国土交通省
II 21世紀初頭における物流政策のあり方
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II.21世紀初頭における物流政策のあり方
 我が国経済社会が大きな変革期を迎えている中で、物流についても、それに合わせた適切な対応が求められており、将来にわたる物流のビジョンを示すことが行政に求められている重要課題である。21世紀初頭における物流ビジョンの展開に当たっては、「3e物流;効率的で(efficient)環境に優しく(environment-friendly)情報化に対応した(electronic)物流」をキーワードに、より効率的で利便性が高く社会的制約と調和した物流の実現を目標とすべきである。

 1.21世紀初頭における物流政策に関する基本的考え方
 物流における課題を克服していくために具体的方策を講ずるに当たっては、官民が一体となって取り組んでいくことが重要であるが、物流は経済活動であり、市場原理により課題の解決に当たることが重要であると考えられる。一方、行政については、物流に関する具体的な課題とその解決のための明確なビジョンを提示し、これに基づき、事業者が課題解決のための活動を行う環境整備を行うとともに単に市場での自由な競争に委ねるだけでは問題の解決が期待できない場合に主導的な役割を果たすことが期待されている。
 行政の具体的な施策の方向としては、1.効率的な公共インフラの整備及び運用、2.環境、安全等の分野での外部不経済の是正、3.情報化の促進等に必要な標準化・共同化等の推進、4.情報の収集、分析及び提供、5.政府間交渉・国際協力、6.新事業創出支援、7.円滑な事業活動のための行政手続の簡素化の推進等が挙げられる。
 物流行政は多岐にわたるものであり、物流政策を企画立案、推進するに当たっては、都市政策等他の政策との連携を図る等、関係省庁が連携し、一体的に施策を推進することが重要である。
また、経済のグローバル化の進展に伴い、我が国あるいは諸外国の政策が相互に影響を及ぼしていることも留意しておくべきである。
 さらに、物流システムの地域社会との調和や循環型社会の構築が重要性を増していくことに鑑みると、物流分野における地方自治体との連携も重要であると考える。
 2.具体的な施策のあり方
 (1)我が国の産業の構造改革への対応
1.物流事業者の効率化
<得意分野を活かした連携の促進>
 21世紀において、物流事業者が荷主に対して低廉で良好な物流サービスを提供し続けていくためには、物流事業者自らの生産性の向上が必要となる。そのためには、各物流事業者はまず第一に各々の真に競争力を有する分野を明確化することが重要である。
 さらに次の段階として、個々の競争力のある物流事業者が不得意分野を補完する形で連携することにより、全体として競争力ある物流システムを構築することが重要である。行政としては、物流事業者のこのような動きを促進するための支援が必要である。具体的方向としては、物流事業者同士の集約・協業化への支援や、連携先の発掘を容易にするための個々の事業者の得意分野等の特色が分かる情報データベース構築に対する支援等が考えられる。このような連携は、輸送の共同化を促進し、社会的制約と調和のとれた多頻度少量輸送ニーズ等への対応にも寄与するものである。将来の物流事業においては、荷主のニーズに応じて輸送手段を選択しドア・ツー・ドアの一貫輸送責任を一元的に負う「総合物流業者」と個々の輸送、保管等の物流サービスに競争力を有する物流事業者に二分化する形で全体として競争力ある物流システムが構築されていくものと思われる。
 また、行政においては、社会の変化に応じて物流事業者が事業活動を弾力的に行うことが可能となるように物流分野における規制緩和や行政手続をインターネットを利用しペーパーレスで行える電子政府の実現の一環として国が整備するペーパーレス申請システムの導入等による行政手続の迅速化・効率化についてもあわせて検討すべきである。
 <中小企業対策の推進>
