平成25年海審第3号
             裁    決
          旅客船ニューのしま乗揚事件

  言 渡 年 月 日 平成26年3月13日
  審  判  所 海難審判所(西村敏和,門戸俊明,吉川弘一)
  理  事  官 浅野真司
  受  審  人 A
     職  名 ニューのしま船長
     海技免許 五級海技士(航海)(履歴限定)
  補  佐  人 a
  受  審  人 B
     職  名 ニューのしま機関長
     海技免許 四級海技士(機関)(履歴限定・機関限定)
  補  佐  人 b
  指定海難関係人 C
     職  名 D社運航管理者

             主    文

 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを懲戒しない。

             理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成23年11月23日18時30分
 山口県野島北端

2 船舶の要目
 船 種 船 名 旅客船ニューのしま
 総 ト ン 数 67トン
   全   長 25.70メートル
   機関の種類 ディーゼル機関
    出   力 1,618キロワット

3 事実の経過
(1) 設備等の状況
ア 諸室の配置
 ニューのしまは,平成10年2月に進水した,山口県三田尻中関港及び同県野島漁港間の定期航路に就航する,2機2軸を備えた旅客の最大搭載人員95人(航行予定時間6時間未満の場合)の軽合金製旅客船で,船体の中央に操舵室があり,同室の前方に旅客定員59人の前部客室及び後方に同36人の後部客室並びに後方下部に機関室がそれぞれ配置されていた。

イ 操舵室
 操舵室には,前部中央に操舵装置があり,同装置の右舷側にGPSプロッター及びレーダー,左前に風向計及び風速計,並びに左舷側に両舷主機の操縦レバー,計器盤及び警報盤がそれぞれ設置されていた。

ウ 機関室
 機関室には,中央の両舷に,主機としてE社で製造された,GM16V92−TI型と呼称するV形2サイクル逆転減速機付きのディーゼル機関各1機が,前部右舷側に発電機原動機1機がそれぞれ据え付けられ,同室前部の両舷側に設けられた昇降口から同室へ出入りできるようになっていた。

エ 燃料油タンクの配置及び主機の燃料油系統等
(ア) 燃料油タンクは,機関室前部隔壁の前方に3番燃料油タンク(以下「3番タンク」という。)が,同室後部隔壁の後方に2番燃料油タンク(以下「2番タンク」という。)及び2番タンクの船尾側に1番燃料油タンク(以下「1番タンク」という。)が,それぞれ設置されていた。1番タンク及び2番タンクは,両タンクの連絡弁を常時開放した状態で,両タンクを共通にして使用しており,両舷主機及び発電機原動機へは2番タンクからそれぞれ別の系統で燃料油が供給されていた。また,3番タンクの燃料油は,平素から使用しておらず,同タンクの取出弁は閉弁されていた。

(イ) 主機の燃料油は,2番タンク及び3番タンクに設けられた非常遮断装置付取出弁(以下「非常遮断弁」という。)を通って,両舷主機間の床板の下にある燃料油集合だまりに至り,同集合だまりから両舷の油水分離器,燃料油こし器,燃料油ポンプ及び燃料油フィルターを経由して燃料油噴射弁に導かれていた。

(ウ) 非常遮断弁は,機関室火災などの非常時に,機関室外から遠隔操作により燃料油の供給遮断を行うことができる構造となっており,同弁の操作レバーに取り付けられた遠隔操作用ワイヤロープ(以下「ワイヤ」という。)が,同弁上方の天井に導かれた後,天井の右舷側に沿って右舷前部の昇降口の壁に至り,同ワイヤの他端に取り付けられた鉄製のリングを引き上げることにより操作レバーを引き上げ,同レバーと連結している作動ピンが弁棒止め金物から外れ,スプリングの力で瞬時に同金物と共に弁棒が押し下げられて,同弁が閉じるようになっていた。
 また,非常遮断弁は,一旦作動ピンが外れて閉弁すると,手動でハンドル車を時計回りに回転させて完全に閉鎖状態とした後,作動ピンを弁棒止め金物に取り付け,スプリングの力に勝るようにハンドル車を手動で反時計回りに回転させれば,開弁することができるものの,手動以外の外力により非常遮断弁が閉弁したときの警報装置などは設置されていなかった。

