平成10年6月1日

建設大臣  瓦  力  殿

建築審議会 会長 鶴田 卓彦     

 

住宅・建築分野の環境対策のあり方に関する建議

  建築審議会は、建設大臣から平成7年11月8日付け建設省住指発第365号をもってなされた「二十一世紀を展望し、経済社会の変化に対応した新たな建築行政のあり方について」の諮問事項に関して、平成9年3月24日に答申をとりまとめたところであるが、建築行政部会では、特に住宅・建築分野の環境対策について、地球規模の環境問題の深刻化等を背景とし、早急に対策を明らかにする必要があるとの認識のもと、部会の下に設置された建築生産分科会(分科会長 巽和夫 京都大学名誉教授)において調査審議を行った結果をとりまとめた。
 当審議会は、建築行政部会のとりまとめ結果に基づき調査審議した結果、別紙のとおり報告する。
 本件に関し、当審議会の調査審議に参加した委員は、次のとおりである。

委  員

協力委員

 *1:平成10年4月1日〜

 *2:平成10年1月30日〜平成10年3月31日 

 


[別 紙]

1.背景

 近年、地球の温暖化やオゾン層の破壊、生態系の変化といった様々な環境問題の深刻化が指摘されている。これらの環境問題の中には、住宅・建築物に直接・間接に関わるものが少なからずあり、これらのうち可能なものについては早急に対処するとともに、現状では早急な対策が困難な課題についても、中長期的な視点から対応策を検討していく必要がある。
 住宅・建築物に係る環境問題は、その影響の及ぶ範囲や性質によって、「地球環境問題」「地域環境問題」「室内環境問題」の三つに大別できる。

@「地球環境問題」

 地球温暖化やオゾン層破壊等地球規模での対策が必要となる問題をいい、住宅・建築物に関しては、建設・使用・処分時全般のいわゆるライフサイクルを通じたエネルギー消費に伴う二酸化炭素排出や、空調設備の冷媒に用いるフロンによる諸影響等の問題が挙げられる。

A「地域環境問題」

 公害や自然破壊等一定の区域内での対策が必要となる問題をいい、住宅・建築物に関しては、地盤改良による土壌汚染、処分時の廃棄物の発生、開発に伴う景観破壊等の問題が挙げられる。

B「室内環境問題」

 室内において建材等から発生する化学物質等による人体への健康被害の問題をいい、住宅・建築物に関しては、ホルムアルデヒドによる健康への影響や、解体時のアスベスト粉塵による健康被害等の問題が挙げられる。

 このうち地球温暖化問題に関しては、1992年にリオ・デ・ジャネイロで開催されたいわゆる地球環境サミットにおいて、地球温暖化問題が現在の人類の生活と将来の生存に直接関わる深刻な問題であるとの各国の認識が共有された。この地球温暖化問題の解決に向けて、「気候変動枠組条約」への署名が開始され、1994年に発効、1998年1月までに173ヶ国と1地域(EU)の批准を得ているところである。
 同条約では、先進諸国が温室効果ガスの排出量を2000年までに1990年レベルに削減することの重要性を認識し、そのための政策措置を行うこととされたものの、現状では、2000年までに1990年レベルに削減するというこの目標の達成は極めて困難となっている。
 このような状況の下、昨年12月に京都で開催された「気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)」において、2000年以降の排出量削減について具体的な数値目標等を内容とする議定書が採択されるに至り、先進国全体で2008年〜2012年の5年間における温室効果ガスの平均排出量を1990年比−5%とすることが目標として定められ、我が国には−6%の削減目標が設定されたところである。
 また、このCOP3に先立ち、我が国の地球温暖化に係る国内対策を検討するために、昨年8月から「地球温暖化問題への国内対策に関する関係審議会合同会議」(以下「合同会議」という。)が開催され、建築審議会からも二名の委員が調査審議に加わった。合同会議では、同年11月に、産業、民生、運輸の各部門に関する温暖化対策についての報告をとりまとめた。この報告書においては、エネルギー需要抑制対策の効果の発揮により、2010年時点でのエネルギー起源の二酸化炭素排出量を1990年と同レベルに低減するものとされた。

