平成24年海審第11号
             裁    決
        貨物船第八十八さだ丸乗揚事件 

  言 渡 年 月 日 平成26年9月25日
  審  判  所 海難審判所(西村敏和,門戸俊明,福島千太郎)
  理  事  官 小金沢重充
  受  審  人 A
     職  名 第八十八さだ丸船長 
     海技免許 五級海技士(航海)

             主    文

受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

             理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成24年8月15日04時20分
 静岡県伊豆半島東岸

2 船舶の要目
  船 種 船 名 貨物船第八十八さだ丸
  総 ト ン 数 488トン
    全   長 70.50メートル
    機関の種類 ディーゼル機関 
    出   力 735キロワット

3 事実の経過
(1) 構造及び設備等
 第八十八さだ丸(以下「さだ丸」という。)は,平成10年1月に進水した砂利等の運搬に従事する船尾船橋型貨物船で,船首甲板にジブクレーンを装備し,操舵室には,中央に操舵装置,同装置の右舷側に機関遠隔操縦装置及びGPSプロッター,左舷側にレーダー1台がそれぞれ設置され,操舵装置の後方に背もたれと肘掛けのある椅子が置かれており,船橋航海当直警報装置は備えられていなかった。 

(2) 受審人の経歴等
 (省略)

(3) 本件発生に至る経緯
 さだ丸は,A受審人ほか4人が乗り組み,空倉で,船首1.8メートル船尾3.7メートルの喫水をもって,平成24年8月14日17時20分茨城県鹿島港を発し,三重県賀田港に向かった。
 A受審人は,船橋当直を,自らが14時から18時まで及び02時から06時まで,次席一等航海士が18時から22時まで及び06時から10時まで,並びに二等航海士が22時から02時まで及び10時から14時までの単独4時間交替の3直制とし,船橋当直開始の30分前に昇橋して15分前に交替することにしていた。
 A受審人は,出港操船を行った後,17時50分次席一等航海士に船橋当直を引き継いで自室で休息をとり,翌15日00時40分起床して食事をとった後,01時30分昇橋し,二等航海士から針路,速力,他船の状況などの引き継ぎを受け,01時40分野島埼西方沖合で単独の船橋当直に就いた。
 ところで,A受審人は,1日に7時間ないし8時間の睡眠を取っており,14日04時20分鹿島港に入港し,11時30分から17時10分までの間,防波堤工事に伴う石材の投入作業を行ったが,クレーンの操作をクレーン士に行わせ,自らは軽い作業を行ったので,船橋当直交替時には,疲労の蓄積はなく,睡眠不足の状態ではなかった。
 A受審人は,レーダー及びGPSプロッターを作動させ,01時45分野島埼灯台から264度(真方位,以下同じ。)10.2海里の地点で,針路を260度に定め,機関を回転数毎分275の全速力前進にかけ,12.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で自動操舵によって進行した。
 A受審人は,操舵装置の後方で椅子に腰を掛けて船橋当直を行い,03時00分頃3海里レンジで1.5海里後方にオフセンタとしたレーダーにより,大島北方沖合を航行中であることを確認し,周囲に静岡県神子元島方面に向かう同航船や同方面からの反航船が多くなったので,周囲を航行する船舶の動静監視を行いながら続航した。
 03時26分A受審人は,伊豆大島灯台から291度5.0海里の地点に差し掛かったとき,同航船との距離が離れ,反航船が通過し終えたことで安心し,通り慣れた海域であることから気が緩んで眠気を催すようになり,椅子に腰を掛けた姿勢のまま船橋当直を続けると,居眠りに陥るおそれがあったが,約30分後には静岡県稲取岬沖合で同県爪木埼沖合に向けて転針するので,それまで居眠りに陥ることはないものと思い,椅子から離れて操舵室内を移動したり,外気に当たったりするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく進行した。
 こうして,A受審人は,椅子に腰を掛けた姿勢のまま船橋当直を続けていたところ,いつしか居眠りに陥り,稲取岬沖合で転針できずに同岬北方の伊豆半島東岸に向首したまま続航中,04時20分稲取岬灯台から024度1.8海里の地点において,さだ丸は,原針路及び原速力のまま同東岸に乗り揚げた。
 当時,天候は晴れで風力1の南西風が吹き,視界は良好で,潮候は下げ潮の初期であった。
 乗揚の結果,船底部に破口を伴う凹損を生じて機関室,スラスター室などに浸水し,船底部の応急修理を行った後,タグボートの援助により離礁して静岡県下田港にえい航されたが,のち廃船とされ,乗組員は,搭載艇を降下して退船し,同県白田漁港に避難した。

 (原因及び受審人の行為)
 本件乗揚は,夜間,大島北西方沖合を西行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,伊豆半島東岸に向首進行したことによって発生したものである。
 A受審人は,夜間,大島北西方沖合において,単独の船橋当直に就いて自動操舵により西行中,眠気を催した場合,椅子に腰を掛けた姿勢のまま船橋当直を続けると,居眠りに陥るおそれがあったから,居眠り運航とならないよう,椅子から離れて操舵室内を移動したり,外気に当たったりするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,約30分後には稲取岬沖合で転針するので,それまで居眠りに陥ることはないものと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,椅子に腰を掛けた姿勢のまま居眠りに陥り,伊豆半島東岸に向首進行して乗り揚げる事態を招き,船底部に損傷を生じ,廃船とさせるに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。



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