国土交通省
 ニアミスと人的要因(研究事例紹介:日本造船研究協会RR79)
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平成13年2月
海事局安全基準課
安全評価室


 海上における事故原因の約8割は人的要因に起因していると言われています。このため、海上での人命・船舶の安全及び海洋環境の保護を目的とする法令等の規定は、従来は主として船舶の構造・設備等の技術要件に関するものでしたが、最近は運航管理等人的要因も重視した内容となってきています。
 また、重大事故に至るまでには、その前段階で数多くのニアミス事例が存在していますが、このニアミス事例を調査することにより、事故の裏側に潜む人的要因を洗い出すことが可能になります。
 (社)日本造船研究協会では、事故と人的要因との関係を明らかにすることを目的として、平成7年度以降、第79基準研究部会(RR79)を設け調査研究を行っています。まず、船橋におけるニアミス事例について、アンケート及びヒアリングによる調査を実施し、役割分担不明確、情報収集・加工不適切等のニアミスの原因を分析するとともに、その対策として各種支援措置を推奨しています。
 この調査研究の概要を以下のとおりご紹介します。

 


 

(社)日本造船研究会第79基準部会(RR79)調査研究会
 「船橋におけるニアミスと人的要因の関係」


アンケート調査

 船舶運行に携わる水先人、船長及び航海士が経験した「ヒヤリ」とした事例や、「ハット」した事例(ヒヤリハット事例、以下、国際海事機関(IMO)での表現に合わせて「ニアミス」という。)について、どのような事例がどの程度発生しているのかについて、日本船主協会、日本船長協会、日本旅客船協会及び日本パイロット協会の協力を得て、アンケート調査を実施し、約2,000件の回答を得た。
 アンケート結果を基にニアミスの原因を分析したものを下表に示す。表中網掛けで表示した部分、即ち、システム要素の内、「運航者」に関する「運航者自身」、「共同作業者」及び「チームワーク」の3グループ(計約31%)、「航行環境」に関する「相手船」(計約38%)が人的要因に起因すると考えられる。合計すると、ニアミス原因の約7割を人的要因が占めている。
 別の観点から見ると、「運航者」と「自船」から成る自船内部に46%、自船外部の航行環境に54%の原因があり、自船内部と外部とほぼ半々となっている。これは、自船側の改善で減じることのできるニアミスは半分で、残りの半分は自船の改善のみでは減じることができないことを示している。しかし、相手船側でも自船と同様の対策が講じられれば、外部要因によるニアミスも減じることが可能と考えられる。

システム要素 グループ 小グループ 内訳
運行者37% 航海計器6.4%

機器の故障3.0%

 

コンパス 1.1
レーダ 0.9
APRA 0.1
その他 0.8
機器性能限界3.4% レーダ 2.6
APRA 0.8
運行者自身16.2% 指示 指示のミス 2.1
他の仕事 気づくのが遅れ 3.3
他の目標 気づくのが遅れ 6.4
その他4.4% 誤りや誤認 1.5
機器の設定ミス 1.4
レーダ等調整不足 1.4
共同作業者8.3% 作業 さぼり 2.7
能力 誤った報告 5.6
チームワーク6.1% 指示 指示の不適切 3.2
関係 判断ミス等 2.9
自船9% 船舶装置7.8% 装置の故障7.8% 操舵装置 3.0
エンジン 4.2
発電器 0.5
船舶性能 操縦性能 制御困難 0.7
船舶構造 船橋 見張り障害 0.1
航行環境54% 自然環境14.2% 行動影響 圧流を受けた 9.0
見張り影響 狭視界 5.2
地形環境1.0% 行動影響 制限を受けた 0.7
見張り影響 背景の影響 0.2
交通環境39.2% 行動影響 輻輳 1.3
相手船37.9% 無灯火 4.5
自船に気づかず 12.4
違法行動 18.3
予想外の行動 2.7

ヒアリング調査

 外航船の船長、航海士を対象としてヒアリングを実施し、39件のニアミス事例について調査した。船橋内での当直作業は、交通環境、地形環境、自然環境等の周囲の状況に応じて要員の配置及び各要員の役割分担が変わる。本調査では、共同作業者間の連携が重要となる状況、即ち入出港、狭水道航行および輻輳海域航行時で、船橋には船長の他、航海士、操舵手等複数の作業者がいる状況を対象とした。

● 分析方法

1. 船橋内全体の機能モデル
ヒアリング結果を基に船橋内全体の機能モデルを作成した。
2. 各要員の機能モデル
共同作業の場合、船橋内全体の機能を各要員(船長、当直航海士、増員航海士、操舵手、見張員)が分担して実施することとなるので、要員毎に機能モデルを作成した。
3. ニアミス原因の推定
ヒアリングから各要員の機能モデル上でニアミスの原因と推定される箇所を特定した。
● 結果  

〈原因〉

 ニアミス原因の推定結果の一例として、船長の機能モデルを下図に示す。図中、★がニアミスの原因として特定された箇所である。
 これらの分析により、ニアミスの原因は以下のとおり推定される。ニアミスは、各要員個々の機能が有効に機能しないことに起因するものも少なくないが、各要員の連携がどこかで途切れることが最も大きな要因である。

1. 役割分担不明確
2. 情報収集・加工不適切
3. 情報が共有されていない
4. コミュニケーション不適切
5. 技術レベル・安全意識低下
6. 船位測定の負担
7. 各要員間の連携不適切

〈推奨措置〉

 以上の分析から、船橋で船長、航海士等の各要員がお互いに協力しあうことがニアミスを防ぐ上で非常に重要であることが判る。これを支援するため、次のような措置を採ることを推奨する。

1. BRMのようなシステム的な訓練を実施すること
注) BRM (Bridge Resource Management: ブリッジでのチームワークトレーニング)
2. パイロット、タグボート、VTS(Vessel Traffic Services)等の船外部を含めた支援システムを確立すること
3. 自動船位誘導システムを導入すること
4. 判断基準及び作業手順の標準化を含むマニュアルを準備すること
5. GPS(Global Positioning System)とECDIS(Electronic Chart Display and Information System)とを組み合わせたような自動船位表示システムを広く使用すること
6. AIS(Automatic Identification System)のような他船の動向情報を得る装置を導入すること

ニアミス


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