 

2.住宅・建築分野の環境対策の基本的方向

(1)住宅・建築物に関する環境問題の現状と問題点

 住宅・建築物に関わる環境問題は多岐にわたっており、これらの問題に対して的確に現状と問題点を認識しつつ、適切な対策を講じることが必要である。

 @地球環境問題

 地球規模での環境問題のうち、特に地球温暖化については、エネルギー消費による二酸化炭素の排出が主原因であるとの指摘がある。我が国では1970年代に経験した2度の石油危機以降、エネルギー消費量削減の必要性の高まりに伴い、産業部門においては、省エネルギー意識の徹底や産業構造の転換、技術革新等により、省エネルギー化が進展し、近年のエネルギー消費量がほぼ横這いで推移している。
 これに対して、主に住宅・建築物の使用段階で消費される民生部門のエネルギーは増加し続けており、既に1995年時点で1990年比19%の伸びを示している。
 民生部門のうち特に家庭部門のエネルギー消費においては、国民生活の利便性や快適性の追求等を背景としつつ、特に大きな増加を示し続けており、その削減対策が極めて重要なものとなっている。

 A地域環境問題

 地域環境問題の中で、最も深刻な問題と指摘されているのが廃棄物問題である。具体的には、地域の生活環境の保全に対する不安等から最終処分場の新規立地が困難となる一方で、産業廃棄物の不法投棄等不適正処理の多発が指摘されている。
 厚生省の調査によると、平成6年度の廃棄物の総量は全国で約4億5,500万トンであり、このうち約90%を占める約4億500万トンが産業廃棄物である。建設廃棄物はその産業廃棄物の19%にあたる約7,700万トンを占め、全産業の中で最も多いことからも、住宅・建築分野における産業廃棄物対策が極めて重要なものとなっている。
 さらに、家庭から排出されるごみ等の一般廃棄物についても、最終処分場の残余容量の減少を背景として、排出量の削減とリサイクル率の一層の向上が求められている。

 B室内環境問題

 近年、気密性の向上が図られた住宅が多く供給されるに至っている。このような状況の下で、建材等から発生する化学物質等の健康への影響が指摘されているなど、住宅・建築生産における適切な配慮が不可欠なものとなっているところである。

(2)対策の視点

 こうした多様な問題に対応した住宅・建築分野の環境対策のあり方を検討するに当たっては、@目的、Aプロセス、B主体、C対策手段の4つの視点から整理することが有効である。
 以下にこれらの視点別の取組みを総括する。

 @目的別の環境対策の取組み

 住宅・建築物の環境対策については、その目的を「地球環境問題」に関わる省エネルギー、省資源、「地域環境問題」に関わる自然環境の保全、「室内環境問題」に関わる室内環境の保全とおおまかに分類することが考えられる。さらに、これらの目的を達成するための前提として、情報提供、普及啓発及び技術・商品の研究開発等を加えることができる。

1)省エネルギー 

 地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの大部分は産業活動や、国民生活におけるエネルギー消費に伴って発生するものであり、住宅・建築分野においては建設・使用・処分に伴って消費するエネルギーを削減するための取組みである。

2)省資源

 住宅・建築物の長寿命化及びリサイクルの推進等資源の有効利用を推進するための取組みである。

3)自然環境保全

 住宅・建築物の建設・使用・処分時での廃棄物の発生による生態系への影響や、景観への影響を低減するための取組みである。

4)室内環境保全

 住宅・建築物の室内において化学物質等が人の健康に与える影響を低減するための取組みである。

5)その他

 地球温暖化対策のため、温室効果ガス、とりわけ二酸化炭素の吸収源としての森林の保全及び有効活用を推進するための木材活用等の取組みや、上記1)から4)の目的に資する取組みを効果的かつ着実に実現するための情報提供、普及啓発及びこれら取組みを支える技術、商品の研究開発等の取組みである。

