平成25年海審第2号
            裁    決
         漁船第五十一 八重丸転覆事件

  言 渡 年 月 日 平成28年2月24日
  審  判  所 海難審判所(前久保勝己,小寺俊秋,河野守)
  理  事  官 鎌倉保男
  受  審  人 A
     職  名 第五十一 八重丸船長
     海技免許 五級海技士(航海)(旧就業範囲)

            主    文

 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

            理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成24年11月27日02時50分
 青森県八戸港東方沖合

2 船舶の要目
  船 種 船 名  漁船第五十一 八重丸
  総 ト ン 数  182トン
    全   長  41.55メートル
    機関の種類  ディーゼル機関
    出   力  588キロワット

3 事実の経過
(1) 構造及び設備等
 第五十一 八重丸(以下「八重丸」という。)は,平成8年3月に進水した,いか一本釣漁業に従事する船首楼及び船尾楼付き鋼製漁船で,上甲板下は,船首からフォアピークタンク,1番魚倉,2番魚倉,3番魚倉,機関室,清水タンク,5番燃料タンク及び6番燃料タンクの順に区画され,上甲板上は,船首楼が甲板長倉庫に,船尾楼が船首側から冷凍室,機関室上部開口部及び居住区の順になっており,船橋は船体中央部の冷凍室上方に配置されていた。
 船首楼後端と船尾楼前端の間の上甲板は,漁獲したいかを約8キログラム毎にステンレス製の冷凍パンに詰めて冷凍の準備をしたり,冷凍したいかを冷凍パンから取り出して魚倉に格納したりするための作業場になっていた。
 作業場の両舷のブルワークには放水口が5か所ずつ設けられていた。なお,作業場は,平成14年に行われた改造で,船首楼甲板及び船尾楼甲板と同じ高さの天井が設けられて船首から船尾まで全通の甲板(以下「漁ろう甲板」という。)となり,更に作業場の両舷の漁ろう甲板とブルワーク上端との隙間には波が打ち込まないように鋼製の塞ぎ板が取り付けられたことから,上甲板上の容積は382.421立方メートルから583.599立方メートルに増加した。
 作業場の天井に当たる漁ろう甲板には,作業場に通じる階段出入口が1か所,ベルトコンベア搬入用ハッチが2か所それぞれ設けられていた。また,船首から船尾に至る漁ろう甲板の両舷には,自動いか釣り機が各舷に13台ずつ装備され,同いか釣り機の下方には傾斜流し台が設けられていた。
 傾斜流し台は,幅約32センチメートル(以下「センチ」という。)深さ約30センチの樋(とい)の形状をしており,自動いか釣り機の針から外れたいかが,傾斜流し台に落ちて船体中央付近の両舷に2か所ずつある流入口に流れ込み,これにつながる矩(く)形(けい)をした管(以下「集魚管」という。)を通って冷凍室前方の左右に2基ずつ設置されているステンレス製の桶に集められるようになっていた。そして,船首側の集魚管の出口は縦約26センチ横約32センチ,船尾側の集魚管の出口は縦約30センチ横約50センチで,いずれの出口にもヒンジ付きの蓋が付いていた。

(2) 帰航時の各魚倉のハッチカバー及び漁ろう甲板開口部の閉鎖状況並びに冷凍パンの固縛状況
 操業を終えて帰航する際,各魚倉のハッチカバー及び漁ろう甲板の作業場に通じる階段出入口の扉は閉鎖された状態になっており,ベルトコンベア搬入用ハッチはシートが被せられ,ハッチ周囲のハンドレールにロープで固縛されていた。また,冷凍パンは,作業場の前部に積み重ねて置かれており,約1,500枚が床に垂直な板で固定され,約500枚がロープで床の固定金具に固縛されていた。

(3) A受審人の経歴等
 (省略)

