第3章 裁決における海難原因 1/9
第1節 事件種類からみた海難原因
 平成14年に地方海難審判庁は834件の裁決を行い、その裁決の対象となった船舶(以下「裁決対象船舶」という。)は1,259隻でした。このうち原因とならないとされた船舶が102隻あり、これらを除いた1,157隻の海難原因総数は、1,501原因になります。(資料編第1表参照)
 ※裁決では、1件の海難事件について複数の原因を示すことがあります。
1 衝突事件の海難原因
原因の過半数が不十分な見張り行為のために衝突
 全裁決の44%にあたる364件(裁決対象船舶:760隻)が衝突事件です。その中で898原因を示しており、内訳は次図のとおりです。
 裁決対象船舶760隻中、海難の原因ありとされた船舶は682隻(90%)で、海難原因としては「見張り不十分」が過半数を占めており、次いで、「航法不遵守」、「信号不履行」などとなっています。
衝突事件の海難原因
(1) 見張り不十分
見張りは「船の眼」 その重要性を十分に認識すること
 見張り不十分は、次の三種類に分類されます。

  @ 見張り行為がなかったこと(142隻)
  A 見張り態勢にはついていたが、衝突直前まで相手船を認めなかったこと(209隻)
  B 相手船を認めた後の動静監視が不十分であったこと(143隻)

 @の「見張り行為なし」を分析すると、操舵室外での作業が68%を占め、その作業内容は、主に漁船の「操業」、遊漁船・プレジャーボートの「釣り」となっており、衝突に対する危険感覚が希薄化しています。
 Aの「衝突直前まで相手船を認めなかった」の発生要因は、一方向のみを見ていた(32%)、死角を補う見張りを行わなかった(23%)、第三船に気をとられた(17%)などとなっており、見張りの重要性を承知しつつも状況を自己の都合の良い方に解釈し、危険度の高い相手船を見落としていたケースが多くみられます。
 Bの「動静監視不十分」では、相手船を初認したものの、そのままで危険はないものと思った(50%)、相手船が避けてくれると思った(23%)などの判断ミスから、その後、相手船の位置、針路、速力などの確認を怠り、その方位の変化に気付かず、避航措置をとらずに衝突を招いています。


(2) 航法不遵守
多くは相手船を認めていたものの「船員の常務」が守られていない
 航法不遵守とは、相手船の存在を認めていたものの、衝突のおそれのある状況の中、衝突を避けるための適切な措置をとらなかったものです。
 遵守されなかった航法180原因の内訳は次のとおりで、「船員の常務」が最も多く約4割を占めており、次いで、「横切り船の航法」などの海上衝突予防法の不遵守が多くなっています。
 なお、「船員の常務」とは、常識的に判断される通常の知識、経験を有する船員の行い得る行為をいいます。
遵守されなかった航法の原因数


衝突時における航法の適用状況

 裁決では、全ての衝突事件について審判における事実認定の結果、その事件発生当時に適用される航法を摘示しています。
 衝突事件364件のうち、海上衝突予防法が適用された341件について、その内訳をみると、次のとおりです。
 「船員の常務」不遵守による衝突形態には、錨泊船・漂泊船との衝突、新たな危険を招いた操船や相手船の前路に急に進出したケースなどが含まれます。

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       表紙     海難レポート2003概要版
メッセージ-CONTENTS-外国船の海難-最近の海難審判庁の動き-海難審判庁のしごと-裁決における海難原因-海難分析-資料編
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