 多様化する消費者ニーズへの対応や、革新的な物流サービスの創出に当たっては、柔軟な思考と行動力が重要であり、中小企業も十分新たな物流サービスの提供主体となりうると考えられる。むしろ、今後の物流業界の活性化のためにはこの点こそ重要な課題と言える。しかし、現状では資金力、施設、人材等が不足している企業が多く、必ずしも積極的な経営活動ができているとは言い切れない。これを踏まえると、中小企業が機動性、柔軟性を十分発揮しつつ経営を行っていくためには、物流の集約化・協業化、環境問題等の社会的制約への対応、ITを活用した経営の高度化等、個々の中小企業が独自に対応することが困難と考えられる分野については、積極的に支援を行う必要がある。
2.効率的な一貫物流サービスの実現
 低廉で良好な物流サービスの提供のためには、競争力のある効率的な物流事業者の存在は当然の前提としても単にそれだけでは実現されるわけではなく、様々な解決すべき課題が存在する。
<契約の明確化>
 荷主と物流事業者間の取引が全体最適なものとなるようにするためには、個々の物流サービスの対価を明確にしていくことが重要であり、そのためには従来の商慣行のみに委ねることなく契約を明確化することが重要である。契約の明確化は今後の大きな課題である情報化の推進にとっても必要不可欠なものである。契約の明確化の推進のためには、原価算定方法の見直し、物流サービスの区分けを含めたモデル契約書フォーマットの作成・普及等も有効と思われる。
<サプライ・チェーン・マネジメントを促進するための環境整備>
 物流全体を統合的に管理し、全体最適化を図るサプライ・チェーン・マネジメントを進展させていくには、荷主に対して物流改革を提案するコーディネイト業務の発展が重要であるが、こうした業務については実際に物流ノウハウを有している物流事業者にも適性があると考えられる。物流事業者は個々の物流サービスの競争力の向上だけでなく、積極的に荷主に対して物流改革を提案できるような能力を身につけていくべきであり、行政としても、物流事業者がこれらの能力を身につけるための支援方策として、物流事業者の人材育成のための研修制度や資格制度への支援、荷主とコーディネイト業務を行う物流事業者双方にとって情報の入手が容易となるデータベースシステムの整備に対する支援、利益配分やリスク負担に関するモデル契約書フォーマットの作成及び普及や保険制度の創設に対する官民一体での取組み等の環境整備を行うことが重要な課題である。
<異なる輸送モード間の連携の強化>
 今後さらに一層の増加が予想される国内外にわたる複合一貫輸送の効率化を図ることも我が国の物流の効率化にとって重要な課題である。そのためには、異なる輸送モード間の結節点における接続の円滑化に向けた連携事業の推進や総合物流拠点等の物流関連施設の整備等、ハード・ソフト両面にわたった環境整備への官民双方による取組みが必要となる。その際には、ITの活用が今後の大きな鍵となるものと考えられる。ITの活用のためにはシステムの標準化・共通化が重要課題であり、国としては標準化等に関する国際会議に積極的に参加するとともに、特にアジア等との共通の物流システムの構築に向けた我が国のリーダーシップが期待される。  また、現状においては旅客輸送への活用に重点が置かれている高度交通システム(ITS)については、物流効率化・高度化の視点も重要であり、さらにトラックだけでなく海運、鉄道、航空を含めたインターモーダルな連携が必要である。
 一方、行政においても、国際複合一貫輸送の更なる効率化を図るため、国際海上コンテナフル積載トレーラーの通行制限の緩和、通行手続の簡略化や通関手続の更なる簡略化等グローバル・スタンダードに見合った規制のあり方、通関業務の通年化・24時間化について引き続き検討すべきである。
<一貫パレチゼーションの推進>
