平成25年海審第1号
             裁    決
          旅客船ハッピー転覆事件

  言 渡 年 月 日 平成26年8月26日
  審  判  所 海難審判所(加藤昌平,西村敏和,福島千太郎)
  理  事  官 阿部直之
  受  審  人 A
     職  名 ハッピー船長
     操縦免許 小型船舶操縦士

             主    文

 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

             理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成24年4月3日14時30分
 沖縄県石垣島観音埼西方沖合(名蔵湾)

2 船舶の要目
  船 種 船 名 旅客船ハッピー
  総 ト ン 数 4.7トン
    全   長 12.50メートル
    機関の種類 ディーゼル機関
    出   力 199キロワット

3 事実の経過
(1) 船体及び設備等
 ハッピーは,平成22年6月に進水した,スキューバダイビング(以下「ダイビング」という。)やシュノーケリング等(以下,併せて「ダイビング等」という。)のツアーに参加する潜水者(以下「ダイビング客」という。)の搬送業務等に従事する最大搭載人員22人のFRP製旅客船で,甲板上には,船首端から約2.5メートルのところを前端として,長さ約4.2メートル幅約2.4メートル高さ約1.8メートルで後壁のない客室を配し,同室上方に,後部を上甲板から支柱で支えた長さ約6.2メートル幅約2.4メートルのフライングブリッジを設け,客室後方の後部甲板両舷に高さ約40センチメートル(以下「センチ」という。)のブルワークを設置し,船尾にはブルワークを設置せず,船尾端両舷に船上と水中との移動用昇降はしごを備えていた。
 前部甲板下及び客室の甲板下に物入れ,後部甲板下に機関室,空気圧縮機室,物入れ及び舵機室を配し,いずれも内側にゴム製パッキンを取り付けたFRP製さぶたをかぶせて閉鎖する構造で,機関室及び空気圧縮機室に高さ約30センチのコーミングを設けていたほかには,他の物入れ等にコーミングを設けず,さぶたをかぶせたときに周囲と同じ高さとなって甲板上に段差を生じないようにされていた。
 そして,客室内にベンチ,手洗所及び洗面台を設け,同室には操縦装置を備えず,フライングブリッジ前部に舵輪,コンパス,機関遠隔操縦装置及び監視盤,サイドスラスタ操縦装置,GPSプロッター等の機器を備えた操縦席を設け,同操縦席で操船するようになっており,機関回転数毎分3,000(以下,回転数については毎分のものを示す。)にかけたときの速力が20.0ノットであった。

(2) 受審人の経歴
 A受審人は,平成4年頃から客にダイビング等を行わせる旅客船(以下「ダイビング船」という。)に乗り組むようになり,同15現有免許を取得し,同20年にB社を設立して同社所有船を使用したダイビング等のツアー事業を始めた。

(3) プレジャーボート提供業者等の届出
ア 海上運送法の適用
 旅客船により人又は物を運送する事業については,海上運送法の適用対象とされているところ,ダイビング船については,そのサービス提供が,客にダイビングをさせ,又は,そのポイントを探すためであって,利用者のレジャー需要に応じたものであることから,海上運送法の適用が除外されている。

イ 沖縄県水難事故の防止及び遊泳者等の安全の確保等に関する条例
 沖縄県は,水難事故を防止し,遊泳者その他の海域等利用者の生命,身体及び財産の保護を図ることを目的に,沖縄県水難事故の防止及び遊泳者等の安全の確保等に関する条例を制定し,平成6年4月1日付で施行した。
 同条例においては,第11条で,海域若しくは内水域又は海浜その他の土地に設備等を設け,人の需要に応じてプレジャーボートを賃貸その他の方法により利用させる事業,又は特定の海域において潜水をしようとする人の需要に応じてこれをその海域に案内し,潜水をさせる事業を営もうとする者は,事業に伴い発生が予想される水難事故を防止するために採る措置の概要等を記載した届出書(以下「海域レジャー事業届出書」という。)を同県公安委員会に提出しなければならないと規定されている(以下,同届出をした者をそれぞれ「プレジャーボート提供業者」又は「潜水業者」という。)。
 そして,B社は平成21年にプレジャーボート提供業者及び潜水業者として届出を行っていた。

