平成25年海審第8号
            裁    決
         瀬渡船第十八昇栄丸乗揚事件

  言 渡 年 月 日 平成28年3月23日
  審  判  所 海難審判所(松浦数雄,前久保勝己,濱田真人)
  理  事  官 吉川弘一
  受  審  人 A
     職  名 第十八昇栄丸船長
     操縦免許 小型船舶操縦士
  指定海難関係人 B
     職  業 遊漁船業

            主    文

 受審人Aを戒告する。

            理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成24年10月12日14時23分
 平戸瀬戸

2 船舶の要目
  船 種 船 名  瀬渡船第十八昇栄丸
  総 ト ン 数  10トン
    全   長  16.70メートル
    機関の種類  過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
    出   力  501キロワット
    回転数毎分  2,132

3 事実の経過
(1) 構造及び設備等
ア 船体等
 第十八昇栄丸(以下「昇栄丸」という。)は,平成3年3月に進水した,最大搭載人員が旅客20人船員2人のFRP製瀬渡船で,船首から順に,長さ2.9メートル先端の幅1.2メートル後端の幅3.0メートルの台形型をした槍出し,船首甲板,前部船室,操舵室,後部船室及び船尾甲板を設けていた。また,船尾甲板下の倉庫には,重さ15キログラムの四爪錨及び直径25ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ30メートルの化学繊維製の錨索が格納されていた。

イ 主機
 主機は,上甲板下中央部の機関室に装備されたC社が製造した6M137AP−1型と呼称するディーゼル機関で,容量1,200リットルの燃料油タンクが同室船尾部に設備され,A重油を燃料油として使用し,1日当たり約5時間,月平均20日程度運転され,操舵室から遠隔操作が行えるようになっていた。
 主機燃料油系統は,燃料油タンクから,燃料油が呼び径15Aの鋼製パイプによって主機入口配管燃料油こし器(以下「燃料油一次こし器」という。)に導かれ,直径12ミリのゴム製ホースで燃料入口ストレーナを経由して主機駆動の燃料油供給ポンプで吸引及び加圧され,燃料フィルタを経て燃料噴射ポンプに供給される経路となっていた。
 燃料油タンクは,船体付きタンクで,取出し弁が船首側壁底部中央付近に設備されていたものの,内部の点検及び掃除をするための点検口は設置されていなかった。
 燃料油一次こし器は,スラッジなどの不純物を除去するため化学繊維製30マイクロメートルのエレメント1個,水分などを取り除くためのドレン抜き弁,同エレメントが閉塞して燃料油の供給が不足気味となったときに対処するためのバイパス弁などで構成されていた。
 燃料入口ストレーナは,直径7.5ミリ長さ30ミリの真鍮製500マイクロメートルで,ゴム製ホースと燃料油プライミングポンプとの接続用ボルトに内蔵されていた。

(2) 遊漁船業者及び業務規程
 B指定海難関係人は,自ら,同人の親戚(以下「D主任者」という。)及びA受審人を遊漁船業務主任者として選任し,昇栄丸ほか1隻を使用し,長崎県的山大島,度島及び平戸瀬戸所在の広瀬を主な釣り場として遊漁船業を営み,A受審人ほか2人の従業員のうちの1人を船長として昇栄丸に乗り組ませていた。
 そして,B指定海難関係人は,両船の運航及び主機の保守管理に当たっていたところ,平成21年に病気を患ったことから,D主任者を介し,船長に運航の指示をしたり,整備業者に主機の整備を依頼したりしていた。
 業務規程によれば,第2章第11条に出航中止基準を設け,同条第1項に「遊漁船業者は,出航中止基準によって,遊漁船の出航を判断する。出航中止基準によって出航中止が決まったときには,直ちに船長に出航中止を指示する。」,同条第2項に「船長は,自らの経験によって,天候の悪化等によって海況が悪化し,利用者が危険になると予測される場合には,出航中止基準に達しない状況においても,出航を保留し,遊漁船業者と協議する。この際船長と遊漁船業者が出航について判断が異なる場合には,出航を見合わせる。」とあり,出航中止基準は,出航地から案内する釣り場までの間において,波高2.5メートル又は風速10メートル毎秒(以下,風速については毎秒のものを示す。)以上とされていた。

(3) 主機の整備状況
 B指定海難関係人は,平成22年4月主機の開放整備を整備業者に実施させた後,主機付き燃料油及び潤滑油の各フィルタを定期的に整備業者に新替えさせたものの,燃料油一次こし器については,毎年1回の整備を行うことが推奨されていたが,整備業者を手配して整備期限を迎えた同こし器のエレメントを新替えするなど,燃料油系統の整備を十分に行わなかった。
 昇栄丸は,燃料タンク底部に堆積したスラッジなどの不純物が,燃料油一次こし器のエレメントを次第に閉塞させて燃料供給量が低下するところ,いつしか同こし器のバイパス弁が開放されて給油量が保たれていたものの,燃料入口ストレーナが,同弁を経由した不純物により徐々に詰まる状況となっていた。