(4) 本件発生に至る経緯
 八重丸は,A受審人ほか8人(日本国籍7人,フィリピン共和国籍1人)が乗り組み,するめいか漁の目的で,平成24年10月11日15時00分八戸港を発し,日本海及びオホーツク海で漁場を移動しながら操業を続けたのち,越えて11月26日12時00分八戸港北東方沖合20海里付近の漁場に至り,操業を再開した。
 ところで,仙台管区気象台によれば,26日12時00分現在発達中の低気圧が北緯34度東経135度の紀伊水道付近にあって毎時65キロメートルの速さで東北東に進み,18時間以内に西の風,最大風速毎秒25メートルに達することが予想されることから,14時35分同気象台から三陸沖西部に海上暴風警報が発表された。
 A受審人は,26日14時00分頃ナブテックスなどで気象情報を入手し,夜半には西風が強くなり,風速毎秒約20メートル,波高約4メートルに達する旨の内容であったことから,次第に荒天になるものと予測した。
 A受審人は,翌27日00時00分するめいか115トンを漁獲して満載状態になったところで漁を終え,いか墨で汚れた甲板などの清掃を済ませたのち,水揚げのため,八戸港に帰航することとした。
 その際,A受審人は,これまでに漁ろう甲板に打ち込んだ海水が傾斜流し台を経由して作業場に流れ込んだことを経験しており,入手した気象情報から次第に荒天になることを予測していたが,八戸港まで約20海里なので,陸に近づけば次第に風も波も静まるものと思い,漁ろう甲板から作業場に海水が大量に流れ込んで滞留することがないよう,集魚管の出口の蓋を閉鎖するなど,荒天準備を十分に行わなかった。
 02時00分A受審人は,単独の船橋当直に就き,船首2.8メートル船尾3.3メートルの喫水をもって,鮫角灯台から046度(真方位,以下同じ。)20.2海里の地点を発進し,針路を240度に定めて自動操舵とし,日出後の入港に合わせて時間調整を行うつもりで機関を半速力前進にかけ,6.0ノットの対地速力で進行した。
 発進後,A受審人は,右舷船首約30度から毎秒13メートルないし15メートルの西風を受け,左舷側にやや傾斜した状態で,時折漁ろう甲板に海水が打ち込みながら航行していたところ,02時30分頃から波が高まり,漁ろう甲板への海水の打ち込みを頻繁に繰り返すようになった。
 A受審人は,左舷側に大きく傾斜したので漁ろう甲板の作業灯を点灯したところ,海水が左舷側の傾斜流し台から溢れてブルワーク高さの中間付近まで溜っているのに気付いたことから,左右に回頭して排水を試みようとしたものの,舵が効かず,不安を覚えた。そこで,乗組員に指示して作業場の状況を確認させたところ,漁ろう甲板から作業場に通じる階段の上部にまで海水が滞留しており,作業場に入ることができない旨の報告を受け,八戸漁業用海岸局に救助要請を行った。
 こうして,八重丸は,右舷船首約30度から高起した波を受けて漁ろう甲板に海水が繰り返し打ち込み,打ち込んだ海水が傾斜流し台を経由して大量に作業場に流れ込んで滞留し,左舷側に傾斜した状態のまま放水口が海面下に没し,更に傾斜を増して復原力を失い,02時50分鮫角灯台から042度15.5海里の地点において,右舷側を上にして転覆した。
 当時,天候は曇りで風力7の西風が吹き,付近には波高3メートル以上の波浪があった。
 A受審人ほか8人は,転覆前に膨張式救命筏を降ろして移乗し,避難していたところ,04時12分来援した僚船に救助された。一方,八重丸は,無人のまま漂流を続け,いつしか行方不明となった。

 (原因の考察)
 本件は,漁獲物を満載にして帰航中,作業場に大量に海水が流れ込んで滞留し,左舷側に大傾斜して復原力を喪失したことにより発生したものであるが,作業場への海水の流入経路及び滞留について,次のとおり考察する。
 作業場は,船首楼後端,船尾楼前端,漁ろう甲板及び塞ぎ板が施されたブルワークによって囲まれており,当時,漁ろう甲板に設けられた作業場に通じる階段出入口及びベルトコンベア搬入用ハッチの各開口部は閉鎖されていた。更にA受審人は海水が左舷側の傾斜流し台から溢れてブルワーク高さの中間付近まで溜っているのを認めており,また,ふだんから漁ろう甲板に海水が打ち込むと傾斜流し台を経由して作業場に流れ込んでいたという事実に鑑みれば,作業場への海水の流入経路として,漁ろう甲板に打ち込んだ海水が左舷側の傾斜流し台を経由して流れ込んだものと認めるのが相当である。
 次に,当時の八重丸は漁獲物を満載にしていたこと,漁ろう甲板への海水の打ち込みが頻繁に繰り返されたこと,打ち込んだ海水が左舷側の傾斜流し台から溢れていたこと,海水の打ち込みが始まってから常に左舷側に傾斜した状態であったこと,作業場には漁ろう甲板に通じる階段の上部まで海水が滞留していたこと,更に,八重丸の漁ろう甲板の出入口等の状況についての検査調書に添付された本件発生前の船体写真から,喫水線が放水口の下端近くであることを考えると,作業場に大量に海水が滞留したのは,漁ろう甲板に打ち込んだ海水が作業場に流れ込み,左舷側への傾斜が増して放水口が海面下に没したところ,更に作業場への海水の流入が続いたことによるものと考えるのが相当である。
 したがって,漁ろう甲板に打ち込んだ海水が作業場に大量に流入していなければ本件は発生しなかったことから,集魚管の出口の蓋を閉鎖するなど,荒天準備を十分に行わなかったことを本件発生の原因とするのが相当である。

 (原因及び受審人の行為)
 本件転覆は,夜間,海上暴風警報発表下の八戸港東方沖合において,漁獲物を満載にして同港に帰航する際,荒天準備が不十分で,漁ろう甲板に打ち込んだ海水が傾斜流し台を経由して大量に作業場に流れ込み,滞留して左舷側に大傾斜し,復原力を喪失したことによって発生したものである。
 A受審人は,夜間,海上暴風警報発表下の八戸港東方沖合において,漁獲物を満載にして同港に帰航するに当たり,入手した気象情報から荒天になることを予測した場合,これまでに漁ろう甲板に打ち込んだ海水が作業場に流れ込むことを経験していたのだから,大量に作業場に流れ込んで滞留することがないよう,集魚管の出口の蓋を閉鎖するなど,荒天準備を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,陸に近づけば次第に風も波も静まるものと思い,荒天準備を十分に行わなかった職務上の過失により,漁ろう甲板に打ち込んだ海水が傾斜流し台を経由して大量に作業場に流れ込んで滞留し,復原力を喪失して転覆する事態を招き,その後八重丸を漂流したまま行方不明とさせるに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。



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