平成24年海審第5号
             裁    決
        漁船大浦丸遊漁船第五育丸衝突事件

  言 渡 年 月 日 平成27年1月22日
  審  判  所 海難審判所(門戸俊明,小寺俊秋,前久保勝己)
  理  事  官 横井幸治
  受  審  人 A
     職  名 大浦丸船長
     操縦免許 小型船舶操縦士
  補  佐  人 a,b
  受  審  人 B
     職  名 第五育丸船長
     操縦免許 小型船舶操縦士
  補  佐  人 c

             主    文

 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

             理    由
(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成24年3月4日12時20分
 千葉県洲埼西方沖合

2 船舶の要目
  船 種 船 名 漁船大浦丸     遊漁船第五育丸
  総 ト ン 数 9.7トン     4.9トン
    登 録 長 12.35メートル 11.89メートル
    機関の種類 ディーゼル機関   ディーゼル機関
    出   力 503キロワット  421キロワット

3 事実の経過
 大浦丸は,船体中央やや船尾寄りに操舵室を配し,同室前部中央に舵輪,その前方に左舷側からレーダー,GPSプロッター,自動操舵装置及び魚群探知機,右舷側壁寄りに主機遠隔操縦装置をそれぞれ装備し,舵輪後方から左舷壁面までに長椅子を設置したFRP製漁船で,A受審人ほか2人が乗り組み,めだいはえ縄漁の目的で,船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,平成24年3月4日03時00分神奈川県間口漁港を発し,洲埼南方沖合の布良瀬付近の漁場に向かった。
 ところで,A受審人は,大浦丸が10ノット以上の速力で航行すると船首部が浮上し,長椅子の舵輪後方少し左舷側に腰を掛けた姿勢で前方を見ると,右舷側約18度及び左舷側約12度の範囲に船首死角が生じることから,平素,時折船首を左右に振るなどして同死角を補う見張りを行っていた。
 A受審人は,04時30分漁場に着いて操業を始め,めだい50キログラムを獲た後,11時50分洲埼灯台から189度(真方位,以下同じ。)6.1海里の地点を発進して帰途に就き,針路を350度に定めて自動操舵とし,機関を回転数毎分1,300にかけ,13.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,船首死角が生じた状態で進行した。
 A受審人は,長椅子の舵輪後方少し左舷側に腰を掛け,1.5海里レンジとしたレーダー及びGPSプロッターをそれぞれ作動させて操船に当たっていたところ,12時08分洲埼灯台から217度2.6海里の地点で,レーダー画面で船首方約1.5海里のところに数隻の映像を探知し,船首を振ってそれらが操業中の7隻ないし8隻の漁船(以下「漁船群」という。)であることを認め,漁船群の間を通過して続航した。
 12時17分A受審人は,洲埼灯台から264度1.9海里の地点に達したとき,正船首1,200メートルのところに,スパンカーを展張し,船首を北東方に向けて漂泊中の第五育丸を視認することができ,その後,同船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近したが,この付近で漁船が操業する海域は限られていることが多く,漁船群を航過したことから,前方に航行の支障となる他船はいないものと思い,船首を左右に振るなど,船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,操舵室右舷後部の床に座らせた乗組員2人と雑談しながら進行した。
 こうして,A受審人は,第五育丸を避けずに続航中,12時20分洲埼灯台から283度2.1海里の地点において,大浦丸は,原針路及び原速力のまま,その船首部が第五育丸の右舷船尾部に後方から45度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴れで風力3の北東風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。

 また,第五育丸は,船体中央やや船尾寄りに操舵室を配し,同室前部中央少し左舷側に舵輪,その前方に左舷側からGPSプロッター,魚群探知機,自動操舵装置及びレーダー,左舷側壁寄りに主機遠隔操縦装置をそれぞれ装備し,モーターホーンを備え,船尾甲板にスパンカー用マストを設置したFRP製遊漁船で,B受審人が1人で乗り組み,釣り客6人を乗せ,遊漁の目的で,船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,同日07時00分間口漁港を発し,洲埼西方沖合の釣り場に向かった。
 B受審人は,07時30分釣り場に着いて遊漁を始め,釣果を見ながらGPSプロッターに登録していた地点を適宜移動した後,12時00分前示衝突地点付近に至り,機関を中立運転として船尾マストにスパンカーを展張し,船首を北東方に向けて漂泊を開始した。
 B受審人は,GPSプロッター及び魚群探知機を作動させたまま,レーダーをスタンバイ状態とし,舵輪後方の椅子に腰を掛け,釣り客のうち,2人が船首甲板各舷,2人が船体中央部各舷及び2人が船尾甲板各舷に分かれてそれぞれ釣りを行っている様子を見ながら漂泊を続けた。
 12時17分B受審人は,船首が035度を向いていたとき,右舷船尾45度1,200メートルのところに,自船に向首する大浦丸を視認することができ,その後,同船が衝突のおそれがある態勢で接近したが,自船はスパンカーを展張して漂泊中だから,航行中の他船が気付いて避けてくれるものと思い,見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,大浦丸に対して警告信号を行うことも,更に接近しても機関を使用して移動するなど,衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けた。
 こうして,B受審人は,12時20分僅か前大浦丸の機関音に気付き,操舵室右舷側の窓から後方を見たところ,至近に迫った同船を認めたものの,どうすることもできず,第五育丸は,035度に向首したまま漂泊中,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,大浦丸は,船首部外板に凹損及び擦過傷並びに前部マストに折損等を生じたが,のち修理され,第五育丸は,操舵室及び右舷船尾部を圧壊し,のち廃船処理された。また,第五育丸の船尾甲板左舷側にいた釣り客Cが脳幹部挫傷により死亡し,中央部左舷側にいた釣り客の1人が頸椎捻挫及び腰部挫傷等を,B受審人が頸椎捻挫及び両肩挫傷等を負った。

 (航法の適用)
 本件は,洲埼西方沖合において,航行中の大浦丸と漂泊中の第五育丸が衝突したもので,発生地点は海上交通安全法及び港則法が適用される海域ではないので,一般法である海上衝突予防法が適用されるが,同法には航行中の船舶と漂泊中の船舶の関係について規定した条文がないことから,同法第38条及び第39条の船員の常務によって律するのが相当である。

 (原因及び受審人の行為)
 本件衝突は,洲埼西方沖合において,航行中の大浦丸が,見張り不十分で,漂泊中の第五育丸を避けなかったことによって発生したが,第五育丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 A受審人は,洲埼西方沖合において,操業を終えて間口漁港に向け帰航する場合,船首死角が生じていたのだから,前路の他船を見落とすことがないよう,船首を左右に振るなど,同死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,この付近で漁船が操業する海域は限られていることが多く,漁船群を航過したことから,前方に航行の支障となる他船はいないものと思い,船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,漂泊中の第五育丸に気付かず,同船を避けることなく進行して衝突を招き,大浦丸及び第五育丸両船にそれぞれ損傷を生じさせ,第五育丸の釣り客及びB受審人を死傷させるに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 B受審人は,洲埼西方沖合において,遊漁を行いながら漂泊する場合,接近する他船を見落とすことがないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,自船はスパンカーを展張して漂泊中だから,航行中の他船が気付いて避けてくれるものと思い,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する大浦丸に気付かず,警告信号を行うことも,更に接近しても機関を使用して移動するなど,衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けて同船との衝突を招き,大浦丸及び第五育丸両船にそれぞれ損傷を生じさせ,第五育丸の釣り客を死傷させて自らも負傷するに至った。
 以上のB受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。



参考図(PDF)へ 東京の裁決一覧 トップページへ