平成25年海審第6号
            裁    決
 LNG船プテリ ニラム サトゥLPG船サクラ ハーモニー衝突事件

  言 渡 年 月 日 平成27年9月29日
  審  判  所 海難審判所(加藤昌平,小寺俊秋,福島千太郎)
  理  事  官 横井幸治
  受  審  人 A
     職  名 プテリ ニラム サトゥ水先人
     水先免許 東京湾水先区1級水先人
  指定海難関係人 B
     職  名 プテリ ニラム サトゥ水先人
  補  佐  人 a(A受審人及びB指定海難関係人選任)

            主    文

 受審人Aを戒告する。

            理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成25年1月10日12時19分半僅か前
 東京湾中ノ瀬航路北方

2 船舶の要目
  船 種 船 名  LNG船プテリ ニラム サトゥ
   国際総トン数  94,446トン
    全   長  276.00メートル
    機関の種類  蒸気タービン機関
    出   力  26,800キロワット
  船 種 船 名  LPG船サクラ ハーモニー
   国際総トン数  2,997トン
    全   長  95.88メートル
    機関の種類  ディーゼル機関
    出   力  2,647キロワット

3 事実の経過
(1) プテリ ニラム サトゥ
 プテリ ニラム サトゥ(以下「プ号」という。)は,メンブレンタンク方式の貨物槽4個を有する船尾船橋型LNG船で,船橋には,中央部に自動操舵装置を装備した操舵スタンド,前面窓中央に接してレピータコンパス,その右舷側にいずれも自動衝突予防援助装置(以下「ARPA」という。)を装備した1号及び2号レーダー,左舷側にVHF無線電話(以下「VHF」という。),電子海図情報表示装置,主機遠隔操縦装置を備えたほか,船舶自動識別装置(以下「AIS」という。),航海情報記録装置(以下「VDR」という。)等を設けていた。
 操縦性能は,操縦性能表によると,バラスト状態において,港内全速力前進がプロペラ回転数毎分(以下,プロペラ回転数については毎分のものを示す。)46の11.2ノット,航海全速力前進がプロペラ回転数89の21.7ノットで,航海全速力前進中,舵角35度をとったとき,左右いずれの旋回時においても,最大縦距が760メートル,最大横距が800メートルで,最短停止距離が1.6海里(約3,000メートル),同時間が10分であった。

(2) サクラ ハーモニー
 サクラ ハーモニー(以下「サ号」という。)は,ほぼ円筒型の貨物槽2個を有する,バウスラスタを装備した船尾船橋型LPG船で,船橋には,前部中央に自動操舵装置を装備した操舵スタンドを備えていたほか,ARPAを装備した1号レーダー及び2号レーダー,VHF,GPS受信機,AIS,主機遠隔操縦装置等を設けていた。
 操縦性能は,バラスト状態において,航海全速力前進が主機回転数毎分(以下,主機回転数については毎分のものを示す。)240の13.5ノットで,港内全速力前進が主機回転数190の11.4ノット,半速力前進が主機回転数175の10.4ノット,微速力前進が主機回転数130の7.3ノットで,航海全速力前進中,舵角35度をとったとき,右旋回時の最大縦距が約360メートル,最大横距が約300メートル,左旋回時の最大縦距が約340メートル,最大横距が約300メートルで,最短停止距離が約820メートル,同時間が約4分であった。

(3) 水先人の業務分担
 C水先人会は,水先業務を,東京湾内において船舶を港の入口付近まで導く航行業務と,港の入口付近から港内の岸壁等まで導く港内業務に分け,同会の水先約款第7条で,航行業務の場合において,LNG運搬船であって総トン数8万トン以上若しくは貨物槽容積13万立方メートル以上のいずれかを水先する場合,船長又は船舶所有者と協議の上,他の水先人を同時に乗船させることができると規定し,更に,海務関係規程集では,「2人乗り水先における業務分担について」として,水先人2人乗りに対し,主副各水先人を定め,主水先人は運用操船の全般を行うこと,副水先人は,主水先人の運用操船の全般を補佐し,必要事項の助言を行うこと等を定めていた。

