国土交通省
 新たな下水道技術開発プロジェクト(SPIRIT 21)の
 実施について

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平成14年1月11日
<問い合わせ先>

都市・地域整備局下水道部

 下水道企画課(内線34132)

電話:03-5253-8111(代表)


 

  1. 背景
     下水道は、普及に伴い、都市の水循環及び物質循環系の中で大きな役割を果たすようになっており、その役割は単なる汚水対策、雨水対策の範疇を越えて、水環境・水循環の保全、安全な都市生活の確保、地球環境にも配慮した循環型社会の形成といったことが期待されている。
     このように下水道として幅広い役割が期待されているが、現状の技術レベルでは解決困難な課題や多大なコスト負担が想定される課題も多い。厳しい社会経済情勢の中で、社会ニーズを十分踏まえた政策を効率的に達成するために、今後、既存技術の改善、新技術の開発を積極的かつ総合的に行う必要がある。

  2. 新たな下水道技術開発プロジェクト(SPIRIT 21)

    (1)効果
     最重要課題を幾つか選択し、産官学の適切な役割分担のもと、総合的・重点的に技術開発を短期的に進める新たな仕組み「SPIRIT 21(Sewage Project, Integrated and Revolutionary Technology for 21 century)」(以後、「技術開発プロジェクト」という)を実施する。
     明確な目標を設定し、開発された技術の早期かつ幅広い実用化を図ることを前提としたプロジェクトとすることにより、民間の技術開発投資意欲の向上、しいては民活活力の導入が行われる。また、下水道分野を含む水分野のグローバル・クライテリア化等の国際的な動きがある中で、開発された技術が諸外国への普及につながり、民間技術の国際競争力の向上等、下水道関連産業の活性化が図られる。

    (2)実施スキーム
     「技術開発プロジェクト」において、国、地方公共団体、学識経験者、民間、関連法人が参画する委員会を設立し、本委員会において、幅広い関係者の合意のもと、技術課題の選出、開発目標の設定、開発された技術の評価等について、公平性かつ透明性を確保しつつ実施する。
     目標を達成したと判断される開発技術については、実際の施設における実用化を前提に、必要に応じてマニュアル等の作成を行い、開発した技術を早期かつ広く普及させる。技術の開発は、基礎的な研究を必要とする場合には大学等の研究室レベルで実施するが、実用化段階では、開発技術の早急な普及拡大を図ることを念頭に、下水処理場等を実験フィールドとして活用する。

    (3)技術開発課題
     「技術開発プロジェクト」による技術開発課題としては、まず、合流式下水道の改善対策に関わる技術を対象とする予定である。合流式下水道整備区域は、都市部に集中しており、改善対策を浸水対策、再開発等と同時に実施することにより、環境改善等都市の再生化につながるものであるが、一方で、消毒技術、処理技術の高度化など、多くの技術的検討課題がある(参考資料参照)
     また、今後は、さらに他の技術課題についても、本プロジェクトの対象とする予定である。

 

共同研究体制のイメージ図


(参考)合流式下水道改善対策に必要な技術開発

 

  1. 背景
     合流式下水道の整備区域では、雨天時に雨水と汚水が混合した下水の一部が未処理で河川等に放流されることになる。昨年9月には、東京都お台場海浜公園において合流式下水道から白色固形物が漂着して水環境の悪化が顕在化したところである。こうした排水に含まれる有機物、窒素及び燐等の汚濁負荷による公共用水域への影響が懸念されるとともに、水道水源の水質悪化や海水浴場等のレジャー環境の悪化を招くおそれがある。
     このような状況を踏まえ、平成13年6月より、合流式下水道の改善を緊急的・総合的に進めるため、学識経験者、関係省庁、地方公共団体が参画する合流式下水道改善対策委員会を設置し、改善対策のあり方につき、現在検討中である。また、本委員会において、改善対策を効率的な進めるために、必要な技術開発及び技術開発の事業への導入を促進すべきであると委員より意見を頂いている。
     (注)合流式下水道:汚水と雨水を同一の管きょで排除する下水道。1本の管きょ敷設により、生活環境の改善、浸水防除といった効果がある反面、雨天時放流水による環境悪化というデメリットがある。古くから下水道の普及に取り組んできた大都市等においては採用されている例が多い。

