平成26年海審第4号
            裁    決
  押船大豊山丸被押バージ大豊山丸1号貨物船天馬丸衝突事件

  言 渡 年 月 日 平成27年1月22日
  審  判  所 海難審判所(小寺俊秋,加藤昌平,前久保勝己)
  理  事  官 横井幸治
  受  審  人 A
     職  名 大豊山丸二等航海士
     海技免許 六級海技士(航海)(履歴限定)
  補  佐  人 a,b,c
  受  審  人 B
     職  名 天馬丸船長
     海技免許 四級海技士(航海)
  指定海難関係人 C
     職  名 天馬丸二等航海士
  補  佐  人 d,e,f,g,h
          (いずれも,B受審人及びC指定海難関係人選任)

             主    文

 受審人Bの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。

             理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成24年10月9日19時26分半少し過ぎ
 周防灘

2 船舶の要目
  船 種 船 名 押船大豊山丸     バージ大豊山丸1号
  総 ト ン 数 225トン
    全   長 29.50メートル  101.40メートル
    機関の種類 ディーゼル機関
    出   力 2,647キロワット
  船 種 船 名 貨物船天馬丸
  総 ト ン 数 739トン
    全   長 80.00メートル 
    機関の種類 ディーゼル機関
    出   力 1,471キロワット

3 事実の経過
 大豊山丸は,船体の前部に操舵室を配し,2機2軸及びコルトノズルラダーを装備したアーチカップル式押船で,船長D及びA受審人ほか5人が乗り組み,船長経験者1人を乗せ,船首2.6メートル船尾4.3メートルの喫水をもって,石灰石8,674トンを積載して船首7.11メートル船尾7.40メートルの喫水となった非自航型バージ大豊山丸1号(以下「バージ大豊」という。)の船尾中央凹部に,船首部を嵌合して全長120.4メートルの押船列(以下「大豊山丸押船列」という。)を形成し,平成24年10月9日14時15分大分県津久見港を発し,山口県徳山下松港に向かった。
 ところで,大豊山丸に乗船していた船長経験者(以下「操船補助者」という。)は,E社が若手航海士に対する教育指導や操船補助を行わせる目的で,船員として雇い入れはしないものの,同社の退職者を同乗させていたもので,平成23年7月に海技免許を取得し,同年12月から二等航海士として乗り組んでいたA受審人の船橋当直中に在橋し,操船等の助言を行っていた。
 D船長は,出港操船に引き続いて単独の船橋当直に当たり,16時40分頃愛媛県佐田岬の西方沖合で,A受審人に船橋当直を引き継いで降橋し,自室で休息した。
 A受審人は,操船補助者が在橋し,時折一等機関士が昇橋する状況下,単独の船橋当直に当たり,レーダーを適宜のレンジに切り替えて使用し,大豊山丸とバージ大豊が結合して一体となっていることを示す法定灯火を表示し,更に大豊山丸にマスト灯1個,バージ大豊に両舷灯を点灯して伊予灘を北上中,18時47分頃12海里レンジとしたレーダーで,左舷船首方12海里のところに船舶を探知し,レーダー画面に表示されたAIS情報によって同船舶の映像が東行している天馬丸であることを知り,19時05分頃約6.5海里となった同船の白,白,緑3灯を双眼鏡で視認した。
 19時17分半少し過ぎA受審人は,姫島灯台から062度(真方位,以下同じ。)5.4海里の地点で,針路を350度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけ,折からの風と潮流により左方に5度圧流されながら,10.2ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で進行した。
 A受審人は,19時20分少し前姫島灯台から058.5度5.5海里の地点に達したとき,天馬丸が左舷船首40度2.0海里となり,その後同船が,前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め,操船補助者が探照灯で同船を照射して注意を喚起したものの,同船が自船の進路を避ける様子がないまま更に接近したが,いずれ天馬丸が右転して自船を避けるものと思い,警告信号を行わず,間近に接近しても,大きく右転するなど,衝突を避けるための協力動作をとることなく続航した。
 19時25分A受審人は,依然として天馬丸が自船の進路を避けずに接近するので,ようやく衝突の危険を感じ,操船補助者及び一等機関士の協力を得て,探照灯による照射を続け,操船補助者が機関を半速力前進に続いて中立運転とするとともに,汽笛による短音5回以上及び長音を吹鳴し,自身が手動操舵に切り替えて右舵一杯としたところ,19時25分半少し前姫島灯台から049.5度5.8海里の地点に至り,天馬丸が580メートルに接近したところで右転が始まったものの,及ばず,19時26分半少し過ぎ姫島灯台から048度6.0海里の地点において,大豊山丸押船列は,058度に向首し,5.5ノットの速力となったとき,バージ大豊の左舷中央部に天馬丸の船首が直角に衝突した。
 当時,天候は晴れで風力2の南南西風が吹き,付近には北西方へ向かう弱い潮流があった。
 D船長は,減速による機関音の変化と,それに引き続く汽笛の吹鳴に気付いて直ちに昇橋したところ,天馬丸と衝突の危険がある態勢となっていることを認めたものの,既に機関を中立運転として右転を始めていたので,それ以上何をすることもできず,衝突後,事後の措置に当たった。

