幸治
  受  審  人 A
     職  名 第5大黒丸船長
     海技免許 五級海技士(航海)

             主    文

 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

             理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成23年1月24日12時04分
 大分県野崎鼻南西方沖合

2 船舶の要目
 船 種 船 名 漁船第5大黒丸
 総 ト ン 数 225トン
   全   長 47.30メートル
   幅     7.60メートル
   深   さ 3.28メートル
   機関の種類 ディーゼル機関
   出   力 735キロワット

3 事実の経過
(1) 構造及び設備等
 第5大黒丸は,昭和58年に進水した大中型まき網漁業に従事する運搬船を,B社が平成11年に購入し,同年に同船の建造造船所において改造工事が行われた船首尾楼を有する船尾船橋型鋼製漁船で,C社の大中型まき網漁業船団(以下「大黒丸船団」という。)に付属する活魚運搬船として同社が運航していた。
 第5大黒丸は,船首楼に容積61.26立方メートルの甲板長倉庫があって,同倉庫後部に錨鎖庫が設けられ,船尾楼に上部機関室,居住区画及び舵機室が,船尾楼上の2層から成る甲板室の上層に船橋が,下層に居住区画がそれぞれ配置されていた。
 上甲板下には,船首から順に船首水槽,スラスター室,ポンプ室,氷倉,容積50.88立方メートルの1番魚倉,同46.62立方メートルの2番魚倉,同47.49立方メートルの3番魚倉,同53.61立方メートルの4番魚倉,同49.44立方メートルの5番魚倉,同56.15立方メートルの6番魚倉,機関室,潤滑油槽,2番左舷及び右舷燃料油槽,3番左舷及び右舷燃料油槽,船尾水槽,4番左舷,右舷及び中央燃料油槽,並びに左舷及び右舷清水槽を配し,船底部はスラスター室後端から機関室前端までが二重底となっていて,スラスター室両舷側及びポンプ室の下方には1番左舷及び右舷燃料油槽が設けられていた。
 また,船首楼後部及び船尾楼前部にデリック装置がそれぞれ備えられ,上甲板上には,両舷に海水排出用の開口を数箇所設けた高さ1.60メートルのブルワークが,氷倉及び1番ないし6番魚倉の上部に高さ1.05メートルのハッチコーミングがそれぞれ設置され,同コーミングの上面と同じ高さに木製板又は鋼製グレーチングを全面に敷き詰めた甲板(以下「作業甲板」という。)が船首楼後端から船尾楼前端まで設けられていた。

(2) 活魚運搬船としての改造状況
 第5大黒丸は,改造工事において,2番ないし6番魚倉が活魚用に改造が行われ,同魚倉内部に照明灯が各4個,ハッチコーミング下端に排水口(以下「排水口」という。)が両舷各1個,3番ないし6番魚倉の船首側横隔壁の左舷寄り下部に縦112.5センチメートル(以下「センチ」という。)横75センチの開口(以下「仕切門」という。)が各1箇所,3番及び5番魚倉の右舷舷側に上甲板下1.58メートルのところを上端とする縦90センチ横60センチの開口(以下「舷門」という。)が各1箇所,スラスター室底部に船底弁及びポンプ室下部に容量毎時540立方メートルの海水ポンプ3台が魚倉給水用に,並びに各魚倉に通じる給水用海水配管が作業甲板の右舷側下方と左舷側上方にそれぞれ新たに設置された。
 また,改造工事前には魚倉に漲水する必要がなく,スラスター室及び機関室にそれぞれ1台ずつ装備されていた排水ポンプは砕氷が溶けたときに排水する程度の容量しかなかったことから,魚倉の海水排水用として移動式の電動式水中ポンプ(以下「移動式排水ポンプ」という。)が2台装備された。
 仕切門及び舷門には,厚さ約10ミリメートル(以下「ミリ」という。)の昇降式の鋼製扉(以下「仕切門扉」及び「舷門扉」という。)がそれぞれ設置され,開閉操作用として仕切門扉にはロープ,舷門扉にはチェーンが上端に取り付けられており,魚倉の船首側横隔壁又は舷側外板に設置されたレールに沿って昇降させることで,開閉が可能な構造となっていた。また,仕切門及び舷門にはゴム製パッキンが取り付けられており,各門扉をボルト締めすることにより水密が確保されていた。