  2. 技術開発が必要な主な課題
     合流式下水道の改善方法として、雨天時における越流回数、水量を減少させる、あるいは、雨水吐口からの越流水の処理、下水処理場における簡易処理の高度化等がある。これらの技術は、ソフト及びハード面多岐に渡り、総合的な技術開発が必要である。

    図−1 合流改善対策のイメージ

    (1)越流回数(水量)の減少

     越流回数(水量)を減少させるには、道路、宅地内等で浸透、貯留施設を設置し雨水流出抑制を図ると共に、下水道施設として雨水滞水池、貯留管の設置、遮集管の増大等により下水処理場への送水量を増加させる対策がある。
     本対策においては、滞水池、貯留管、遮集管の建設等ハード面のみでなく、既存あるいは新設された施設を雨天時に効率的・効果的に活用するためのリアルタイムコントロール手法の確立が今後必要である。
     (注)リアルタイムコントロール:降水予測システムの情報、流出解析モデル等を利用し、下水道施設への雨水流入量を予測しつつ、貯留、遮集能力を最大限利用し、超越回数(水量)を最小化させるための、下水道施設におけるリアルタイムの制御方法をいう。

    (2)処理に関する技術と除去物質の関係は以下の通りである。

    表−1 処理に関する技術とその除去対象物質の関係

     総体的に、これらの技術は既に合流改善技術として活用されているが採用可能な条件(設置スペース、水理条件)が限定されている、あるいは二次処理水への適用は行われているが未処理下水への採用事例はないものばかりである。我が国における合流改善対策として未処理下水の処理施設の整備は、ほとんど事例がないのが現状である。合流改善対策は、非定常かつ一時的に大量な下水処理となるため、ほぼ定常状態の晴天時の処理とは大きく異なることを勘案して、本技術の経済性、信頼性、汎用性等を高める必要がある。
     当面の合流式下水道の改善目標は、1夾雑物の削減、2汚濁負荷量の削減、3公衆衛生上の安全の確保、3つの観点から検討している。 夾雑物を除去することで、雨水吐口から排出される未処理放流水中にある路面堆積物、管渠内堆積物等に起因する放流先水域における景観上の問題を改善する、夾雑物の除去技術としては、ろ過スクリーン、渦流分離(事例1)、傾斜板沈殿池(事例1)が考えられているが、未だ整備例はわずかであり、また適用条件も限定されている。したがって、今後、詳細な性能評価等を行うと共に、技術開発により適用条件を広げ、幅広い普及を図る必要がある。
     これまで、汚濁負荷量の削減のために採用されてきた方法は、遮集量を確保し処理場での処理可能下水量を増大させる方法、あるいは貯留管、雨水滞水池等の貯留施設を整備し、雨水吐口からの越流水を貯留し、降雨終了後処理場に送水し高級処理を行う方法が主に採用されてきた。ただし、貯留施設の整備は立地条件によっては高価となることもあり、また、遮集量を増加させても既存処理場では能力的に一部は高級処理可能であるがそれ以外は簡易処理(沈殿処理)される。近年、これらの方法の欠点を補うものが実用化されつつあり、そのひとつが簡易処理の高度化である高速凝集沈澱処理技術(事例2)である。この技術は凝集分離技術を基本とし、小さい水面積の沈殿池でも高い沈殿分離効果を得られるよう工夫したもので、簡易処理あるいはポンプ場吐き口に適用することができ、SS除去率で80%以上の性能を有するもので、大きな汚濁負荷量の削減が期待できるものである。
     消毒されていない放流水は、特に、放流先水域が水道水の取水口、水浴場あるいは水との接触の度合いが高い親水利用が行われている場合には、未処理放流水中の病原性微生物等に接触する確率が高くなり、公衆衛生面への影響が懸念される。このため、放流先水域の水利用状況等から、特に公衆衛生面上の影響への配慮が必要な水域にあって、大量の放流が見込まれるポンプ施設については、放流先の生態系に十分配慮しつつ、原則として消毒を行う必要がある。消毒には現在のところ、価格が安く、確実な消毒効果が見込まれる等の理由により、塩素による消毒が一般的であるが、残留塩素による放流先生物への影響、消毒副生成物の影響等があるため、塩素消毒に代わるいくつかの代替方法(事例3)が注目されている。この代替方法とは、残留性の低いオゾン消毒、残留性がなく消毒副生成物がない紫外線消毒、残留性が塩素より低く保存性に優れた臭素系消毒剤などがあり、現在のところ未処理放流水あるいは簡易処理法流水の消毒への適用性を検証しようとされている。
     このように新たに設定される合流式下水道の改善目標を達成するための適用技術を示したが、これらの技術は既存の技術の欠点を補うものではあるが、それぞれメリット、デメリットがある。今後、これらを勘案しつつ、合流改善対策として、実用的なものに開発等することが求められている。


