国土交通省
I 我が国の経済社会の変化と物流
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I.我が国の経済社会の変化と物流

 1.我が国の経済社会の変化

 (1) 安定成長時代の中での経済のグローバル化の進展
 我が国の経済は、バブル経済崩壊後の長期にわたる低迷期からようやく脱しつつあるが、今後は大幅な経済成長は望めず安定的な成長を目指さざるを得ない状況となっている。一方、我が国の経済を取り巻く環境についてみると、各国の企業が国境を越えた事業活動を活発に行うことにより他国の企業との間の競争が激化するといったグローバルな競争が一層進展しており、また、情報通信技術も飛躍的に発展する等大きく変化してきている。 
 これらの経済を取り巻く環境の変化にあわせ、企業は競争力確保のために事業の再編整理等の効率化を進めるとともに、グローバル化に伴う国際的な相互依存関係の増大にあわせ我が国の企業による海外進出の増大や他国の企業による我が国への進出の活発化等産業構造も大幅に変化しつつある。また、グローバル化の進展は、国民の中に地球的規模での環境問題に対する意識の高まりをもたらすとともに、企業の事業活動においても環境との調和を重要視する視点を持ち込む等行動規範の変化をもたらしている。
 このような経済を取り巻く環境の変化は物流に対しても大きな影響を与えている。
 国内物流については、高度成長期は貨物輸送需要の急激な増加に伴い、自家用トラックの増加もみられたが、安定成長期以降においてはアウトソーシング(外部委託)の進展等により、より効率性の高い営業用トラックの分担率が伸びる傾向にある。一方、輸送形態としては、経済の低迷や生産拠点の海外移転等による産業構造の変化により物流量が伸び悩み傾向をたどる中で、各企業の物流体制の見直しや情報化の進展による直配体制の強化等の影響から、多頻度少量輸送がますます増加する傾向にある。
 国際物流については、経済のグローバル化に伴う国際分業の進展等により安定的に増加傾向を示している。特に、我が国企業のグローバルな生産・流通システムの構築を背景とした機械機器等の製品・半製品輸送が高い伸びを示しており、国際航空貨物及び国際海上コンテナ貨物の輸送量の大幅な増加をもたらしている。

 (2) ITと経済社会
1.情報化の進展
 情報通信技術の飛躍的な発展は、情報通信機器の価格や通信コストの大幅な低下とあいまって、企業活動における情報化を促進するとともに、インターネットや携帯電話の爆発的な普及等を通じて国民の日常生活レベルにおいても急速な情報化をもたらしている。
情報化の急速な進展に伴い、企業間取引のみならず、企業と消費者間の取引におけるeコマース(電子商取引)が急激に増大し、消費者の地域間格差の解消等が図られる等いろいろな面における利便性の向上がもたらされる一方、情報の漏洩やセキュリティの確保等新たな問題も発生している。
2.情報化の企業レベルへの影響
 当初は工場の生産管理等の効率化のために導入されたコンピュータによる情報化は、企業全体、さらには企業をまたがる情報ネットワーク化に発展してきており、マーケティング、市場競争、取引、ロジスティクス等企業の諸活動全般の効率化に影響を与えている。
 POSシステムの普及等、情報通信技術の活用を通じて企業が顧客ニーズ、特に消費者ニーズを詳細かつタイムリーに把握することが可能となり、利用者ニーズに即応した新サービスが拡大している。
 また、調達分野における企業間の電子商取引の拡大は、世界中から最も競争力のある部品を調達する傾向とあいまって、企業のこれまでの調達活動やそれに伴う物流に大きな変革をもたらしつつある。
 さらに、企業の情報化の進展はメーカー、卸・小売業者、物流事業者等の企業間をまたがって資材の調達、モノの生産・出庫から販売を通じて最終顧客に至るまでの物流全体を統合的に管理(サプライ・チェーン・マネジメント)するシステムの構築を容易にした。企業はこれを活用した高度な物流システムの構築により効率的な経営を追求することが可能となり、その結果、高度な物流システムの活用の有無が企業間の競争に大きな影響を与える状況となっている。一方、物流全体の統合管理の進展は、メーカーから消費者に至るまでの流通段階やルートの削減をもたらす等物流の姿も大きく変化している。 。
3.情報化の日常生活レベルへの影響
 情報化は企業に影響を与えるのみならず、小売店での即時決済が行えるキャッシュカード(デビットカード)の出現や決済専門銀行設立の動き等国民の日常生活にも大きな変化をもたらしている。
 インターネット上に大規模なバーチャル・モール(仮想商店街)が登場し、書籍、CD、自動車等消費者が直接目で見て選択する必要性の低い品物を中心に、在庫負担の低さ等の利点を生かした価格競争力を武器にその売上げを急速に拡大している。
 これらの無店舗販売の拡大は、従来の小売店への物流を不要とする一方、消費者への商品の受渡し場所として活用されているコンビニエンスストアが新たなサービス拠点となる等の変化をもたらしている。
 一方、スーパーマーケット等の既存の商店においても、インターネット等を活用し注文を受けるとともに、希望する時間に宅配を行う等きめ細かいサービスを行うことが可能となるような情報システムを構築することにより情報化の進展へ対応しようとする動きが急速に広がっている。
 これらの新たな動きは、高齢社会の到来にあわせさらに加速することが予想されるが、物流分野においては、宅配便やサービス拠点となるコンビニエンスストア等への小口輸送の大幅な増加が見込まれるとともに、情報化への対応が可能な事業者への一括委託の動きが強まることが予想される。