(エ) 機関室内の床面は,各機器の点検及び作業等を行うために,各機器の配置状況に合わせて床下にある山形鋼材の枠内に,表面に連続した滑り止め用の突起を付けた縞鋼板製の床板が敷かれていたものの,非常遮断弁などの各弁付近には敷かれておらず,2番タンクの非常遮断弁の高さは,同弁のハンドル車の高さと床板の高さがほぼ同じであり,同弁左舷側の床面には,潤滑油を補給するために容量20リットルの円筒形の缶(以下「潤滑油缶」という。)1缶ないし2缶が固縛されていない状態で常時置かれていたものの,これまで通常の航海では,船体の動揺等による潤滑油缶の移動や転倒はなかった。

(オ) 燃料油は,軽油が使用され,毎週月,水,金,土及び日曜日に補給されており,平成23年11月23日は,第2便の三田尻中関港着後に補給された。

オ 錨及び錨索の格納状況
 船首甲板下にある船首倉庫には,錨2個及び錨索2本が格納されていた。錨は,重量が50キログラムのダンフォース型で,船首倉庫の両舷側壁にボルト及びナットによって固定されており,錨索は,直径33ミリメートル長さ100メートルの化学繊維製であった。

(2) 関係人の経歴
ア A受審人
 (略)

イ B受審人
 (略)

ウ C指定海難関係人
 (略)

(3) D社
 D社は,昭和41年4月に設立され,翌42年10月に山口県防府市などが出資する第三セクターとなり,海上運送法に基づく三田尻中関港及び野島漁港間を結ぶ一般旅客定期航路事業の許可を受け,所有するニューのしま等の2隻を運航して同事業を営んでいた。

(4) 安全管理規程
 D社は,輸送の安全を確保するため,平成18年10月1日付で海上運送法に基づく安全管理規程を定め,運航管理者の職務及び権限として,船長の職務権限に属する事項を除き,船舶の運航の管理及び輸送の安全に関する業務全般を統括し,安全管理規程の遵守を確実にしてその実施を図ること,及び船舶の運航に関し,船長と協力して輸送の安全を図ることなどを定めていた。
 また,安全管理規程には,船長は,適時,運航の可否判断を行い,気象・海象が一定の条件に達したと認めるとき又は達するおそれがあると認めるときは,運航中止の措置をとらなければならないと定められており,また,運航中止に係る判断が困難であると認める場合は,運航管理者と協議し,両者の意見が異なるときは,運航を中止しなければならないことなどが定められていた。
 さらに,運航管理者は,運航基準の定めるところにより運航が中止されるべきであると判断した場合において,船長から運航を中止する旨の連絡がないとき又は運航する旨の連絡を受けたときは,船長に運航の中止を指示しなければならないことが定められていた。
 運航基準には,運航中止の措置をとるべき気象・海象の条件(以下「発航中止基準」という。)などについて定められており,主な点は次のとおりであった。
ア 運航の可否判断
(ア) 発航の可否判断
 船長は,発航前に運航の可否判断を行い,三田尻中関港又は野島漁港において,風速が毎秒13メートル(以下,風速については毎秒を省略する。)以上,波高が1.5メートル以上又は視程が500メートル以下のいずれかに達していると認めるときは,発航を中止しなければならない。
 また,船長は,発航前において,航行中に遭遇する気象及び海象(視程を除く。)に関する情報を確認し,風速が15メートル以上又は波高が2.0メートル以上に達するおそれがあると認めるときは,発航を中止しなければならない。