(事例1)越流水の処理

 合流式下水道の越流水は、非定常かつ一時的に大量な下水処理となるため、現在、処理時間の短いスクリーン、渦流分離、あるいは沈殿池という物理的処理が考えられている。
 スワールは渦流分離作用を活用したものであり、傾斜板沈殿池は沈殿効果を向上させるため傾斜板を活用した沈殿池である。これらの処理法は、沈降性、浮遊性の懸濁物質が除去でき、大幅な水量変動に対処できる。ただし、物理処理であるため、設置条件(水理条件等)が限定される。今後、実証実験を通じて、詳細な性能評価等を行い、設計手法を確立する必要がある。

 スワールは、円筒状の水槽に接線方向から汚水を流入させることで、水槽内に渦流を発生させ、その渦流効果により極めて短時間で懸濁物の分離を行うもので、分離した懸濁物は水槽底部の開口から下水処理場へ送水する。
 傾斜板沈殿池は、池の中に傾斜板を設置し、傾斜板により流れを静的な層流状態に保ち、固形物に働く外力のうち、重力の効果を最大限に発揮させ、沈殿効率を高めるシステムである。

図―2 スワール分水槽及び図―3 傾斜板


(事例2)簡易処理の高度化(高速凝集沈殿処理)

 越流回数(水量)を減少させるために、下水処理場への送水量を増加させても、既存の下水処理場では一部は高級処理(BOD除去率90〜95%程度)されるが、それ以外の部分は簡易処理(BOD除去率30〜50%程度)された後、消毒され放流される。このため、簡易処理の処理レベルを向上させることが、放流先への年間流出汚濁負荷量を削減させる観点から非常に重要である。
 高速凝集沈殿処理は、従来の凝集沈殿と比較して大きな水面積負荷がとれ滞留時間を短くできる省スペース型であり、高い除去率を有していることより、簡易処理の高度化対策に適している。今後、本処理法については、実証実験を通じて、運転制御方法等を確立する必要がある。

図―4 超高速凝集沈殿処理施設


(事例3)消毒

 雨天時においては短時間であっても吐き口から、高濃度に汚濁した下水が流出してしまう。放流先が水浴場等親水性の高い箇所においては、この未処理下水が人の健康に与える影響を勘案すると、必要に応じて、消毒を行う必要がある。
 下水処理場で一般に採用されている塩素消毒技術は、接触時間を現在15分程度見込んでおり、一時的に大量な下水を処理する合流式改善対策としては、接触時間を大幅に短縮する技術開発が必要である。また、下水に塩素を過剰に投入することは、放流先の生態系に対して影響を与える可能性があるため、非定常の流入下水に対する最適な塩素注入の制御方法についても今後検討する必要がある。
 塩素消毒以外についても、臭素消毒、オゾン消毒、紫外線消毒が現在考えられており、どの消毒方法も、塩素消毒に比較すれば、放流先の生態系への影響は小さいが、経済的に高価なものである。また、各処理法により、表―2の通り処理原理が異なるため、各処理方法の処理能力、処理可能水質等を勘案の上、今後、合流改善対策として実用的な消毒技術とすべき技術開発が必要である。

表−2 各消毒方法の特徴

名称

処理原理

臭素 臭素が加水分解し、次亜臭素酸等を生成し、酸化作用により消毒する。
消毒オゾン消毒 強力な酸化力を利用して、物質を分解除去する。
紫外線消毒 細胞内の核酸の損傷を起こし、微生物を不活性化させる。

図―5 オゾン消毒

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