国土交通省
 「日本関係外国籍船内における犯罪に関する
 諸問題検討会」について

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平成14年7月30日
<問い合わせ先>
海事局外航課

(内線43302、43366)

TEL:03-5253-8111(代表)

 

 平成14年4月7日に発生した「TAJIMA号」事案を踏まえ、日本の船社が運航する外国籍船舶の船内において発生した外国人による犯罪に関し、事案の迅速な解決を図るために、平成14年6月20日、法務省(刑事局、入国管理局)、外務省及び海上保安庁の参加を得て標記検討会を設置し、また、日本船主協会、全日本海員組合及び損害保険会社といった民間海事関係者からのヒアリング・意見交換を実施しつつ、以下のとおり計4回の検討を行った結果、別添のとおり「日本関係外国籍船内における犯罪に関する諸問題の整理」を行いました。

 

   平成14年6月20日   第1回会合

   平成14年7月 8日   第2回会合

   平成14年 7月19日   第3回会合

   平成14年 7月30日   第4回会合(最終回)

※ 第2回会合において、民間海事関係者を招いてヒアリング・意見交換を行った。


日本関係外国籍船内における犯罪に関する諸問題の整理

 

 TAJIMA号事案を踏まえ、日本の船社が運航する外国籍船舶の船内において発生した外国人による犯罪(以下「類似事案」という。)に関し事案の迅速な解決を図るために、別紙1(PDF形式)の関係省庁の関係者により検討会を設けて検討を行った。

  1. TAJIMA号事案の概要
    •  TAJIMA号事案の概要については、別紙2(PDF形式)参照。
    •  本件は、公海上にある外国籍船内を犯行場所とする外国人による殺人事件であったため、我が国の刑法の適用がなく、また、容疑者の国籍国であるフィリピンも、国内法上、自国民による国外における殺人罪について刑事管轄権を設定していなかったことから、当該船舶の旗国たるパナマのみが本件についての刑事管轄権を有していた。
       また、同国の犯罪人の引渡し請求に基づく身柄拘束以外に我が国には、今回の事案のような容疑者について、公権力の行使による身柄拘束等を可能とする行政手続に係る法律上の根拠がなかった。
       こうした中で、パナマが我が国に犯罪人引渡しのための仮拘禁請求を行い、これを受けて我が国当局が容疑者を仮拘禁するまでに約1ヶ月間を要した。
       この間、当該船舶内では、船長が、船長権限に基づき容疑者を拘束するという事態が継続し、当該船舶は、予定されていた運航に就くことができず、安定的な海上輸送の確保に支障を生じるとともに、経済的にも船舶の不稼動による損失が発生した。

  2. 便宜置籍船の現状について
    •  国土交通省海事局より、次のとおり、TAJIMA号のような便宜置籍船について説明した。
      •  日本の商船隊は、単一マーケットの外航海運市場において厳しい競争を繰り広げており、可能な限りコストを削減するため、「便宜置籍」を活用せざるを得ない状況にあり、これは、我が国のみならず、欧州等の先進海運国にも見られる現象である。
      •  日本の商船隊のうち大多数が外国籍船舶となっており、特に、パナマ籍船が約73パーセントを占める。また、日本の商船隊の便宜置籍船における船員について見ると大多数が外国人船員となっており、特に、フィリピン人船員が約77パーセントを占める。(別紙3(PDF形式)参照)
      •  パナマ籍船の船内におけるフィリピン人船員による犯罪という今回の事案は典型的事例と言えるが、他国の船舶・船員が関与する類似事案が発生する可能性も否定できない。

  3. 関係省庁間における当面の対応について
    •  類似事案の迅速な解決を図るため、関係省庁間で民間関係者等と協力しつつ対応すべき事項は、当面、次のとおりである。
      1.  殺人罪等の重大な犯罪について、自国民の国外犯処罰規定を有していないフィリピンその他の主たる船員供給国に対し、国外犯処罰規定を設けることを検討するよう様々な機会を通じて慫慂する。(国土交通省海事局・外務省)
      2.  航空の分野においては東京条約(航空機内で行なわれた犯罪その他ある種の行為に関する条約)があることを念頭に置きつつ、海事分野における同種の案件に対する対策の必要性等について、国際海事機関(IMO)の場において、問題提起等を行う。(国土交通省海事局・外務省・海上保安庁・法務省)
      3.  関係省庁及び関係船社等間の連絡協調体制を整備する。(国土交通省海事局・法務省・外務省・海上保安庁)
      4.  パナマ政府に対し、TAJIMA号事案の容疑者に対するパナマ国内法に基づく厳正な裁判並びに今後とも旗国としての自国籍船への刑事裁判管轄権の適切な行使及び容疑者の迅速な身柄の確保を要請する。(国土交通省海事局・外務省)