 Aプロセス別の環境対策の取組み

 住宅・建築物の環境対策の観点からのプロセスとしては、大別して建設・使用・処分の3つの段階に分けられる。なかでも建設に先立つ企画・設計の段階は、住宅・建築物の性能の大半を決定する上できわめて重要なウエイトを占めるが、これら各段階における対策とともに、建設段階における処分時の対策を容易にするための配慮といった段階間のフィードバックも念頭に置いた取組みが必要である。

1)建設段階

 住宅・建築物の新築、増改築における企画・設計・調達・施工の段階におけるエネルギー消費、自然環境破壊等の環境問題への配慮に対する取組みである。

2)使用段階

 住宅・建築物の居住・利用・維持管理の各段階におけるエネルギー消費、室内環境保全等の環境問題に対する取組みである。

3)処分段階

 住宅・建築物の解体・廃棄・処理の各段階におけるエネルギー消費、アスベスト粉塵、廃棄物処理等の環境問題に対する取組みである。

 B主体別の環境対策の取組み

 住宅・建築物の環境対策に関わる主体は、公的主体、住宅・建築生産者、消費者に大別できる。これら主体が各々で、あるいは相互に働きかけ協力しあうことにより、環境対策を効果的に進めていくことが必要である。

1)公的主体

 地方公共団体、住宅・都市整備公団や住宅供給公社により供給される住宅や官公庁施設等の公的建築物の建設・使用・処分において、先導的なプロジェクトの実施を含め率先的に環境対策に取り組むほか、基礎的な技術開発を進めるとともに、住宅・建築生産者や消費者、NGO、NPO等民間団体の環境対策に対する情報提供や助成、誘導、必要に応じた規制等を行う。また、関係公共機関間の適切な連携及び情報交換により、効果的な環境対策を推進する必要がある。

2)住宅・建築生産者

 住宅・建築物の企画・設計・調達・施工の段階及び資材・部品・設備等の生産段階における環境対策に取り組むとともに、消費者に対する環境負荷の少ない商品の企画・開発・提案・供給及び情報提供を行う。また、業界団体等による自主的行動計画の策定、普及啓発、異業種の生産者間の適切な連携及び情報交換を促進することが必要である。

3)消費者

 住宅・建築物の取得、居住及び使用等において、住宅・建築物及び設備の適切な使用・管理による環境対策に取組む。また、NGO、NPOの活動を通じた普及啓発の取組みを行うとともに、消費者間・団体間の適切な連携及び情報交換を促進することが必要である。

 C対策手段別の取組み

 住宅・建築物の環境対策に関しては、様々な情報提供や普及啓発等により、消費者及び生産者の自主的取組みを促すことが必要である。
 また、これとあわせて、省エネルギーや環境負荷の低減を図った住宅・建築物が市場の中で適切に評価・選択され供給されるための市場条件の整備、及びこうした住宅・建築物の建設や技術開発に係る財政的支援措置等による市場の誘導を行うことが必要である。
 しかしながら、こうした取組みによる対策のみでは効果が不十分である場合には、必要性及び合理性の存在を前提としつつ、罰則措置を含めた規制により対策を講じることも検討する必要がある。

  

3.地球温暖化問題への対応のため早急に講ずべき対策

 昨年12月のCOP3の議定書に盛り込まれた、我が国の温室効果ガスの削減目標の達成のためには、産業、民生、運輸の各部門において早急な取組みが必要である。我が国では温室効果ガスの排出の大半はエネルギー起源の二酸化炭素によるものであることから、住宅・建築物においては、その建設・使用・処分に伴うエネルギー消費量の低減のための対策を総合的に講じ、合同会議における削減見通しを確実に達成していくことが必要である。
 具体的には、省エネルギー基準についての見直しを行うとともに、その普及促進を図るための助成、供給体制・情報提供体制の充実・整備を進めていく必要がある。また、新築住宅・建築物のみならず既存住宅・建築ストックの省エネルギー措置についても積極的に講じられるような対策の実施が不可欠である。

