平成26年海審第5号
            裁    決
         瀬渡船釣潮丸釣客死亡事件

  言 渡 年 月 日 平成27年10月28日
  審  判  所 海難審判所(小寺俊秋,前久保勝己,濱田真人)
  理  事  官 今泉豊光
  受  審  人 A
     職  名 釣潮丸船長
     操縦免許 小型船舶操縦士
  補  佐  人 a,b,c,d,e

            主    文

 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

            理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成26年3月9日12時00分
 長崎県仏鼻南岸

2 船舶の要目
  船 種 船 名  瀬渡船釣潮丸
  総 ト ン 数  4.5トン
    登 録 長  10.99メートル
    機関の種類  ディーゼル機関
    出   力  279キロワット

3 事実の経過
(1) 構造及び設備等
 釣潮丸は,最大搭載人員が旅客12人船員1人のFRP製瀬渡船で,船首甲板から前方に突き出すように瀬渡し用タラップ(以下「タラップ」という。)が設けられ,船体中央の少し後方に操舵室が,同室下方の船首側に船室がそれぞれ配置されていた。
 タラップは,ステンレス山形鋼を溶接した長さ3.73メートル幅85.5センチメートル(以下「センチ」という。)の枠にエキスパンドメタルを床張りし,タラップ先端の50センチ内側から根元までの両側に,直径34ミリメートルのステンレス鋼管で高さ79センチのハンドレールを設置したもので,船首舷縁を越える中央部で少し山折りに屈曲し,先端部が海面上約1.2メートルの高さとなっていた。そして,根元が船首甲板に固定されたヒンジで止められていることから,自動車のタイヤを取り付けた先端部を岩場に押し付けた態勢で船体が上下動すると,ヒンジを起点としてタラップも上下に動くようになっていた。
 操舵室には,前部中央に舵輪があってその右舷側に機関操縦ハンドルが,舵輪前方の棚にレーダー及びGPSプロッターがそれぞれ装備され,同室屋根の左舷前部にスピーカーが設置されていた。また,天井右舷側に縦横各50センチの開口部が設けられ,同室床面から高さ38センチのところに左右に渡された幅20センチの板(以下「操船台」という。)の上に立つと,開口部から顔を出して操船できるようになっていた。

(2) 釣り客の収容方法
 A受審人は,釣り客を岩場から収容する際には,操船台に立って天井の開口部から顔を出し,右手で機関操縦ハンドルを,左手で舵輪を操作して操船に当たり,潮の干満によって適当な高さとなる岩場に減速して接近し,約10メートル手前で一旦機関を中立運転とした後,惰力と,機関及び舵を適宜使用し,タラップ先端を岩場に押し付けていた。

(3) 仏鼻の釣り場
 仏鼻は,長崎県三重式見港の北西方約2海里に位置し,西南西方に突き出た小さな岬で,その南岸が一定の幅でほぼ平坦な岩場になっており,背後の地形によって北西の風が遮蔽され,冬季の良好な釣り場となっていた。