 複合一貫輸送等においては貨物の積み替えが必然的に発生することとなり、これを省力化することも効率的な複合一貫輸送の鍵となる。また、少子高齢化社会の進展に対応し、高齢労働者や女性労働者を積極的に活用していくためには、荷役作業の軽減化を図ることが重要である。一貫パレチゼーションの推進はその際の有効な方策であり、その実現に向けて、パレットの使用の有無による荷役料金の差別化、パレットサイズの標準化、強力なパレットプールシステムの展開等を行っていく必要がある。行政としてもその推進のため積極的に関与することが期待される。
3.情報化の促進
 トータル・コストの削減やリードタイムの短縮、時間精度の向上を図る上で情報化の促進は必要不可欠な課題である。物流における情報化は、伝票の電子化による諸作業の軽減・迅速・正確化、輸送機関間の連携の向上、輸送の共同化、貨物位置情報の活用等物流事業活動をめぐる各側面での利用が期待されるが、その際、関係者で整合性のある情報化の推進が重要である。そのためには、具体的には、物流EDI標準の普及の促進や、企業秘密の保持等に配慮しつつ決済システムとの連携をも視野に入れた物流情報プラットホーム(輸送機関・事業者横断的な物流関連情報を標準化し、流通させるための情報基盤)の整備も有効な手段であり、行政としても積極的な支援が期待される。また、これは後述の危機管理体制構築の観点からも有効なものであると考えられる。
一方、情報化の進展は、サイバーテロ等従来予想されなかった問題を引き起こすことも予想され、新たな形でのセキュリティ対策の構築も重要な課題である。
4.物流関連施設の整備及び運営の改善
 港湾、空港、道路等の物流関連公共インフラの整備に当たっては全体として最適な効率を確保するため、全国的・広域的な視点に立ち、限られた整備財源を効果的に活用し、投資の重点化・効率化等を進めていくことにより、我が国全体として効率的・効果的な物流体系の構築を進めていくことが必要である。その際、交通部門間において横断的に連携、調整しつつ投資を進める仕組みを導入する必要がある。
 また、厳しい財政制約の中で、港湾のターミナル再編等による既存施設の有効活用を通じた機能の高度化による利用者利便の向上、国際競争力の向上が重要な課題であることから、維持更新、機能向上のための投資も重要である。
 特に今後とも増大が予想されている国際海上コンテナ輸送や国際航空貨物輸送に対応するため、国際的に遜色のない国際物流インフラの整備については、基幹航路に就航するコンテナ船の大型化に対応した大水深・高規格な国際海上コンテナターミナルの拠点的整備及び三大都市圏における拠点空港の整備をアクセス道路等の整備とあわせて行う必要がある。
 また、同時にハード面の整備だけでなく輸出入、出入港等に係る行政手続における情報化によるペーパーレス化、ワンストップサービスの早期の実現等のソフト面の効率化を目指すべきであるとともに、荷役効率の向上等の施策も重要である。
 さらに、複合一貫輸送に対応した内貿ターミナルの整備に当たっては、アクセスに優れ十分なスペースを有した使い勝手の良いターミナルの整備を進めていくことが重要である。
 加えて、その利用料金についても、利用者の多様なニーズに対応できるように柔軟に料金体系の見直しを図ることを検討すべきである。
 一方、効率的なドア・ツー・ドアの一貫輸送を実現するためには、物流関連公共インフラの整備だけでなく、貨物の受け手側を含めた結節点における荷役の円滑化・効率化が重要であり、行政は、物流関連施設整備に関する指針の策定、物流関連施設の整備主体に対する啓蒙活動等を含めた支援方策を検討すべきである。
5.技術開発の推進及び実用化
 21世紀初頭において物流システムの更なる高度化による構造改革を図るためには、革命的な物流コストの低減や環境負荷の軽減につながる可能性のある技術開発及びその実用化に向けて官民が一体となって取り組んでいくことが期待される。
 具体的には、テクノスーパーライナー、メガフロートについては引き続き実用化及び普及に向けての行政による支援を継続していくとともに、実用化が近い海のITS等情報化を活用した物流効率化のための技術については、実現に向けた更なる検討が必要である。さらに、トラックの輸送効率の向上、港湾における荷役の高速化・自動化を実現する次世代港湾システムの構築等による貨物の積み卸し・積み替えの効率化、安全性の向上等に資する技術開発が望まれるところであり、行政としても支援方策を検討すべきである。