(1)省エネルギー基準の強化

 「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(以下、「省エネ法」という)では、建築主に対して、建築物に係る省エネルギー措置を講じるよう努めなければならないとする義務が定められているが、その判断の基準となるべき省エネルギー基準の改正・強化を行うことが必要である。

 @住宅の省エネルギー基準の改正・強化

 省エネ法に基づく住宅の省エネルギー基準は昭和55年に制定、平成4年に改正が行われ、内容が強化されている。しかしながら、現行の省エネルギー基準は、先進諸国の同種基準と比して、その内容の緩やかさが指摘されており、また、COP3における我が国の温室効果ガス排出量に係る削減目標を達成するためにも、今後さらに省エネルギー効果の高い基準への改正・強化(現行基準と比較して暖冷房用エネルギー消費量を概ね20%低減)が必要である。また、改正・強化に際しては、我が国の多様な気候風土等の地域特性を反映した、多様な省エネルギー手法を評価できる内容とするべきである。

 A建築物(非住宅)の省エネルギー基準の改正・強化

 省エネ法に基づく建築物(非住宅)の省エネルギー基準は昭和55年に制定、平成5年に改正が行われ、内容の強化と対象建築物の拡大が行われているが、温室効果ガス排出量の削減の観点から、今後さらに省エネルギー効果の高い基準となるよう改正・強化(現行基準と比較してエネルギー消費量を概ね10%低減)することとあわせ、対象建築物の拡大が必要である。また、同時に建築主に対する省エネルギー計画書に基づく公的主体等による指導を徹底する必要がある。

(2)建築物の運用管理の充実

 省エネ法において事業者に課される措置の適正な実施に加えて、建築物の使用段階での省エネルギーを図るため、管理者へのエネルギー管理手法の普及啓発、所有者・使用者・管理者が連携してエネルギー管理を行う体制の整備、建築物のエネルギー使用状況の定期的な報告を求める方策、使用者のエネルギー管理のしやすさに配慮した住宅・建築物の設計方法等について検討する必要がある。

(3)既存住宅・建築ストック対策の推進

 住宅・建築分野の省エネルギー対策の効果を十分に発揮させるためには、我が国の膨大な既存住宅・建築ストックの改修や設備更新による省エネルギー措置の導入を積極的に進めていくことが必要である。
 このため、住宅金融公庫等による省エネルギー型住宅・建築物への改修に対する誘導措置の周知と利用推進を図ることに加え、改修技術等に明るい専門技術者の積極的な育成を図ることが必要である。
 また、既存住宅・建築物に係る省エネルギー診断技術、改修や設備更新による省エネルギー効果の定量的評価技術の開発・普及を進める必要がある。
 さらに、こうした対策の推進に加え、既存住宅・建築物の改修や設備更新に強いインセンティブを付与するための新たな方策の検討が必要である。

(4)環境対策に係る助成等の拡充

 省エネルギー性能の向上等により環境対策に資する質の高い住宅・建築物の建設を促進する方向で、公的主体による助成制度の体系について改善を進め、積極的な普及推進を図ることが必要である。地域特性に対応した環境対策の積極的推進を図るため、国による助成等の拡充に加え、地方公共団体による助成等の拡充が期待される。

 @住宅金融公庫融資における環境対策の強化

 住宅金融公庫融資において、断熱構造化、高性能設備の導入、自然エネルギーの活用といった省エネルギーや耐久性の向上といった環境対策に資する措置を講じた住宅の建設等に対して、優遇金利及び割増融資による助成を充実させることが必要である。

