平成26年海審第6号
            裁    決
     貨物船海晴丸貨物船第三十八すみせ丸衝突事件

  言 渡 年 月 日 平成29年2月15日
  審  判  所 海難審判所(古城達也,加藤昌平,大北直明)
  理  事  官 鎌倉保男
  受  審  人 A
     職  名 海晴丸船長
     海技免許 四級海技士(航海)
  補  佐  人 a
  受  審  人 B
     職  名 海晴丸三等航海士
     海技免許 六級海技士(航海)(履歴限定)
  受  審  人 C
     職  名 第三十八すみせ丸船長
     海技免許 三級海技士(航海)
  受  審  人 D
     職  名 第三十八すみせ丸甲板長
     海技免許 六級海技士(航海)(履歴限定)
  補  佐  人 b,c,d,e,f(いずれもC及びD両受審人選任)

            主    文

 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Dの六級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを懲戒しない。

            理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成26年3月26日20時06分半少し過ぎ
 兵庫県家島北方沖合

2 船舶の要目
  船 種 船 名  貨物船海晴丸      貨物船第三十八すみせ丸
  総 ト ン 数  748トン       699トン
    全   長  72.43メートル   70.02メートル
    機関の種類  ディーゼル機関     ディーゼル機関
    出   力  1,323キロワット  1,323キロワット

3 事実の経過
(1) 海晴丸の設備等
 海晴丸は,瀬戸内海及び本州南岸各港間の液体化学薬品輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で,操舵室には,前部中央に操舵スタンド,その右舷側に主機遠隔操縦装置,左舷側にVHF無線電話(以下「VHF」という。),電子海図情報表示装置(以下「ECDIS」という。),自動衝突予防援助装置(以下「ARPA」という。)付きXバンドレーダー(以下「1号レーダー」という。)及びSバンドレーダー(以下「2号レーダー」という。)各1台を備え,操舵スタンド上方の天井部分及び操舵室両舷壁面に汽笛のスイッチを設けていた。
 ECDISとレーダーは,船舶自動識別装置(以下「AIS」という。)による他船の船位及び船首方位を示すシンボルマーク(以下「AISシンボル」という。)を重畳表示でき,ECDISには,レーダー映像を重畳表示することができた。

(2) 第三十八すみせ丸の設備等
 第三十八すみせ丸(以下「すみせ丸」という。)は,国内各港間のセメント輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で,操舵室には,前部中央に舵輪,その右舷側に主機遠隔操縦装置,左舷側に1号及び2号レーダー,天井部分にGPSプロッター,後部中央にVHFを備え,前部両舷の壁面に汽笛のスイッチを設けていた。
 2台のレーダーは,いずれもXバンドで,ARPAを装備し,AISシンボルを重畳表示することができた。

