(参 考)      終身建物賃貸借標準契約書コメント  

  終身建物賃貸借標準契約書コメントは、本標準契約書の性格、内容を明らかにすること等により、本標準契約書が実際に利用される場合の的確な指針となることをねらいとして作成したものである。 

全般関係

@ 終身建物賃貸借標準契約書は、高齢者の居住の安定確保に関する法律(以下「法」という。)第56条に規定する終身建物賃貸借による民間住宅の賃貸契約書の標準的な雛型として作成されたものであり、その使用が望まれるところであるが、使用を強制するものではなく、使用するか否かは契約当事者の自由である。また、使用する場合も、当事者の合意により、本標準契約書をそのまま使用してもよいし、合理的な範囲で必要に応じて修正を加えて使用してもよい。なお、本標準契約書は、建て方、構造等を問わず、居住を目的とする賃貸住宅一般を対象としている。
A 終身建物賃貸借契約は、地域慣行、物件の構造や管理の多様性等により、個々具体的なケースで契約内容が異なりうるものである。全国を適用範囲とする契約書の雛型としての本標準契約書は、終身建物賃貸借契約において最低限定めなければならないと考えられる事項について、合理的な内容を持たせるべく規定したものである。したがって、より具体的かつ詳細な契約関係を規定するため、特約による補充がされるケースもあると想定されることから、本標準契約書は、第20条において特約条項の欄を設けている。
B なお、本標準契約書については、終身建物賃貸借契約の普及状況を踏まえ、必要な見直しを行うものである。
 
頭書部分 
@ 家賃の毎月払いの場合、終身にわたる家賃の一部前払いの場合又は終身にわたる家賃の全部前払いの場合に応じて、それぞれ該当する頭書を使用することとする。
A 終身建物賃貸借の対象となる高齢者向けの建物については、共用部分に談話室、食堂等が存在していることが多いことから、賃貸借の目的物について、共用部分の状況についても記載する欄を設けている。
B 賃貸人は、毎月その月分の家賃を受領すること、終身にわたって受領すべき家賃の全部又は一部を前払金として一括して受領すること及び敷金を受領することを除くほか、賃借人から権利金、謝金等の金品を受領することを賃貸の条件としてはならないものであり、権利金等について記載する欄については設けていない。


第3条(契約の存続及び終了)関係

法第58条第4号において、終身建物賃貸借は「賃借人の死亡に至るまで存続し、かつ、賃借人が死亡した時に終了する」と規定されていることから、当該旨を契約書に明記する必要がある。


第5条(賃料)関係

@ (A)は家賃の毎月払いの場合、(B)は終身にわたる家賃の全部前払いの場合、(C)は終身にわたる家賃の一部前払いの場合に使用することとし、いずれか1つを記載することとする。
A (A)又は(C)第3項による当事者間の協議による賃料の改定の規定は、賃料の改定について当事者間の信義に基づき、できる限り訴訟によらず当事者双方の意向を反映した結論に達することを目的としたものであるが、借地借家法第32条の適用を排除するものではない(すなわち、本項は借地借家法第38条第7項の「借賃の改定に係る特約」に該当しない)。
B 賃料の改定にあたっては、賃貸人及び賃借人の間において、当該改定についての協議が整う必要があり、協議が整わなければ、賃料の改定は行われず、賃借人は従前の賃料の支払い義務を依然として負うこととなる。
C (A)又は(C)を使用する場合において「借賃の改定に係る特約」を定める場合は、本条に関する記載要領を参考に、(A)又は(C)第3項に替えて記載することとする。
D (B)第2項又は(C)第4項における想定居住月数は、賃借人の余命等を勘案して適正に決定することとする。また、1か月分の賃料を適正な額とし、想定居住月数を超えて契約が継続する場合に備えて甲が受領する額が不当に多額なものとならないようにする必要がある。
 
第7条(敷金)関係
敷金には、賃料債務だけではなく、原状回復債務、残置物の処分費用に係る債務等の担保としての機能もある。したがって、賃料の一括前払いをする場合にも、賃料債務の担保としての機能は必要ないものの、それ以外の債務の担保の機能については他の場合と同様に必要となると考えられる。
 