 A日本開発銀行融資等における環境対策の強化

 一定の省エネルギー性能を満たす建築物の整備に対して、日本開発銀行等による低利融資により省エネルギー建築物の整備を促進することが必要である。

 B税制上の特例による環境対策の強化

 一定の省エネルギー設備を取得して事業の用に供した者に対する所得税の優遇措置等の活用を図ることにより、住宅・建築物の省エネルギー対策を促進させることが必要である。

(5)市街地レベルの省エネルギー対策の推進

 効率的・効果的に省エネルギー対策を進めるためには、住宅・建築物単体の対策のみではなく、複数の住宅・建築物及び関連公共施設を含めた市街地レベルでの対応を図ることが望ましい。
 また、ヒートアイランド現象の緩和を図るためには、既存の緑地の保全や、住宅・建築物の屋上・壁面、公共施設の緑化等の対策の推進について、市街地レベルで取組む必要がある。
 こうしたことから、地域の特性を反映した様々な環境配慮の手法を採用する市街地レベルの対策の実施に対し、支援措置の充実を図る必要がある。
 具体的には、公的主体による融資、助成の積極的活用により、市街地の緑化を促進とともに、コジェネレーションシステム、都市廃熱等未利用エネルギーを有効に利用する地域冷暖房システム、太陽エネルギー利用システム、蓄熱式空調システム等の整備を強力に促進する必要がある。

(6)環境に配慮する生産供給体制の整備

 @住宅・建築関連業界における自主行動計画の策定

 住宅・建築物及び資材・部品・設備の生産者の業界団体等において自主的な行動計画の策定を促進するとともに、生産者相互の連携による環境共生住宅の開発・普及等の着実な実行を通じて、生産体制の省エネルギー化や、省エネルギー型商品の企画・提案・供給に係る効果的な対策を推進することが必要である。

 A技能者の育成と地域レベルでの供給体制の整備

 省エネルギー型の住宅・建築物の供給体制の整備を促進するため、住宅・建築物の設計・施工に係る技能者の積極的な育成が必要である。特に、地域住宅産業を支える大工・工務店等技能者の育成のため、断熱施工技術の講習会の積極的開催が必要である。
 さらに、地域の住宅・建築生産者が省エネルギー型の住宅・建築物の設計・施工に関する技術連携を進めつつ、地域の実情に適したより環境負荷の少ない住宅を供給する体制の整備を図ることが必要である。

 B森林資源の有効活用とリサイクルの推進

 森林の持つ二酸化炭素を吸収する機能及びそこから生産される木材の炭素固定機能を有効に活用するため、森林資源の適切な使用、管理及び再生を進めることが必要である。
 このため、地域材の積極的活用、耐久性の優れた木造住宅・建築物の普及を図るとともに、廃材を焼却処分せずに部分的・段階的な有効利用を進めること等によりリサイクル率の向上を図ることが必要である。

(7)消費者等に対する情報提供の充実

 消費者及び住宅・建築生産者に対して省エネルギー性能等に関する適切な情報を提供し、省エネルギー化を図った住宅・建築物が、市場において適切に評価・選択され積極的に供給されるための条件を整備していくことが必要である。特に我が国の消費者にとっては、住宅は「一生に一度の買い物」の場合が多いのが現状であり、単独での情報収集・蓄積には限界があることを踏まえつつ、適切な対策を推進する必要がある。
 また、民生・家庭部門のエネルギー消費量の増加の要因を分析すると、その過半が世帯当たりのエネルギー消費量の増加によるものとなっており、住宅の平均規模が大きくなったことに加え、個人のライフスタイルがエネルギー多消費型になったことが大きな要因となっている。
 このため、住宅・建築物におけるエネルギー消費量の削減を図るためには、住宅・建築物の構造の省エネルギー化だけではなく、エネルギー消費量の面からは多くを占める給湯機、照明器具、電気製品等のエネルギー効率の向上のための技術開発とあわせ、高効率機器の選択をはじめとする居住者・使用者のライフスタイルの見直しを促していくことが必要である。

