平成25年海審第4号
             裁    決
         モーターボートミホZ転覆事件

  言 渡 年 月 日 平成26年3月27日
  審  判  所 海難審判所(西村敏和,加藤昌平,福島千太郎)
  理  事  官 阿部直之
  受  審  人 A
     職  名 ミホZ船長
     操縦免許 小型船舶操縦士

             主    文

 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を2箇月停止する。

             理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成24年3月25日10時20分
 北海道登別漁港東方沖合

2 船舶の要目
 船 種 船 名 モーターボートミホZ
   全   長 8.27メートル
   機関の種類 電気点火機関
   出   力 110キロワット

3 事実の経過
(1) 構造及び設備
 ミホZは,B社が製造し,平成8年に進水した,型式G8Vと称する最大搭載人員14人の平甲板を有する和船型FRP製モーターボートで,甲板周囲に高さ0.4メート ルないし0.5メートルのブルワークを巡らせ,両舷の船体中央部及び後部に直径約10センチメートルの排水孔をそれぞれ設け,同排水孔は,平素から船体中央部の2箇所は閉鎖されており,後部の両舷2箇所だけが開放されていた。
 そして,船体の後部に舵輪や船外機の操縦レバーを組み込んだ高さ1.35メートルの操縦スタンドがあり,同スタンド上部に魚群探知機の映像を分割表示できるGPSプロッターが備えられ,船尾に船外機が装備されていた。

(2) 受審人の経歴等
 (省略)

(3) 本件発生に至る経緯
 ミホZは,A受審人が1人で乗り組み,知人4人を乗せ,かれい釣りの目的で,船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,平成24年3月25日05時20分登別漁港を発し,全員が救命胴衣を着用して同漁港東方沖合の釣り場に向かった。
 これより先,A受審人は,登別漁港東方13海里付近の釣り場で釣果が上がっているとの情報を得たので,同釣り場で釣りを行うことを計画し,前日,テレビ及び室蘭地方気象台のテレフォンサービスにより,胆振地方の海上では,南東の風がやや強く,波高1.5メートルとの気象情報を入手し,当日,同漁港付近で波の状態を確認したときには,波が高くなかったので出航したものであった。
 ところで,A受審人は,登別漁港が北海道の南西部に位置して太平洋に面していることから,同漁港沖合では南東の風が増勢すると波浪が高くなることを知っており,ミホZが沿岸部でのわかめ採取などに使う船型で,乾舷が小さく波浪が打ち込みやすいことから,平素は,同漁港から1時間以内のところで釣りを行っていたものの,遠くの釣り場で釣果が上がっているとの情報を得たときには,同釣り場に出掛けることがあって,片道約1時間半を要する今回の釣り場がこれまでで最も遠く,平成24年になって今回の釣り場で釣りを行うのは,本件時が3回目であった。
 また,A受審人は,これまで,波高1.5メートルとの予報が発表されていたときに,釣り場での波高が約2メートルに達していたため,釣りをせずに帰航したことがあったので,波高が1.5メートルを超えるとの気象情報を入手したときは,出航を取り止めることにしており,また,釣り場で波高が1.5メートルを超えるようになれば,釣りを中止して帰航することにしていた。
 A受審人は,降雪により視界が狭まった中を右舷船首方から風と波浪を受けながら,GPSプロッターに記録された以前の航跡をたどって東行し,07時20分登別漁港東方約13海里沖合となる,苫小牧灯台から208度(真方位,以下同じ。)7.0海里の地点に至り,風速毎秒2メートルないし3メートルの東寄りの風が吹き,波高が約1.5メートルであったので,直径5メートルのパラシュート型シーアンカー(以下「シーアンカー」という。)を投入し,漂泊して釣りを行い,釣果が良かったのでしばらく釣っていたところ,釣果が上がらなくなったので,08時45分頃シーアンカーを揚収して同釣り場を発進し,魚群の探索を行いながら南下した。
 09時00分A受審人は,前示釣り場の南方約1.2海里となる,苫小牧灯台から205度8.2海里の地点で魚群を探知したとき,風速が毎秒約5メートルと強くなり,波高が約1.8メートルに高まったことを認め,漂泊して釣りを再開すると,その間に風と波浪が更に増勢し,高起した波浪がブルワークを越えて船内に打ち込むなど,安全に帰航できなくなるおそれがあったが,更に釣果を上げようと思い,直ちに帰航することなく,シーアンカーを投入し,直径24ミリメートルの引索を30メートル延出して船首部に結び,船外機を停止して2回目の漂泊を開始した。
 漂泊を開始したとき,A受審人は,付近に自船より大型の遊漁船2隻が漂泊しているのを認め,船尾付近で釣りを再開して間もなくかれいが釣れ始めたことから釣りを続けていたところ,風向が南東となって更に風が強まり,09時50分波高が2メートルを超えるようになって船体の動揺が大きくなり,釣りを続けることが困難となったことから帰航することとし,釣り道具の片付けを始めたところ,付近にいた遊漁船から時化てくるので早く帰航するよう促され,同乗者にシーアンカーを急いで揚収させ,10時00分漂泊地点を発進して帰途に就いた。
 A受審人は,操縦スタンドの後方に立って操船に当たり,針路を270度に定め,同乗者Cを中央部右舷側,同DをC同乗者の後方,同Eを中央部左舷側及び同FをE同乗者の後方の位置でそれぞれプラスチック製の箱に腰を掛けさせ,波高が2メートルないし3メートルに達していたので,その状況を見ながら船外機の操縦レバーを適宜操作し,伴走する遊漁船の後方を約10ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 A受審人は,遊漁船との距離が離れないようにして同船の後方を続航中,左舷船尾方から波高約3メートルの波浪がブルワークを越えて船内に打ち込み,波浪の衝撃により転倒した際に操縦レバーが動いて船外機が中立運転となり,船内に打ち込んだ海水が滞留して右舷側に傾斜したところに,連続して高波が打ち込んで右舷側に大傾斜し,10時20分苫小牧灯台から220度9.7海里の地点において,船首が西方を向き,行きあしのない状態で,復原力を喪失して転覆した。
 当時,天候は雪で風力5の南東風が吹き,視程は500メートルで,潮候は下げ潮の末期にあたり,南東方から波高約3メートルの波浪があった。
 転覆の結果,船外機等に濡損を生じ,翌日巡視艇により登別漁港にえい航されたのち修理され,A受審人及び同乗者3人が遊漁船に救助されたものの,F同乗者及びD同乗者がそれぞれ溺水により死亡し,E同乗者が行方不明となった。