 (2) 国民生活の変化への対応
1.サービスメニューの拡大等による利便性の向上
 21世紀初頭においては、国民の生活スタイルの変化等の影響により、既存の物流サービスに加え新しいサービスを開発する動きが物流事業者の側で活発化することが見込まれるが、その中でも当該サービスの開発が国民生活の利便性の向上に資するような新事業については、その創出・普及を促進するための行政による支援のあり方についての検討が必要である。
 また、今後、情報化の進展等の影響により貨物輸送が小ロット化していくと考えられることを踏まえると、大量輸送機関に小口貨物を混載するシステムの開発等小口貨物輸送を効率化する手法の検討が必要であり、あわせて、配達時刻事前通知システムの整備や団地・集合住宅における共同配送の実現等端末輸送を効率化するための工夫が重要であるが、これらに対して新たな物流システムの構築により対応を行っていこうとするトップランナーである物流事業者に対して行政からの側面支援も期待される。
2.少子高齢化への対応
 高齢化や留守宅の増加等に対応し、介護サービスとのセットで提供される宅配サービス、宅配受取集約拠点や宅配ボックスの設置といった新しいサービスが必要となるが、その場合には、先述の新事業創出支援に加えて、利用者が高齢者である場合の特段の利用者保護策、宅配受取集約拠点や宅配ボックスにおけるセキュリティーの問題等の解決方策について行政が中心となって検討を行うべきである。
 また、少子高齢化が進むことが予想される中で、物流分野においても若年労働力不足が生じる懸念があること等から、高齢労働者や女性労働者の積極的な活用が望まれるが、ハード・ソフト両面において、高齢労働者、女性労働者が働きやすい環境整備を物流事業者が中心となって進めることが重要である。そのために必要な技術開発等について行政による支援も期待される。また、労働力不足への対応の観点からも、長距離幹線輸送を中心に海運あるいは鉄道といった大量輸送機関の活用(モーダルシフトの推進)を図るべきである。さらに、外国人労働力の活用についても今後の検討課題であると考えられる。
3.情報提供の拡充
 今後、規制緩和に伴い利用者が自己責任に基づき物流事業者を選択することが原則となっていくことを考慮すると、利用者が物流事業者を適切に選択できるように物流事業者に関する情報を精査した上で開示するシステムを整備することが今後の行政の大きな役割の一つであると考えられる。これに関連して、より実態に即した統計手法の開発を含めた情報収集・提供方法について行政、物流事業者等が一体となった検討がなされるべきである。
4.過度な多頻度少量輸送の改善
 今後、物流サービスが高度化していくことを考慮すると、少なくとも端末輸送の部分については多頻度少量輸送は増加するものと考えられるが、過度な多頻度少量輸送については改善を行っていくことが必要である。具体的には、現状においては製品価格に輸送コストが含まれているという商慣行から、着荷主側からするとどのように発注しても支払いコストは変わらないことから多頻度少量輸送になりがちという実態が多く見られることもあり、過度な多頻度少量輸送を改善するためには、輸送コストを明確にするために輸送費を別計上する等のモデル伝票書式を設定し普及させるとともに商慣行を改め輸送に合わせ適正なコストを負担する取引を実現することが重要である。

 (3) 社会的制約との調和と豊かな社会の実現
1.地球環境問題への対応
 地球規模の環境問題である、地球温暖化問題については、物流事業者、荷主等に対し二酸化炭素排出削減目標達成の厳しさを十分認識してもらうとともに、二酸化炭素排出削減目標の達成を確実にするために、二酸化炭素排出削減量の具体的な進行管理及び公表を行うべきである。さらに、進行管理の結果によっては、従来の啓発方式にとどまらず、規制的・経済的措置の導入まで考慮すべきである。その際には、物流事業者、荷主、消費者等の関係者間で応分の負担がなされるように行政は配慮すべきである。