 (3)国民生活をめぐる状況の変化
 少子高齢化、経済のグローバル化等による国民生活における国際化・24時間化、情報化の進展等国民生活を取り巻く環境も大幅に変化している。これに伴う国民の価値観の多様化・個性化の進展により、求められるサービス内容も多様化してきている。高齢化の影響により介護サービス等高齢社会に対応した経済活動が拡大するとともに、国民生活の国際化に伴い、商品の調達が国境を越えて拡大し、製品輸入が急速に増大してきている。また、生活の24時間化を受け、企業の事業活動は長時間化、多機能化してきている。さらに、情報化の進展は消費者ニーズをリアルタイムに反映したサービスの提供を可能とし、商品のライフサイクルの短期化等の変化をももたらすとともに、インターネットの普及に伴い買い手側からの情報発信を可能とする等購買形態を多様化させている。
 一方で、日常生活における量的充足感が質的欲求に発展する中で、パソコンのインストールサービスやメンテナンスサービス等、従来はモノに付属していたサービスが独立して商品になりつつあるとともに、地球環境問題、大量消費による無駄の発生の抑制等新たな意識の萌芽に伴いリサイクル等環境を意識したサービス、事業活動が拡大している。

 (4)社会的制約の拡大
    1.環境問題の深刻化
 世界的に地球温暖化をはじめとする地球規模の環境問題が大きく意識されるようになり、特に二酸化炭素の排出抑制については、平成9年12月に採択された 「気候変動に関する国際連合枠組条約京都議定書」において、我が国は、この削減に関する国際的な公約をしており、運輸部門においてもこれを着実に実行する必要に迫られている。
 また、大量生産、大量消費、大量廃棄を前提とした現代社会の活動は、環境への大きな負荷を与えるとともに、廃棄物処理場の不足等の深刻な問題を惹起しており、リサイクルを進めて循環型社会を構築する動きが急速に高まっている。
    2.交通混雑等都市問題
 大都市における交通の集中や渋滞がもたらす自動車排出ガスからの窒素酸化物(N0X)や浮遊粒子状物質(SPM)等による大気汚染等の公害への対応の必要性については従来から指摘されていたところであるが、国民の環境への意識の高まりに伴い、その対応の強化が求められている。また、近年、大都市以外の拠点都市においても、規模は異なるものの道路交通渋滞等が発生しており、経済面、エネルギー面、環境面からその対応の強化が求められている。一方、地方都市においては、モータリゼーションの進展により市街地の空洞化と外延化が進んでおり、中心市街地の再生が大きな課題となっている。さらに、これらの問題の解決に当たっては、自然、景観、地域特性を含めた、交通と地域との共生も重視される傾向にある。
    3.安全の確保への要請の高まり
 国民生活における安全の確保は重要な課題の一つである。特に交通事故については、これまでも様々な対策が講じられてはいるが、事故件数及び死傷者数がここ10年で1.3倍に増加する等、極めて深刻な状況になっており、事故の防止や事故復旧作業の迅速化への要請が高まっているところである。
 また、阪神・淡路大震災時に基礎的な交通動線の断絶により混乱が生じたことを教訓として、大規模災害時における応急処理や災害復旧への迅速な対応等を定めた危機管理計画の策定や幹線物流機能と緊急物資の輸送を確保するための災害対応施設の整備が求められている。
 さらに、近年における情報化の進展は、サイバーテロや情報の保護の問題等従来になかった安全の問題を提起しており、それらへの対応も重要な課題といえる。