 (原因の考察)
 本件は,登別漁港東方沖合において,増勢した風と波浪を左舷船尾方から受けながら帰航中,高起した波浪が船内に打ち込んで大傾斜し,復原力を喪失したことによって発生したものである。
 A受審人は,1回目の漂泊地点では,東寄りの風が風速毎秒2メートルないし3メートルで,波高が約1.5メートルであったところ,釣り場を移動し,2回目の漂泊地点に達したときには,風速が毎秒約5メートルと強くなり,波高が約1.8メートルと高まったことを認めたのであるから,直ちに帰航していれば,本件の発生を防止できたと認められる。
 ところが,A受審人は,更に釣果を上げようと思い,シーアンカーを投入して漂泊し,釣りを再開して間もなくかれいが釣れ始めたことから,その後50分間釣りを続け,風と波浪が更に増勢して船体の動揺が大きくなり,釣りを続けるのが困難となったところでようやく釣りを中止して帰航することとしたものの,既に波高が2メートルを超える状況となっており,乾舷が小さく波浪が打ち込みやすい船型のミホZにとっては,安全に帰航することが困難な状況となっていたものと認められる。
 したがって,A受審人が,2回目の漂泊地点に達し,風と波浪が増勢したのを認めた際,直ちに帰航しなかったことは,本件発生の原因となる。

 (原因及び受審人の行為)
 本件転覆は,登別漁港東方沖合において,釣りのため漂泊するに当たり,風と波浪が増勢した際,直ちに帰航せず,同漁港に向けて帰航中,左舷船尾方から高起した波浪が船内に打ち込み,右舷側に大傾斜して復原力を喪失したことによって発生したものである。
 A受審人は,登別漁港東方沖合において,釣りのため漂泊するに当たり,風と波浪が増勢したのを認めた場合,漂泊して釣りを再開すると,その間に風と波浪が更に増勢し,高起した波浪がブルワークを越えて船内に打ち込むなど,安全に帰航できなくなるおそれがあったから,直ちに帰航すべき注意義務があった。しかしながら,同人は,更に釣果を上げようと思い,直ちに帰航しなかった職務上の過失により,増勢した風と波浪を左舷船尾方から受けながら帰航中,高起した波浪が船内に打ち込んで右舷側に大傾斜し,復原力を喪失して転覆する事態を招き,船体に損傷を生じさせ,同乗者2人を溺水により死亡させ,同1人を行方不明とさせるに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を2箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。



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