平成26年海審第3号
             裁    決
         遊漁船大伸丸防波堤衝突事件

  言 渡 年 月 日 平成27年2月19日
  審  判  所 海難審判所(小寺俊秋,門戸俊明,福島千太郎)
  理  事  官 小金沢重充
  受  審  人 A
     職  名 大伸丸船長
     操縦免許 小型船舶操縦士

             主    文

 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

             理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成25年9月28日05時20分
 関門港

2 船舶の要目
  船 種 船 名 遊漁船大伸丸
  登  録  長 11.35メートル
    機関の種類 ディーゼル機関
     出   力 213キロワット

3 事実の経過
 大伸丸は,船体中央の少し後方に,前部を機関室囲壁,後部を操舵室とした甲板室を設け,操舵室中央に舵輪,その前方に左から順にGPSプロッター,魚群探知機,機関の計器盤及び同操縦レバーを備え,同室右舷側に背もたれが付いた椅子を設置したFRP製遊漁船で,A受審人が1人で乗り組み,釣り客3人を乗せ,遊漁の目的で,船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成25年9月28日05時00分関門港小倉区紫川尻船溜まりを発し,福岡県白島沖合の釣り場に向かった。
 ところで,A受審人は,約20年間遊漁船業を営んでいたことから,関門港内の灯台や灯浮標,防波堤や岸壁の状況等をよく知っており,同港若松区には,響灘南岸壁東端から067度(真方位,以下同じ。)方向に約550メートル突き出している洞海湾口防波堤(以下「湾口防波堤」という。)が存在し,その東端に,灯質が周期4秒の等明暗赤光で,光達距離が5海里の若松洞海湾口防波堤灯台(以下「湾口防波堤灯台」という。)が設置されていることも承知していた。
 また,A受審人は,大伸丸にレーダーを装備していなかったので,平素,白島沖合の釣り場に向かう際には,関門航路に設置された右舷標識の各灯浮標にほぼ沿って同航路外側を北上し,湾口防波堤を左舷方に見て通過した後,僅かに左転して福岡県藍島と白島の間に向ける針路としており,過去数回分の航跡をGPSプロッターに残し,夜間には,同航跡に沿うように航行していた。
 発航後,A受審人は,舵輪後方に立って操船に当たり,GPSプロッターに周囲の防波堤や岸壁を表示させず,過去の航跡のみを表示させて紫川河口を東行し,新日鐵住金株式会社の敷地東端を左舷側につけ回した後,05時11分半少し前小倉日明防潮堤灯台から356度360メートルの地点で,針路を324度に定め,機関を回転数毎分1,800にかけ,18.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)とし,手動操舵により進行した。
 A受審人は,釣り客の1人が船尾甲板で,他の1人が操舵室の床でそれぞれ横になり,残りの1人が操舵室後部に設けられた引き戸から同室を出入りする状況下,05時14分僅か前湾口防波堤灯台から133度1.8海里の地点に達したとき,左舷船首方に,灯質が周期12秒のモールス符号(U)白光で,光達距離が10海里の白島国家石油備蓄基地シーバース灯(以下「シーバース灯」という。)の灯光と,その周囲の照明とを視認し,釣り場への航程を短縮するつもりで,針路を同灯光に向く311度に転じて続航した。
 転針したとき,A受審人は,湾口防波堤に向首する態勢となったが,転じた針路で同防波堤をかわすことができるものと思い,シーバース灯の灯光と白島国家石油備蓄基地(以下「備蓄基地」という。)の照明を見ることに気を取られ,GPSプロッターに表示させた平素の航跡と自船の位置を見比べたり,周囲の灯浮標や湾口防波堤灯台の各灯光の見え具合から同防波堤との位置関係を確かめたりするなど,船位の確認を十分に行わなかったので,このことに気付かず,同じ針路及び速力で進行した。
 こうして,A受審人は,シーバース灯の灯光と備蓄基地の照明を見ていて湾口防波堤に向首していることに気付かないまま続航中,折から操舵室に釣り客の1人が入ってきたとき,05時20分湾口防波堤灯台から247度110メートルの地点において,大伸丸は,原針路,原速力のまま,その船首が同防波堤に衝突した。
 当時,天候は晴れで風はほとんどなく,潮候は下げ潮の初期に当たり,視界は良好であった。
 衝突の結果,船首部に破口を,湾口防波堤にコンクリートの欠損をそれぞれ生じ,後部甲板にいた釣り客が1箇月以上の入院治療を要する右足関節両果骨折を,操舵室に入ってきた釣り客が1箇月以上の入院治療を要する左第4ないし第9肋骨骨折を,A受審人が2箇月以上の入院治療を要する左大腿骨骨幹部骨折,脳挫傷等をそれぞれ負った。

 (原因及び受審人の行為)
 本件防波堤衝突は,夜間,関門港において,船位の確認が不十分で,湾口防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
 A受審人は,夜間,関門港において,航程を短縮するつもりで針路を転じて釣り場に向かう場合,湾口防波堤の存在を知っていたのだから,同防波堤を無難にかわすことができるよう,GPSプロッターに表示させた平素の航跡と自船の位置を見比べたり,周囲の灯浮標や湾口防波堤灯台の各灯光の見え具合から同防波堤との位置関係を確かめたりするなど,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,転じた針路で湾口防波堤をかわすことができるものと思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,同防波堤に向首進行して衝突を招き,船首部及び同防波堤にそれぞれ損傷を生じ,釣り客2人を負傷させ,自らも負傷するに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。




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