(3) 本件発生に至る経緯
 海晴丸は,A及びB受審人ほか4人が乗り組み,メチルアルコール約1,000トンを積載し,船首3.6メートル船尾4.6メートルの喫水をもって,平成26年3月26日11時50分広島県大崎上島の南西部に所在する桟橋を発し,兵庫県姫路港飾磨第1区に向かった。
 B受審人は,19時45分播磨灘北部の尾崎鼻灯台から264度(真方位,以下同じ。)5.3海里の地点で,一等航海士から引き継いで単独の船橋当直に就き,航行中の動力船の灯火を表示し,1号及び2号レーダーを4海里レンジのノースアップ,オフセンター表示として各レーダー及びECDISにAISシンボルを重畳表示させ,針路を058度に定めて自動操舵とし,機関を回転数毎分265の全速力前進にかけ,12.7ノット(対地速力,以下同じ。)の速力で進行した。
 B受審人は,19時50分尾崎鼻灯台から270度4.4海里の地点で,霧のため視程が0.5海里に狭められて視界制限状態となったのでA受審人に報告した。
 A受審人は,B受審人からの報告を受け,直ちに昇橋して操船指揮を執り,B受審人を1号レーダーによる見張りに当て,間もなく視程が狭められて約500メートルになったのを認めたものの,霧中信号を行わず,安全な速力とすることなく続航した。
 A受審人は,19時51分半少し過ぎ尾崎鼻灯台から273度4.1海里の地点に至ったとき,右舷前方6.0海里のところに,すみせ丸のレーダー映像を初めて探知し,同船が反航船であることを知ったが,B受審人に,すみせ丸の接近状況を逐次報告させるなど,適切な操船補佐に当たるよう指示しなかった。
 A受審人は,19時54分折から昇橋した機関長を2号レーダーによる見張りに加え,1号レーダーを1.5海里レンジに切り替えて進行した。
 20時00分A受審人は,尾崎鼻灯台から293度2.8海里の地点で,姫路港の広畑航路南方沖に向け,自動操舵のまま針路を080度に転じたのち,自らが手動操舵に当たった。
 A受審人は,20時02分尾崎鼻灯台から298度2.5海里の地点に達したとき,すみせ丸が右舷船首14度1.9海里のところとなり,その後,同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが,すみせ丸のAISが実際の船首方位よりも33度左方に偏した船首方位情報(以下「左偏したAIS船首方位情報」という。)を発信していて,ECDISに表示された同船のAISシンボルの船首線が自船の針路とほぼ反方位となっていたので互いに右舷を対して無難に航過するものと思い,ARPAを活用するなど,同船に対するレーダーによる動静監視を十分に行うことなく,この状況に気付かないまま,針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも,また,必要に応じて行きあしを止めることもなく続航した。
 一方,B受審人は,すみせ丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,1号レーダーの後方で同船の映像を認めていたが,A受審人がECDISを見ながら時折レーダーも見て操船していたので,同受審人が同船の接近状況を把握しているものと思い,同船の接近状況を逐次報告するなど,同人を適切に補佐しなかった。
 20時06分A受審人は,尾崎鼻灯台から314度1.9海里の地点で,視程が更に狭められて約100メートルとなり,すみせ丸が右舷船首10度約500メートルとなったとき,1号レーダーに表示された同船のAISシンボルの船首線に,右転を示す表示が出てすぐ左転を示す表示に変わったのを認め,航過距離を広げるつもりで針路を075度に転じて進行した。
 A受審人は,20時06分半僅か過ぎ船首至近にすみせ丸の紅1灯を視認して間もなく,20時06分半少し過ぎ尾崎鼻灯台から318度1.8海里の地点において,海晴丸は,075度を向首して,原速力のまま,その船首がすみせ丸の左舷中央部に前方から88度の角度で衝突した。
 当時,天候は霧で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の初期に当たり,視程は約100メートルで,兵庫県姫路市に濃霧注意報が,瀬戸内海全域に海上濃霧警報が発表されていた。