一方、物流事業者においても、地球環境問題への対応については一層厳しい状況になることが予想されることを踏まえると、現時点から従来の施策に積極的に取り組むべきであり、これに対して行政も今まで以上に支援を行っていくべきである。
<モーダルシフトの推進>
 モーダルシフトについては、引き続き、二酸化炭素削減の観点からも推進すべき施策として位置付けるべきであり、これについては、どのような輸送が海運あるいは鉄道といった大量輸送機関の活用に適しているのかを官民が一体となってはっきりと見極め、また、輸送の効率化に資する技術開発等を図るとともに、受け皿となる海運、鉄道の事業者による機動性等の高いサービスの充実、効率化が必要である。あわせて、行政においては、複合一貫輸送に対応した内貿ターミナルの整備、架線下荷役方式の貨物駅の整備・改良への支援等必要なインフラの整備の促進を図ることが重要である。さらに、荷主へのインセンティブ付与方策も検討していくべきである。
<積載効率の向上等による走行量の削減>
 積載効率の向上による走行量の削減のためには、帰り荷あっせん型求車求貨システムの普及を推進するとともに、自家用トラックを保有する荷主が物流事業者に業務委託を行うことによる自営転換の促進や輸配送事業の共同化の一層の促進を目指すべきである。
 さらに、トレーラー化、大型化を進めることによる走行台数の削減を通じて二酸化炭素の削減を図ることも重要である。行政においては、走行量削減のための支援措置を検討するとともに、大型車両が通行可能な道路整備、特殊車両の通行許可、車両構造基準の緩和措置について検討を行うべきである。
2.循環型社会の実現のための物流システムの構築
 家電リサイクル法の本格施行を目前に控える等の状況を踏まえ、リサイクルシステムの構築に当たっては、物流の面にも配慮した全体最適な循環システムを構築すべきであるが、その際には、リサイクルには再使用、再生利用、エネルギーとしての利用といった様々な形態があることに留意すべきである。
 廃家電等のリサイクル品輸送に代表される静脈物流については、スピードや機動性がさほど必要とされず、また、輸送自体を環境負荷の少ないものにすることが重要であるため、海運や鉄道といった大量輸送機関の活用が望まれる。このため、港湾や鉄道貨物駅の積極的な活用についての関係者間での検討が期待されるとともに、行政においては、海運や鉄道の活用に必要となる物流関連施設を設置する際の支援措置について検討を行うべきである。また、トラック輸送に依存せざるを得ないリサイクル品の端末輸送についても輸送自体が環境に優しくなるように共同輸配送に対する支援等を検討すべきである。
 これらのことを検討するに当たっては、静脈物流システムの構築に大きな影響を有するメーカー、廃棄物行政を担当している地方自治体、国等も含めた関係者間で早急に検討体制が構築されるべきである。
 さらには、できるだけ無駄なものを「作らない、ストックしない、運ばない」を基本にした「省物流」あるいは再生物資のマーケット創出への政策支援も今後の検討課題である。
3.都市内物流の効率化
 地域レベルの環境対策としては、道路交通渋滞の発生や特定地域への自動車の集中に起因する窒素酸化物(NOX)や浮遊粒子状物質(SPM)の自動車排出ガス問題、騒音問題等が今後も引き続き取り組むべき大きな課題である。その対策としては、交通容量の拡大も有力な手段であるが、大都市における空間制約の問題等を考慮すると、今後は交通需要マネジメント(TDM)施策に積極的に取り組む必要がある。TDMに係る施策内容は多岐にわたっており最も効果的な仕組みを総合的に講じていく必要があるが、中でも、道路交通需要を調整する経済的措置であるロードプライシング制度等も効果が期待できる施策であり、諸課題を解決しつつ、導入に向けた検討を進めるべきである。一方、環状道路やバイパスの整備とあわせて、既存の道路インフラの有効利用を図る観点からも都市内に更なるトラックベイや荷捌き場等の整備が求められるが、これらを行うに当たっては、物流行政と、都市計画行政や道路行政との連携が重要である。また、その際に都心部における駐車違反についての対策を組み合わせることも有効である。
