平成27年海審第2号
            裁    決
       貨物船太栄丸貨物船八幡丸衝突事件

  言 渡 年 月 日 平成29年3月10日
  審  判  所 海難審判所(濱田真人,加藤昌平,大北直明)
  理  事  官 鎌倉保男
  受  審  人 A
     職  名 太栄丸船長
     海技免許 四級海技士(航海)
  受  審  人 B
     職  名 太栄丸二等航海士
     海技免許 四級海技士(航海)
  補  佐  人 a,b,c(いずれも受審人A及びB選任)
  受  審  人 C
     職  名 八幡丸船長
     海技免許 五級海技士(航海)(旧就業範囲)

            主    文
 
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Cの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを懲戒しない。
 
            理    由
 (海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成26年7月28日13時00分
 鳴門海峡

2 船舶の要目
  船 種 船 名  貨物船太栄丸      貨物船八幡丸
  総 ト ン 数  499トン       487トン
    全   長  75.23メートル   70.91メートル
    機関の種類  ディーゼル機関     ディーゼル機関
    出   力  1,323キロワット  1,471キロワット

3 事実の経過
(1) 設備及び性能等
ア 太栄丸
 太栄丸は,平成25年4月に竣工し,主に本州南岸及び瀬戸内海沿岸の製鉄所に銑鉄,石炭等を輸送する,サイドスラスタを備えた船尾船橋型の貨物船で,3層の甲板室の最上層に操舵室を配し,上甲板下に貨物倉1個を,同倉下方及び側方にバラストタンクなどを設けて二重船殻構造としていた。
 操舵室は,その前面が船首端から約60メートル後方に位置し,自動物標追跡装置付きレーダー,電子海図情報表示装置,GPSプロッター,VHF無線電話,エアホーンなどを装備していた。
 船体部海上試運転成績表によれば,空船状態で,機関回転数毎分290(計画回転数)(以下,回転数については毎分のものを示す。)とした14.13ノットの速力において,舵中央から舵角35度をとるための所要時間が左右いずれも約7秒,同舵角をとって90度の旋回に要する時間が左右いずれも46秒,左右の最大旋回直径が288メートル及び279メートルで,最短停止距離が434メートル,後進を発令してから船体が停止するまでの所要時間が1分44秒であった。
イ 八幡丸
 八幡丸は,平成6年2月に竣工し,主に瀬戸内海沿岸の港に砂利等を輸送する,サイドスラスタを備えた船尾船橋型の砂利採取運搬船で,3層の甲板室の最上層に操舵室を配し,上甲板には甲板室前方に砂選別機を,船首部に全旋回式ジブクレーンを装備し,上甲板下に貨物倉1個を設けていた。
 操舵室は,その前面が船首端から約50メートル後方に位置し,自動衝突予防援助装置付きレーダー,GPSプロッター,VHF無線電話,電気ホーンなどを装備していた。
 船舶件名表の海上試運転成績によると,機関回転数290(計画回転数)とした12.41ノットの速力において,舵角35度をとったとき,旋回半径が左旋回,右旋回ともに56メートル,90度の旋回に要する時間が左旋回で38秒,右旋回で33.8秒で,後進を発令してから船体が停止するまでの所要時間が1分41.2秒であった。

(2) 関係人の経歴等
(省略)

(3) 鳴門海峡
 鳴門海峡は,兵庫県淡路島と徳島県大毛島とに挟まれた,紀伊水道と播磨灘とを南北に結ぶ海峡で,約6時間ごとに北又は南向きに転流する潮流の最強流速が11ノットに達し,渦流が発生するなど流向も複雑であるが,大阪湾及び明石海峡を経由するのに比べて航程が短縮されることから多数の船舶が往来していた。
 南流時,潮流は,淡路島門埼と大毛島孫埼を結ぶ一線を通過すると急に流速を増して幅約1キロメートル南方約3海里に及ぶ帯状の激流域となり,同域両側に渦流を発生させていた。
 大鳴門橋の3P及び4Pと称する両橋脚に挟まれた海域の幅は,876メートルあるが,可航域が門埼西方沖及び孫埼東方沖に点在する洗岩等により狭められ,同域の両端が,369メートルの間隔で同橋に設置された左右の側端標(昼間)及び側端灯(夜間)により,また同域の中央が,中央標(昼間)及び中央灯(夜間)により,それぞれ示されていた。
 海上保安庁刊行の瀬戸内海水路誌には,針路法として,1海里以上離して海峡を見通し,潮流及び行き会う船舶の状況を確かめたのち,大鳴門橋に設置された中央標(灯)を目標として橋軸と直交する針路とすることが,また,運航上の注意として,対地速力に十分余裕がない場合,安全な海域で潮待ちして無理な通航を避けることがそれぞれ示されていた。また,複雑な流れの影響を受けて反航船と著しく接近したり,操船が困難な状態に陥って海難に至るおそれがあることから,強潮流時に最狭部で反航船と行き会うことが予想される場合,及び,最強潮時及びその前後に通航することが見込まれる場合については,特に通航を避けるべきとされていた。