 また,天馬丸は,シリングラダーを備え,専ら石炭輸送に従事する船尾船橋型貨物船で,B受審人,C指定海難関係人及び一等航海士ほか2人が乗り組み,石炭2,100トンを積載し,船首4.11メートル船尾5.37メートルの喫水をもって,同日16時40分山口県宇部港を発し,広島県竹原港に向かった。
 天馬丸の操縦性能は,海上試運転成績書によれば,13.659ノットの速力で舵角35度をとった場合の右旋回径が246メートル,左旋回径が222メートル,同速力における最短停止距離が590メートルであった。
 ところで,C指定海難関係人は,平成24年5月天馬丸に初めて甲板員として乗船し,B受審人が早期に海技免許を取得させたいと思って船舶所有者に相談したところ,乗船履歴が4箇月足らずであったが,六級海技士(航海)免許の海技試験受験に2年間の乗船履歴が必要であったことから,船舶所有者が1年9箇月の乗船履歴を証明して約1箇月の講習を受講したのち,同年9月同免許を取得し(本件後,乗船履歴が不足していたことが明らかになり,同免許の合格が取り消された。),同月15日二等航海士として天馬丸に乗船したものであった。
 B受審人は,C指定海難関係人が乗船履歴不足のまま海技免許を取得したことを承知していたものの,平素から同指定海難関係人に対し,船橋当直中に不安を感じたら船長に報告するように指示していたことから,同指定海難関係人を単独の船橋当直に就けても,報告を受けて自身が昇橋すれば必要な対応がとれるものと思い,発航に先立ち,同指定海難関係人を単独で船橋当直に就かせることがないよう,竹原港まで約9時間の当直時間を自身と一等航海士に割り振るなど,船橋当直体制を適切にとることなく,本山灯標付近から周防灘を航行して山口県祝島に至る約3時間を,同指定海難関係人の当直時間と定めていた。
 B受審人は,出港操船に当たって宇部港の港外に至り,17時20分頃本山灯標の東方沖合で,C指定海難関係人に船橋当直を引き継ぎ,降橋して自室で休息した。
 C指定海難関係人は,レーダーを1.5海里レンジとして作動させ,航行中の動力船の灯火を表示し,操舵室前部に立って単独の船橋当直に当たり,19時06分頃右舷船首方約6海里のところに,大豊山丸の白,紅2灯を初めて視認し,同船が前路を左方に横切る船舶であると判断したものの,大豊山丸のマスト灯1個,バージ大豊のマスト灯及び左舷灯を見落とし,両船が押船列を形成していることに気付かないまま,周防灘を東行した。
 19時15分少し過ぎC指定海難関係人は,姫島灯台から028度4.9海里の地点で,針路を102度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけ,折からの風と潮流により左方に2度圧流されながら,11.5ノットの速力で進行した。
 C指定海難関係人は,船橋当直中に不安を感じたら船長に報告するように指示されていたものの,19時20分少し前姫島灯台から037.5度5.2海里の地点に達したとき,大豊山丸押船列が右舷船首28度2.0海里となり,その後同船が,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが,もう少し接近してから左転しても同押船列の前路を横切ることができるように見えたことから,B受審人に同押船列と接近している旨を報告しないまま,天馬丸は,同じ針路及び速力で続航し,同押船列の進路を避けなかった。
 19時24分少し過ぎC指定海難関係人は,姫島灯台から045度5.6海里の地点に至り,大豊山丸押船列が右舷船首27度1,200メートルとなったとき,自動操舵のまま針路設定ダイヤルを左に20度,更に左に10度回して左転を開始したものの,間もなく左転では同押船列をかわすことができないと思って同ダイヤルを右に15度,更に右に24度回し,天馬丸は,原針路から25度左転したところで右回頭に変わって右転中,148度に向首し,9.6ノットの速力となったとき,前示のとおり衝突した。
 B受審人は,自室で休んでいたところ,衝撃を感じて直ちに昇橋し,衝突したことを知って事後の措置に当たった。
 衝突の結果,大豊山丸押船列は,大豊山丸が,嵌合部付近の両舷外板に破口を伴う凹損を生じ,機関室に浸水したが,のち修理され,バージ大豊が,大豊山丸との嵌合が外れ,左舷中央部外板に破口を生じて浸水し,浮力を失って沈没した。また,天馬丸は,船首及び球状船首に破口を伴う凹損を生じたが,のち修理された。