 2.21世紀初頭の経済社会における物流の果たす役割と課題
 (1)我が国の産業の構造改革への対応
 21世紀においては経済のグローバル化が一層進展し、国際的な競争が激しさを増していくと考えられる中で、我が国の国際競争力を向上させ、我が国経済の持続的な発展をもたらすためには、我が国産業の構造改革が不可欠であり、物流分野においてもグローバル・スタンダードを意識しつつ効率化を行うことにより生産性の向上を図っていくことが重要である。なお、以下の課題解決に当たっては、新技術の活用も期待されるところである。
    1.ITの活用を中心とした物流サービスの提供
 物流システムの効率化のためには、物流事業者が個々の業務の効率化に努めることは当然であるが、現状の物流業界においては、効率化のために必要な人材の確保や情報化投資を行うことが困難である中小企業が大多数を占めていること等を踏まえると、物流事業者の高度化への対応が容易になるような環境整備が必要である。また、物流事業者が社会の変化に応じて弾力的に事業活動を行えるようにするための環境整備も重要である。
 さらに、それに加えてトータルな物流の効率化の視点に立ち、物流システム全体の高度化を目指すことが重要である。そのためには、自家物流コスト、在庫関連費用、中間業者への支払い費等の物流コストを全体で最適化することが必要である。物流コストの全体最適化を行う前提としては、ITを活用して荷主と物流事業者の間で情報の開示と共有化を図り、トータルな物流コストを明確に把握した上で物流サービスの提供を行うことが重要である。
 また、製品価格に輸送コストが含まれること等により輸送コストの把握が困難となっているような発荷主、物流事業者、着荷主間の商慣行等について改善を図ることも重要である。
 ITを活用した物流サービスの有力な手段の一つとして、サプライ・チェーン・マネジメントシステムの構築が挙げられるが、そのためには、コーディネイト能力を有する高度で専門的な事業者を育成することが重要であり、情報技術、物流コスト算定力等を有する事業者の育成のための環境整備が課題である。
    2.物流ネットワークシステムの効率化による国際競争力の向上
 国際競争力向上の観点からは、我が国との結びつきの一層の緊密化が予想されるアジア地域を中心として、物的交流の基盤となる物流ネットワークを構築していくことも重要となる。その際には、アジア等との共通の物流システムの構築を我が国がリードしていくことが重要である。また、国内においても、輸送モード間の連携を図り、効率的で円滑な物流システムを構築する必要がある。そのため、情報化における標準化等のグローバル・スタンダードへの対応や複合一貫輸送に対応したソフト面における輸送モード間の連携が必要とされる。特に輸送モード間の連携を図る観点からは、海上輸送と陸上輸送の円滑な接続が非常に重要であり、海上交通における輸送コストの削減や時間の短縮、定時性の向上等サービス水準を高めることが重要である。
    3.物流インフラの整備
 我が国においては、国際輸送需要の伸びに応じた国際物流拠点の整備が進められてきたものの、シンガポール等主要な国際物流拠点と比較してハード・ソフト両面の遅れが指摘されている。例えば、港湾についてはコンテナ船の大型化への対応等ハード面や港湾諸手続の簡素化・情報化等利用しやすい港湾とするためのソフト面の対応が十分でなかったことが挙げられる。
 そのため、経済のグローバル化に対応したハード面・ソフト面ともに国際的に遜色のない国際物流関連インフラを重点的に整備するとともに、国内物流の面においても複合一貫輸送に対応した効率的で円滑な物流を実現するためのインフラの整備が必要である。その際、輸送に要するコストや時間の短縮に対するニーズがますます高まると見込まれることから、これらのニーズに応えるため、全国的・広域的観点から効率的・効果的な物流体系を構築していくことが重要であり、限られた財源の中で、国際競争力向上に資する情報インフラを含めた公共インフラに投資を重点化していくことが必要である。また、今後のインフラ整備に際しては、まだ量的不足が見込まれる交通インフラについては、効率的かつ着実に整備を進めていくとともに、従来にも増して、配置されている施設の機能の拡充、サービスレベルの向上といった質的整備を重視した政策を展開することが重要である。