(4) 本件発生に至る経緯
 昇栄丸は,A受審人が単独で乗り組み,釣り客5人を乗せ,瀬渡しの目的で,船首0.6メートル船尾1.8メートルの喫水をもって,平成24年10月12日14時10分長崎県田平港を発し,同港の北方約5海里に位置する同県横島に向かった。
 ところで,発航前日台風21号が沖縄南方海上で停滞していたことから北東風が強くなり,16時09分長崎海洋気象台は平戸瀬戸を含む平戸市に強風注意報を,翌12日09時55分波浪注意報を発表していた。
 発航に先立ち,B指定海難関係人は,正午頃天気予報で平戸市に強風及び波浪両注意報が発表され,風速及び波高が業務規程に定める出航中止基準を超える状況であることを知ったが,A受審人に対して出航を中止するよう指示しなかった。
 A受審人は,正午頃天気予報で平戸市に強風及び波浪両注意報が発表されていることを知り,岸壁から沖合を見たところ,北東から13メートルないし15メートルの風が吹いており,風浪が波高2メートルないし3メートルあることから,風速及び波高が業務規程に定める出航中止基準を超える状況であることを認めたが,予定の瀬渡し地点まで島陰になるので無難に航行できるものと思い,B指定海難関係人に対して出航を中止するよう要請しなかった。
 A受審人は,釣り客全員が救命胴衣を着用していることを確認し,北東からの強風と波浪を受けて船体が大きく動揺しながら約15ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で平戸瀬戸を北上し,14時12分半広瀬導流堤灯台から200度(真方位,以下同じ。)800メートルの地点で,針路を同瀬戸に沿う359度に定め,速力を5.5ノットに減じて進行した。
 14時18分A受審人は,広瀬導流堤灯台から305度350メートルの地点に至ったとき,燃料油タンク底部に溜まったスラッジなどが動揺で攪拌されて燃料油に混ざり,燃料入口ストレーナが燃料油に混ざった錆を含む不純物により閉塞したので,主機が燃料供給不足により自停した。
 A受審人は,操舵室で直ちに主機を再起動させる操作を繰り返し試みたものの,起動に至らず,北東からの強風と波浪のため短時間のうちに平戸瀬戸北口西岸沖の浅所に向け圧流されて投錨を準備する間もなく,昇栄丸は,14時23分広瀬導流堤灯台から284度480メートルの地点において,船首を203度に向けて同瀬戸北口西岸沖の浅所に乗り揚げた。
 当時,天候は晴れで風力6の北東風が吹き,潮候は下げ潮の初期に当たり,波高は2.5メートルであった。
 乗揚後,A受審人は,釣り客2人と共に船尾甲板で,他の釣り客3人が船首甲板で,北東からの強風と波浪の影響により船体が激しく動揺しながら岩場に当たる衝撃のためハンドレールを握ってとどまっていたところ,船尾甲板右舷側にいた釣り客1人が岩場に移ろうとして海中に転落し,その後船首部が岩場に挟まり船体の動揺が幾分おさまったところで釣り客4人と槍出しから岩場に移った。
 乗揚の結果,船体は損壊し,後に廃船処理され,A受審人及び釣り客4人が肋骨骨折,全身打撲などを負い,海中転落した釣り客Eが外傷性失血死と検案された。

 (原因及び受審人の行為)
 本件乗揚は,主機の燃料油系統の整備が不十分であったことと,田平港において,風速及び波高が業務規程に定める出航中止基準を超えた際,出航を中止しなかったこととにより,平戸瀬戸を北上中,主機が自停して強風と波浪のため短時間のうちに同瀬戸北口西岸沖の浅所に向け圧流されたことによって発生したものである。
 遊漁船業者が,整備期限を迎えた燃料油一次こし器エレメントを新替えしなかったことと,風速及び波高が業務規程に定める出航中止基準を超えた際,船長に対して出航を中止するよう指示しなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人は,田平港において,風速及び波高が業務規程に定める出航中止基準を超えたことを認めた場合,遊漁船業者に対して出航を中止するよう要請すべき注意義務があった。しかるに,同人は,予定の瀬渡し地点まで島陰になるので無難に航行できるものと思い,遊漁船業者に対して出航を中止するよう要請しなかった職務上の過失により,平戸瀬戸を北上中,主機が自停したとき,強風と波浪のため短時間のうちに同瀬戸北口西岸沖の浅所に向け圧流されて乗揚を招き,船体に損傷を生じさせ,釣り客1人を死亡,同4人を負傷させて自らも負傷するに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。



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