(4) 本件発生に至る経緯
 太栄丸は,A,B両受審人ほか3人が乗り組み,製鉄用コークス1,144トンを積載し,船首3.3メートル船尾4.4メートルの喫水をもって,平成26年7月28日09時00分香川県坂出港を発し,鳴門海峡を経由する予定で,千葉県木更津港に向かった。
 A受審人は,船橋当直を,自身,B受審人,一等航海士の順に輪番で入直する単独の4時間3直制とし,出港操船に引き続き,12時まで入直する予定で備讃瀬戸東航路を東行した。
 ところで,A受審人は,強潮流時に鳴門海峡の最狭部で反航船と行き会う場合は通航を避けた方がよいことを知っており,発航に先立ち,潮流を調べて同海峡を通航する頃に南流が最強となり,流速が8ノットを超えることを把握した。
 A受審人は,備讃瀬戸東航路を出航して播磨灘を東行中,11時50分頃昇橋したB受審人に船橋当直を引き継いで降橋し,昼食を終えて12時45分頃操舵室に戻り,鳴門海峡通峡に備えて同当直を2人体制とし,自身が操船指揮を執り,B受審人を操舵スタンド後方に立たせて目視による見張りに当たらせた。
 12時50分半少し前A受審人は,孫埼灯台から313.5度1.66海里の地点で,B受審人を手動操舵に就かせて針路を122度に定め,機関を回転数235にかけ,13.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)としたところ,右舷船首方3.5海里付近を西行する八幡丸を鳴門海峡越しに初認し,同船に対する動静監視を行いながら,大鳴門橋の約600メートル北方に至れば右舵をとって橋軸に直交する針路に転じる予定で進行した。
 A受審人は,12時57分鳴門海峡の最狭部まで約1,000メートルとなる,孫埼灯台から005度750メートルの地点に達し,八幡丸が右舷船首26度1,650メートルとなったのを認めた。
 このとき,A受審人は,強潮流時に鳴門海峡の最狭部で八幡丸と行き会うおそれがあることを予想したが,八幡丸が針路を右方に転じるので互いに左舷を対して航過できると思い,複雑な流れの影響を受けて同船と著しく接近したり,操船が困難な状態に陥って海難に至ることがないよう,減速して安全な海域で待機するなど,強潮流時に鳴門海峡の最狭部で八幡丸と行き会う状況を回避しなかった。
 A受審人は,12時58分僅か過ぎ孫埼灯台から038度650メートルの地点で,八幡丸が右転するものと見込んで大鳴門橋の橋軸に直交する167度の針路に転じ,14.0ノットの速力となって続航した。
 12時59分半僅か過ぎA受審人は,孫埼灯台から102度550メートルの地点で大鳴門橋に至り,激流域に入って更に速力が16.0ノットに増し,八幡丸が右転できずに直進するのを認め,衝突の危険を感じて機関の回転数を210に減じたものの,可航幅が狭い上に圧流されることを危惧して大舵角をとれず,右舵10度を令するにとどめ,13時00分鳴門飛島灯台から010度500メートルの地点において,太栄丸は,船首が172度を向いたとき,16.0ノットの速力で,その左舷中央部に八幡丸の船首部が後方から88度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴れで風力1の北西風が吹き,潮候は下げ潮の初期で,衝突地点付近では南方に向かう8.5ノットの潮流があり,視界は良好であった。
 衝突後,A受審人は,浸水により船体が左方に大傾斜したため,13時08分頃衝突地点の西南西方約600メートルの大毛島北東岸沖に任意座礁し,海上保安庁に救助を要請した。

 また,八幡丸は,C受審人ほか3人が乗り組み,空船で,船首1.2メートル船尾3.0メートルの喫水をもって,同月28日12時10分徳島県粟津港を発し,鳴門海峡を経由したのち,兵庫県家島沖に寄せて二等航海士を乗せる予定で,福岡県苅田港に向かった。
 ところで,C受審人は,過去,強潮流時に他船と鳴門海峡の最狭部で行き会わないよう潮待ちしたことがあり,発航に先立って潮流を調べ,同海峡を通航する頃に南流が最強となり,流速が8ノットを超えることを把握した。
 C受審人は,家島沖までの船橋当直を一等航海士と割り振って単独2時間半の交替制とし,出港後も引き続き在橋して同当直に当たり,鳴門海峡を経て南下する他船と左舷を対して航過できるよう,粟津港の港外に至って北北東に進むこととした。
 12時46分半僅か前C受審人は,大鳴門橋の約2.5海里南方となる,鳴門飛島灯台から129度2.09海里の地点で,針路を315度に定め,同橋から約400メートル南方に至れば右舵をとって橋軸に直交する針路に転じるつもりで,機関の回転数を240とし,11.0ノットの速力で,操舵スタンド後方に立って手動操舵により進行した。
 C受審人は,12時50分半少し前鳴門飛島灯台から126度1.37海里の地点に至り,左舷船首方約3.5海里のところを南東方に航行する太栄丸を鳴門海峡越しに初認し,その動静を監視した。
 C受審人は,12時57分鳴門海峡の最狭部まで約700メートルとなる,鳴門飛島灯台から075度480メートルの地点に達し,太栄丸が右舷船首13度1,650メートルとなったのを認めた。
 このとき,C受審人は,強潮流時に鳴門海峡の最狭部で太栄丸と行き会うおそれがあることを予想したが,過去に強潮流下で意図した操船ができたことから,やがて右舵をとるので左舷を対して太栄丸と航過できると思い,複雑な流れの影響を受けて同船と著しく接近したり,操船が困難な状態に陥って海難に至ることがないよう,減速して安全な海域で待機するなど,強潮流時に鳴門海峡の最狭部で太栄丸と行き会う状況を回避することなく続航した。
 こうして,C受審人は,12時58分鳴門飛島灯台から034度430メートルの地点に至って右舵15度をとったところ,激流により速力が5.0ノットに減じられて左回頭を始め,太栄丸と衝突する危険を感じて右舵一杯としたものの舵効が得られず,八幡丸は,船首が260度を向いたとき,5.0ノットの速力で前示のとおり衝突した。