 また、物流業界にとっては、大型トラック等のディーゼル自動車の排出ガス対策への取り組みが重要であり、行政としても業界の対策が進むような支援を行う必要がある。具体的には、自動車単体の排出ガス性能を向上させるとともに、低公害型車両の開発・普及のための支援が必要である。また、トラックの交通量削減のための共同輸配送の推進のためにTDMや施設整備等に対する支援施策を組み合わせて行う必要がある。
 さらに、官民が一体となって、配送先の各種の建築物の構造について、荷役に適したものにすることや、十分な荷捌きスペースを確保する等、物流効率化の視点に立った建築物の設計思想の普及に努めるとともに、都市内へのトラックの流入台数を減らすためには、環状高速道路のインターチェンジ周辺等における物流拠点の設置、大都市部の外縁に位置する港湾の活用による大都市内の港湾関連交通負荷の軽減を検討していくことが重要である。
 加えて、従来、モーダルシフトは幹線物流の分野を中心として施策が講じられてきたが、今後は、地域の環境改善を図る観点からも取組みを進めていくことが必要である。このため、都市圏を通過するトラック輸送の鉄道によるバイパス輸送の促進や都市内の廃棄物輸送等における鉄道利用の促進等を図る必要がある。
 以上のことを推進するに当たっては、地域住民の意見を代表する地方自治体との連携が重要である。
 なお、物流関連公共インフラを整備するに当たっては、関係省庁、地方自治体等と連携し、地域の特性を活かすことも重要であるため、その整備に当たっては、計画の策定や事業の実施等を進める中で、従来以上に地域の人々の意見を広く聴取する手法を行政が検討すべきである。
4.安全問題への対応
 今後、事業運営面での行政の関与がますます小さくなっていくことが予想される中で、事故対策、危機管理体制の構築については、事業者努力が必要であるとともに、引き続き行政にも大きな役割が期待される。事故の未然防止、拡大防止についてこれまでの対策の拡充・強化や新たな対策の検討を進めることに加え、事故、災害時でも物流が確保できるようにするとともに、物流の密集に伴う混乱を避けるようにすることが重要である。
 具体的には、行政においては、高速道路での事故防止を目的として大型貨物自動車への速度抑制装置の義務付けについて検討する等車両構造面や運行管理面等の自動車交通安全対策を一層充実させるべきである。加えて、事故、災害等の防止の観点から安全なコンテナ陸上輸送の実施のための必要な措置のあり方について検討を行うとともに、船舶航行、荷役が安全かつ安定的に行えるようにするため、基幹的な航路における船舶航行のボトルネックの解消等必要な航路、防波堤の整備等を行うことが重要である。あわせて、施設の維持・管理に関する基礎的な技術研究についても推進すべきである。また、危険物に係る情報等の物流関連情報を行政庁を含めた関係者間で共有することが可能なシステムの構築を行政が中心となって検討するとともに、危険物輸送については、できる限り海運あるいは鉄道に誘導することが事故抑制の観点からも重要であると考えられる。さらに、災害等緊急時における物流面での危機管理体制の構築のためには耐震強化岸壁等災害に備えたインフラ整備、鉄道の行き違い設備や臨時のコンテナ積み卸し施設等緊急時における輸送力の確保のための施設整備、緊急時における物流関連施設の状況の迅速な把握と情報提供を可能とする情報管理システムの構築を進めるとともに、河川舟運、メガフロートの活用、鉄道ダイヤ調整等多重輸送システムの確保についても官民が一体となって検討がなされるべきである。

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