(3) 復原性能
 第5大黒丸には,復原性に関する資料として重量重心計算書が船内に備えられ,同計算書には,軽荷状態や満載出港状態等の各状態における横メタセンタ高さ(GM)等の復原性に関する各計算値が記載されていた。
 第5大黒丸は,総トン数20トン以上の漁船に適用される復原性能として,漁船法第3条第1項の規定に基づく昭和57年7月6日農林水産省告示第1091号で定められた動力漁船の性能の基準により建造が行われ,重量重心計算書によれば,長さ40メートル以上及び幅(B)7メートル以上の船舶として,各状態において求められる横メタセンタ高さが,次式により0.450メートル以上となっていた。
 GM=(B-7)/12+0.40
   =(7.60-7.00)/12+0.40
   =0.450(メートル)
 なお,第5大黒丸は,2番ないし6番魚倉が活魚用に改造されたものの,各魚倉に遊動水の影響を減少させるための縦隔壁を設けた構造になっておらず,乾舷計算書によれば,海水乾舷量が419ミリと規定され,喫水標による海水満載喫水が3,270ミリであった。

(4) 大黒丸船団の操業状況
 大黒丸船団は,第5大黒丸のほか網船,灯船2隻並びに運搬船の計5隻で構成され,豊後水道から日向灘北部にかけての漁場において,主にあじやさばを漁獲対象として,夕方に灯船が出港した後,網船及び運搬船が順次出漁し,夜間に数回の操業を行って翌朝に帰港するもので,毎月第2及び第4土曜日,旧暦の15日ないし18日の4日間,並びに荒天の日を除き,周年操業を行っていた。

(5) 活魚の運搬状況等
 野崎鼻南西方沖合には,大分県漁業協同組合が県知事から免許を受けた免許番号区第3834号と称する第1種区画漁業区域が設定され,同区域にC社が,外枠の長さが約10メートル四方の魚類小割式養殖施設(以下「生けす」という。)を南北方向3列に配し,沖側から西側列9台,中央列8台及び東側列9台の計26台を設置していた。
 A受審人は,漁獲した活魚を操業ごとに分離しており,運搬中に魚倉内の活魚が傷つくのを防ぐため,1魚倉当たりの活魚の積載量を3トンまでとし,活魚積載の準備作業として,網船で大黒丸船団の操業指揮を執る漁ろう長から無線により漁獲量の連絡を受け,その漁獲量に応じて積載する魚倉を決め,必要な仕切門扉のボルト締めを行い,3番及び5番魚倉の舷門扉のボルトを外した後,3台の海水ポンプを運転し,海水が排水口からあふれるまで魚倉に漲水して満水の状態としていた。
 A受審人は,活魚を積載した後,魚倉内の照明灯を点灯し,各魚倉のハッチコーミング上部に,長さ約2.8メートル幅約50センチ厚さ約8センチのFRP製蓋板を4枚ないし6枚敷き,合成繊維製シートで覆って遮光し,海水の供給を続けながら生けすまで運搬を行っていた。
 A受審人は,生けすに係留した後,3番魚倉の舷門には船首側の,5番魚倉の舷門には船尾側のデリック装置をそれぞれ使用し,生けすの網を取り付けた鋼製枠をどちらか1箇所の舷門に重なるように挿入した後,舷門扉を開放し,魚倉内の照明灯を消灯して活魚を仕切門及び舷門経由で生けすに誘導しており,生けす1台に1個ないし2個の魚倉の活魚を移送することとしていた。
 A受審人は,生けすに全ての活魚を移送した後,舷門扉を閉鎖して2番ないし6番魚倉の海水を排出し,2箇所の舷門扉のボルト締めを行って水密を保ち,全ての仕切門扉を閉鎖していた。

(6) 上甲板等の整備状況
 上甲板と作業甲板の間は,改造工事の際に塗装整備が行われたものの,その後,乗組員等による整備が全く行われず,改造後に使用しなくなった配管(以下「不用配管」という。)が残されたままで,左舷船首部の船首楼後端壁を貫通して甲板長倉庫に至る不用配管に腐食が生じ,同倉庫内の同配管端部に取り付けられた閉止フランジが脱落していた。

(7) 関係人の経歴
 (省略)

