平成27年海審第1号
            裁    決
         旅客船はまかぜ旅客負傷事件

  言 渡 年 月 日 平成28年8月24日
  審  判  所 海難審判所(河野守,小寺俊秋,上田英夫)
  理  事  官 今泉豊光
  受  審  人 A
     職  名 はまかぜ船長
     操縦免許 小型船舶操縦士
  受  審  人 B
     職  名 はまかぜ甲板員
     操縦免許 小型船舶操縦士

            主    文

 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを懲戒しない。

            理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成26年6月5日09時41分半
 愛知県佐久島北西方沖合

2 船舶の要目
  船 種 船 名  旅客船はまかぜ
  総 ト ン 数  19トン
    全   長  19.6メートル
    機関の種類  ディーゼル機関
    出   力  956キロワット

3 事実の経過
(1) 設備及び性能等
 はまかぜは,最大搭載人員が旅客113人及び船員3人の,2機2軸を備えた軽合金製旅客船で,船体中央より少し後方の上甲板上に,左舷側を操縦区画,通路を挟んで右舷側を旅客区画(以下「中央客室」という。)とした甲板室を,同室前方から船首部までの間に一段低い旅客区画(以下「船首客室」という。)をそれぞれ配置し,甲板室と船首客室とは中央部の階段によって連絡されていた。
 操縦区画には,前部中央に舵輪,機関操縦盤,GPSプロッター及びジャイロコンパスが,左舷側にレーダー及び船内放送装置がそれぞれ装備され,舵輪後方に操縦者用の椅子が,後壁に可倒式の椅子2脚が設置されていた。
 中央客室には,2人ないし3人掛けの椅子席が3列の8席,船首客室には,通路を挟んで右舷側に2人ないし3人掛けの椅子席が7列,左舷側に3人ないし4人掛けの椅子席が7列の47席が設置され,各席には,それぞれシートベルトが,通路に面した席には跳ね上げが可能な肘掛けが備えられていた。
 諸試験成績表中の海上運転成績表によると,最大速力が両舷主機回転数毎分2,210(以下,回転数については毎分のものをいう。)の27.11ノットであり,平素,航海速力を回転数1,900の22.0ノットとして運航されていた。

(2) はまかぜの運航形態
 Cは,はまかぜ及び僚船の第3さちかぜを,愛知県一色港を発した後,佐久島漁港西ノ浜地区及び同漁港太井ノ浦地区に順次寄港して一色港に戻る経路で,旅客等の輸送を行う一般旅客定期航路事業に従事させ,両船が午前中の4便及び午後の3便にそれぞれ就航していた。

(3) 関係人の経歴
 (省略)

(4) 安全管理規程等
 Cは,海上運送法に基づく安全管理規程を定め,安全統括管理者,運航管理者各1人及びA受審人ほか2人の運航管理補助者を選任していた。
 安全管理規程には,船長は,適時,運航の可否判断を行い,気象及び海象が一定の条件に達したと認めるとき又は達するおそれがあると認めるときは,運航中止の措置をとらなければならないとされており,運航の可否の具体的な判断基準や基準経路等については,運航基準に定められていた。
 運航基準では,発航の可否判断について,発航港における風速が毎秒16メートル(以下,風速については毎秒のものを示す。)以上及び波高が1.0メートル以上のいずれかに達していると認めるとき,又は,航行中に遭遇する風速が16メートル以上及び波高が1.5メートル以上のいずれかに達するおそれがあると認められるときは,発航を中止しなければならない旨,また,基準航行の可否判断について,基準航行を継続した場合,船体の動揺等で旅客の船内における歩行が著しく困難となるおそれがあるとき,又は,搭載貨物転倒等の事故が発生するおそれがあると認めるときは減速,適宜の変針,基準経路の変更等の適切な措置をとらなければならない旨それぞれ規定されていた。

(5) 気象状況
 名古屋地方気象台は,四国沖の前線を伴った動きの遅い発達中の低気圧の影響により,平成26年6月4日16時36分西尾市及び愛知県南知多町に強風注意報及び波浪注意報を発表して翌5日05時00分各注意報を継続し,風については「5日夜遅くまで,ピークは5日昼前,東の風,海上で最大風速18メートル」,波については「6日明け方まで,ピークは5日昼前,波高2メートル」と報じ,また,同日05時40分東海海域東部及び同海域西部に海上強風警報を発表し,「東又は南東の風が強く,最大風速は35ノット(18メートル)」と報じていた。