 @住宅性能表示制度の整備と省エネルギー性能に関する情報提供

 省エネルギー等の住宅の性能に関して消費者が的確な判断ができるよう支援するため、住宅性能表示制度の整備が必要である。

 A建築物(非住宅)における省エネルギーマーク制度の整備

 住宅以外の建築物についても、一定水準以上の省エネルギー性能を有するものを対象に、省エネルギー性能が高いものであることを表示する制度を整備する必要がある。

 B環境関連情報の提供の推進

 消費者や建築士等の専門技術者に対して、住宅・建築物の省エネルギー化、ライフスタイルの見直しが普遍なものとなるよう、公的主体、住宅・建築生産者及び消費者団体が協力しつつ普及啓発に取組むことが必要である。
 具体的には、環境対策に係る目標数値や、その効果の判断基準、省エネルギー性能の高いモデル的な住宅や資材・部品・設備に関する情報提供、使用面におけるエネルギー消費実績を踏まえた省エネルギー型生活の提案を、住宅フェア等各種イベントや、地方公共団体の「すまい・アップセンター」の活用、参考となるパンフレットの作成・配布を含めた多様な方策により積極的に行うことが必要である。

 

4.環境問題への対応のためあわせて積極的に講ずべき対策

 上記に掲げた対策に加え、地域レベル、室内レベルの環境問題等についても適切な対応を図ることが必要であり、このため、以下の対策を的確かつ着実に進めていく必要がある。

(1)環境問題への多角的な取組み

 建設からリフォーム、メンテナンスを含む使用・処分段階に至るいわゆるライフサイクル全体において、資源の有効利用、廃棄物排出量の低減、自然環境への影響の低減といった配慮のある住宅・建築物が、市場の中で適切に選択されるような社会システムの構築に向けて必要な措置を講じることが必要である。

 @省資源対策

 住宅・建築物に係る資源の有効利用を推進するため、住宅・建築物の長寿命化等を進めていく必要がある。
 具体的には、建設時での耐震性の確保による構造躯体の長寿命化や、使用時における適切な維持・管理の実施、効果的なリフォームによる使用の長期化について、必要な技術開発や情報提供により促進を図るとともに、スケルトンとインフィルの二段階供給による利用の柔軟性の確保、住宅性能表示制度の活用による中古住宅の流通の活性化、賃貸住宅の有効利用を促す体制整備を図っていく必要がある。
 さらに、水有効利用システムの導入等複数の住宅・建築物を含めた市街地レベルでの省資源対策について、公的主体の助成等を活用しつつ取り組むことが必要である。

 A自然環境の保全

 住宅・建築物に係る廃棄物排出量の削減を推進するため、副産物・再生資材の活用、分別解体やリサイクルのしやすさに配慮した設計・施工方法の採用、消耗品の使用の削減等の推進について、官民が積極的に取り組む必要がある。
 また、廃棄物の不法投棄等の問題に対処するため、廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づき適切な処理を強力に推進するほか、ゴミ処理システムの導入等市街地レベルでの対応に対し、公的主体の助成等を図ることも必要である。
 さらに、土壌の汚染や生態系の破壊等の自然環境への影響を低減する対策として、ビオトープや透水性舗装の導入等の取組みを推進することが必要である。

 B室内環境保全

 住宅・建築物の室内において健康への影響が懸念される化学物質等に関して、室内空気中濃度の実態調査、建材・資材からの発生状況の測定調査を急ぎ、その発生源と発生のメカニズムを明らかにするとともに、健康への影響を低減するため有効な建材・資材の選択方法や設計・施工方法、空気中濃度の測定・評価方法の標準化に関する検討を進めることが必要である。
 さらに、これら検討の成果について広く情報提供を行い、消費者及び住宅・建築生産者の双方が相談できる体制の整備を早急に図ることが必要である。

 Cその他

 人体や生態系への影響を及ぼす可能性があるとされる内分泌撹乱化学物質について、住宅・建築物に使用される建材等との関係を明らかにするとともに、その実態を調査し、必要な対策を検討する必要がある。