(8) 本件発生に至る経緯
 第5大黒丸は,A受審人ほか5人が乗り組み,船首水槽が空槽で,氷倉に砕氷13トン及び1番魚倉にバラストとして海水56.7トンをそれぞれ積載し,2番ないし6番魚倉が空倉で,船首1.51メートル船尾3.50メートルの喫水をもって,平成23年1月23日21時00分大分県松浦漁港を発し,灯船及び網船が操業している豊後水道水ノ子島付近の漁場に向かった。
 A受審人は,22時30分漁場に到着し,2番及び3番魚倉間の仕切門扉のボルトを締め,3番ないし6番魚倉間の各仕切門扉を開放した状態で,2番ないし6番魚倉を満水とし,1回目の操業で獲たあじ3トンを2番魚倉に,2回目の操業で獲たあじ12トンを3番ないし6番魚倉に3トンずつ,合計15トン積載したところ,排水量が707トン,喫水が船首2.59メートル船尾4.18メートル,乾舷が0.30メートルとなり,規定の乾舷より小さい状態で,2番ないし6番魚倉の照明灯を点灯し,各魚倉に海水の供給を続けながら,翌24日05時10分水ノ子島灯台から067度(真方位,以下同じ。)2.5海里の地点を発進し,野崎鼻南西方沖合の生けすに向かった。
 A受審人は,07時頃生けすの沖合に至り,所用のある一等航海士を下船させた後,07時30分船首を北方に向けて中央列の北側から4番目の生けすに3番魚倉の舷門を合わせ,船首及び船尾から係留索各2本を同生けすに取って右舷付けで係留し,同生けすの網を取り付けた鋼製枠を同舷門に重ね,4番及び5番魚倉間の仕切門扉を閉鎖した後,07時35分3番魚倉の舷門扉を開放して3番及び4番魚倉の照明灯を消灯し,生けすに活魚の移送を開始した。
 A受審人は,3番及び4番魚倉の活魚の移送を終えて,3番魚倉の舷門扉を閉鎖した後,係船索の操作によって船体を移動させ,中央列の北側から6番目の生けすに5番魚倉の舷門を合わせて係留し,先ほどと同じ手順で5番及び6番魚倉から生けすに活魚の移送を開始した。
 この頃,第5大黒丸は,左舷船首部の作業甲板下方の不用配管の一部が腐食により脱落しており,排水口からあふれて作業甲板付近まで滞留した海水が,同配管の脱落箇所から甲板長倉庫に流入していた。
 A受審人は,5番及び6番魚倉の活魚の移送を終えて,5番魚倉の舷門扉を閉鎖した後,船体を移動させて中央列の北側から5番目の生けすに3番魚倉の舷門を合わせて係留し,2番魚倉の活魚を3番魚倉経由で生けすに移送させるため,2番及び3番魚倉間の仕切門扉のボルトを外すこととし,11時00分海水ポンプの運転を1台として2番魚倉だけに海水を供給しながら,4番及び5番魚倉間の仕切門扉を閉鎖した状態で,3番ないし6番魚倉の各蓋板を外し,スラスター室及び機関室の各排水ポンプを運転するとともに,3番及び5番魚倉に移動式排水ポンプをそれぞれ1台入れて,同時に4個の魚倉から排水を開始した。
 このとき,A受審人は,魚倉に自由表面を有する遊動水が生じると見掛けの重心が上昇して復原力が低下する状態になり,何らかの原因で船体傾斜が生じると復原力が十分に働かず,大傾斜に至るおそれがあったが,今まで同時に5個の魚倉から排水を行っても大きく傾斜したことがなかったので,早く作業を終わらせるため同時に4個の魚倉から排水を行っても船体に傾斜を生じることはないものと思い,魚倉からの排水をそれぞれ2個ずつ2回に分けて行うなど,復原性の確保を十分に行うことなく排水を続けた。
 A受審人は,作業甲板上で3番ないし6番魚倉からの排水状況を確認していたところ,5番及び6番魚倉の海水量が満水時の3分の1となり,3番及び4番魚倉よりも水位が下がってきたので,5番魚倉に入れていた移動式排水ポンプを停止して3番及び4番魚倉から排水を続け,11時35分3番及び4番魚倉の海水量が満水時の15パーセントまで下がり,2番及び3番魚倉間の仕切門扉のボルトを外すことができる水位となったので,同ボルトを外そうとして3番魚倉内に入ったとき,左舷側への傾斜が発生したことに気付き,作業甲板に戻った。
 A受審人は,11時40分傾斜が次第に増大して約20度になったことから,3番魚倉に入れていた移動式排水ポンプを停止し,傾斜の原因を確かめようとして船首部に行ったところ,甲板長倉庫に錨鎖庫の蓋の高さまで海水が入っていることを認めた。
 A受審人は,乗組員に指示して両デリック装置のブームを右舷側に振り出させて傾斜を修正しようと試みたものの,傾斜が戻らずに約30度に増大したので転覆の危険を感じ,自らが中央列の北側から4番目の生けす上に,他の乗組員4人が同6番目の生けす上にそれぞれ乗り移り,生けす上にいた作業員が緊張した係留索4本を切断した直後,第5大黒丸は,傾斜が更に増大して転覆し,船内に大量の海水が流入して,12時04分野崎鼻北端付近の野崎四等三角点から221.5度310メートルの地点において,浮力を喪失して沈没した。
 当時,天候は曇りで風力3の西北西風が吹き,潮候は下げ潮の初期にあたり,海面は穏やかであった。
 その結果,サルベージ業者によって引き揚げられた後,廃船処分となった。