(イ) 基準航行の可否判断等
 船長は,基準航行を継続した場合,船体の動揺等により安全な運航が困難となるおそれがあると認めるときは,基準航行を中止し,減速,適宜の変針,基準経路の変更等の適切な措置をとらなければならない。運航が困難となる事態が発生するおそれがある海上模様等は,風速が13メートル以上(船首尾方向の風を除く。),波高が1.5メートル以上又は横揺れ10度以上である。
 また,船長は,航行中,周囲の気象・海象に関する情報を確認し,風速が15メートル以上又は波高が2.0メートル以上に達するおそれがあると認めるときは,目的港への航行の継続を中止し,反転,避泊又は臨時寄港の措置をとらなければならない。

イ 基準経路,速力基準及び運航時刻
 三田尻中関港と野島漁港間の常用基準経路として,両港の港口間を直進する第1基準経路が設定されており,また,風向が西寄りで風速が10メートルを超えるときの経路として,第1基準経路の西方に第2基準経路が設定されていた。
 速力の基準は,全速力前進が機関回転数毎分1,960で27.5ノット,半速力前進が同1,100で15.0ノット,微速力前進が同700で7.0ノットとなっており,三田尻中関港及び野島漁港との間の約8海里の航程を所要時間27分で航行して両港間を1日に4往復運航し,06時30分野島漁港発の第1便が始発便で,17時45分三田尻中関港発で18時12分野島漁港着の第4便(以下「三田尻中関港発第4便」という。)が最終便となっていた。