(2)技術研究開発の推進

 環境対策の普及促進を図る上で必要となるコスト低減化技術の開発や、飛躍的に対策を進展させるような革新的な技術開発を進めていく必要があり、そのため、関連業界における技術開発のインセンティブを高めていく必要がある。
 具体的には、環境負荷の少ない建材・素材・機器の開発・普及を図るほか、住宅・建築物、資材・部品・設備に係る耐久性向上技術、標準化技術等の開発について、公的主体による融資等により支援するとともに、建設から処分までのライフサイクルにおける環境影響評価手法の開発についても、官民の協力により積極的に取り組むことが必要である。また、環境関連技術分野の研究者の育成が必要である。

(3)環境マネジメント体制の充実

 環境マネジメント体制に係る国際規格であるISO14000シリーズに対応し、製造業等においては、規格に基づく承認取得が多数にのぼっているものの、住宅・建築生産者における承認取得は、未だに少数例にとどまっている。
 地球規模の環境問題の深刻化と消費者意識の高まりの中で、住宅・建築生産者に対しても、環境マネジメント体制の導入が社会的な要請となってくるものと考えられる。このため、官民の協力の下、住宅・建築生産者の特性に応じた環境マネジメント体制の整備・充実のための支援ツールの普及、専門技術者の育成、ISO14000シリーズに係る審査登録体制の整備等を進めていく必要がある。

(4)国際協力の推進

 地球温暖化や省資源等の環境対策は地球規模での課題であり、世界各国が協力関係のもとで取組むことが必要である。また、地域環境問題や室内環境問題についても、国際間の協力が問題の早期解決のため必要である。
 このため、住宅・建築分野に関する環境関連情報の交換や共同研究開発等を推進していく必要がある。
 また、途上国に対しては、環境対策のための資金援助や技術協力、モデルプロジェクトの実施、人材の育成等を進めていくことが必要である。
 こうした国際協力は政府間・公的機関相互間において行われるだけでなく、民間企業、NGO、NPO間においても積極的に行われることが期待される。

(5)主体間の連携と情報交流等の充実

 例えば室内環境の問題への対策が、医療、木材生産、化学製品生産といった各分野における取組みとの関連が深いことに見られるように、住宅・建築分野の環境対策は、様々な分野と密接な関係を持っている。また、対策に関わる主体の各々の取組みによるのみでは、十分な効果をあげる上で一定の限界がある。このため、公的主体、住宅・建築生産者及び消費者が、適切な協力をしつつ関連分野との連携を図り、総合的に環境対策を進めていく必要がある。
 また、これら取組みを効率的・効果的かつ着実に実現するためには、これら主体相互間及びそれぞれの主体内の情報提供、普及啓発を積極的に図っていく必要がある。
 さらに、省エネルギー対策のみならず、廃棄物排出量の削減やリサイクル率の向上を含めた広範な環境対策の実施に関しても、住宅・建築生産者の業界団体等の自主的行動計画の策定と公表を図ることが望ましい。

 

5.対策のフォローアップと継続的な改善

 住宅・建築物に係る環境対策の着実な実施を図るためには、目標となる数値や基準の達成状況についての的確なフォローアップを実施することが不可欠である。
 先の合同会議における二酸化炭素排出量の削減見通しのみならず、業界団体等の自主的行動計画における数値目標についても、定期的なフォローアップの体制整備と実施結果の公表を進めることが必要である。
 特に、環境問題にはそのメカニズムや因果関係等に未解明な部分が多く、急速な研究の進展や状況の変化が起こりうる可能性もある。
 そのため、今後の環境問題をとりまくこのような状況の変化に応じて、目標や対策を適宜機動的に見直していくことが必要である。

 

6.まとめ

 本報告に示した住宅・建築分野の環境対策のあり方に係る基本的方向を踏まえ、早急に講ずべき対策を中心に、実効性のある対策が総合的かつ計画的に講じられるべきである。
 その際には、特に対策実施状況のフォローアップと、その進捗や状況の変化に対応した目標や対策の適切な見直しが必要である。
 本報告の趣旨を踏まえ、公的主体、住宅・建築生産者、消費者の各主体が、環境問題の重要性・緊急性を認識し、それぞれの立場で積極的に環境対策に取り組むことを期待するものである。

 


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