国土交通省
 長周期波対策の検討結果について
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平成14年3月25日
<問い合わせ先>
港湾局計画課企画調査室

(内線46344)

TEL:03-5253-8111(代表)

 

  1. 長周期波とは
     長周期波とは、波の高さは小さいものの、いわば海面全体がゆっくりと上下する波のことです。
     砂浜にうち寄せる波が、決して同じ形ではないことから分かるように、海にはいろいろな波があります。実は、この波もいろいろな波の重なりで生じており、その発生原因も風、低気圧、船の航行によるもの等、さまざまです。
     波の特徴を表すものに、「波高」と「周期」があります。「波高」とは文字通り、波の低いところから高いところまでの高さを、また、「周期」とは、波が下がってから上がり、再び下がるまでの時間のことをいいます。
     「長周期波」とは、この「周期」が長い波のことです。港湾内において、一見したところ波がないように思えても、長周期波が到来している時には、非常にゆっくりと、いわば海面全体が持ち上がる様に上下しているのです。例えば、遙か南方洋上にある熱帯低気圧や台風により生じた波が、はるばる日本付近まで伝わってくることもあり、日本列島が台風の影響を全く受けていないようなときでも、港では長周期波という形で影響を受けているのです。

  2. 長周期波の問題点
      長周期波は非常に大きなエネルギーで、係留している船舶を大きく揺らすため、1安全性の問題、2物流コスト上昇の問題、3運航の定時性・安定性の問題等、船舶関係者だけでなく、国民生活にも大きく影響しています。
     この長周期波は、たとえ波高が高くなくても、海面全体が持ち上がるために非常に大きなエネルギーを持っています。そのために、係留している船舶が大きく揺れて、貨物の積み卸し(荷役)が困難になったり、船舶を繋ぎ止めているロープが切れたり、岸壁と船舶が接触・損傷する事故の原因となっています。すなわち、
     1船舶の係留や荷役作業を行う場合の安全性が確保されていない。
     2荷役に余分な時間がかかったり、他の港を利用したりすることにより、また、事故等の発生により損害が生じるため、物流コストを上昇させている。
     3船舶の運航の定時性・安定性が確保できていない。
    等の問題が生じ、船舶関係者だけでなく、国民生活にも大きく影響しています。

  3. 被害の実態把握
     実態把握のために行ったヒアリング調査では、船舶の接触による岸壁の損傷で、億単位の被害が生じた例、人身事故が起こった例、1年足らずの間に100隻以上の船舶が影響を受けた例等が見受けられました。
     なお、記録に残っていない被害があること、船舶関係者が事故を未然に防ぐための対応をとっていること等を考えると、把握できた事例は氷山の一角であると想定されます。

     全国の15の港湾において、実態把握のためのヒアリング調査を行いました。
     ヒアリング調査から得られた被害の実態は以下のとおりです。

    <大きな損害額が出た事例―志布志港(鹿児島県)―>
     鹿児島県の志布志港では、沖縄本島付近の台風から発生した長周期波の影響を受け、2つの岸壁で船舶と岸壁が接触することにより、岸壁損傷分だけでも約6億5千万円の損害が生じている。船舶損傷分については記録がないが、これを含めるとかなりの損害額になる。

    <人身事故が起こった事例―苫小牧港(北海道)―>
     北海道の苫小牧港では、船舶の揺れ抑えるためのロープを増設作業中や、ロープの切断により、手指の裂傷や顔面を3針縫合するような人身事故が起こっている。なお、ヒアリングによると、切断したロープの直撃を受けた場合にはひとたまりもなく、死亡事故に至っても不思議ではないとのことである。

    <荷役中断が頻繁している事例―小名浜港(福島県)―>
     福島県の小名浜港では、平成13年1月〜11月だけでも、100隻を超える船が荷役の中断を余儀なくされている。これらの船は重油、ガス等の危険物積載船であり、万が一、油漏れ、ガス漏れが起こると、大変な被害になることが想定される。

    <その他の長周期波によって生じる問題>
     以上のような例のとおり、岸壁や船舶の損傷、ロープの切断、人身被害、荷役中断をはじめとして、この他にも、タグボートを使って船舶の揺れを抑えたり、緊急に岸壁を離れて沖で停泊・待機したりといったように、余分な燃料、時間、労働力の増加が生じている。

     なお、ヒアリング調査では、特徴的な被害があったとして記録に残っているものや、長周期波に対する問題意識を持って記録に残しているもの等を把握できたにすぎず、記録に残っていない事例が存在するほか、事故を未然に防ぐために、被害が起こりそうな場合は入港しない、もしくは、他の港を利用する等の対応をとるとの船舶関係者の意見もあり、得られた事例は氷山の一角であると考えられます。

  4. 長周期波等対策
     以上の結果を踏まえ、検討会として、国土交通省に対し、以下のような抜本的な対策を強く提言・要望します。
     1新しい静穏度の考え方を導入すること
     2長周期波等の計算・予測システムを開発すること
     3防波堤等の波浪制御構造物による対策、係留ロープ等の係留系による対策、長周期波の到達予測・情報提供による対策を講じること

     これらの対策を講じることにより、1安全性の向上、2物流コストの削減(高コスト構造の是正)、3運航の定時性・安定性の確保、を図ることができ、また、モーダルシフト(環境負荷の少ない海上輸送へのシフト)の推進に寄与することができます。

     実態調査からも分かるように、安全性の向上、物流コスト削減による高コスト構造是正、船舶運航の定時性・安定性の向上のためには、長周期波等対策を講じる必要があります。
     そこで、検討会として、国土交通省に対し、以下のような抜本的な対策を強く提言・要望します。
    1新しい静穏度の考え方の導入
     今後の港湾の計画・整備にあたっては、係留船舶の動揺が荷役に及ぼす影響を考慮し、長周期波をはじめ様々な要因を考慮できる静穏度評価の方法を確立する。
    2長周期波等の計算・予測システムの開発
     より効率的、効果的な対策を行うため、また、今後の港湾の計画・整備に活かすため、これまでの研究の蓄積を活かしつつ、長周期波等の計算・予測システムを開発する。
    3具体的な長周期波等対策
    • 波浪制御構造物による対策
       防波堤や波除堤の建設等により、長周期波等の進入を抑える。また、港内で消波岸壁や人工海浜等を整備することにより、港内における波の増幅を防ぐ。
    • 係船ロープ等の係留系による対策
       長周期波の特性等を分析し、船舶を係留するロープや防舷材(岸壁と船舶の間のクッションのようなもの)等の材質や配置等を適切に選定し、組み合わせることにより、船舶の揺れをできる限り抑える。
    • 長周期波の到達予測・情報提供による対策
       波浪観測、気象情報等に基づいて長周期波の予測を行い、関係者に情報提供を行うことにより、長周期波の到達前に余裕を持った対応を可能とする。

     これらの対策を講じることにより、1安全性の向上、2物流コストの削減(高コスト構造の是正)、3運航の定時性・安定性の確保、を図ることができ、また、モーダルシフト(環境負荷の少ない海上輸送へのシフト)の推進に寄与することができます。

長周期波等対策の概念図

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