 また,すみせ丸は,C及びD受審人ほか3人が乗り組み,空倉のまま,船首1.6メートル船尾3.1メートルの喫水をもって,同日16時10分阪神港大阪第3区を発し,兵庫県赤穂港に向かった。
 C受審人は,発航に先立ち,ジャイロコンパスの船首方位に誤差がないことを確認したものの,自船のAIS情報が正しく表示されていることをAIS表示部で確認していなかった。
 C受審人は,平素,航海時間が12時間未満の船橋当直を,適宜,輪番の単独当直としていたところ,赤穂港までの航海予定時間が5時間未満であったことから,発航から16時30分までを自らが,16時30分から赤穂港沖着予定の20時10分ごろまでをD受審人が当直に当たり,赤穂港沖での投錨操船を再び自らが担当することとして発航したものであった。
 C受審人は,16時30分大阪灯台の西方沖合1.5海里を西行していたとき,D受審人と船橋当直を交替するに当たり,視程が約1.5海里だったことから,いずれ視界が更に悪化することもあると考え,航行中の動力船の灯火を表示し,視程が1海里以下になったら報告するように指示して降橋した。
 D受審人は,単独の船橋当直に就き,1号レーダーを5海里レンジのヘッドアップ,オフセンター表示として作動させ,AISシンボルを重畳表示させないで使用し,明石海峡を通過後,19時42分尾崎鼻灯台から089度3.8海里の地点で,針路を283度に定めて自動操舵とし,機関を回転数毎分340の全速力前進にかけ,12.7ノットの速力で,左偏したAIS船首方位情報を発信していることに気付かないまま進行した。
 D受審人は,19時49分尾崎鼻灯台から080度2.4海里の地点に至り,左舷前方7.0海里のところに,海晴丸のレーダー映像を初めて探知した。
 このとき,D受審人は,霧のため視程が約500メートルに狭められて視界制限状態となったことを認めたものの,霧中信号を行わず,安全な速力とすることなく,もう少しで赤穂港沖に達してC受審人に交替する予定であることから,それまで自身で操船することにして,同状態となったことをC受審人に報告することなく続航した。
 19時59分半僅か前D受審人は,尾崎鼻灯台から015度0.9海里の地点で,海晴丸が左舷前方3.0海里のところに接近したのを認め,手動操舵に切り替えた。
 D受審人は,20時02分尾崎鼻灯台から344度1.1海里の地点に達したとき,海晴丸が左舷船首9度1.9海里のところとなり,その後,同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが,同船のエコートレイルを見て,同船とは互いに左舷を対して無難に航過するものと思い,ARPAを活用するなど,同船に対するレーダーによる動静監視を十分に行うことなく,この状況に気付かないまま,航過距離を広げようと針路を287度に転じただけで,針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも,また,必要に応じて行きあしを止めることもなく進行した。
 D受審人は,20時05分尾崎鼻灯台から324度1.5海里の地点で,視程が更に狭められて約100メートルとなったとき,海晴丸のレーダー映像に方位変化がほとんどなかったことから危険を感じて10度右転し,20時06分元の針路に戻し,20時06分半左舷前方至近に同船の白2灯を視認して右舵一杯をとったものの,及ばず,すみせ丸は,船首が343度を向いて速力が7.1ノットとなったとき,前示のとおり衝突した。
 C受審人は,D受審人から視界制限状態となった旨の報告がなかったので,同状態となったことに気付かず,昇橋して操船の指揮に当たることができないまま自室で休息していたところ,突然,衝撃を受け,すぐに昇橋して衝突したことを知り,事後の措置に当たった。

 衝突の結果,海晴丸は,船首部を圧壊し,すみせ丸は,左舷中央部外板に破口を生じ,浸水して沈没し,のち廃船処理され,D受審人が右鎖骨骨折を,すみせ丸二等機関士が背部及び胸部打撲等を負った。

 (航法の適用)
 本件は,霧で視界制限状態となった家島北方沖合において,東行する海晴丸と西行するすみせ丸とが衝突したもので,同海域は海上交通安全法の適用海域であるが,同法には本件に適用される航法規定がないので,一般法である海上衝突予防法(以下「予防法」という。)により律することとなり,両船が互いに他の船舶の視野の内にないことから,予防法第19条の視界制限状態における船舶の航法が適用される。

 (原因の考察)
 本件は,霧で視界制限状態となった家島北方沖合において,東行する海晴丸と西行するすみせ丸とが衝突したものであるが,以下,すみせ丸の左偏したAIS船首方位情報と本件発生との因果関係について考察する。
 自船の船名,位置,船首方位,速力等の情報は,他船のAISに直接現れ,これらの情報が不正確な場合もそのまま反映されるのであるから,船員法に規定された「発航前の検査」として,自船のAIS情報が正しく表示されていることをAIS表示部で確認することが,AISを装備しているすべての船舶に対して求められるところ,すみせ丸では,発航に先立ち,自船のAISが正しい船首方位情報を発信していることを確認していなかった。
 AIS情報は他船の運航状況を知る上で有効な手段であるが,自船のAISにシンボルマークとして現れた他船の情報が常に正しいものであるとは限らず,また,予防法第5条(見張り)は,「視覚,聴覚及びその時の状況に適した他のすべての手段により,常時適切な見張りをしなければならない。」と規定し,同法第7条(衝突のおそれ)第2項は,「レーダーを使用している船舶は,(中略)レーダープロッティングその他の系統的な観察等を行うことにより,当該レーダーを適切に用いなければならない。」と規定し,同条第3項は,「船舶は,不十分なレーダー情報その他の不十分な情報に基づいて他の船舶と衝突するおそれがあるかどうかを判断してはならない。」と規定しているのであるから,たとえ他船のAIS情報が不正確なものであったとしても,自船レーダーのARPA機能など,すべての手段を有効活用して,他船の接近状況を系統的に観察することにより,正確に把握すべきであり,本件時,ARPA機能を有効活用して動静監視を行っていれば,最接近距離が極めて小さいことから,すみせ丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことを判断できたものと認められる。
 したがって,すみせ丸のAISが左偏した船首方位情報を発信していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