(4) 本件発生に至る経緯
 釣潮丸は,A受審人が1人で乗り組み,釣り客2人を乗せ,瀬渡し及び瀬渡しした釣り客を収容する目的で,船首0.75メートル船尾1.20メートルの喫水をもって,平成26年3月9日11時30分三重式見港を発し,釣り客2人を同港内の消波ブロックに瀬渡しした後,仏鼻に向かった。
 これに先立ち,A受審人は,当日の朝,港内の防波堤や消波ブロックに釣り客約20人を,仏鼻に釣り客Bを,仏鼻の南東方約560メートルの七人ヶ瀬と称される岩場に釣り客3人をそれぞれ瀬渡ししていたところ,天候が悪化する旨の情報を得てB釣り客と携帯電話で連絡を取り,12時に迎えに行くこととして発航したものであった。
 A受審人は,仏鼻へ向かう途中で七人ヶ瀬の釣り客とも連絡を取り,B釣り客に引き続いて七人ヶ瀬の釣り客を収容することとし,11時59分仏鼻の南岸沖に至り,同鼻南岸の岩場に,防寒着と救命胴衣を着用したB釣り客が足下に縦24センチ横50センチ高さ30センチのクーラーボックス,縦28センチ横43センチ高さ25センチの餌箱,長さ143センチの竿ケース及び餌箱とほぼ同じ大きさの磯バッグを置いて待っているのを認め,岩場に向け減速して北上した。
 A受審人は,操船台に立って右手で機関操縦ハンドルを,左手で舵輪を操作し,仏鼻南岸の約10メートル沖で機関を中立運転とした後,11時59分半舵と機関を適宜使用しながらB釣り客を船首少し右舷側に見る態勢で岩場に接近し,同釣り客の約5メートル横の岩場にタラップ先端を押し付けた。
 ところで,A受審人は,釣り客が荷物を両手に持ったままタラップを渡ることがあり,その際,荷物がハンドレールに引っ掛かりやすいことからハンドレールより高く持ち上げたり,体の前後に振り分けたりして乗下船するのを見ており,これまで釣り客の釣り竿がハンドレールに引っ掛かったことがあったものの,釣り客がタラップから転落して事故に至ることはなく,海面が穏やかなときには,特に注意を与えていなかった。
 また,本件当時,操舵室屋根のスピーカーは故障していたものの,操船台に立って天井の開口部から顔を出していたので,岩場のB釣り客へ肉声で指示することが可能であった。
 12時00分少し前A受審人は,能瀬灯標から336度(真方位,以下同じ。)1.23海里の地点で,機関を微速力前進にかけ,船首を346度に向けてタラップ先端を岩場に押し付け,B釣り客を乗船させようとしていたとき,同釣り客が右手にクーラーボックスを,左手に餌箱と竿ケースをそれぞれ持ち,磯バッグを岩場に残したまま,右側からタラップ先端に向かってくるのを認めた。
 このとき,A受審人は,B釣り客が,両手が塞がったままタラップを渡ると体勢を崩したときにハンドレールを握ることができず,タラップ先端部から海中に転落するおそれがあったが,波が高くないので両手に荷物を持ったままでも無難に乗船できるものと思い,いつでもハンドレールを握ることができるよう,荷物の一部を岩場に残して片手を空けるように指示するなど,同釣り客に対する安全確保の措置を十分にとらなかった。
 一方,B釣り客は,乗船に際し,ハンドレールを握ることができるよう,荷物の一部を岩場に残すなど,片手を空けることなく,両手に荷物を持ったままタラップに向かった。
 こうして,A受審人は,船首が346度を向いたまま,多少船体が左右に動揺する状況下,特に危険を感じないままB釣り客を見ていたところ,同釣り客が,タラップに右足を掛けたときに左手の竿ケースがハンドレールの支柱に引っ掛かって体勢を崩し,右手のクーラーボックスを放してハンドレールの支柱をつかんだものの体勢を立て直すことができず,12時00分能瀬灯標から336度1.23海里の地点において,右舷船首付近の海中に転落した。
 当時,天候は晴れで風力4の西北西風が吹き,潮候は上げ潮の末期に当たり,付近には波高約1メートルの波浪があった。
 A受審人は,直ちに機関を後進にかけて岩場から離れ,B釣り客の様子を確かめ,船室に置いてあった救命浮環を海面に投入して同釣り客をつかまらせた。そして,救助のため操舵室を離れると船体が岩場に圧流されるおそれがあることから,一人で同釣り客を船上に引き上げるのは困難と判断し,すぐに戻る旨声を掛け,一旦七人ヶ瀬に向かって同瀬の釣り客3人を収容した後,再び仏鼻南岸に戻り,12時20分頃収容した釣り客の協力を得てB釣り客を引き上げた。
 A受審人は,仏鼻の北北西方約1,500メートルの長崎県黒崎漁港へ向かい,他の釣り客がB釣り客に蘇生術を施す状況の下,救急車の出動を依頼するとともに海上保安庁と船舶所有者に事故発生を連絡し,同漁港に到着して病院に搬送させた。
 その結果,B釣り客は,搬送された病院で溺水による死亡と検案された。

 (原因及び受審人の行為)
 本件釣客死亡は,仏鼻南岸において,岩場から釣り客を乗船させる際,釣潮丸が,釣り客に対する安全確保の措置を十分にとらなかったことによって発生したが,釣り客が,片手を空けずにタラップを渡ったことも原因となる。
 A受審人は,仏鼻南岸において,岩場から釣り客を乗船させるに当たり,釣り客が両手に荷物を持ってタラップに向かってくるのを認めた場合,両手が塞がったままタラップを渡ると体勢を崩したときにハンドレールを握ることができず,タラップ先端部から海中に転落するおそれがあったから,いつでもハンドレールを握ることができるよう,荷物の一部を岩場に残して片手を空けるように指示するなど,釣り客に対する安全確保の措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,波が高くないので両手に荷物を持ったままでも無難に乗船できるものと思い,釣り客に対する安全確保の措置を十分にとらなかった職務上の過失により,体勢を崩した釣り客が海中に転落する事態を招き,釣り客を死亡させるに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。




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