(4) 本件発生に至る経緯
 プ号は,インド国籍の船長Dほか同国籍の3人,マレーシア国籍の24人等合計32人が乗り組み,港内業務を行う水先人(以下「ハーバーパイロット」という。)1人,並びに航行業務を行う主水先人としてB指定海難関係人(受審人に指定されていたが,東京湾水先区1級水先人の業務を廃止したので,これが取り消され,新たに指定海難関係人に指定された。)及び副水先人としてA受審人が乗船し,空槽のまま,船首9.2メートル船尾9.8メートルの喫水をもって,平成25年1月10日11時00分千葉港千葉区を発し,マレーシアビントゥル港に向かった。
 D船長は,航海士3人,甲板手1人及び甲板員1人を船橋配置に就けてハーバーパイロットに水先を行わせ,11時20分離桟操船を終えた同パイロットを下船させた後,B指定海難関係人及びA受審人に水先を開始させた。
 B指定海難関係人は,巨大船で,かつ危険物積載船であることを示す形象物及び国際信号旗をそれぞれ表示し,引船1隻を左舷船首方900メートル,他の1隻を右舷船首方600メートルのところに進路警戒船としてそれぞれ配置し,東京湾アクアライン東水路に向けて西行した。
 B指定海難関係人は,12時00分東京湾アクアライン風の塔を右舷正横方1,700メートルに通過した後,12時05分木更津港沖灯標から040度(真方位,以下同じ。)3.9海里の地点で,針路を中ノ瀬航路北方海域に向く230度に定め,プロペラ回転数65にかけて15.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
 12時07分B指定海難関係人は,中ノ瀬航路北口の北東方4.2海里となったとき,進路警戒船から,中ノ瀬航路北口付近を川崎向けのサ号が北上中であるとの報告を受け,左舷船首方の同航路北口付近にサ号を含む数隻の船舶を視認し,A受審人も同様にそれらの船舶を視認した。
 B指定海難関係人は,サ号が中ノ瀬航路を出航した後も同船に対する動静監視を続け,12時12分木更津港沖灯標から030度2.1海里の地点で,北上中のサ号との航過距離を広げるつもりで針路を240度に転じ,同じプロペラ回転数のまま僅かに速力が増加し,16.0ノットとなって続航した。
 A受審人は,大型コンテナ船1隻が右舷船首80度1,300メートルのところを自船とほぼ同じ針路及び速力で同航する状況の下,引き続きサ号の動静監視をしていたところ,12時13分木更津港沖灯標から027度1.9海里の地点に達したとき,中ノ瀬航路を出航した同船が左舷船首24度2.4海里となり,方位に明確な変化がないまま前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することを認め,12時14分B指定海難関係人がVHFで同船を呼び出し,減速又は右転してプ号の進路を避けるように求めたところ,サ号が減速する旨の回答をしたのを聴取した。
 12時15分A受審人は,木更津港沖灯標から016度1.5海里の地点に至ったとき,左舷船首21度1.7海里に接近したサ号の針路及び速力に大幅な変更が認められず,自船の進路を避けるための適切な動作をとっていないことが明らかであったが,いずれサ号が減速あるいは右転して自船の進路を避けるものと思い,B指定海難関係人に対して,サ号との衝突を避けるための動作をとるよう助言しなかった。
 B指定海難関係人は,VHFで減速する旨回答したサ号が,針路にも速力にも大幅な変更が認められないまま接近することから,12時16分僅か前長音1回の注意喚起信号を吹鳴し,12時16分木更津港沖灯標から007度1.3海里の地点で,同船が,依然として衝突のおそれがある態勢のまま1.3海里まで接近し,自船の進路を避けるための適切な動作をとっていないことが明らかであったが,注意喚起信号に続けて警告信号を吹鳴しただけで,サ号が警告信号を聞いて自船の進路を避けるものと思い,直ちに大幅に針路を転じるなど,同船との衝突を避けるための動作をとることなく進行した。
 B指定海難関係人は,方位に明確な変化のないまま更に接近するサ号に対して衝突の危険を感じ,12時17分僅か前警告信号を行うとともに,VHFで同船に機関を停止又は右転して自船の進路を避けるよう求めたものの,サ号が衝突の危険がある態勢で接近するので,僅かに右舵を取り,12時17分半木更津港沖灯標から351度1.1海里の地点に至ったとき,緩やかに右回頭を開始した。
 B指定海難関係人は,12時18分半少し前再度VHFで同じ要請をした後も,依然としてサ号の針路及び速力に大幅な変更が認められないことから,12時19分右舵一杯を令したものの,及ばず,12時19分半僅か前木更津港沖灯標から322度1.1海里の地点において,プ号は,船首が268度を向いて速力が14.6ノットとなったとき,その左舷中央部にサ号の船首が後方から82度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴れで風力3の北風が吹き,潮候は上げ潮の中央期にあたり,視界は良好であった。