  4. 検討の概要
    (1)我が国の刑法適用について
    •  今回のTAJIMA号事案のような殺人の被害者が日本人の場合に我が国の刑法が適用できるように我が国の刑法を改正できないかという指摘がある。
    •  外務省より、別紙4(PDF形式)のとおり、刑事管轄権の有無に関する主要諸外国の状況の調査結果が紹介された。
    •  法務省(刑事局)より、次のとおり、我が国の刑法適用の問題について説明がなされた。
      •  戦前は、殺人罪を含め一定の犯罪については被害者が自国民であれば我が国の刑法を適用するという、いわゆる「消極的属人主義」を採用していたが、戦後、日本国憲法の国際主義の原則等を踏まえ、昭和22年改正で削除したという経緯がある。殺人の被害者が日本人である今回のようなケースに我が国刑法を適用できるように改正することについては、このような削除の経緯等を踏まえ、様々な観点からの検討が必要である。 
      •  他方、仮に殺人の被害者が日本人である場合に刑法を適用できるようにしたとしても、便宜置籍船内で外国人船員同士で類似事案が発生した場合においては、本件と何ら状況が変わるわけではないことに留意する必要がある。

    (2)犯罪人引渡条約について

    •  パナマ等との間で犯罪人引渡条約を締結すれば、より迅速に拘禁手続きを進めることができるのではないかとの指摘がある。
    •  法務省(刑事局)より、犯罪人引渡条約締結の主たる効果は、我が国の逃亡犯罪人引渡法では不可能な自国民の引渡しが可能になるということにあり、本件のような外国人の引渡しについては、条約がなくとも、現行法に基づき可能である旨、説明がなされた。
    •  法務省(刑事局)及び外務省より、今回のTAJIMA号の事例にかんがみれば、条約があることによって著しく引渡しが早まったとは考えられないこと、迅速な引渡しについては関係国に対して十分な説明を行うこと等により我が国の法制度に対する理解を求めることが効果的であること等から、犯罪人引渡条約と容疑者の引渡しの手続きの迅速化の可能性との間の関係は乏しい旨、説明がなされた。

    (3)フィリピンの国外犯処罰規定について

    •  国土交通省海事局より、次のとおり、フィリピンの自国民の国外犯処罰規定について説明がなされた。
      •  今回の事案においては、当初、パナマが刑事管轄権を移譲する意向を示していたことから、仮に、容疑者の国籍国であるフィリピンが国内法上、自国民による国外における殺人罪について刑事管轄権を設定していれば、容疑者を同国に移送することにより、速やかに本件事案が解決できた可能性がある。ただし、これは、フィリピンがパナマに比して我が国に近く移送が比較的容易であることによるものであり、本件解決のための法的手続の本質部分に実質的な違いが生じるものではない。
      •  類似事案は、フィリピン人船員以外によっても発生する可能性はあるが、日本の商船隊におけるフィリピン人船員の占める割合等にかんがみれば、フィリピン政府に、殺人罪等の重大な犯罪については自国民の国外犯処罰規定を設けることを検討するよう慫慂することは、事案の速やかな解決に貢献するのではないか。

    •  外務省より、別紙4(PDF形式)のとおり、いわゆる船員供給国の国内法における国外犯規定の有無についての調査結果が紹介された。

    (4)IMOでの問題提起について

    •  国土交通省海事局より、次のとおり、IMOにおける問題提起について説明がなされた。
      •  今回の事案を契機に、IMOの場において、各国におけるこの種の事案の取扱状況、問題意識等を確認するとともに、国際的な対応の必要性について問題提起を行っていくべきではないか。
      •  この場合、航空と海運とでは運航形態等に差異があるものの、航空の分野においては、機長が、航空機の登録国の刑法上重大な犯罪であると認める行為等を当該航空機内で行ったと信ずるに足りる相当な理由がある者を、航空機の着陸国の当局に引き渡すことができる旨規定した東京条約があることを、念頭に置いておく必要があるのではないか。

    (5)容疑者の暫定的な上陸について

    •  法務省(入国管理局)より、次のとおり、入国管理制度について説明がなされた。
      •  いわゆる「仮上陸」は、出入国管理及び難民認定法上、入国審査手続きに時間がかかる場合等に手続きが完了するまでの間に認められるものであり、事情を問わず暫定的に上陸を認めるという趣旨のものではない。
      •  一般論で言えば、上陸後に我が国の公権力による身柄の拘束ができない「容疑者」と思しき者の上陸を許可することはない。

    (6)関係省庁等との連携協調体制について

    •  関係省庁等との連絡協調体制について、基本的な考え方を検討するとともに、今後、船社等の関係者を含めて具体的な内容を検討することとした。

    (7)船舶の不稼動による経済的な損失の補填について

    •  今回の事案のような船舶の不稼動による経済的な損失については、損害保険会社の説明によれば、各社の対応の詳細は異なるものの、今後、いわゆる「船舶オフハイヤー保険」でカバーされるものであるとしていることが確認された。

    (8)その他

    •  民間海事関係者より、次のとおり、類似事案の再発防止等について説明がなされた。
      •  今回の容疑者がパナマ側に引き渡された後、同国において厳正な処置が行われるよう、官民のレベルで将来にわたり注視していく必要がある、このような姿勢が類似事案の再発に対して抑制効果を持ち得る。
      •  民間海事関係者も、船員に対する教育の徹底、乗船後の労務管理の改善 等を通じた船内秩序の維持、船員間の融和促進等の再発防止策及び事態発 生時における対応マニュアルの整備等について検討し、実施することとしている。

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