 (原因の考察)
 本件は,活魚の移送作業に当たり,同時に4個の魚倉から排水中,船体傾斜が生じて転覆し,船内に大量の海水が流入したことによって発生したものである。
 第5大黒丸は,魚倉に海水を漲水して活魚を積載し,生けすへ活魚の移送作業中,移送を終えた魚倉から排水を行えば,空倉になるまでの間,自由水面を有する遊動水が生じて見掛けの重心が上昇することになり,遊動水が生じる魚倉の数が多くなると,見掛けの重心上昇量も大幅に増加し,見掛けの横メタセンタ高さが減少して復原力が低下することになる。
 A受審人は,第5大黒丸の魚倉に活魚を運搬するため海水を漲水しており,魚倉に遊動水が生じると,見掛けの重心が上昇して復原力が低下する状態になることを認識していたのであるから,同時に4個の魚倉から排水を行って復原力が低下した状態で,一旦船体傾斜が生じれば,傾斜が助長されて大傾斜に至り,転覆するおそれがあることを十分予測できたもので,同時に排水を行う魚倉の数を減らすなど,復原性の確保を十分に行っていれば大傾斜に至ることはなく,本件発生を回避できたと認められる。
 左舷側への傾斜を生じた原因については,これを明らかにすることができないが,同時に4個の魚倉から排水を行わず,3番及び4番魚倉,又は5番及び6番魚倉から活魚の移送を終えた後,魚倉からの排水をそれぞれ2個ずつ2回に分けて行うなど,復原性の確保を十分に行っていれば,何らかの原因で船体傾斜が生じたとしても,復原力が働いて大傾斜に至ることはなく,A受審人が,同時に4個の魚倉から排水を行い,復原性の確保を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 なお,左舷船首部の不用配管の脱落箇所から甲板長倉庫に海水が流入したことは,本件発生に至る過程で生じた事実であるが,甲板長倉庫が左右に区分けされていないことから左舷側への傾斜発生の要因と言えず,また,流入量は6.6トンで遊動水の影響も小さく,復原性計算結果に示したとおり,甲板長倉庫への流入水がない場合でも見掛けの横メタセンタ高さは0.25メートルであり,流入水のある場合とほとんど差がないことから,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。

 (原因及び受審人の行為)
 本件沈没は,野崎鼻南西方沖合において,活魚の移送作業に従事する際,復原性の確保が不十分で,同時に4個の魚倉から排水を行い,遊動水の影響により復原力が低下し,発生した左舷側への傾斜が助長され,大傾斜に至って転覆し,船内に大量の海水が流入して浮力を喪失したことによって発生したものである。
 A受審人は,野崎鼻南西方沖合において,活魚の移送作業に従事する場合,同時に4個の魚倉から排水を行って海水を半載状態にさせると,遊動水の影響により見掛けの横メタセンタ高さが減少して復原力を低下させるおそれがあったから,同時に排水を行う魚倉の数を減らすなど,復原性の確保を十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,今まで同時に5個の魚倉から排水を行っても大きく傾斜したことがなかったので,同時に4個の魚倉から排水を行っても船体傾斜を生じることはないものと思い,魚倉からの排水をそれぞれ2個ずつ2回に分けて行うなど,復原性の確保を十分に行わなかった職務上の過失により,同時に4個の魚倉から排水を行って復原力を低下させ,発生した左舷側への傾斜が助長され,大傾斜して転覆させる事態を招き,沈没させるに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。



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