 また,サ号は,フィリピン共和国籍の船長Eほか同国籍の13人が乗り組み,空倉のまま,船首2.58メートル船尾4.64メートルの喫水をもって,同年1月6日14時06分(現地時間)中華人民共和国天津港を発し,京浜港川崎区に向かった。
 E船長は,越えて10日10時頃(日本時間,以下同じ。)浦賀水道南口に至り,二等航海士,甲板手及び甲板員を船橋配置に就け,機関用意として自ら操船指揮を執り,機関を微速力前進にかけて8.7ノットの速力とし,10時40分浦賀水道航路に入航した後,11時31分中ノ瀬航路に入航し,同航路に沿って手動操舵により北上した。
 E船長は,12時04分中ノ瀬航路第5号灯標を航過したとき,右舷船首方約6海里のところに,中ノ瀬航路北方海域に向けて西行するプ号を初認し,12時10分半少し過ぎ同航路北口を航過した後,機関を半速力前進にかけて徐々に増速しながら緩やかに左回頭し,12時12分木更津港沖灯標から231度1,300メートルの地点で,針路を350度に定め,11.2ノットの速力で進行した。
 12時13分E船長は,木更津港沖灯標から242度1,200メートルの地点に達したとき,プ号が,自船の前路を左方に横切る態勢で右舷船首46度2.4海里となったことから,VHFでプ号を呼び出したところ応答がなく,その後,同船と衝突のおそれがある態勢で接近していたが,ARPAにより,僅かな最接近距離でプ号の前方を航過するとの表示を認めたことから,同船の前路を航過できると思い,同船に対する動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かず,右転するなど,プ号の進路を避けることなく続航した。
 E船長は,12時14分木更津港沖灯標から260度1,100メートルの地点に達したとき,プ号からVHFで呼出しがあり,減速又は右転して同船の進路を避けることを求められたので,12時14分少し過ぎ,停止する旨の回答をして機関を停止したものの速力がほとんど低下せず,12時15分半木更津港沖灯標から288度1,300メートルの地点で,針路を000度に転じたが,依然としてプ号の方位に明確な変化がなく,衝突のおそれがある態勢のまま進行した。
 E船長は,12時17分僅か前,プ号からVHFで機関停止又は右転して同船の進路を避けるよう再度求められたことから,12時18分機関を微速力後進に,12時19分半速力後進にかけたものの,効なく,サ号は,船首が350度を向いて速力が6.3ノットとなったとき,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,プ号は左舷中央部外板に亀裂を伴う凹損を,サ号は船首部及び球状船首に亀裂を伴う凹損並びに同部甲板に曲損をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。

 (航法の適用)
 本件は,東京湾中央部の海上交通安全法適用海域において両船が衝突したものであるが,同法には本件に適用できる航法規定がないことから,海上衝突予防法(以下「予防法」という。)を適用することになる。
 両船は,ともに航行中の動力船に該当し,互いに視野の内にあり,プ号からはサ号を左舷側に,サ号からはプ号を右舷側にそれぞれ見て,互いに進路を横切る態勢で接近し,プ号から見たサ号のコンパス方位の変化が12時13分から12時16分までの3分間に5度であり,明確な方位変化があったとは判断できないことから,両船間には衝突のおそれがあったと認められ,予防法第15条の横切り船の航法により律するのが相当である。
 また,プ号は,国際総トン数94,446トン全長276.00メートルの巨大船であり,一方,サ号は,同2,997トン同95.88メートルで,両船が衝突のおそれがある態勢で接近した場合,保持船であって旋回径が大きく,かつ停止距離の長いプ号に,避航船であるサ号の動作のみで衝突を避けることができない状況に至るまで,針路及び速力の保持義務を課すと,その状況に至った時点では,もはや,プ号がいかなる動作をとっても衝突を避けることができないこととなるから,同船に予防法第17条第3項の衝突を避けるための協力動作を求めることは相当でない。
 プ号において,12時13分サ号との距離が2.4海里となって以降,両船が衝突のおそれがある態勢で接近し,その後,サ号が針路及び速力に大幅な変更のないまま接近することを認めていたことから,同船が予防法第8条及び第16条の規定に従った衝突を避けるための動作をとっていないことを明らかに認識していたといえ,また,プ号が衝突を避けるための動作をとることができたと認められることから,プ号に対しては,同法第17条第2項が任意規定であるものの,同法第38条及び第39条の船員の常務の規定により,同項に定めのある避航船との衝突を避けるための動作の履行を求めることが相当である。

 (原因及び受審人の行為)
 本件衝突は,中ノ瀬航路北方において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,北上するサ号が,動静監視不十分で,前路を左方に横切るプ号の進路を避けなかったことによって発生したが,西行するプ号が,サ号が自船の進路を避けるための適切な動作をとっていないことが明らかになった際,直ちに衝突を避けるための動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 プ号の運航が適切でなかったのは,主水先人が,衝突を避けるための動作をとらなかったことと,副水先人が,主水先人に対して衝突を避けるための動作をとるよう助言しなかったこととによるものである。
 A受審人は,中ノ瀬航路北方において,副水先人として浦賀水道航路に向け西行中,サ号が衝突のおそれがある態勢のまま,明らかに自船の進路を避けるための適切な動作をとっていないことを認めた場合,主水先人に対して衝突を避けるための動作をとるよう助言すべき注意義務があった。ところが,A受審人は,いずれサ号が自船の進路を避けるものと思い,主水先人に対して衝突を避けるための動作をとるよう助言しなかった職務上の過失により,サ号との衝突を招き,プ号及びサ号両船に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。



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