 (2)国民生活の変化への対応
 21世紀においては、少子高齢化の急速な進行等に伴う社会構造の変化とともに、国民生活の個性化・多様化、情報化等により消費者行動についても大きな変化が生じることが予想され、特に、情報化の進展に伴うeコマース(電子商取引)等の増大は物流のあり方に大きな変化をもたらすことが予想される。このことは物流分野においても多様な新サービスの提供が求められることを意味しており、サービスの供給者である物流事業者にとっては、社会的制約との調和を図りつつ、これらの多様な要求に応え消費者の利便性を向上させるようなサービスの提供が重要な課題である。今後、増大が予想されるサービスの方向としては、以下のようなことが考えられる。
1.高齢化の進展等に対応した介護サービス、買物代行、梱包代行、集荷サービス等がセットになった物流サービス
2.少子化、女性の社会進出の増大、単身世帯の増加に伴う留守宅の増加に対応した宅配便の配達率向上のためのシステム整備、不在者用宅配ボックスやコンビニエンスストア等をサービス拠点として貨物の発地あるいは受取地とするシステム等の整備による効率的で利便性が高く安心な宅配システム
3.価値観の多様化に対応し弾力的な運賃・料金設定を可能とする等小口の輸送におけるメニューの多様化
4.急速な拡大が予想されるeコマース(電子商取引)に対応した、物流システ ムに決済サービスやセキュリティ対策が付加された新たなサービス体制の整備
 これらの新たなサービスを充実させるためには、サービス創出に対する支援や利用者保護等に係る対応を検討する必要があるとともに、新たなサービスの増加に伴う選択肢の拡大に対応し、利用者が市場原理に基づく事業者選択を適切に行えるようにするための情報提供システムの整備等の環境整備が重要となる。
 一方、国民生活の変化は、宅配便に代表される多頻度少量輸送の増加を加速させると考えられるが、物流の効率化の観点からは、製品価格に輸送コストが含まれているため発注者に輸送コストの適正な負担が行われないことに代表されるような商慣行等に起因する過度な多頻度少量輸送を抑制していくことが重要である。
 さらに、物流分野においても、少子化の影響による若年労働力不足が生じる可能性があるところであり、これに対する対応策を検討していくことが必要である。

 (3)社会的制約との調和と豊かな社会の実現
1.環境問題への対応
 21世紀においては、地球環境問題への対応が喫緊の課題であり、京都議定書の目標達成のためには、物流も含めた運輸部門の二酸化炭素の排出について、今後年平均伸び率をマイナスに抑える必要がある。このためには、更なる二酸化炭素排出抑制策の強化が重要であり、自動車、船舶等の輸送機関単体の性能向上を図るとともに、積載効率の向上等により走行量を減らす対策が重要である。具体的には、モーダルシフト、共同輸配送、物流拠点の適正配置、輸送経路等の最適化の推進等が必要であり、その実現に向けて、現状の危機的な状況について、国民、物流事業者及び荷主それぞれの認識と理解を深めるとともに積極的な協力を仰ぐことが不可欠である。
 また、循環型社会構築の必要性が高まることに伴い、今後リサイクルの更なる推進が求められており、大量生産、大量消費、大量廃棄型の経済社会システムを見直し、地方自治体と連携しつつ循環型社会の実現に貢献する新たな物流システムを開発・整備することが求められる。
2.地域物流における社会的制約への対応
 物流と地域社会との調和を図るためには、地域毎の特性に合わせた物流システムの構築が必要であり、特に大都市においては交通の集中、渋滞がもたらす自動車排出ガスによる大気汚染等の公害対策が重要である。そのためには、都市部の特定地域への自動車交通の集中による道路渋滞、公害問題の解消に資する物流システムの構築が求められるが、この問題の解決のためには、荷主、物流事業者双方が理解を深め、輸送経路、輸送時間帯、輸送頻度等について環境に配慮した最適化を図ることが必要である。また、地域住民の理解と協力も重要であり対策の実施に際しては地方自治体との連携強化が求められる。
 さらに、自然、景観、地域特性に配慮した地域と調和した物流システムの構築、交通事故問題に対応するための事故抑制対策及び災害等緊急時における物流面での危機管理体制の整備が求められる。

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