 衝突の結果,太栄丸は,左舷中央部外板に破口を生じて浸水し,任意座礁した後,沈没して引き揚げられたが廃船となり,八幡丸は,船首部に破口を伴う凹損等を生じたが,のち修理された。なお,太栄丸の乗組員は,任意座礁中に八幡丸によって救助された。
  
 (航法の適用)
 本件衝突は,海上交通安全法の適用海域である鳴門海峡において,太栄丸と八幡丸とが衝突したものであるが,同法には本件に適用すべき航法規定がないので,一般法である海上衝突予防法によって律することとなる。
 鳴門海峡は,海上衝突予防法第9条に規定された「狭い水道等」に該当するが,強潮流により操船が困難な状態に陥るおそれがある特殊な状況においては,狭い水道の右側端に寄って航行することが,安全であり,かつ,実行に適するとはいえないことから,本件に同条の適用はなく,他に適用すべき航法規定もないので,同法第38条及び第39条を適用し,船員の常務によって律するのが相当である。
 
 (原因の考察)
 瀬戸内海水路誌に記載があるように,船舶が強潮流時に鳴門海峡を通峡すれば,潮流の影響が顕著となって反航船と著しく接近したり,操船が困難な状態に陥って海難に至るおそれがあるから,強潮流時には,最狭部で他船と行き会う状況を回避すべきである。
 本件は,鳴門海峡に向け,潮流に乗じて南下中の太栄丸と潮流に抗して北上中の八幡丸とが,同海峡の最狭部で行き会って衝突したものであるが,強潮流の影響が顕著となって,太栄丸,八幡丸共に操船が困難な状態に陥っていることに鑑みれば,両船の操縦性能に優劣はつけられず,一方の通航を優先し,他方に安全な海域で待機するよう求めることはできない。
 したがって,太栄丸,八幡丸両船が,強潮流時に鳴門海峡の最狭部で互いに行き会うおそれがあることを予想しながら,当該状況を回避しなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 なお,事実認定の根拠で示したとおり,B受審人は,A受審人の指揮の下,強潮流に留意して手動操舵に就いていた上,船長が状況を把握して操船指揮に当たっていたことに照らせば,船長に対して通航の可否等について進言すべき状況であったとはいえず,同受審人の行為と本件衝突との間に相当な因果関係があったとは認められない。
 
 (原因及び受審人の行為)
 本件衝突は,鳴門海峡において,強潮流時に両船が最狭部で行き会うおそれがあった際,同海峡を南下中の太栄丸が,八幡丸と行き会う状況を回避しなかったことと,同海峡を北上中の八幡丸が,太栄丸と行き会う状況を回避しなかったこととによって発生したものである。
 A受審人は,鳴門海峡を南下中,強潮流時に同海峡の最狭部で八幡丸と行き会うおそれがあることを予想した場合,減速して安全な海域で待機するなど,同海峡の最狭部で八幡丸と行き会う状況を回避すべき注意義務があった。しかるに,同人は,八幡丸が針路を右方に転じるので互いに左舷を対して航過できると思い,強潮流時に鳴門海峡の最狭部で同船と行き会う状況を回避しなかった職務上の過失により,八幡丸と衝突する事態を招き,同船の船首部に破口を伴う凹損等を,太栄丸の左舷中央部外板に破口をそれぞれ生じさせ,同船を沈没させるに至った。
 以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 C受審人は,鳴門海峡を北上中,強潮流時に同海峡の最狭部で太栄丸と行き会うおそれがあることを予想した場合,減速して安全な海域で待機するなど,同海峡の最狭部で太栄丸と行き会う状況を回避すべき注意義務があった。しかるに,同人は,やがて右舵をとるので左舷を対して太栄丸と航過できると思い,強潮流時に鳴門海峡の最狭部で同船と行き会う状況を回避しなかった職務上の過失により,太栄丸と衝突する事態を招き,両船に前示の損傷を生じさせ,太栄丸を沈没させるに至った。
 以上のC受審人の行為に対しては,海難審判法第3条の規定により,同法第4条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 B受審人の行為は,本件発生の原因とならない。
 
 よって主文のとおり裁決する。



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