(5) 本件発生に至る経緯
 ニューのしまは,A及びB両受審人ほか甲板員1人が乗り組み,旅客6人を乗せ,船首0.80メートル船尾1.50メートルの喫水をもって,平成23年11月23日17時45分三田尻中関港を発し,野島漁港に向かった。
 ところで,下関地方気象台は,23日04時47分防府市を含む山口県中部に対して強風,波浪注意報を発表し,また,同日15時の天気図によれば,日本海北西部には,中心気圧が1,004ヘクトパスカルの低気圧があり,毎時30キロメートルの速度で北東方に進み,中心から南西に延びる寒冷前線が山口県地方にかかっていた。
 発航に先立ち,A受審人は,発航の可否を判断するため,携帯電話で天気予報を確認して強風,波浪注意報が発表されていること,及び同電話で徳山海上保安部の沿岸域情報提供システムにより,野島漁港の南方約700メートルに位置する周防野島灯台では,西北西風が風速18メートルないし19メートルに達していることを知り,野島漁港の事務所で勤務していたC指定海難関係人から電話連絡があったので,発航の可否について協議を行った。
 A受審人は,三田尻中関港内での風速が8メートルないし9メートルで発航中止基準に該当していなかったものの,周防野島灯台での風速から,航行中に風速が同基準の15メートル以上に達するおそれがあることを知り,船体の動揺等により不測の事態が発生して安全な運航が困難となるおそれがあることから,同基準を遵守して発航を中止すべき状況であったが,16時30分野島漁港発の第4便(以下「野島漁港発第4便」という。)の出港時よりも風が強くなったものの,同便の航行中における風速が10メートルであったので,そのときより風が強くなっていても,第2基準経路を航行すれば,西寄りの風を右舷後方から受けるようになり,風が更に強くなるまでには野島漁港に入港できるものと思い,三田尻中関港発第4便の発航を中止せず,予定どおり発航させる旨をC指定海難関係人に連絡した。
 一方,C指定海難関係人は,風が強くなってきたので,周防野島灯台での風速を確認したところ,18メートルないし19メートルに達しており,航行中に風速が発航中止基準の15メートル以上に達するおそれがあることを知り,A受審人に電話を掛けて三田尻中関港発第4便の発航の可否について協議を行い,同受審人から野島漁港発第4便の航行中における風速及び波浪の状況を確認し,三田尻中関港発第4便を予定どおり発航させる旨の連絡を受けたが,もっと風が強いときでも運航したことがあったので,同受審人に発航を中止するよう指示しなかった。
 A受審人は,操舵装置の後方に立って手動操舵に就き,B受審人に両舷主機の操縦レバーの操作に当たらせ,レーダー及びGPSプロッターを作動させ,三田尻中関港の港口に向けて航行し,三田尻中関港三田尻第1号灯浮標と同第2号灯浮標との間を通過した後,出港作業を終えた甲板員と手動操舵を交替し,引き続き操船の指揮を執った。
 A受審人は,三田尻中関港築地東防波堤南灯台を左舷に見て港口を通過したとき,風速が10メートルを超える西北西風が吹いており,船体の動揺が予想されたので,野島漁港へ向かって直進する第1基準経路によらずに第2基準経路を航行することにし,17時51分同灯台から204度(真方位,以下同じ。)360メートルの地点で,針路を180度に定め,両舷主機を回転数毎分1,920として25.3ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
 B受審人は,港口を通過した後,機関室内の巡検を行って異状がないことを確認し,操舵室に戻って計器盤の監視に当たった。
 A受審人は,風速12メートルないし13メートルの西北西風が吹いており,波高が1メートルないし1.5メートルであったものの,視界が良好で船体の動揺もそれほど大きくなかったので,17時53分半,野島港西外防波堤灯台(以下「外防波堤灯台」という。)から305.5度5.0海里の地点で,針路を同灯台に向く126度に転じて続航した。
 ニューのしまは,強まった西北西風と高波を右舷後方から受けながら野島漁港の港口に向けて進行中,2番タンクの非常遮断弁付近の床面に固縛していない状態で置かれていた潤滑油缶が,船体の動揺により同弁の方向に移動し,同缶の下端が床板の枠の山形鋼材に当たり,転倒して同弁に取り付けられたワイヤと接触し,同ワイヤが緊張したことから,同弁が作動して2番タンクの取出弁が閉弁したため,両舷主機への燃料油の供給が遮断された。
 B受審人は,18時03分外防波堤灯台から305度1.0海里の地点で,着桟準備のために操舵室から出ようとしていたとき,警報が作動することもなく,突然,計器盤にある主機回転計の左舷主機の回転数が毎分1,920から同1,500に低下したことに気付き,その旨をA受審人に報告した。
 A受審人は,B受審人に機関室の状況を確認するよう指示し,両舷主機の回転数を合わせるために遠隔操縦レバーで右舷主機の回転数を毎分1,500に下げた後,甲板員と交替して手動操舵に就き,同甲板員を機関室の出入口に配置して同室の状況を報告するように指示し,間もなく0.75海里レンジとしたレーダー画面の船首方向外縁付近に野島漁港西外防波堤の映像が表示され始めたのを認めた。
 B受審人は,直ちに機関室に向かい,左舷主機が最低回転数の毎分650まで下がった後に停止したので,始動電動機により同主機を始動したところ,燃料油による運転(以下「燃料運転」という。)をすることができたことから,操舵室へ戻ろうとしたときに再び停止したので,再度始動したもののすぐに停止し,更に始動した3回目も同様にすぐに停止して燃料運転をすることができず,また,右舷主機も回転数が毎分650まで下がった後に停止したので,始動電動機により同主機を始動したものの,燃料運転をすることができなかった。
 B受審人は,燃料系統の異状の有無を調査したものの,非常遮断弁が作動して両舷主機への燃料油の供給が遮断されたことの確認に至らず,18時15分外防波堤灯台から302度480メートルの地点において,A受審人に両舷主機の燃料運転をすることができない旨を報告した。
 ニューのしまは,両舷主機が完全に停止し,船首を南方の野島漁港の港口に向けた状態で運航が困難となり,右舷側から西北西の強い風と高波を受け,東方の野島に向けて急速に圧流され始めた。
 A受審人は,船首倉庫に格納している錨を使用することを検討したが,船首部が大きく動揺している中で,同倉庫内から錨及び錨索を搬出することが困難であると判断し,投錨による圧流防止措置をとることを諦め,直ちに携帯電話で野島在住の知人に救助を要請し,18時20分知人の漁船が来援したものの,荒天のためえい航索を取ることができなかった。
 ニューのしまは,野島北端に向けて圧流され続け,18時30分外防波堤灯台から050度450メートルの地点において,船首を135度に向け,野島北端の岩場に乗り揚げた。
 当時,天候は曇りで風力8の西北西風が吹き,視界は良好で,山口県中部に強風,波浪注意報が発表され,潮候は高潮時に当たり,西北西方から波高約2メートルの波浪があり,日没時刻は17時06分であった。
 A受審人は,乗組員及び旅客全員が救命胴衣を着用したことを確認し,19時10分頃,風が治まって船体が動揺しなくなったので,全員を岩場伝いに付近の砂浜に上陸させた。
 乗揚の結果,船底部及び燃料油タンクに破口を伴う損傷並びにプロペラ翼に欠損及び曲損を生じ,燃料の軽油が同破口から船外に流出し,11月30日クレーン船に吊り上げられて台船で造船所に運搬されたが,のち廃船とされた。