(4) 本件発生に至る経緯
 ハッピーは,A受審人が1人で乗り組み,ガイドダイバー2人及びダイビング客7人を乗せ,ダイビング等を行わせる目的で,船首0.6メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成24年4月3日08時30分沖縄県石垣港内にある石垣漁港を発し,同県竹富島北端の御埼西方沖合約2海里のダイビングポイント(以下「第1ポイント」という。)に向かった。
 これより先,A受審人は,07時30分気象庁及び一般財団法人日本気象協会のホームページで,石垣島地方に強風・波浪注意報が発表され,午後には,風速毎秒13メートル(以下,風速については毎秒の値を示す。),波高3メートルないし3.5メートルに達するとの情報を得たものの,石垣漁港から視認できる範囲では波浪は低く,風も弱かったので,空模様を確かめながらダイビング等を行い,天候が崩れる前にダイビングポイントを発進して帰航するつもりで発航したものであった。
 ところで,A受審人は,ダイビングポイントに向かうに当たっては,発航前に気象情報を収集し,風速8メートルないし10メートル,波高3メートルの予報が発表されていれば発航を中止することとしていたものの,予報された風速が10メートルを超える場合であっても,島陰等で強風や波浪の影響を受けずに移動できる場所を選んでダイビング等を行うことがあった。
 A受審人は,09時頃第1ポイントに到着してダイビング客にダイビング等を行わせた後,名蔵湾北部の浅礁域にあるダイビングポイントに移動し,11時30分琉球観音埼灯台(以下「観音埼灯台」という。)から346度(真方位,以下同じ。)3.4海里の地点(以下「第2ポイント」という。)で錨を入れたとき,周囲に15隻ほどのダイビング船がいるのを認め,ガイドダイバーを案内に付けてダイビング等を行わせた。
 A受審人は,ダイビング客がダイビング等を行っている間,自身は船上でシュノーケリングの様子を監視しながら空模様を見ていたところ,12時30分ダイビング等を終えたダイビング客が船上に上がった頃,風向がそれまでの南寄りから北寄りに変わり,風速が15メートルほどに急激に強まったのを認めた。
 A受審人は,この頃周囲のダイビング船が帰航し始めたことから,自船も直ちに帰航することとし,ガイドダイバーとダイビング客全員に救命胴衣を着用させ,錨を揚収した後,12時45分石垣港に向け発進し,機関を回転数3,000にかけて20.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,自船と相前後して第2ポイント付近を発進した自船より大型のダイビング船数隻とともに,名蔵湾北部の浅礁域を南下した。
 A受審人は,同浅礁域を航行中,自船の周囲では波浪が高くなかったものの,石垣港への帰航予定針路付近で波浪が高くなっているのを視認し,12時46分少し過ぎ観音埼灯台から346度3.0海里の地点に達して浅礁域を抜けたとき,自船の周囲でも波浪が高くなって船体が上下動するのを認め,前方の観音埼沖合では三角波が発生しやすく,そのまま航行を続けて左舷船尾方から強風と高まった波浪を受けると,大傾斜して転覆するおそれがあったが,自船と相前後して発進した数隻のダイビング船が付近を航行していたので,自船も何とか帰航できるものと思い,反転して名蔵湾北部の波浪の低い安全な海域に避難するなど,帰航を中止することなく,機関回転数を1,000に減じただけで,針路をほぼ観音埼に向く166度に定め,4.0ノットの速力で進行した。
 12時53分A受審人は,観音埼灯台から346度2.5海里の地点に達した頃,更に波浪が高くなって船体の動揺が大きくなり,航行に危険を感じたものの,波浪が低い第2ポイント付近に向けて反転すると,その途中で高い波浪を正横方向から受けることになるため,名蔵湾北部の波浪の低い安全な海域に向けることができず,船体の上下動が続くことから,機関回転数を更に減じてほぼ最低回転数としたところ,船首を観音埼に向けようとしても船体の動揺が大きく,左右に振れて船首方向が安定しないまま,竹富島に向けて圧流されながら2.5ノットの速力で続航した。
 A受審人は,左舷船尾方からの強風と波浪の影響で船体が右舷側に傾斜するので,ガイドダイバーとダイビング客全員を客室内の左舷側に移動させ,13時20分観音埼灯台から334度1.5海里の地点で,船尾から波浪が打ち込み始めたことから,波浪の状況を見ながらクラッチの前進と中立を繰り返し,1.5ノットの速力となって進行した。
 こうして,ハッピーは,船尾から打ち込んで甲板上に滞留した海水の影響で船体傾斜が増大する一方,大きく動揺しながら御埼に向けて圧流され,14時30分観音埼灯台から253度1.2海里の地点において,左舷船尾方から高まった波浪を受けて右舷側に大傾斜し,復原力を喪失して転覆した。
 当時,天候は曇りで風力6の北北東風が吹き,北寄りで波高3.5メートルの波浪があり,石垣島地方に強風・波浪注意報が発表されていた。
 転覆の結果,船体がほぼ水没して船首だけを海面上に出した状態で圧流され,御埼北方の浅礁に打ち上げられて大破し,後に廃船とされ,A受審人,ガイドダイバー及びダイビング客全員が,来援した海上保安庁の巡視艇によって救助された。

 (原因及び受審人の行為)
 本件転覆は,強風・波浪注意報が発表された名蔵湾において,風が強くなり,石垣港への帰航予定針路付近で波浪が高まった際,帰航を中止せず,左舷船尾方から強い風と波浪を受けながら航行中,高まった波浪を受けて大傾斜し,復原力を喪失したことによって発生したものである。
 A受審人は,名蔵湾において,石垣港への帰航予定針路付近で波浪が高くなっているのを認めた場合,前方の観音埼沖合では三角波が発生しやすく,左舷船尾方から強風と高まった波浪を受けると,大傾斜して転覆するおそれがあったから,反転して名蔵湾北部の波浪の低い安全な海域に避難するなど,帰航を中止すべき注意義務があった。しかしながら,同人は,数隻のダイビング船が付近を航行しているので,自船も何とか帰航できるものと思い,帰航を中止しなかった職務上の過失により,左舷船尾方から強い風と波浪を受けながら航行中,高まった波浪を受けて大傾斜し,復原力を喪失して転覆する事態を招き,浅礁に打ち上げられて大破し,廃船とさせるに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。



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