第10条(契約の解除)関係
第1項中の「相当の期間」とは、賃借人が同項各号に掲げる義務を履行するにあたり、通常必要とされる期間をいう。


第11条(甲からの解約)関係

法第62条に規定する場合には、賃貸人による中途解約の申入れが法律上認められているため、当該申入れを6月前に行うことにより本契約を解約できることとする。


第12条(乙からの解約)関係

@ 法第63条に規定する場合には、賃借人による中途解約の申入れが法律上認められていることから、本条第1項及び第2項として当該旨を明記する必要がある。
A 第3項では、第1項又は第2項の場合において、一定額の賃料を支払うことにより随時に本契約を解除できる旨を規定している。
B 賃借人に有利な特約の効力は否定されないため、通常の建物賃貸借契約において一般化している賃借人の中途解約権(特別な事情を要せず、1月前に通知することにより解約できる権利)に係る特約を設けても有効である。


第13条(明渡し)関係

第4項の規定により、賃借人の死亡があった場合であって、同居配偶者等が第17条第1項本文に規定する申出を行ったときは、当該同居配偶者等が継続して本物件に居住することとなるため、賃借人の相続人は本物件の明渡しを行うことを要しないが、本物件を原状回復しなければならない。なお、この場合においても、敷金返還請求権は賃借人の相続人が有することとなるため、敷金については、明渡しがあったものとして第7条第3項の規定を適用することとする。


第14条(残置物の引取り等)関係@ 本条は、残置物に係る原状回復の内容及び方法について定めたものである。

A 終身建物賃貸借は、賃借人の死亡による本契約の終了後は、本物件に賃借人の残置物があることが想定されるため、第1項から第3項までの規定により、賃借人はあらかじめ残置物引取人を定めることができることとする。
B 第5項の規定により、賃借人が残置物引取人を定めない場合には、同居配偶者等が本物件に引き続き居住することに反対の意思を表示したとき又は同居配偶者等が第18条第1項本文に規定する期間内に同項本文に規定する申出を行わなかったときから1月を経過した場合には、賃貸人は残置物を処分することができることとし、当該処分の費用については、敷金から差し引くことができることとする。


第16条(債務の保証)関係

家賃に係る債務について高齢者居住支援センターの保証を受ける場合には、(A)の規定を用いることができることとする。


第17条(同居者の一時居住)関係

@ 本条項は、賃貸人及び賃借人間の権利義務関係を規定するものではないが、法第65条第1項において、賃借人が死亡した場合の同居者の居住保護のため、同居者は賃借人の死亡があったことを知った日から1月を経過する日まで、引き続き本物件に居住することができることが規定されていることから、その趣旨を明確にするため、当該旨を契約書に明記することとしている。
A 法第65条第2項において、一時居住する同居者は賃貸人に対して本契約と同一の家賃を支払わなければならないと規定されていることから、同居者が一時居住する場合の建物賃貸借契約の条件は、本契約と同一のこととする。


第18条(同居配偶者等の継続居住の保護)関係

@ 本条項は、賃貸人及び賃借人間の権利義務関係を規定するものではないが、法第66条第1項において、賃借人が死亡した場合の同居配偶者等の居住保護のため、同居配偶者等は賃借人の死亡があったことを知った日から1月を経過するまでの間に賃貸人に対し本物件に引き続き居住する旨の申出を行ったときは、賃貸人は同居配偶者等と終身建物賃貸借の契約を締結しなければならないことが規定されていることから、その趣旨を明確にするため、当該旨を契約書に明記することとしている。また、同項において同居配偶者等が当該申出に併せて法第61条に規定する申出を行ったときは、賃貸人は同居配偶者等と期間付死亡時終了建物賃貸借の契約を締結しなければならないことが規定されていることから、当該旨についても契約書に明記することとしている。
A 法第66条第3項において、同条第1項の規定により締結する建物賃貸借の条件については、従前の賃貸借と同一のこととすることとされていることから、当該旨を契約書に明記する必要がある。なお、当該建物賃貸借において家賃の前払いを行う場合には、賃借人と同居配偶者等は年齢・性別等が異なることから、当該建物賃貸借の前払家賃を本契約と同一の金額とするものではなく、前払家賃の算定の基礎(第5条(B)第2項又は同条(C)第4項の内容等)が同一であることをもって、当該建物賃貸借の条件は本契約と同一のものであるとする。


<条項の変更>@関係

毎月払いに係る賃料の改定についての特約の締結に当たっては、高齢者が不当な契約内容によって不利益を被ることのないようにする必要がある。