 (原因の考察)
1 発航の可否判断について
 A受審人は,野島漁港発第4便では航行中の風速及び波高が発航中止基準に達しておらず,三田尻中関港内での風速も同基準に達していなかったとはいえ,同基準の目安としていた周防野島灯台では風速が18メートルないし19メートルに達していることを知り,航行中に風速が同基準の15メートル以上に達するおそれがある状況であったが,運航管理者と発航の可否について協議を行った際,発航を中止しなかった。
 このような状況においては,発航前において,航行中に両舷主機の停止という具体的な事態まで想定することができないとしても,発航後に不測の事態が起こり得ること,さらに,一旦不測の事態が起これば最悪の事態を招くこともあり得ることを想定できる状況であったものと認めることができ,このような不測の事態の発生を未然に防止するために,安全管理規程に基づく運航基準には,発航中止基準として,船長は,発航前において,航行中に風速が15メートル以上又は波高が2.0メートル以上に達するおそれがあると認めるときは,発航を中止しなければならないと定められている。
 したがって,A受審人が,ニューのしまを運航するに当たり,発航中止基準を厳格かつ適正に適用すべきところ,同基準を遵守せず,発航を中止しなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,C指定海難関係人は,周防野島灯台では風速が18メートルないし19メートルに達し,航行中に風速が発航中止基準の15メートル以上に達するおそれがあるので,発航の可否についてA受審人と協議を行い,同人から予定どおり発航する旨の連絡を受けた際,安全管理規程を遵守して同人に発航を中止するよう指示しなかったことは,本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人は,安全統括管理者及び運航管理者として,安全管理規程を厳格かつ適正に遵守し,輸送の安全確保に努めなければならない。

2 両舷主機が停止した原因等について
 ニューのしまは,本件発生当日の第2便で三田尻中関港に到着後に燃料油が補給されていたことから,燃料油不足とはなっておらず,左舷主機の回転数が毎分1,920から同1,500に低下した後もしばらくの間燃料運転をすることができたこと,及び本件発生後に行われた燃料油管の圧力試験において異状が発見されなかったことから,両舷主機が停止した原因は,主機至近の燃料油系統内で燃料油の供給が遮断されたものではなく,主機からある程度離れた所の同系統内で燃料油の供給が遮断されたことによるものと推認でき,両舷主機への燃料油の供給元となる同油タンク取出弁である2番タンクの非常遮断弁が作動したことが考えられる。また,2番タンクの非常遮断弁の付近には,床面に潤滑油缶が固縛していない状態で置かれていたことから,同缶が船体の動揺により同弁の方向に移動して同缶の下端が床板の枠の山形鋼材に当たり,転倒して同弁に取り付けられたワイヤと接触し,同ワイヤが緊張したことから,同弁が作動して2番タンクの取出弁が閉弁したため,両舷主機への燃料油が遮断されたものと考えるのが妥当である。
 B受審人は,平素から潤滑油を補給するために2番タンクの非常遮断弁付近の床面に潤滑油缶が固縛していない状態で置かれていたことを承知していたが,これまで通常の航海では,同缶が船体の動揺等により移動して転倒したことがなく,A受審人から気象情報を知らされていなかったことから,同缶が航行中に船体の動揺等により移動して転倒することが予見できなかったと認められる。
 したがって,B受審人が,2番タンクの非常遮断弁付近の床面に置いていた潤滑油缶を固縛するなど,移動防止措置をとっていなかったことは,同人の職務上の過失とするまでもない。