 (航法の適用)
 本件は,夜間,周防灘において,北上する大豊山丸押船列と,東行する天馬丸とが衝突したもので,発生場所が海上交通安全法の適用海域であるが,同法には両船の関係に適用される規定がないので,海上衝突予防法が適用される。
 両船は,それぞれ所定の灯火を表示し,互いに他の船舶の視野の内にある航行中の動力船であり,互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近したもので,両船ともに衝突を避けるために必要な動作をとる時間的,距離的余裕があったものと認められることから,海上衝突予防法第15条(横切り船)の航法によって律するのが相当である。

 (原因及び受審人の行為)
 本件衝突は,夜間,周防灘において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,東行する天馬丸が,前路を左方に横切る大豊山丸押船列の進路を避けなかったことによって発生したが,北上する大豊山丸押船列が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 天馬丸の運航が適切でなかったのは,船長が,船橋当直体制を適切にとらなかったことと,船橋当直者が,大豊山丸押船列と接近した旨を船長に報告しなかったこととによるものである。
 B受審人は,竹原港に向けて宇部港を発航する場合,C指定海難関係人が乗船履歴不足のまま海技免許を取得したことを承知していたのだから,同指定海難関係人を単独で船橋当直に就かせることがないよう,当直時間を自身及び一等航海士に割り振るなど,船橋当直体制を適切にとるべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,同指定海難関係人に対し,不安を感じたら船長に報告するように指示していたことから,報告を受けて自身が昇橋すれば必要な対応がとれるものと思い,船橋当直体制を適切にとらなかった職務上の過失により,夜間,周防灘を東行中,船橋当直に就いた同指定海難関係人が,大豊山丸押船列と接近した旨を報告しなかったので昇橋することができず,同押船列の進路を避けずに衝突を招き,大豊山丸及び天馬丸にそれぞれ損傷を生じさせ,バージ大豊を沈没させるに至った。
 以上のB受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 A受審人は,夜間,周防灘を北上中,前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する天馬丸が,探照灯を照射して注意を喚起したものの,自船を避ける様子がないまま間近に接近するのを認めた場合,大きく右転するなど,同船との衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,いずれ天馬丸が右転して自船の進路を避けるものと思い,衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により,同船との衝突を招き,大豊山丸及び天馬丸にそれぞれ損傷を生じさせ,バージ大豊を沈没させるに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。




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