 (主張に対する判断)
 海晴丸側補佐人は,「すみせ丸のAISが左偏した船首方位情報を発信していたことは,船長・船橋当直者の通常の業務において容易に点検・発見・修正できたのにそれを行わず,誤差のある状態のまま航海を開始し,他船に対し誤った情報を発信し,海晴丸の運航上の判断に混乱を生じさせたことは大きな過失と言わなければならない。」旨主張するので,このことについて検討する。
 海晴丸側補佐人が指摘するとおり,C受審人が,阪神港大阪第3区を発航する前に,AIS表示部で自船の動的データを確認していれば,自船のAISが左偏した船首方位情報を発信していることに気付くことができたと推認される。
 ところで,海晴丸側補佐人の,「A受審人は,すみせ丸の左偏したAIS船首方位情報により同船の航行状態を誤って判断し,その結果衝突回避動作が遅れた。」旨の主張については,同補佐人が弁論の中で,「すみせ丸の対地針路が海晴丸に向いており,距離が接近していたのだから,A受審人がもう少し注意すれば,もっと早期に,両船間に衝突のおそれが発生していたことに気付いた可能性はあり,この点についての理事官の指摘は認めざるを得ない。」と述べているので,更に検討を加えるまでもないが,原因の考察で述べたとおり,すみせ丸のAISが左偏した船首方位情報を発信していたことは,本件と相当な因果関係があるとはいえず,霧で視界が制限された状況下,A受審人が,ECDISに表示されたすみせ丸のAISシンボルを主たる見張りの手段としたまま,自ら手動操舵に当たり,レーダーのARPA機能を有効活用して動静監視を行わなかったことを,本件発生の原因とするのが相当であるから,海晴丸側補佐人の主張は,採用することができない。

 (原因及び受審人の行為)
 本件衝突は,夜間,霧で視界制限状態となった家島北方沖合において,東行する海晴丸が,霧中信号を行うことも,安全な速力とすることもせず,レーダーで前方に探知したすみせ丸に対する動静監視が不十分で,同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったことと,西行するすみせ丸が,霧中信号を行うことも,安全な速力とすることもせず,レーダーで前方に探知した海晴丸に対する動静監視が不十分で,同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
 海晴丸の運航が適切でなかったのは,船長が,船橋当直者に対し,レーダーにより前方に探知したすみせ丸の接近状況を逐次報告させるなど,適切な操船補佐に当たるよう指示しなかったことと,船橋当直者が,船長を適切に補佐しなかったこととによるものである。
 A受審人は,夜間,霧で視界制限状態となった家島北方沖合において,操船指揮を執って東行中,前方にすみせ丸のレーダー映像を認めた場合,同船と著しく接近することを避けることができない状況とならないかどうかを判断できるよう,ARPAを活用するなど,レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,同船とは互いに右舷を対して無難に航過するものと思い,レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めることもなく進行して同船との衝突を招き,海晴丸に損傷を生じさせ,すみせ丸を沈没させるとともに,D受審人及びすみせ丸二等機関士を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 D受審人は,夜間,霧で視界制限状態となった家島北方沖合において,単独の船橋当直に就いて西行中,前方に海晴丸のレーダー映像を認めた場合,同船と著しく接近することを避けることができない状況とならないかどうかを判断できるよう,ARPAを活用するなど,レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,同船とは互いに左舷を対して無難に航過するものと思い,レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めることもなく進行して同船との衝突を招き,前示の損傷及び沈没並びに負傷を生じさせるに至った。
 以上のD受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の六級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 B受審人は,夜間,霧で視界制限状態となった家島北方沖合を東行中,レーダーにより前方にすみせ丸の映像を探知した場合,同船の接近状況を逐次報告するなど,A受審人を適切に補佐すべき注意義務があった。ところが,B受審人は,A受審人がECDISを見ながら時折レーダーも見て操船していたので,同人が同船の接近状況を把握しているものと思い,同人を適切に補佐しなかった職務上の過失により,同船と衝突する事態を招き,前示の損傷及び沈没並びに負傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 C受審人の行為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。



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