3 両舷主機停止後の対処について
 B受審人は,両舷主機の再始動を試みたとき,燃料運転をすることができなかったことから,燃料油系統の異状と判断して同系統の点検を行なったものの,2番タンクの非常遮断弁の状況を確認しなかったので,同弁が閉弁していることに気付かなかった。
 主機の燃料運転をすることができなくなった原因を究明する場合には,主機に近い燃料油こし器等から順次点検していくことが一般的な方法であり,2番タンクの非常遮断弁の状況を確認するまでには,一定の時間が必要であり,また,同弁の閉弁が原因であることが判明したとしても,再び主機の燃料運転をするためには,同弁を開弁した後,主機取扱説明書に記載の指示事項に従って,燃料油系統内の空気を燃料油こし器の空気抜き等から逃がしながら,同系統内を燃料油で満たした状態にしなければならず,左舷主機の回転数が低下してから乗り揚げるまでの27分間に原因の究明及び主機の運転再開までの作業を1人で行うには,十分な時間であったとは言えず,原因の究明及び主機の運転再開ができなかったことは,同人の職務上の過失とするまでもない。

4 投錨による圧流防止措置について
 A受審人は,両舷主機が停止して運航が困難となった後,投錨による圧流防止措置をとらなかったが,両舷主機の停止から乗り揚げるまでの時間が15分間であり,船首部が大きく動揺している中で,船首倉庫に格納されていた錨及び錨索を甲板上に搬出する作業が困難であったと認められること,及び両舷主機が停止した直後に救助を要請し,短時間で救助船が到着したことから,投錨による圧流防止措置をとらなかったことは,本件発生の原因とするまでもない。
 しかしながら,緊急時には,いつでも錨を使用することができるよう,対策を講じておく必要がある。

 (原因及び受審人の行為)
 本件乗揚は,強風,波浪注意報が発表され,風勢が増す状況下,旅客輸送のため三田尻中関港から野島漁港に向かおうとする際,安全管理規程の遵守が不十分で,発航を中止せず,強まった風と高波を受けながら野島漁港北西方沖合を航行中,両舷主機が停止して運航が困難となり,野島北端に向けて圧流されたことによって発生したものである。
 運航管理者が,発航の可否について船長と協議した際,安全管理規程を遵守して船長に発航を中止するよう指示しなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人は,強風,波浪注意報が発表され,風勢が増す状況下,旅客輸送のため三田尻中関港から野島漁港に向かおうとする場合,航行中に風速が安全管理規程に定める発航中止基準の15メートル以上に達し,船体の動揺等により不測の事態が生じて安全な運航が困難となるおそれがあったから,これを回避することができるよう,発航中止基準を遵守して発航を中止すべき注意義務があった。ところが,同人は,周防野島灯台の気象情報を入手して野島漁港発第4便の出港時よりも風が強くなったことを知ったものの,同便の航行中における風速が10メートルであったので,そのときより風が強くなっていても,第2基準経路を航行すれば,西寄りの風を右舷後方から受けるようになり,風が更に強くなるまでには野島漁港に入港できるものと思い,発航を中止しなかった職務上の過失により,野島漁港北西方沖合を航行中,船体の動揺により移動した潤滑油缶が燃料油の非常遮断弁のワイヤに接触して同弁が作動したことから,燃料油の供給が遮断され,両舷主機が停止したことによって運航が困難となり,強まった風と高波により圧流されて野島北端の岩場に乗り揚げる事態を招き,船体に損傷を生じて廃船とさせるに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して,同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人の行為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。



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