(6) 本件発生に至る経緯
 はまかぜは,A及びB両受審人が乗り組み,第3便として,中央客室に2人,船首客室左舷側に3人及び同客室右舷側に4人の旅客9人を乗せ,船首1.6メートル船尾1.8メートルの喫水をもって,平成26年6月5日09時30分一色港を発し,佐久島漁港西ノ浜地区に向かった。
 これより先,A受審人は,第1便及び第2便を運航したとき,一色港港内の渡船乗り場に設置された風向風速計で風速約5メートルの東風を観測していたところ,第3便発航前,東風が風速8メートルに増勢しているものの,港内の波高が1メートルを超えていないことを確認し,また,前便を運航したときの状況から,航行中に運航基準に定める気象及び海象に遭遇するおそれがないと判断した。
 そして,A受審人は,一色港発航時,波浪による船体の動揺が予想されたが,旅客に対して,強風のため,船体の動揺が予想されるので航行中に席から移動しないようにとの船内放送を行っただけで,旅客の身体が椅子から跳ね上げられないよう,シートベルト着用についての案内を行わずに発航したものであった。
 A受審人は,B受審人を操縦席で手動操舵に就かせ,自らは操縦席右後方の可倒式の椅子に腰を掛けて操船指揮に当たり,一色港の港口を出て間もなく,海象状況を考慮して両舷主機を回転数1,800にかけ,航海速力より少し減じた20.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で南下した。
 ところで,三河湾は,愛知県生田鼻から南南西方約2.5海里沖合にかけて水深5メートル未満の海域が広がり,東寄りの風が連吹すると,佐久島漁港への航行経路に当たる,佐久島北西方約1海里の5メートル等深線付近で波浪が高まることがあり,A受審人はこのことを経験的に知っていた。
 A受審人は,09時34分半少し過ぎ一色港西防波堤灯台から208.5度(真方位,以下同じ。)1.04海里の地点で,針路を生田鼻沖灯浮標に向く180度に定め,同じ速力で進行し,この頃,東風が連吹して佐久島漁港への航行経路付近の波浪が約1メートルに高まっているのを視認した。
 09時39分少し前A受審人は,波ケ埼灯台から314度1.85海里の地点に達し,針路を佐久島に向く128度に転じたとき,増勢した波浪を左舷船首方から受ける状況となり,船体に大きな動揺と衝撃が生じるおそれがあったが,平素より少し減速して航行しているので,そのままの速力で航行を続けても旅客に危険が生じることはないものと思い,十分に減速することなく,同じ主機回転数のまま,波浪の影響により速力が19.0ノットに低下し,B受審人がA受審人の指示に従って船体の動揺を抑えるように船首を左右に振りながら続航した。
 こうして,はまかぜは,原針路及び原速力のまま進行中,09時41分半僅か前左舷船首方から高まった波浪を受けて船首部が大きく持ち上げられ,09時41分半波ケ埼灯台から320度1.0海里の地点において,船首部が波の谷間に降下して上下に激しく動揺し,椅子席から跳ね上げられた旅客が落下して身体を同席に強く打ち付けた。
 当時,天候は曇りで風力5の東風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
 その結果,旅客のうち,船首客室の最前列右舷側の椅子席の旅客が1箇月の入院加療を要する右肋骨骨折,胸椎及び腰椎圧迫骨折等を,同客室最後列右舷側の椅子席の旅客が3箇月の加療を要する第12胸椎圧迫骨折を,及び中央客室最前列の椅子席の旅客が3週間の加療を要する第12胸椎圧迫骨折をそれぞれ負った。

 (原因及び受審人の行為)
 本件旅客負傷は,強風,波浪注意報及び海上波浪警報が発表され,東風が連吹する状況下,一色港発航時にシートベルト着用についての案内が行われず,佐久島北西方沖合を航行中,佐久島漁港への航行経路付近で波浪が高まり,増勢した波浪を左舷船首方から受ける状況となった際,減速が不十分で,波浪により船首部が上下に激しく動揺して椅子席の旅客が跳ね上げられ,身体を同席に強く打ち付けたことによって発生したものである。
 A受審人は,強風,波浪注意報及び海上波浪警報が発表され,東風が連吹する状況下,佐久島北西方沖合を航行中,佐久島漁港への航行経路付近で波浪が高まっているのを認め,増勢した波浪を左舷船首方から受ける状況となった場合,波浪による船体の動揺と衝撃を緩和するよう,十分に減速すべき注意義務があった。ところが,同人は,平素より少し減速して航行しているので,そのままの速力で航行を続けても旅客に危険が生じることはないものと思い,十分に減速しなかった職務上の過失により,波浪により船首部が上下に激しく動揺して椅子席の旅客が跳ね上げられ,身体を同席に強く打ち付ける事態を招き,旅客3人を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 B受審人の行為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。



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